楽しい学園生活(自宅)1
「せい! てい!」
「もう少し剣をまっすぐに。少しだけ『音』が違う気がするわね」
「こう?」
ブン!
「うーん、まだかしら。ちょっと木刀かして」
シャルロットに木刀を渡すとそれを振った。
シュッ。
「これ」
「あー、なんとなく……うん、頑張る」
素振りをしていたら、母さんがお盆に飲み物を乗せてやってきた。
「ふふ、頑張っていますね。温かい飲み物を持ってきましたよ」
「ありがとうございます。店主殿」
「ありがとう、母さん」
昼間は魔術学校での勉強があるため、夕食前はできる限り剣術を教えてもらう事になった。
今までは何かしら事件があって集中できなかったけど、ようやく本題に突入することで時間に余裕が生まれた。
夕食後はゆっくりしつつも魔術の勉強をする流れは変わらない。まあ、最終的に魔術をシャルロットが使えるようにならないと、シャムロエ様やシャーリー女王様に何を言われるかわからないからね。
「温まるわー。ホットミルクかしら?」
「はい。ゲイルド魔術国家では作物が育ちにくい環境の代わりに動物から取れる乳製品を特産物として生産しているのです。このホットミルクもその一つなのです」
ほろっと甘い香りが疲れを飛ばしてくれる。うん、美味しい。
「初日はどうでしたか?」
「ああ、ポーラという人に会って色々学校内を教えてもらったよ」
「ポーラと言うとゲイルド魔術国家の姫ですね。凄い人と出会いましたね」
「是非母さんから本人に言ってあげて欲しいよ」
事実を知った後だから忘れがちだけど、母さんの方が十分凄い人なんだよなー。
そういえばミルダ様と母さんがこの国に住んでいるから王家が目立たないということで、困ったりしていないのかな?
「この国の王様と母さんって仲が悪かったりするの?」
「んー、ワタチは特に気にしていないのですが、ゲイルド女王が気にしている様子。何代にも渡って事あるごとにちょっかいをかけてくるのですよね」
「そもそも店主殿っておいくつですか?」
……。
…………うん、実はそれ、初めて魔術研究所で会った時に聞こうと思ったけど、無理やり『悪魔だから長生き』ということで自分の中に押し込めたんだよね。
「シャルロット様、時には知ってはいけない事実と言うのもあるのです。シャルロット様も最近運動不足でお腹周りが少々」
「ぎゃー! すみません店主殿! 何も聞いていませんよ!」
へー、太ったんだ……でもこの言葉を口に出したら叩かれるんだろうな。というかこういう話題は俺のいないところで話してほしいかな。
「じゃ、じゃあ、母さんとパムレはどっちが強いの?」
「強い?」
「三大魔術師の一人ということだし、男の俺としてはその三人の中ではだれが一番強いのか気になったりするんだよね。強者対強者ってなんかこうワクワクする!」
その言葉にシャルロットが苦笑しながら話しかけてきた。
「凄いわねリエン。息子権限を最大限に利用した質問ね。もし私なら何かしらの罪に問われる質問よ?」
「母さんに小さい頃言われたんだ。『答えるかどうかは別として、息子ならまず質問をしなさい』って。言えない内容ならそれで終わりだし、聞けたら面白いじゃん」
「過去のワタチは息子という愛くるしい存在の所為で思考が退化していたのでしょう……。とはいえ面白い質問ですね」
むーっと悩んでいるとパムレが歩いていた。
「……ん?」
「あ、パムレ様。ワタチとパムレ様ってどっちが強いですか?」
「……え、質問の意図がわからない。強い?」
おおー、パムレが困っている。
年上(仮)とはいえ見た目は年下だからか、困った表情をした子供にしか見えない。
「……んー、フーリエ一人ならパムレが強い。けど、大陸中のフーリエが襲ってきたらパムレは負けるかも」
マジで!?
「……逆にパムレはミルダに勝てない。ミルダは魔術を消す能力を持っている。フーリエは悪魔という存在のおかげで物理的にミルダへ攻撃ができるから、実は三大魔術師の強さは三角関係となっている」
この事実って実はこの大陸でもかなり上位に位置する情報じゃないの!?
「そもそもここに三大魔術師の二人が揃っていること自体凄いことよね。ミルダ大陸中の貴族が王族が集まってもそれほど世界に動きは無いけれど、このうちの一人が何かを発言すればミルダ大陸中の国が動くのよ?」
確かに。
シャムロエ様やシャーリー女王様の発言力はその国では一番影響を与えるが、他の国では他国の偉い人の発言ということで効力が弱まる。
一方で三大魔術師というのは国を超えて影響を与える力を持つ。
「んー、それは偏見と言いますか、勘違いしている気がします」
「そうなんですか?」
「はい。ワタチとパムレ様は三大魔術師という存在ではあるものの、国の政治にそれほど干渉できません。唯一ミルダ様が各国の王へ交渉する権利を持っています」
へー。つまり母さんが好き勝手に何かをできるわけでもないのか。三大魔術師というのもなかなか不自由なのかな。
と言いつつも三か国に宿を持っているから、干渉しまくりの気がするけどね。
「でも残念。干渉ができないならパムレちゃんをガラン王国軍魔術部隊もしくは私の側近(膝の上)として引き抜きしたかったのになー」
あの、シャムロエ様というミルダ大陸でも大きな存在がいる王国に、パムレ……もとい、三大魔術師の一人マオがガラン王国に配置したらミッドガルフ貿易国のミッド王子がまた暴走するよ?
「……利点が見当たらない。パムレは自由に生きる。シャルロットは友達だから時々会いにいくよ?」
「あらら、ガラン王国特産品パムレットを報酬にお誘いしたかったけど、残念」
「……リエン。ちょっと手を貸してほしい。マオはこれからガラン王国軍に入隊するために準備運動がしたい」
軽いよ!
パムレットで三大魔術師がついてくるなら皆やってるよ! それと『準備運動』って何!? それって俺の存在がきちんと残る保証あるかな!?
「それにしても、目的はずれてしまうけどゲイルド魔術国家に来たならご挨拶だけでも『ミルダ様』には会いたかったわね」
「それは何故?」
「そりゃガラン王国の姫としてよ。三か国をまとめ上げる代表者でもあるし、用は無くてもご挨拶をするのは王族として礼儀というやつよ」
「そういうものなのかな」
ガチャ
ん? お客さん?
ポーラとはまた異なる明るい真っ赤な赤い髪のローブを着た少女が来店してきた。
肌は白く、手にはシャランと鈴の音が鳴る杖を持っている。
「疲れたー。あ、ホットミルクもらっても良いですか?」
「あ、ミルダ様、いらっしゃいませ」
「相変わらず他人行儀ですね。貴女の方が上司だったのに」
「体裁は大事です。あ、今ちょうどマオ様も来てます」
「あら、マオ。久しいですね。元気だった?」
「……ん。ミルダも元気そうで何より」
「どうぞホットミルクです。あ、今ちょうど息子とお話をしていました」
「あら、噂の息子さんかしら。お邪魔をしたかしら? どうぞお気になさらず」
「ありがとうございます。ところでリエン」
「「ちょっと待って!!!!」」




