楽しい学園生活6(最終日)
「という事で大叔母様! 物資の貿易に関してお話が!」
「若いのだからまだその話は早いわよ」
「ですが、これでは平等に見えて不平等です!」
「それが交渉というもの。安心しなさい。戦争とかにはさせないから」
「ですが!」
寒がり店主の休憩所ではシャルロットとシャムロエ様の声が鳴り響いていた。
「そもそも食料豊富のガラン王国と食糧難のゲイルド魔術国家では交渉材料が限られています。それを材料に魔術関連の技術までガラン王国が取得すれば何かしらの反乱は起こりますよ!」
「全部を奪うわけでは無いわよ。ガラン王国にも砂漠地帯があったり、開拓しないといけない土地にはどうしても魔術が必要なの。マオがいれば一瞬で終わるんだけど、国中のパムレットが無くなるわ」
「……そもそも気が進まない」
「ですがこれが王族のやり方なんて私は認めません!」
「いずれ選択するときが来るわ。今は私を恨んでもかまわないから我慢しなさい」
なかなかの親子喧嘩……いや、世代は凄く離れているから親戚同士の喧嘩なんだろうけど、それにしたってこんなシャルロットは初めて見た。
「まあまあ、ここは一つお茶でも飲んでゆっくりしてください」
と、そこへ母さんが横やりを入れた。
「はあ、手がかかる子孫を持つと大変……へえ、このお茶美味しいわね。とくにこの水は凄く澄んでて美味しいわ」
「はっ! ならこの水を貿易物資の一つとして考えては!」
「うーん、そうね。上質な水は薬にも使えるし考えても良いわ。でもこんな綺麗な水がそうそう取れるかしら? この水を樽一つでそれなりの価値は出そうだし、何もこんな良い水でお茶を作らなくても良かったのよ?」
お茶を眺めるシャムロエ様。やはり王族となるとお茶を飲む姿もまた絵に……。
「『え”』……すみません。その水はさっきそこの庭に積もってた雪の表面をさっと取って溶かしたものなのですが」
……。
ダッ!
ガシッ!
「待ちなさいシャルロット。どこへ行く気?」
「野暮用です。大叔母様には多分関係ありません!」
「念のため同行しようかしら!」
「結構です! 途中お手洗いにも行くので」
「護衛も必要でしょう! 『拳では大陸最強の私』がついて行ってあげる! というか親しい仲とはいえ庭の雪を溶かして茶にするって、悪戯が過ぎない!?」
わー。凄い喧嘩が始まった。でも何故かさっきよりもギスギス感が薄い?
というかさりげなく『大陸最強』って言っちゃう辺りやっぱりシャムロエ様ってすごいな。
「パムレ。何とかできない?」
「……ん? 無理ではない。でも条件としてご褒美を所望」
「じゃあお願い。今度俺が考えたお菓子の試食を誰にするか考えていたんだけどー」
「……任せて。てい」
「「にゃあああああああああああ!」」
☆
結論として、ガラン王国は食料や材木を。ゲイルド魔術国家からは高品質な水(きちんと貿易用に選別した綺麗な水)を貿易の物資としてやり取りすることになったらしい。
実際ガラン王国には川こそ流れてはいるけれど、人が安心して飲める水にするには一度沸かしたり、山の上まで取りに行く必要がある。
また、病気を治す薬を作る際の水はさらに良い水が必要らしく、ガラン王国にとっては魔術関連よりも国民には喜ばれる物資だろう。
ってパムレが言ってた。
そういう政治とか貿易とかよくわからないから完全に大人にまかせっきりだけど、説明してくれる人がパムレというのがなかなか切ない。完全に見た目で判断しちゃっているけどね。
『リエン様よ。ちなみに我がいれば水には困らぬぞ?』
忘れた頃にやってくるセシリーも空気を読んで今登場。実は有能なんだなお前。
ということで色々あったけど魔術学校での楽しい生活も最終日。
最後の授業は……。
『悪魔術を教えますギャー』
「「「目えええええ!?」」」
壇上には『空腹の小悪魔』が乗っていた。
「あー、この授業だけは最初から予定されていたから『先生やっぱりいらないじゃん』とか言うなよこんにゃろー」
もう先生はただの付き添いみたいになってるよ!
『優秀な諸君、初めまして。魔術研究所の館長と、魔術学校の校長をやっていて、リエンの母ですギャー』
「まじかよ……あれが母親……」
「三大魔術師って言うからすごい強そうな人とは思ってたけど、キモチワルイ……」
いやそうなるよね! めっちゃぐりぐり目が動いていて不気味だよね!
『この姿はあくまで仮の姿。実際は別のところからお話をしていますギャー。リエンはもちろん、ポーラ様やシャルロット様が証人ですギャー』
「「「「ほっ」」」」
そして一斉に安心する皆。やっぱり魔術師となると三大魔術師はあこがれの存在だもんね。
『さて、まず悪魔術についてですが、術式は教えません。ですが知識として知ってください。悪魔は『聖術』で滅びます。もし襲われても冷静に『光球』を放てば必ず勝てます。それほど弱い存在ですギャー』
「あのー、館長様は悪魔術を使えるとの噂ですが、その目玉も悪魔なのですか?」
『正解です。この目玉も正式な悪魔で、一歩でも使い方を間違えれば人の命を簡単に奪います。今回はその悪魔がどれほど危険かを知ってもらうために来ましたギャー』
ふわふわと空腹の小悪魔が飛び、一人の男子生徒の前で止まった。男子生徒はその不気味な姿に驚きつつもジッと見る。
『ではちょっとした例を挙げましょう。君は今何が欲しいですか?』
「え、そうですね。強い魔力が欲しいです」
『わかりました。では魔力を与えるので、両親と友人の魔力を吸ってきます。それを君に与えればそれなりに強くなるでしょう。もちろん両親と友人は『動けなく』なりますギャー』
「ひっ!」
次の生徒にふわふわと浮く。
『君は何が欲しいですか?』
「え、あ、魔術が書いてある本が欲しいですわ」
『わかりました。それは簡単ですね。まず隣の生徒を食べますので、その間に本を取ってくださいぎゃー』
「「なっ!」」
何というか……ひどい授業だ……。
「母さ……先生! さすがにやりすぎ!」
『そうです。悪魔はそういうものなのです。もちろんこれは授業なので本当に食べたりはしません。ですが、もしこれが本当の悪魔だったらそれと同様の事かそれ以上の事をされます。悪魔からの恩恵は大きすぎます。しかし、対価はさらにそれ以上を求められます。自身や周りを壊したくなければ絶対に悪魔には手を出さないでください。それが『校長』として生徒へ送る言葉ですギャー』
生徒たちは一瞬黙ったが、次第に拍手が鳴り響いた。
「さすが校長……いや館長様!」
「ちびったぜ……いや、でも絶対悪魔には手を出さねえ!」
こうして、俺たちの最後の授業は母さんの授業で幕を閉じた。
☆
学校を終え、色々な生徒から別れの挨拶をされながらも学校を出ると、目の前に馬車が止まっていた。
「あれは……大叔母様の馬車?」
「そういえば本日は父上がガラン王国のお客様と昼間は食事等をするって言ってたし、帰り道の途中だったんじゃないかしら?」
「もう少しリエン兄さんと一緒かと思ったけどここでお別れか」
「はは」
ずいぶんとカッシュには懐かれたものだ。
「シャルロット。学園生活の勉強は良かったかしら?」
「はい! ありがとうございました!」
「そう。それは良かった。ちなみにこっちは木材・皮・食料を渡す代わりに『水』というほぼ割に合わない貿易からもう少し何かを提供してもらおうと必死だったわマジで帰ったら覚悟しなさい」
すっごく怒ってるじゃん!
「こほん。それとリエン。ここまでの護衛、本当にありがとう。まさか途中マオと同行するとは思っていなかったけど、これも何かの縁かしらね?」
「いえ。約束なので」
「そうね。でもその前にシャルロットが強くなったか試験をしないといけません」
「試験?」
☆
馬車に揺られて数十分。少し山奥へ進むとそこには大きな教会があった。
そういえば山奥に教会があり、そこにミルダ様がいるって聞いたことがあるけど、ミルダ様に会いに行く流れ?
「えっと、大叔母様?」
「シャルロット。これから貴女には三大魔術師と手合わせをしてもらいます」
「え!?」
それってミルダ様かな?
確かパムレとは相性が悪い相手って聞いたし、多少強くなったとは言ってもシャルロットは負けるんじゃないかな。そもそも三大魔術師だし。
そんな事を考えていたら教会の扉が開いた。
「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていました」
赤毛がとてもきれいなミルダ様が出迎えてくれた。
「やっぱり戦う相手ってミルダ様? パムレちゃんでも難しい相手に私なんかが勝てるとは思えないのですが」
「うふふ。シャムロエさんから話は聞いていますが、私ではありませんよ?」
え、じゃあパムレ?
「……ふあー。パムレは付き添い」
え……じゃあ……誰?
コツ
コツ
足音が奥から聞こえてきた。
青い短髪。低い身長。それは俺が生まれてからずっと見ていた姿。
しかし、一か所だけ違う部分があった。
「最後の試練に任命されました。三大魔術師の魔術研究所館長兼魔術学校校長兼寒がり店主の休憩所店主。そして『リエンの母』のフーリエです」
『水色の瞳』をした母さんの姿があった。




