楽しい学園生活4
実技の授業。
それはこの学校の授業の中で特に人気のある授業らしい。
というのも、先生の立会いの下、魔術を全力で扱うことができるからだ。
そして今日はさらに特別というか、闘志を燃やしている生徒がいた。
「シャルロットさん。前回の再戦としましょう!」
赤毛がまるで炎の様に見えるその姿は、我を忘れて闘志を燃やす一人の戦士……という言葉が出てきそうだったけど、ただの悔しいからもう一回! って駄々をこねているだけなんだよね。
「今回は主に対人戦での実技が中心だ。編入生は来たばかりだし、見学でも良いんだが……ああ、パムレは参加していいぞ」
「いえ、大丈夫です。ね? リエン」
「ああ。俺も大丈夫です」
「わかった。一応言っておくが怪我で済めば俺が治す。ただ、相手の命を奪う可能性もある授業だという事を忘れるなよ」
そう言って生徒たちは二人一組になった。
ある生徒は自分よりも実力が低い生徒と組んで得点稼ぎ。
ある生徒は自分よりも強い生徒を選んで実力向上。
ポーラは当然シャルロットと組む。
目の前にはパムレ。
「……あ、手加減無しで良いよね。良かった良かった」
「良く無いよ! 俺も一応一般人だからね!!」
なるほど。『魔術研究所の館長の息子』という肩書があるから誰も寄って来なかった。
声をかけても『いやあ、ちょっと……』と避けられて少し心に傷がついたよ。
「えー、相手が決まったら一組ずつ実戦だ。あ、リエンとパムレは最後な」
「最初が良かった!」
「ははは、三大魔術師の実力を最初に見せたら勿体ないだろ」
くそう。俺だって頑張ってやる……くう!
☆
そして最初はシャルロットとポーラ。
「手加減はしなくて良いわよ」
「するつもりは無いわ。むしろしてほしいくらいよ」
「ふふ。前回は三人……いえ、実質二人との実戦だったから魔力を温存していたけど、今回は一人に対して全力で行くわよ!」
そう言ってポーラは何かを唱えた。
「では開始!」
先生の合図とともにポーラは魔術を唱えた。
「『ハイ・グラビティ』!」
「なっ! があ!」
突如シャルロットの地面が沈んだ。見たところシャルロットを中心に重力が強くなった感じに見える。
「か……『火球』!」
シャルロットも火の球を出して応戦するも、目の前で地面に落ちた。
「ぐう」
そしてシャルロットは両手を地面についた。
「ふふふ、これで勝ちかしら? この魔術は貴女自身にかけたから、逃げても無駄よ?」
「そ……そう。じゃあ、こうすればどうかしら!」
その瞬間、シャルロットは凄い勢いでポーラに向って走った。
「え! ちょ、何その脚力! 『ハイ・グラビティ』!」
「はあああああああ!」
「ちょ……え……こ、来ないでええええ!」
ひしっ。
「ああああああああああああああああああ!」
「ニガサナイ……イッショニジメンニウマロウヨオオオオオ」
「ぎゃああああああああああああ!」
「……わー、エグイ」
「うん。自分で使った魔術を自分で受けることになるとは」
そう。シャルロットにかけられた『重力が強まる魔術』は、シャルロット自身が重くなるという事。
だからポーラに抱きつけばポーラにもその重さがのしかかる。
そしてポーラは相手が悪かった。シャルロットは元々剣士で、そこら辺の魔術師よりも体力『だけ』はある。だから、多少体が重くても短時間なら動けるのだろう。
「降参! なんか気持ちが……うぐ……」
「はい、シャルロットの勝利ー」
「「「おおー!」」」
そして第一試合は大盛り上がりで終了した。
☆
一戦目で学級委員長とガラン王国の姫の熱い戦いを行ったせいか、二戦目からはかなり迫力にかけるものだった。
というか、俺自身も驚きだけど、もしかして同年代の魔術ってこれくらいが普通なのかな? と疑問すら覚えた。
正直ピーター君と魔術比べをした方がまだ見ごたえがあるだろう。
「はい。じゃあ最後はリエンとパムレなー。リエンは頑張って生きて帰ってこい」
「そうじゃん!」
ピーター君とか言ってられない状況が目の前にあったの忘れていたよ!
そして生徒全員の期待の眼差し!
「……リエン」
「な、なに?」
「……本気でかかって来て良い。この世界で本気で魔術を放てるのはパムレかフーリエ。あとはそこのシグレットくらい」
「!」
やはりあの先生、のんびりしているけどパムレの知り合いだったのか?
いや、今はとりあえず目の前の事に集中だ。
「では二人とも準備はいいか?」
「はい」
「……ん」
「では開始!」
「『水球』!」
「……『火球』」
ジュっと音を立てて消える俺の魔術。
「『土球』!」
「……『風爪』」
ザッと音を立てて俺の土の球が砕ける。
「ぐっ!」
なにより悔しいのが、パムレはわざと相性の悪い魔術で対抗している。
実力を見せつけられている感じがどうしても感じられる。なら……!
「『光球』!」
「……っ!」
目を一時的に見えなくする。強い光は外傷こそないが、そこから隙を作ることはできる!
「今! 『火球』!」
「……おしい。『火柱』」
『おい、馬鹿!』
ばああああああああああああああああああん!
すさまじい轟音が俺の背中から鳴り響いた。
振り向くとそこには先生が魔術壁を張っており、後ろの木々を守っていた。
「……あ、ごめん。目が見えなかったから加減を忘れていた」
「はあ、まあいい。二人の実戦はここまで。実力差はまあ見ての通りだが、リエンはそこそこ応戦もしてたし、それなりの評価をしてやる」
「あ、ありがとうございます」
そして魔術の実習は終わった。
一つ心残りは、あの先生は一体何者だろうかというところだ。
☆
「ああ、シグレット様ですか? あの人は魔術研究所職員でワタチの助手です」
解決しちゃったよ! もう誰かと出会ったら母さんに聞こう! そもそも大陸中に『目』があるもんね!
とはいえ俺の予想では『知られざる過去』とかそういう話を長々とする場面じゃないの!?
「パムレちゃんの知り合いなの?」
「……前にちょっと。魔術はそれなり。でも専門は薬学で、病気を治す仕事もしている」
「へえ、あんな適当な感じなのに凄いのね」
何このふわっと終わりそうな感じ! 俺嫌なんだけど!
「でもパムレの『火柱』を防ぐって、結構な実力者だと思うんだけど?」
「そうですね。ワタチがもし『三大魔術師』の一人って言われていなければ間違いなく彼がその一人になっていたのではないでしょうか。まあ表にはあまり出ない方なので、二大魔術師とかになっていたかもしれませんね」
だんだん俺のあこがれの称号が安っぽくなってくるんだけど! それを夢に頑張って魔術特訓をしていたあの頃が砂のように崩れていくよ!
「はあ、まあ先生の事を深く考えるのはこの辺にしよう。今日は面白い収穫もあったし」
「収穫?」
「シャルロットの戦いを見て、剣術で鍛えた技術は魔術にも生かされているんだなって。つまり逆もあり得るということで、少し希望が持てたよ」
「そう。まあ私を見て勇気を貰えたならうれしいわ」
シャルロットの魔術の実力はメキメキと上がっている。これは俺も負けられないな。
「さて、剣術の修行も頑張ろう! シャルロット、良いかな?」
「ええ。今日はパムレを背中に背負って素振りね!」
「それくらい、いくらひ弱な俺でも余裕でしょ。パムレ軽いし」
「……じゃあ『三大魔術師』として全力の『ハイ・グラビティ』を使ってリエンに乗るね。地面に埋まったらご飯食べられないから頑張ろう」
ちょっと待って。ご飯どころか俺の体は大丈夫なの!?




