楽しい学園生活3
今日の授業は『神術』について。
時々『心情読破』や『認識阻害』は使っていたけど、それらについては『そういう事ができる』という認識だけで、深くまではわからなかった。
魔術学校という名前だが、実際は『神術』や『精霊術』についても勉強や実践するらしい。
個々で使える人と使えない人はいるが、例え使えなくても知識として知っておいて損はないだろう。
ワクワクしながら待っていると、担任のシグレット先生が入ってきた。
ん? 何やら元気が無い?
「神術についての勉強よね? 結構私楽しみなのよね」
「あら、ガランの姫様は神術を使えないの? ワタシはもう色々と覚えていてよ?」
「そうなの? じゃあ教えてよー」
「ふん。皆と一緒に先生から教えてもらいなさい。ワタシは自習でもしてようかしら」
「あー、静かに。今日は神術について特別講師を招いている。えー、『静寂の鈴の巫女ミルダ様』だー」
「「「「「ええ!?」」」」」
その反応と共に教室へ入ってくる赤い髪の巫女服のミルダ様。
身長がパムレと同じくらい低いから子供にも見えたが……え、なんで?
そして隣でポーラさんがガクガク震えているよ!
「せっかくの神術のお勉強ということで、無理を言って参りました。あら、ガラン王国の姫様に魔術研究所の館長の息子さんにマオさん。昨日ぶりですね! 『偶然ですね!』」
((絶対偶然じゃない気がする!))
心の中で突っ込んだ。そして絶対シャルロットも同じことを心で叫んだと思う!
そしてポーラは俺たちをすっごい形相で睨んでいるよ!
「いいかー皆ー。決して失礼の無い様にな。正直そこのマオ……パムレだけでも胃が痛いのに校長の息子とガラン王国の姫とミルダ様とついでにゲイルド魔術国家の姫という混沌クラスの担任ってだけで頭がおかしくなりそうなんだからな」
何だろう。先生から内なる怒り的なものが見えるぞ?
俺は悪くないのになんだか申し訳なく感じてきた。
というか、マオ……パムレは先生の事を知っているのかな? 呼び捨てということは実は知っている人?
「授業をミルダ様から教えてもらえるなんて光栄ですわ!」
「あら、ゲイルド魔術国家のポーラさん。お久しぶりです。国立記念日以来ですね」
「あの……昨日……」
なんだかどんどん可哀そうになってきたよ!
「冗談です。昨日は急いでいたので頭を下げただけですみません。今度ゆっくりお話ししましょう」
「は、はい!」
ポーラさんは泣いて喜んでいるよ。うん、とりあえずよかったよかった。
「……ポーラは神術をすでに覚えていて、授業するほどでもない領域らしい」
「あらそうなの? でしたら実習所で実習を」
「いやああああああ! お願いします! どうか授業を受けさせてくださいませ!」
なるほど。
ポーラさん……いや、ポーラはどうやら『残念な人』のようだ。
☆
『神術とは、かつて神々が使い、それが何かの形で残って今に伝わった特別な術式。基本的には人間が使用でき、魔力を保持していれば精霊も使うことができる。しかし悪魔や妖精は使用できない』
先生が『静寂の鈴の巫女ミルダ様』というだけあって、言葉の一つ一つが神々しく思える。
唯一思うのは、昨日の一件が無ければもっと尊敬のまなざしを向けていたのだろうなー。どうしてもホットミルクを飲んでいるほっこりしたミルダ様の印象が大きすぎた。
「ということで今日は教会から神術にまつわる書物を持ってきました」
そう言ってミルダ様は一冊の本を取り出した。
凄く光ってるんだけど!
「ここには神術のほとんどが書いてあります。ただし、この世界の文字で書かれてある文章はほんのわずか。『心情読破』や『認識阻害』についても書いてありますが、おそらくポーラさんの知らない神術は無いか読めないと思います」
ペラペラとめくってこちらに見せる。光っててよく見えないけど、何かしら文字が見える。
「えっと、ミルダ様? ワタシが読んでみても?」
「ええ。良いですよ」
そう言ってポーラに本が渡された。
「あ、言い忘れていましたが、その本は国宝を超えた重要書物なので、丁寧に扱ってください」
「……(白目)」
何でそういう大事なことを後から言うの!?
三大魔術師ってどこか抜けてるのかな!?
そこへパムレも近づいて本を横から眺めた。
「……神の書物。確かに色々な世界の文字で書かれてある。ミルダ大陸や『チキュウ』や『カミノセカイ』の文字」
「お、お返しします!」
「あら、もういいの?」
そう言ってポーラはミルダ様に書物を返却。
同時にシャルロットが手を挙げた。
「はい。ガラン王国の姫様」
「シャルロットでお願いします。まだ未熟ゆえに恐れ多いです」
「ではシャルロットさんと呼びますね。どうしました?」
「パムレちゃんが言っていた別な世界という単語が気になりました。ミルダ大陸の外には別な世界があって人がいるのでしょうか?」
その言葉にミルダ様は少し考えた。
「それこそ、神術の謎の一つでもあります。私はこの世界しか知りませんが、魔術研究所の初代館長マリー様はパムレさんが言っていた『チキュウ』という世界に行きました。ガラン王国の昔の王様トスカ様は神々が住む世界と言われている『カミノセカイ』という場所に行きました。この大陸の向こう……というわけではなく、この大陸の外。そこに別の世界が存在します」
「へえ、大陸の外。少し興味があるわね」
目をキラキラと輝かせるシャルロット。しかしミルダ様は微笑みつつも少し声の色を変えて話し続けた。
「ですが、外を知るということは世界の理を知ることになります。知らない方が良いという意味でもシャルロットさんはガラン王国の務めをしっかり果たすことを優先した方が良いでしょう」
「え、そうなのですか?」
「はい。すでにその世界の理を知り、自由を奪われた人間を私は知っています。魔術や神術についての勉強はとても良いことだと思います。しかし、寄り道をした挙句、迷ってはいけませんよ?」
「は……はい!」
その返事と共に鐘が鳴り、今日の授業が終わった。
☆
ご飯を食べながらシャルロットは少し考えていた。
「どうしたの?」
「うーん、やっぱり気になるというか、考えるなと言われると考えちゃうんだよね」
「外の世界の事?」
「そう。パムレちゃんは多分だけど何か知っているんでしょ?」
「……パムレは知っているだけで深くは考えていない。この世界がどういう存在なのかとか、『チキュウ』という世界がどういう世界かを知った今でも別に何も変わらない」
そう言いながら母さんの作ったスープをひょいひょいと口に入れる。
「母さんは何か知っているの?」
そう言うと、母さんは苦笑して答えた。
「あはは、ワタチは逆に色々知って後悔した側なので。これは墓まで持っていくことなので、リエンにお願いされても教えませんよ」
「秘密が多い母親を持つと大変だよ。しくしく」
「なっ! り、リエンを泣かせてしまいました! その、今の質問以外についてなら教えますから!」
マジで?
「じゃあ、母さんって結局この大陸で何人いるの?」
ちょっと気になった。
まあ、今まで出会った母さんを見る限り、六人くらいだろうか。
「二十人くらいですね」
「多いよ!」




