氷の精霊への道のり1
ここは……なんだか以前にもこんなことがあったような。
真っ白の部屋……というか、何もない部屋。
『久しぶり。元気だった?』
この声も久しぶりに聞いた気がする。確か旅に出る前だったかな。
靄がかかって見えないけど、人の形はしている。
「ここは」
『ここは僕の部屋。まあゆっくりしていってよ』
「いや、今から氷の精霊の場所に行かないといけないんだけど」
『あはは。セルシウスに会いに行くのか―。マジで?』
「精霊の魔力が必要なんだ。何か不都合でも? 夢の中の誰かさん」
『いやあ、あの子は……名前は仮で付けていた気がするけど……セルシウスは大の他人嫌いでさ。神の僕ですら見向きもしないんだよね』
自称神様がやれやれという口調で話し続ける。
『正直今君に死なれては困る。だから彼女への対処方法を特別に教えよう』
「はあ」
『セルシウスはギャグに弱い。くだらなければくだらないほどに弱い。精霊の心を掴めば君の勝利だ!』
自称神様が(靄がかかって見えにくいけど)親指を立てて俺にエールを送る。
そんな変な夢を見たのだった。
☆
目を覚ましたら外はまだ暗かった。
もう少しで朝になる。そんな時間帯だろうか。
起き上がると頭には少し濡れた布?
『あ、起きましたね』
隣から母さんの声が聞こえた。母さんが看病を
『オキタナラ、早速血ヲイタダコウ』
「ぬああああああ! 『光球』!」
『ギャアアアア!』
目の前に大きな目玉……『空腹の小悪魔』がふわふわと飛んでいた。今始末したからいないけど。
というか前は躊躇ってたのに、今回は容赦なく放ってしまったな……気を付けよう。
『開けますよ』
今度は本物の母さんの声だ。監視役として置いたのだろうけど、目を覚ましたら大きな目玉が目の前にいるのはいつになっても慣れないなー。
「はーい」
「魔力を使いすぎて疲れて倒れるとは。まだまだ修行が足りませんね」
「今は剣士の修行の真っ最中だし、そもそも魔術の実戦をするなんて予想してなかったよ」
「まあ相手はマオ様ですし、仕方がないですけどね」
そう言って、頭の湿った布を取ってくれた。
「いっ……」
「母さん?」
「いえ。リエン、もしかして『変な夢』でも見ましたか?」
え、なんでそれを?
「なんか自称神様が出てきて忠告してきたよ。セルシウスは大の他人嫌いだから気を付けてって」
「そう……ですか」
布をきれいに折りたたむ。んー、何か気になるな。
「何か隠してる?」
「はい。隠しています」
「正直だね!」
「説明が難しくて話せないのです。今思いつく言葉で説明するなら、リエンの夢で話した相手は本物の神様でしょう。リエンに触れたときに若干の神々しい力を感じました。ワタチはその力に触れることができないので、あくまで予想ですが」
なるほど。だから少し痛がったんだね。
「以前にも夢で会ったことはあるけど、前も会話だけだったんだよね」
「ちなみに声とか覚えていますか?」
「うーん、少年のような?」
「ふむ。そうですか」
そう言って母さんは部屋を出ていこうとする。
「ちょっと、意味深な独り言を残さないでよ」
「ああ、いや、本当に隠すつもりは無いのです。ただ、言葉が思いつかないだけで、きちんと整理ができたら話します。とにかく今は氷の精霊との戦いに専念してください」
そう言って母さんは部屋を出て行った。
一体なんだろうか。
☆
「で! どうして学校が休みの日に猛吹雪の山の中に行かないといけないのかしら。ポーラの弟の命を助けるためだったわね。さあ行くわよ!」
シャルロットが一人でぶつぶつと話している。これが俗に言うやけくそという奴だろう。
実際吹雪で前が見えない。唯一木々が目印となっているが、油断をすれば遭難確定だろう。
「待ってシャルロット。この木に切り傷つけるから」
「ぐう、パムレちゃんがいれば温かくなる魔術でも付与してくれていたのかしら。どんだけ頼りになるのよパムレちゃんは」
まあ、ああ見えて三大魔術師の一人だからね。というか実力は戦ってわかったでしょう。俺たちじゃあの領域には一生かかっても難しいよ。
ふとポーラを見ると、表情は硬かった。
「大丈夫?」
「ええ。弟が今朝、一度だけ心臓が止まったの」
「それって」
「何とか心臓に刺激を与える治療で息を吹き返したわ。でも時間は少ない。二人にはきちんとお礼をするから、今だけは少し我儘を聞いてくれるかしら」
「う、うん」
吹雪の雪も重いけど、空気も重いなー。
何かこの重い空気を吹き飛ばす現象は起こらないかなー。
「リエン。見て、あそこに小屋があるわよ。少し休憩をしない?」
「そ、そうだね。ポーラも良いかな? 急いでいるのはわかるけど、体力を回復したい」
「わかったわ。それにしてもどうしてここに小屋? 誰かが住んでいたのかしら?」
小屋の近くに行くと看板が立っていた。雪が積もっていて文字が見えないから、雪を手ではらう。
『〇〇〇〇主〇〇〇所ー氷の精霊の近く店』
「ちょっと先に進まない?」
「え、せっかく見つけた小屋よ? ありがたく使わせてもらいましょうよ」
「そうよリエン。この先何があるかわからないのよ?」
「いやここに入ったら俺の精神が崩壊するよ!」
「何を言っているのよ。どれどれ……『寒がりー』……うん、今理解したわ」
そんな会話をしていたら吹雪が強くなった。
「四の五の言ってられないわよ。せめてこの吹雪が弱まるまで入りましょう!」
「そうよ! きっと店主殿もさすがにここにはいないわよ!」
「だと良いけど……」
がちゃ。
「お帰りなさいませ。ここはご飯は出せませんが、温かい飲み物くらいは準備できま
がちゃ。
「どうする? やっぱり入るの?」
「え、今のって館長様? え? どういうこと?」
「あーツッコミが追い付かない!」




