王子のその後
「あー、ということで今日から編入してきた『カッシュ・ゲイルド』だー。ポーラの弟でこの国の王子だからいじめるなよこんにゃろー」
「「「唐突!」」」
朝のホームルーム。
突如編入してきたポーラの弟カッシュがペコリと頭を下げてニコッと笑う。
今までずっと外に出ていなかったから髪がぼさぼさだったんだけど、今日から公に出るという事で長い髪もすっきりと短くなり、赤髪の美少年が立っていた。
「かっこいい!」
「いえ、可愛い!」
「どっちもよ!」
女子生徒はそれぞれ意見を言ってカッシュを困らせていた。
そして俺の背中に隠れた。何で!?
「いや、普通ポーラの後ろだろ!」
「いえ、姉さんは少し頼りなくて……その、『リエン兄さん』なら大丈夫かなって」
「カハッ!」
隣でシャルロットが口から血を吐いたぞ!?
「つ、続けて頂戴。何というか、私は今新しい世界を見ている気がするわ」
「……リエンはお兄ちゃん……・悪くは無いと思う」
「駄目ですか?『リエン兄さん』」
いや、別に良いけどシャルロットがまた『カハッ!』と言ってフラフラしているし、隣でポーラが涙目だよ?
「というかここって大陸でも魔術に関しては一番と言える魔術学校だけど、カッシュの実力ってどれくらいなの?」
☆
「『獄炎』!」
ぶああああああああああああん!
中心に立っていた人型の人形が木っ端みじんに吹き飛んだ。
「「「……」」」
俺・シャルロット・ポーラは口を開けてぽかんとしていた。
「……強い。ただ少しムラがある。もう少し丁寧に念じるとさらに威力上昇」
「三大魔術師に教えを頂くなんて光栄です!」
「……ん。今はくらすめいと。気にしないで」
ほのぼの二人が話しているけど、目の前に黒煙が広がってるんだよ?
「ちょっとポーラ。アレ何!」
「知らないわよ! 今までずっと布団で寝てたし、実力なんて無いモノと思っていたわよ」
突如現れる好敵手……いや、実力者に焦る二人。そこへひょっこり手のひらサイズのセシリーが俺の頭に現れた。
『まあ当然じゃのう。あやつは魔力を垂れ流す必要があるくらいの回復量を持っている。つまり、相当な量を所持しているわけじゃ』
驚きつつもシャルロットはセシリーに質問をした。
「魔力量だけであそこまで強くなれるの? あと次私の頭に載ってきて」
『さりげなく注文するなガランの姫よ。まあ、すっごく雑に強い魔術を使うなら大量の魔力を使うだけで大きな爆発は起こせる。先ほどのカッシュが良い例じゃな』
あれで雑な魔術なんだ。
『というかリエン様もあれくらいできるじゃろうて? 何で隠している?』
「「え!!」」
……言いやがった。
「そうなのリエン!?」
「でも模擬戦では火球や火柱くらいでしたよね?」
「万が一を考えて……保険的な?」
うん。実はさっきのカッシュの魔術『獄炎』は火属性魔術の上位。で、俺も実はそれらは使える。
「隠していたわけでは無いんだけど、今は剣士を目指しているわけで、そこまで魔術に頼るつもりは無いというか。あと何もないところには打てるけど、さすがに人に向けて撃つことはできないかな」
強力な力は簡単に人を殺めることができる。母さんからさんざん教えられた言葉である。
「聞きました? シャルロットさん。これが強者の余裕というやつですわ」
「ええ聞きましたわよポーラさん。これだから男性という人は」
「急に姫同士っぽい会話をやめてくれる? コツくらいなら教えるから!」
「「わーい」」
なんだかどんどん俺の剣士への道が遠くなっていくような。
☆
午後の授業は『精霊術』について。
以前は『聖術』ということでミルダ様が登場。で、今黒板の前に立っているのが……。
「セシリーじゃ。以前まではセルシウスなんて呼ばれておったが、色々あってリエン様と契約をした」
「「「シグレット先生いらなくね?」」」
生徒たちのツッコミに先生も苦笑する。
「偶然が重なっただけだー。リエン達短期編入生が帰る頃にはいつもの授業に戻るだろう。あとさっき発言したジェンガとブローとハルラは覚悟しておけ。『トテモオイシイオクスリ』を飲ませるからな」
笑顔が怖いよ先生!
「まあ、我も突然教えろと言われて何を話すべきかわからぬ状態じゃが、とりあえず『精霊術』とは何かという部分じゃな。簡単に言うと『精霊の魔力』を使った術式で、普通の人間では扱うことができぬ」
「そうなんだ。ちなみにパムレちゃんは使えるの?」
「……まあ、少しは」
毎度ながらこういうところで実力の違いを見せつけられる。まあ俺は剣士志望だから良いけど、悔しいものは悔しい。
「マオ……今はパムレだったかのう? そやつの場合は少し特殊でのう。空気中の精霊の魔力を集めて放出という方法を取っているから、使っている術式は『精霊術』で、仕組みは『魔術』となる」
あ、その辺は仕組みがきちんとあるんだ。
そんな事を思っていたらポーラが手を挙げた。
「精霊術と魔術の相性について教えてください」
「良き質問。さすがはこの国の姫じゃのう。精霊の魔力は人間の魔力を吸収する修正があり、相性的には精霊術の方が有利じゃのう」
そういえばパムレがセシリーの住む場所へ行かなかった理由はセシリーが強くなるからだっけ?
「じゃあ人間の魔力って弱い?」
「うむ? そういうわけでは無い。精霊は人間には強いが、悪魔と呼ばれる存在にはめっぽう弱い。そして人間は悪魔に強い。こういう三角関係がこの大陸にはあるのう」
生徒たちが全員『おおー』と言った。そして。
「「「先生よりわかりやすい」」」
「今言ったやつら忘れないからなー。美味しい薬量産するから覚悟しろ」
先生の笑顔がとても怖いなー。
☆
「セシリーお疲れ様ー」
『うむ、それは良いのじゃがリエン様よ』
「ん?」
『なんで我はガランの姫に捕まっているのじゃ?』
現在セシリーは頭一つ分の大きさになって、シャルロットに抱っこされている状態である。
「……もう一つ言うとパムレも膝の上にいる。もはやシャルロットの膝の上は混沌の世界となっている」
まあ確かに。精霊と大陸随一の魔術師。それをもて遊ぶ姫。なんという世界だろう。
「リエン兄さん、ま……パムレ様をあんな風にしても大丈夫なのですか?」
「いつものことかな。カッシュは早くこの光景に慣れるんだ」
「わかりましたリエン兄さん!」
「ねえカッシュ」
「は、はい!」
急にシャルロットに呼ばれるカッシュ。
「私の事はシャルロットお姉さん……いや、シャルお姉ちゃんって呼んでも良いのよ?」
「させませんわあああああああ!」
カッシュの肩をがっしり掴んで背中に隠すポーラ。
「良いですの? あのガランの姫は害はないけど危険な人物ですわ。ワタシかリエンの近く以外はワタシが許しませんわ!」
何気に俺が合格ラインに入っている辺り信頼はされているみたい。
「でも残念です。リエン兄さんたちももう少しで短期編入期間が終わるんですよね?」
「ああ、確かあと三日くらいだっけ?」
「そうね。魔術に関しては色々教えてもらったり、渡された教科書はこれから役に立つ内容ばかりだったわ」
教科書の端っこに『著作・魔術研究所館長』って書いてあるから本人にいつでも聞けるじゃんとも思ったけど、帰ったら貴族業務を行うから気軽に外には出れないのかな?
「そうですわね。せっかくガラン王国というはるばる遠くからやってきたのにお別れとは寂しいですわね」
「じゃあ今度はポーラが来てよ。歓迎するわよ」
「ふふ。そうさせてもらうわ」
最初会った時は影が薄くなるとか立場がとか言っていたけど、気が付けば仲の良い友達となっていた。
その辺りは貴族も平民も関係が無いのだろうか。
「あはは。それにしても安心しました」
「ん? カッシュ?」
「姉様はあんな感じだったので、友人ができるのか不安だったので。リエン兄さんたちを見て安心しました」
「それは良かった。まあ、成り行きだけどね」
「このままリエン兄さんが『リエン義兄さん』になってくれれば(ぼそ)」
……なんか今同じ言葉が二回聞こえたはずなのに、意味が違った単語が聞こえたような?




