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病との闘いの末

「カッシュ君が元気になったのでーかんぱーい」

 シャルロットの声に合わせて全員がコップをこつんとぶつけ合った。

「リエンー、すみませんが手が足りませんので手伝ってくださいー」

「はーい」

 寒がり店主の休憩所で簡単なお祝い。



 いや、集まった人たちが『ガラン王国姫』『ゲイルド魔術国家の王様・女王様・姫・王子』『三大魔術師マオ・母さん(フーリエ)』『氷の精霊』ってどういうこと?



「あ、遅れましたー」

 シャランと鈴の音を鳴らして入ってきたのはミルダ様だった。これで三大魔術師がまた揃っちゃったよ!

「本当に勘弁してくれ……」

「シグレット先生? どうして?」

 ミルダ様の後ろには担任のシグレット先生が疲れ切った表情で立っていた。

「上司の命令で生徒の引率兼王族の護衛兼巫女の護衛をやらされてるんだよ。特別手当が欲しいものだ」

「ひどい上司ですね。まるで悪魔だ」

「ああ。悪魔だよ」



 ……ああ、上司って『校長(母さん)』!?



 とりあえず苦笑してひょいっと逃げた。

「カッシュ。もう大丈夫なのか?」

「はい。父上。この装飾品が魔力を吸い取って吐き出してくれるので、問題ありません。寝たきりだったので体は弱いですが」

「なんとお礼を。氷の精霊様。このご恩は一生忘れません」

「人間の一生なんぞ我にとっては一瞬じゃ。精霊の気まぐれに偶然ぶつかったと思っておればよい」

 と言いつつもちょっと顔がにやけているから多分嬉しいのだろう。

「まあ今回の功労者はリエンよね」

「俺?」

「氷の精霊を説得して今回の状況にまで持ち込んだ。色々な偶然が重なって弟さんを助けることができた。その中心はリエンよね」

 偶然と言えば偶然かもしれない。


 ポーラの治癒術により魔力の傷口をふさぐ。本来それをすれば魔力は膨張をし続けてやがて破裂する。

 しかしそれを防ぐのが今カッシュ君がつけている氷の精霊が生成した氷のネックレス。そこにパムレの神術を付与して魔力を一定量達したら放出するという方法だ。

 パムレの神術『魔力譲渡』を装飾品に付与するというのは凄い高度な技でもあり、その装飾品自体も高純度な鉱石などでないといけない。氷の精霊が生成した溶けない氷は高純度という自然界の領域を超えた物質だから可能だったとか。

「ふう。リエン様の周囲はなかなか面白い人物が多いのう」

「偶然がここまで重なると慣れるよね」

 と、そこへシャルロットが割り込んで入ってきた。


「ということで早くちっちゃくなって?」


「理不尽すぎるのう! そもそもそこにマオがおるじゃろ!」


「……シャルロットのナデナデは最初だけ良いけど、あとからだんだん痛くなってくる。あと今はパムレ」

「それを聞いて小さくなるか! リエン様、助けてくだされ!」

「あーえー、母さんに頼んで『空腹の小悪魔』を出してもらう? あれも小さいよ?」

「いやよ! いくら慣れてもナデナデまではまだ抵抗があるわよ!」

 そうシャルロットが言うと、ミルダ様が手に何かを持って話しかけてきた。

「そうですかー? 慣れると可愛いですよー」

『ゴエイー。ゴエイー』



 巫女がそんな禍々しい悪魔を持っちゃ駄目でしょ!



「ふふ。冗談です。今のはミルダが長年の修行を経て獲得した『腹話術』です。これも人形ですよ?」

 よく見たら毛糸で作られた『空腹の小悪魔』だった。いや、何でそんな人形を持ってるの?

 そんなツッコミを心でしていたら、シグレット先生が手招きをしていた。

 外に?


 ☆


 外はすっかり冷え込んでいて……いや雪国だから寒いんだけどね。

 シグレット先生のところへ行くと、一つため息をついてから俺に頭を下げた。

「え、先生!?」

「いや、正直助かった……。俺にはああしかできなかった」

「どういうことですか?」

「カッシュ王子の魔力核に傷をつけたのは俺だ」

「先生が?」

「人間の技術ではあれが限界だった。マオと出会ったのも王子が生まれる前。鉱石精霊ゴルドと出会ったのもさらに前。その二人なら何とかできると思っていたが、二人は行方も知らなかった。王子の命は生まれて二日が限界。その短い期間での対処方法としてああしか方法はなかったんだ」

「待ってください。先生ってゴルドさんの事も知っているのですか?」

 そういえばパムレは先生を知っていたみたいだし、一体何者かと思っていたけど。

「ああ。マオや館長やゴルド。ガラン王国だとシャムロエやシャルドネも知っている」

 それと……と言って俺を見た。



「幼少期のお前も知ってるぞ」



 久々に出たよこのパターン!



 確かガラン王国で修行していた時の『あの小さかったあいつがこんなにも大きくなって』的なやつだよね!



「って、待ってください。パムレや母さんやシャムロエ様やゴルドさんは理解できますが、『シャルドネ様』って亡くなってから百年以上前ですよ? 先生もその……悪魔なんですか?」

「おっと、口が滑るってこのことか。まあ良いか」

 そう言って一つ呼吸をして話し始めた。

「俺は人間だ。唯一長生きできる薬を作って飲んだ」

 おおう。これはまた大きな話だ!

「それって凄い事じゃ……」

「ああ。そこだけ聞けばな。だが、その薬を作るのにいくつも実験をしては飲んでを繰り返したから、どれが成功した薬かわからない。で、知識はあるからお前の母さんに雇ってもらったんだっよ」

 そういう経緯が。母さんも長生きなんだろうなーとは思っていたけど、先生も長生きなんだなー。



 みんな長生き過ぎない?

 少なくとも今いる人たちの平均年齢ってすごい高いんじゃない?



「とにかく、今回の編入で来てくれた本当の目的とは異なるが、正直助かった。ありがとう」

「そうなると今日の護衛兼上司(母さん)の呼び出しには文句が言えないのですね?」

「はは。嫌なところをついてくる。まあそうだな」

 そう言って先生は部屋に帰っていった。



「食えぬ男じゃのう」



「ぬあああ!」



 セシリーが背中に立っていた。

「いやさすがに精霊の我でも傷つくぞ? そこまで驚かんでも」

「後ろに立たれてたら驚くよ! って、なんでいるの?」

「精霊の契約には魔力が深くかかわる。精霊という概念は今回のように『ヌッ』っと現れることができるのじゃよ」

「じゃあそれ禁止ね」

「おう……氷のごとく冷たいのう。しかしあのシグレットという人間……いや、人間か? 魔力は劣化しておるし、人間としての心が失っておる。苦労しておるのう」

 まあ、さっきの話が本当ならすごく長生きしているんだろうなー。

 親族や親友ならともかく、大人の心配はする必要もないとは思うけど、もし先生が困っていたら助けるくらいはしようかな。

「む? リエン様よ。実は今大人たちが大変な状態になっておるぞ?」

「え?」



「我にはよくわからぬが、『三大魔術師の三名とゲイルド魔術国家の王族四名が揃っていて、仲裁としてガラン王国姫が』ー」


 王族って全く面倒だな!


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[一言] 首脳サミット並みの豪華布陣!!w リエン君頑張って!w
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