ガラン王国からの要請
そんなこんなで数日後。母さん経由の伝言で俺はガラン王国女王と姫から『ガラン王国城に来てください』との事。
あっという間の二週間くらいの休暇。ゆっくりできたかな。
「おいリエン。何故セシリーさんも一緒なんだ?」
「ご……護衛かな? ほら、セシリーって魔術使えるから!」
ほらー。先日の出来事があったから俺とセシリーが一緒に行動しにくくなったじゃん!
「にしてもリエン、歩きで大丈夫ですか? ガラン王国まで結構距離はありますよ?」
「馬が無いからね。仕方がないよ」
「え、ワタチが頑張って召喚しますよ?」
「ごめんちょっと見栄を張りました。馬なんて操作できないし、母さんが召喚する馬って首が無いやつでしょ?」
見たことないけど嫌だよそんな馬!
「む、リエン様よ。移動手段に困っておるなら氷妖精でも使うかの? 少しだけ魔力を貰うが」
「氷妖精?」
「まあここではちょっと召喚しにくいのでの。村の外で話すとしよう」
こうして俺はまたタプル村を旅だった。
ピーター君の熱い視線がやけに気になったけど、まあいつものピーター君で若干安心してもいる。
☆
「うおおおおおおお! 早い早い!」
セシリーが召喚した氷妖精は、真っ白な狼の姿をしていて、俺はそれにまたがっている。
というか何このモフモフ! ずっと乗っていたいんだけど!
『リエン様よ。こいつを召喚しているときは随時魔力を消耗する故、途中休憩は必須ぞ?』
セシリーは小さくなって俺の頭の上に乗っている。どうやらこうしないと俺の消費魔力が大きいらしく、調整が必要らしい。
「なんとなく知ってる。歩くよりはマシだけど、頑張っても半日が限度かな」
『うむ。人間でもなかなか半日は出せぬぞ? リエン様は聞く話によると幼い頃から魔術を勉強している故、魔力が多いのじゃろう』
なるほど。
つまりこの状態で剣を持てば、馬が無くても馬に乗った剣士に対抗できるということか。
『む? リエン様よ。その森は徒歩で良いかのう?』
「え、良いけど」
森の入り口で止まり、氷精霊は『ワン』と小さく鳴いて消えていった。ああーモフモフがー。
代わりにセシリーが少し成長した姿に戻った。
「ほっ。ふむ、ゲイルドからの帰路は海だったから知らんかったが、まさか同族がいるとは予想しておらんかった。『精霊の森』とは比喩表現かと思ったが本当なんじゃな」
「ああ、ここにはエルフが住んでいるね。古くからの約束で、決められた道を歩けばエルフは何もしてこないよ」
「うむ。それは『人間と精霊』の約束じゃな。ちとリエン様には手間をかけるがエルフとやらを呼べぬか?」
「え、何で?」
「精霊というのは縄張りにこだわる者が多い。ここには風の精霊と土の精霊がそれぞれ役割を持っている中、我のような精霊が来たら怒られてしまう」
へー。精霊業界も色々あるんだ。
つまり俺は普通にあるけるけど、氷精霊は歩けない可能性があるということか。ここの道は近道だし無償で護衛が付いているような道だから是非通りたいんだけどなー。
というかエルフは耳が良いし、魔力的にも多分すでに俺たちの事を監視している気はするんだよね。
「エルフさーん。ちょっと来てくれませんかー?」
……何も反応が無い。
むしろシャルロットじゃないけど、なんとなく気配が増えた気がする。
「リエン様は嫌われているのかの?」
「違うから。原則エルフと人間は関わらないようになっているだけだから。でもこのまま入ったら危険だしどうしよう」
声は聞こえるけど来ない……か。
「『氷壁』」
ポン! っと小さい氷の板を二つ出した。
「おお、リエン様よ。もうここまで簡単に精霊術を使えるとはのう」
「これを剣にすれば応用も効くからね。でも今回は違うんだ」
二つのうち一つは少しギザギザを意識して生成。もう一つはつるつるを生成。
それをゆっくりとこすり合わせる……と。
ぎいいいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!
ぎゅぁああああああぁぁぁぁぁああああ!
「リエン様よ。なかなか面白いのう。これが人間の『音楽』というやつかのう?」
「これが『音楽』と呼べるものなら稀に村に来る旅芸人はすぐに追い出しているよ」
と、そうこうしているうちに凄い勢いで俺たちの方へ何かが向かって来ている。
「「「その嫌な音を今すぐ止めろおおお!」」」
おおー、両耳を抑えてエルフたちが五人ほどやってきた。
「あのー、ちょっとお願いが―(ぎーこーぎーこー)」
「わかった! 今だけは話すからその音を止めろ!」
「ありがとうございますー(ぎーこーぎーこー)」
「ぶっ飛ばすぞ人間!」
「調子に乗りました。ごめんなさい」
マジな怒りが飛んできたのでこの辺にしておこう。
「ということで、俺の配下の氷精霊がこの精霊の森に入ることを許可して欲しい」
「ほう? 氷精霊よ。人間に下るとは落ちたものだ」
「何を言う。こやつの親はエルフと人間の仲介を行った『静寂の鈴』を持っていた者じゃぞ?」
「な! この人間が!?」
え、『静寂の鈴』ってミルダ様の持つ鈴だよね?
それは人違いじゃね?
「おい氷精霊、そこの人間は今の発言に疑問を持っておるぞ?」
どうやら『心情読破』で心を読まれていたらしい。やはり魔術や神術のプロは強いな。
「ま……まずいのう」
「嘘だったの!?」
その発言でエルフたちは全員弓を向けた。ちょっとどうしてくれるの!?
「いや、リエン様の母上様がその件に関してもし秘密にしているのであれば今のは失言だったのう」
え?
どういう事?
「『静寂の鈴』の歴史はエルフ達が一番知っておるのじゃが、もともとは身を隠していたエルフたちが唯一信頼できる人間とやりとりをするために、信頼の証として渡したものだと記憶しておる」
「うむ。落ちたとはいえさすがは氷精霊だな」
「え、その人間がミルダ様じゃないの?」
「ふん。短命の人間ではそう伝わっておるのか。全くの愚かよ。エルフ内では重要な歴史として一字一句間違いなく伝わっている。その人間の名は『フーリエ様』だ」
「あ、俺の母さんじゃん」
「「「なっ!」」」
おおー。エルフたちが全員武器を地面にたたきつけたぞ!
「お前ら、頭をもっと下げろ!」
「あ、いや、俺はそこまで偉くないから」
「どうじゃ? 我の選択は間違ってないぞ? ちなみにリエン様の母上様『フーリエ』は今も生きておるぞ? 武器を向けたことを話したらどうなるかのう?」
「「「この氷精霊……」」」
精霊同士のバチバチした争いの中心に立つ俺。うん、普通精霊ってもっと気品があると思うんだけどなー。ゴルドさんはちょっと違うけど。
「いや、全然気にしないから。むしろ母さんが内緒にしたことをセシリーが話したという事の方が危険だと思うし、ここは一旦落ち着こう」
「リエン様よ。一応我はリエン様の下部ぞ?」
「「「ありがとうございます!」」」
「ということで、こいつ(セシリー)は俺の頭の上に乗っかることを条件にこの道を歩かせてほしい」
「「「好きなだけ歩いてください!」」」
嫌だよ。一回だけでいいよ。
ということで、若干無理やりな感じではあったけど、風の精霊の許可が下りたため、精霊の森を歩くことになった。




