楽しい学園生活5(三大魔術師との手合わせ)
急遽予定を変更して、今日の授業は特別実習となった。
名前は『実戦』。
実技の授業とは異なり、『手加減無し』という事らしい。
「い、いくら三大魔術師とは言っても三名なら余裕だと思うのですが」
「ポーラ。はっきり言って私はパムレの実力を知っているけど、百人かかっても勝てないわよ?」
「ま、まあ、マオ様の手加減無しな状態を見れるのであれば、役得ですわ」
ポーラは声を震えながらも余裕そうなそぶりを見せている。
対してパムレは。
『……』
今まで見たことが無い目つきでこっちを見ている。
「あー、じゃあ他の生徒は離れて見るようにな。これから『実戦』を行う。生徒の中にも軍を志望している者もいるだろう。本来この授業は俺が相手をするんだが……まあ、ちょうど良かったと言うべきだろう」
「……ん」
「うし。じゃあ頼んだ。『マオ』」
そして先生の開始の合図が鳴っ
ばああああああああああああああああああああああああん!
「きゃああ! ちょ、ちょっと、なんですの?」
「馬鹿ポーラ! 今すぐ魔力壁を展開して!」
「何を……」
ばああああああああああああああああああああああん!
「また!? ちょっと、マオ様はワタシたちを粉々にするつもり!?」
パチン! と、音が聞こえた。
音のなった場所を見ると、ポーラの頬が赤く染まっている。シャルロットがポーラを叩いたのか?
「った! シャルロット! 貴女一体何をしたかわかっているの!?」
「ええ! わかっているわよ。これは『実戦』であって『本当の命の奪い合い』よ! 粉々? それで済めばまだマシね。相手は大陸最強の三大魔術師マオよ!」
「命って……ここは学校」
巨大な魔力を感じた。とっさに俺はポーラに飛びつき叫んだ。
「避けろ!」
ばああああああああああああああああああああん!
「ちょ、リエン!? 貴方急に抱き着いて来て、何……を……」
ポーラが驚いているのもわかる。
俺は今、頭から血を流していた。
「ひっ! なっ、え!?」
「わかったなら早く立ちなさい! リエン、怪我は浅い?」
「かすった。マオの方向は正面からやや右。距離は今見せる!『火球』!」
俺の放った火の玉はまっすぐ飛び、何かに当たった。おそらくマオが展開した魔術壁だろう。
「使いたくなかったけど……『土針』!」
奥の方で『ボコッ』っと音が鳴る。先ほどの魔術は地面から鋭利な土が出てくる術だ。いつの間に覚えたのやら。
「移動しているわ。場所はわかる?」
「『魔力探知』……真後ろ!」
「『火球』!」
真後ろにシャルロットは火の玉を放つ。すると近くで何かに当たった。同時にマオの姿が見えた。
「……一人は戦闘不能? なら『心情偽装』」
「えっ」
その瞬間。
「はっ! っっっっあ、があ!」
ポーラはその場で倒れた。息は……しているみたいだ。
「……『認識阻害』」
そしてマオは消える。またどこかに隠れている。
「ポーラ! 目を覚まして!」
「駄目だ。多分しばらくは起きない」
「何で!」
「『心情偽装』。相手の心に無理やり入り込む神術。三大魔術師マオの心情偽装は簡単に心を壊すと言われてるよ!」
「治す方法は?」
「無理だ。心をかき乱された状態を吹っ飛ばす魔術は存在しない! マオ本人にしか治せない!」
「ごちゃごちゃにかき乱している心を吹っ飛ばせば良いのね!」
そんな方法あるわけがない!
そう思っている中、シャルロットはポーラの耳元に口を当てた。
「何を」
「気を失っているときの対処法。ガラン王国秘術その五十三! 『大声でたたき起こす!』」
息を思い切り吸うシャルロット。そして。
「おきろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「がはっ! はあ、はあ、こ、ここは!」
ええええええええええ!?
本当に起きた!? そんな原始的な方法で!?
「はあ、はあ、何やらお菓子の国で散歩をしていたのですが……」
「状況はわかるわね?」
「え、ええ。とにかく本気でやらないと、命を落とすのよね?」
「なら行くわよ!」
シャルロットは俺を見た。『相手の場所を教えて』という合図に見えた。
「『火球』!」
火の玉を放つと、少し離れたところで火の玉がはじけた。
そこには『三大魔術師のマオ』が立っていた。
「……驚いた。いや、『トスカ』の子孫ならあり得るか」
何かを呟いていた。見たところポーラの目覚めが意外だった様子。
「『ライト・ヒール』。これでリエンの怪我は治りました」
「できればもっと早くやってほしかったかな」
「じゃあ総攻撃よ! 『火柱』!」
「『光球』!」
「『火球』!」
すべての攻撃がマオへ向かっていく。そして。
シュウ……。
当たると思った寸前で消えた。
「……シグレット。この辺で良いと思う」
マオ……いや、殺気が無い。いつものパムレに戻った?
「マオがそう言うならこの辺にするか。ということで『実戦』はここまでだ。リエンとシャルロットは医務室へ行くように。まあポーラは外傷がないが、付き添いで行ってくれ」
その言葉と共に他の生徒たちはいっせいに拍手をした。
「次は座学だ。ほら、解散だ解散」
☆
寒さで痛みを感じなかったが、俺とシャルロットは全身傷だらけだった。医務室の暖房器具で温まった瞬間痛みが込み上げてきた。
「だ、大丈夫ですか! 今治療を」
「俺よりシャルロットを先に。俺は見えにくい場所だからさ」
「わ、わかりました」
そう言ってポーラはシャルロットの方へ向かい、治癒術で傷を治し始めた。
「……リエンはパムレが治そう。『ヒール』」
……すげー。傷がウヨウヨと動いて治っていく。若干気持ち悪い。
「パムレ、教えて欲しい。どうして実戦をしたのか。そして氷の精霊の交渉についてこない理由も教えて欲しい。俺としてはパムレの力に頼るのは正直情けないとは思うけど、できれば来て欲しい」
その言葉にパムレは答えた。
「……精霊は魔力に反応して強くなる。ゴルドの様に人間と共存する精霊はまだ良いけど、氷の精霊の様に孤立した精霊は敵対する可能性が高い。パムレが近くにいることで氷の精霊は強くなってしまう」
そういう事か。つまり、行きたくてもいけないということかな?
「あとは単純に『ポーラ』は人に魔術を放てるか試したかった」
「ポーラが?」
シャルロットを治療しているポーラを見た。
「……この場所で育った魔術師のほとんどは魔獣と戦えても人とは戦えない。感情が邪魔をして魔術を制御する。精霊はその人の弱点を利用して人の姿になり、隙を狙って攻撃する。二人は万が一危険な状況でも逃げる術はあるけど、ポーラには無いと思った。だから試した」
色々あったけど、パムレもポーラの事を心配しているみたいだ。
「……それと思わぬ収穫もあった」
「思わぬ収穫?」
「……シャルロットは自身が想像している以上に魔術的な可能性は大きい。後で色々と話す」
そう話をしているうちにポーラが治療を終えて俺の方へ来た。
「さて、シャルロットの治療は終わったわ。次はリエン……って完治してる!」
「……パムレが治した」
「やっぱり三大魔術師の存在は憎いわ! 絶対に何かしら仕返しをさせてもらいますわ!」
いつもの賑やかな状態に戻って、なんとなくほっとした。
ほっとした瞬間意識が……疲れたのかな?




