楽しい学園生活(自宅)2
俺は今夢を見ているのだろうか。
状況を再度確認すると、会話の途中でお客さんが入ってきて、その人の名前は『ミルダ』という名前の女性。ポーラは少し暗めの赤い髪に対して、ミルダ様は明るい赤色の髪。肌は白く、とても神々しい感じを醸し出していた。
で、パムレ(マオ)の事も知っていて、母さんの事も知っている。
「シャルロット。何度目だ? 君の言葉には魔力が宿っているのかな?」
「最近言葉には気を付けているつもりだけど、私の発する言葉って現実に起こってしまうのかしら……というか気を付けようが無くないかしら?」
目の前には三大魔術師の三人が揃っている。
一人は母さんこと魔術研究所の館長フーリエ。大陸中に目があるという噂があり、その実情は母さんの分身が記憶を共有していて見たものをすべて把握できるというものだ。
一人は魔術師マオ。神出鬼没で有名で、三大魔術師の中では一番魔術が強いと言われている。本気を出せば国を一つ簡単に崩壊できる。
そして最後の一人はミルダ大陸の責任者、『静寂の鈴の巫女ミルダ』。
大陸の名前にもなっていて、さっきの話だと唯一三大魔術師の中で各国に干渉できる存在。
が、目の前でほっこりホットミルクを飲んでいるんだけど!
「あ、あわ、か、母さん!?」
「あ、気にしないでください。『ただのミルダ』です」
「『ただのミルダ』って何!? あのミルダ様だよね!?」
「さすがの私もこれまでに無い緊張をしているわ。えっと、どう声をかければ良いのか」
「……ん? お話したい? ミルダー、パムレ……あー、マオの友達がお話したいってー」
「あら、良いですよー」
てけてけとこちらの机に歩いてくるミルダ様。
軽くない!?
ガラン王国でシャーリー女王様とシャムロエ様とシャルロットを前にした時と近い印象があるよ!?
「は、初めまして。ガラン王国第一王女候補のシャルロット・ガランです」
「あら、ガラン王国の。わざわざ遠いところからようこそ」
「いえ! ご挨拶が遅れて申し訳ありません!」
「そんなに緊張しなくて良いですよ? 今は『ただのミルダ』ですから」
いや意味がよくわからないんだけど!
「かかか母さん、これは一体? 呼んだの?」
「いえ。ミルダは……間違えました。ミルダ様は休日ここへ来てホットミルクを飲みに来るのですよ」
「今呼び捨てした!? そもそもミルダ様って教会に閉じこもっているのでは?」
そう質問するとミルダ様が俺に近づいてきた。
「フーリエさんの息子さん。実はこれには深い事情があるのです」
「深い……事情……」
各国に影響を与える力を持つミルダ様の深い事情……。それって一体。
「教会に閉じこもっていたら、精神的に参ってしまいまして、定期的に休日を設けてもらったのです」
ヤバイ。すごくツッコミたい。でも相手はあのミルダ様だ!
「……あの時のミルダは凄かった。教会の外の雪を食べ始めたときは末期だと思った」
やめて!!!
なんか凄い人のそういう過去聞きたくないんだけど!
「ふふ。幸いにもフーリエさんやマオがいるので保っているのです。さすがに初日の休日にフーリエさんのホットミルクを飲みすぎてお腹を壊したときは大変でしたけどね」
「え、初日に母さんのところに……? 母さんは驚かなかったの?」
休日初日に静寂の鈴の巫女ミルダ様が来店って、とんでもない出来事だよね!
「あー、色々すっ飛ばして話して良いですか? 話すと長くなるので」
「うん」
「大陸中で一人だけ人間のワタチがいるって言うのは話しましたよね」
「うん」
「ミルダは人間のワタチの元部下だったのです」
「ちょっと待ってやっぱり一から話してもらっても良い?」
元部下って何!?
というかやっぱり母さんって何歳!?
そして一番気になるのは誰に対しても『様』をつけている母さんが、ミルダ様にだけ呼び捨てだよ!?
「ふふ。実はフーリエさんと一緒に魔術研究所に勤めていた時期があったのです」
「ミルダ様が?」
「はい。当時はまだ『静寂の鈴の巫女』なんて呼ばれていなくて、普通の魔術師としてフーリエさんと働いていました。フーリエさんは当時先輩で、色々教えてもらっていたのですよ」
マジカヨ。
まさかの母さんの元部下が大陸の名前にもなっているミルダ様ってどうなってるの?
「あ、あの!」
シャルロットが緊張しつつも話しかけた。
「どうしました?」
「こここ今度改めてご挨拶をしに行ってももも良いですか?」
めちゃめちゃ緊張している。それもそのはず、三大魔術師や大陸の有名人という括りでは必ず出てくる人が目の前にいるのだ。俺だって今でも緊張している。
「ん? 良いですよ? あ、教会の人には言っておきますから名前を名乗ってください。フーリエさんの息子さん……リエンさん? も遊びに来てくださいね」
「ありがとうございます!」
と、そんな話をしていたら。
『巫女様。そろそろお時間です』
外から声が聞こえた。
「ふふ、今日はいつもと違って面白い面々が集まっていたわね。しばらく滞在するのかしら?」
「はい。短期ですがゲイルド魔術学校に通っています」
「そう。それは面白い事を聞きました。ではまた会いましょう」
そしてミルダ様は風のように去っていった。
「な……なるほど。リエンの気持ちがわかったわ。これが『凄い人を前にして緊張する感じ』ね」
流石のシャルロットもミルダ様に関しては緊張するんだね。
「というか母さん! 来るなら来るって言ってよ!」
「え、それには深いわけが」
「まさか……ミルダ様が来るという情報は機密事項とか……?」
「いえ、リエンやシャルロット様が驚く顔を見たかった……こほん。ミルダ様が来るという事実は大陸全土の機密事項です」
息子や一国の姫を驚かすためだけに大陸の代表者の訪問を隠さないでくれる!?
「というのは冗談で、ミルダの休日は不定期なのでいつ来るかわからないのですよね。ここなら基本的にワタチがいるのでミルダが来るのです。まあ、護衛を付けてできるだけ人目を避けてこっそり来てますけどね」
どれが本当かわからなくなってきたよ……。
☆
翌日。
今日から魔術学校で本格的な勉強が始まる。
と、その前にポーラが俺たちに話しかけた。
「ご機嫌麗しゅう。皆様」
「あ、ポーラさん。おはよう」
「ポーラ。今日も元気ね」
「……はよー」
「あの、一応ワタシ、この国の姫なんだけど」
昨日の出来事の印象が大きすぎてポーラの挨拶が頭に入ってこない。なるほど、確かに印象が薄まっちゃうのは否めないな。
「それよりも聞いてくださる?」
「はい?」
「昨日は『静寂の鈴の巫女ミルダ様』が突然外出されたところに偶然出会い、ご挨拶をしたのです。ワタシくらいになると大陸一の人物とも会話できるのですよね」
うーん、やっぱり外出関連は機密事項なんだね。普通に俺は会話したけど、これは黙ってた方が良いのかな?
と、そこへパムレがトコトコと歩いて行った。まさか昨日の出来事を言わないよね?
「……ポーラ、パムレの事は知っている?」
「え、そりゃあ、三大魔術師のマオ様ですよね」
「……ポーラはマオとミルダ、どっちを選ぶの?」
「っっっっ!?!?!?!?」
おあああああ!?
ポーラさんがあまりの衝撃に立ったまま気絶したぞ!
というかパムレも一国の姫に対してその究極の選択を選ばせるなよ!
「はふう、ああ、そ、そのお」
「……パムレ……いや、『超強いマオ』はとても残念。ポーラとは『超親しい友達』になれると思っていた」
「ちょっと待ってくだる!? さささ三大魔術師と交友関係なんてとても光栄」
「……ポーラはマオを『三大魔術師の一人』としてしか見ていないの? シャルロットはどう見てる?」
「へ? パムレちゃんはパムレちゃんよね? 今日もほっぺたフニフニで可愛いわよー」
「……ほうひふほほへ、ひょうほへんひょうをはんはほー(そういう事で、今日も勉強がんばろー)」
「待ってくださる! もう一度、もう一度だけ考え直してくださる!?」
ポーラさんの本気泣きが学校内に響く中、今日から授業が始まるのだった。




