楽しい学園生活2
学級委員のポーラに構内を案内してもらい、なかなか良い時間となった。どうやら先生から許可をもらって今日の授業は免除となり、一日構内の案内や施設の仕組みについての説明を受けるという形らしい。
そういうことなら先に言って欲しいなー。あの先生、確か名前はシグレットって言ったっけ。なかなか油断ができない人だな。
ちらりとポーラを見る。
長い赤い髪を持ち、すらっとしている姿からはやはり貴族の気品的なものを感じ取れる。
ゲイルド魔術国家の王族の血を持っているということはお姫様だろうか?
「ところでリエンさん。一つ質問をしても?」
あ、そういえばポーラから俺に対しての質問は却下されたんだっけ。
「な、なんでしょう?」
「運命って信じますか?」
え!?
急に何!?
そしてその言葉と同時にシャルロットとパムレが背中をつねってきたんだけど!
「ど、どういう意味?」
「そのままです。ワタシの家系は代々……不幸と共に歩んできました」
……ん?
「三大魔術師の二人がこのゲイルド魔術国家に住みついている以上、その王族の影は薄く、他の国からも代表者はミルダ様や魔術研究所の館長様とすら言われる始末。父上や母上がいくら頑張っても挽回できない。そんな中、この学校では学級委員という地位を持ち王族の血を持つ者として上り詰めたところに貴方たちがやってきた。一人はガラン王国の姫、一人は三大魔術師の一人、一人は三大魔術師の一人の息子。またしてもワタシは影に埋もれる存在かしら?」
長!
その間一回も息継ぎしてないけど!
「あー、でもほら、私たちって短期編入だから。そこまで影響でないのでは?」
「そうそう。俺だって三大魔術師の一人の息子って最近知ったし!」
「え?」
……ん?
何か不味いことを言った?
「なるほど。もしかして隠し子かしら? そういうことであれば魔術研究所の館長様にとってあまり世間的には知られたくない事実ということも……」
「……リエン。失言は気を付ける」
「ええ! ちょ、あまり言わないで欲しいかな」
「どーしようかしらねーほっほっほっほ!」
理解した。このポーラおよびその親族が目立たないのは、人の弱みを武器に今の影の薄い地位から出ようとしているんだ!
「……はあ、リエン。今度パムレットね」
「え?」
パリン!
何かが砕ける音がした?
いや、魔術的な音かな。一体何が……。
ふと、ポーラを見ると……。
「あ……れ? ワタシ、気を失ってたかしら?」
やりやがった!
この三大魔術師の一人、人の記憶を消したぞ!
「……正当防衛。パムレも面倒ごとは苦手」
「何を言っているのかしら?」
「……何でもない。次はどこを案内してくれる?」
「はい。マオ様。次は食堂を案内します」
そう言ってとことこ歩いて行った。
「ねえリエン。今、パムレは何をしたの?」
「自分もしくは相手の心を捻じ曲げる『心情偽装』の応用で記憶を消した……」
「それってリエンもできるの?」
「無理ではない……でも」
「でも?」
「全ての記憶が消えたら合格点。人の言葉を話せたら妥協点。でも高確率で、その人は動けなくなる……」
言った俺もなんだけど、シャルロットと俺はその場で一瞬震えながら、二人の後を追って行った。
☆
「ここが最後に案内する場所の『実習所』よ」
広い場所へ案内された。別クラスが授業を行っているため、所々で魔術の実技授業が行われている。
「さて、杖を持ってください」
「はい?」
「これから貴方たちの実力を見てあげます。現在ワタシの所属する組の一番はワタシ。学級委員として他の生徒の実力を見るのも使命です」
うーん、明らかに実力を確認して上下関係を確立したいように見えるなー。
「……じゃあ最初はパムレから」
「ちょっと待ってくださる?」
空気が凍ったぞ。
「どうしたのポーラ? 始めようと言ったのは貴女よ?」
「黙りなさいガランの姫! 初手が三大魔術師の一人って変でしょ! というか万が一ワタシが勝ったらどうするの?」
すごいな。こんな状況でも勝つ未来を考えられるのか。俺なら絶対無理だぞ?
「最初はガランの姫! 次に校長の息子さん! 最後にマオ様で良いかしら?」
「まあ、順番はどれでも良いけど……あ、俺のことはリエンで良いよ」
「うーん。大丈夫かしら?」
「まあ、いつも通りやってみれば良いと思うよ。勝つことよりも実戦を経験するということを意識して勝ち負けにこだわらずに行こう」
「うん。ありがとリエン」
そう言ってシャルロットとポーラが中央に立ち、俺とパムレは少し離れた。
「うーん。ああは言ったモノの、大丈夫かな?」
「……何が?」
「シャルロットは実際魔術の勉強を俺と出会ってから今日までしか実質していない。一方でポーラはずっと勉強している。どう見ても軍配はポーラだと思うんだよね」
「……ふむ。パムレはそう思わない」
「というと?」
「実戦経験の差が違う」
バアアアン!
割と大きな破裂音が響く。
「あ……危ないじゃない! この……『火球』!」
「ほっ」
「ギリギリで避けた!? 怖くないの!?」
「当たらないと思った物に対して恐怖は別に……『火球』!」
「ひっ!」
凄い。
魔術は初級だけを使い、相手の魔術は無駄な動きを最低限にして避けている。
元々剣術を覚えているから、魔術を避けるのは簡単なのだろうか。
「終わり! 負けで良いわよ!」
「『か……』ふう、あと少しで魔力が無くなりかけたかしら」
「くう。次は負けないわよ。ほらリエンさん」
「え、連戦で大丈夫?」
「甘く見ないで。魔力の量は全然余っているわよ!」
と言っても俺って剣士志望だから魔術の戦闘はあまりしたくないんだよね。どうしたものか。
「……魔術で剣を使えば良いと思う」
パムレが俺の心を読んでいたのか、俺に話しかけた。
「……こう……『フレイム・ソード』……こんな感じで炎の剣を出せば良い」
いや簡単に出したけど、火を一定時間出し続けるのも辛いのに、剣としての役割を持たせるとか普通できないからね!
「ん? 別に火じゃなくて良いのか?」
「何をゴチャゴチャと。ワタシは準備ができてよ?」
「了解。では行くよ!」
そう言って俺は魔術を唱えた。
土を棒状に生成。先端は少し鋭く。今日が初回だから不格好でもとりあえず良しとしよう。
「名付けて『アース・ソード』!」
「……変」
ぼそりと離れたところから文句を言わないで?
しかも言った本人がこの大陸で魔術の第一人者ってのがまた辛いよ!
「近接!?」
「てえええい!」
「ちょっと、魔術の手合わせよ! そんなの、剣術じゃない!」
「これは魔術で生成したから魔術だ。うおりゃああああ!」
思いっきり地面にたたきつける。小さな土の破片が飛び散り、それがポーラに命中する。
「いだだだだだだ! 降参! 降参よ!」
「ふう。とりあえず勝利ー」
「リエンお疲れ様ー」
パンっと手を合わせて勝利を喜ぶ。
「……さて、次はパム」
「今日はこの辺にしてください。これ以上はワタシの心が折れる」
うん。一番勝てそうなシャルロットに負け、続いて俺に負け、最後はほぼ負け確定の相手が挑んできたら、そりゃ泣きたくもなるよね……。




