三大魔術師の一人:魔術研究所の館長
「ここね」
ゲイルド魔術国家の心臓部である『魔術研究所』。
ゲイルド魔術国家の王が住んでいる……と錯覚しがちだけど、実は別に存在していて、王や王女はきちんといるらしい。
というか、ミルダ様や魔術研究所の館長という『存在感の塊』がいるせいで、王や王女の存在がすごく薄まっている。可哀そうに……。
早速魔術研究所の正門に到着すると、一人の兵士が俺たちに声をかけた。
「面会か?」
「はい。魔術研究所の館長様に」
「む……今から『心情読破』を使う。心の中で出身地と名前を嘘偽りなく思ってください」
「わかりました」
兵の目が金色に光った。なるほど、魔術国家らしく相手の心を読んで見極めるのか。
「……ようこそ。ここでは名前を発することを控えさせていただきます。ご了承ください」
「ええ」
「それと、そちらはお連れ様ですね」
俺に目を向ける兵士。
「はい。リエンです」
「伺っております。そしてそちらは……」
「……ん」
「いいいいらっしゃしゃいいいませせ」
何で怯えてるの!?
何か過去にやらかしたなパムレ!
「どうぞ。『魔術研究所の館長様』がお待ちしております。なお、廊下までは私が同行しますが、扉が開く前に私は奥の方で待機させていただきます」
そういえばガラン王国の魔術師も扉越しでしかお話できないんだっけ。そして特別な人だけがその姿を見ることができると。
え、俺たち結構特別扱い?
あ、でもシャルロットは一応姫だから来賓扱いなのかな?
「ではどうぞ」
そして大きな門をくぐり、俺たちは魔術研究所に入っていった。
☆
研究所の中はとにかく本が多かった。
廊下にも何冊か積み重なった本が置いてあったり、資料を持って議論している人も度々見かけた。
この本の匂いは地味に好きだなー。
「凄いわねリエン! 魔術の神髄がここに詰まっているのよね!」
「まあそうだね」
「……ふああ。この辺りに散らばっている本の魔術は頑張ればシャルロットも使える。魔術学校でさらに強くなれるといいね」
「わー! ありがとうパムレちゃん!」
「……髪がー」
髪をくしゃくしゃにされつつも嫌がってはいない様子。
「こちらになります」
っと、どうやら館長室の前に到着したようだ。
同行してくれた兵士さんがコンコンとノックをして『連れてまいりました』と告げると、そのまま去って行った。
『どうぞ』
……なんだか緊張してきたな。
だって三大魔術師の一人がこの中にいるんだよね。この大陸でも魔術に関しては随一の頭脳の持ち主でしょ?
あ、なんか隣で『……パムレも三大魔術師の一人』とか言ってるけど、とりあえず放置。
一応シャルロットは姫なので、俺なりに考えて俺が扉を開ける。シャルロットは小声で『ありがと』とささやいた。
「ようこそ。魔術研究所へ。ワタチがこの研究所のフー
ガチャン。
……。
「兵士さーん。ここ館長室じゃないですー。一般人入ってますよー!」
ガチャン!
「ちょ、リエン! 廊下で大声を出さないでください! 『プル・グラビティ』!」
「「「(……)うわあああ!」」」
バアン!!
☆
「ということで、驚くのもしょうがないと思いますが、ワタチが正真正銘『魔術研究所の館長』の『フーリエ』です」
「その……ね、母さん。一つ言わせて」
「はい?」
「なんとなく予想してた」
「なんですかその前に『本当の息子じゃない』と言った時と似た発言は!」
いやだって、文献を見ると『フーリエ』って名前が多いし、三大魔術師の一人のパムレ……いや、マオと知り合いだし、鉱石精霊のゴルドやガラン王国の上層部やミッドガルフ貿易国の上層部とも知り合いだよ?
ただの宿屋の店主にしてはハイスペック過ぎない?
「なんだか俺の中で『三大魔術師』という言葉が安価になってきたよ」
「……その、念のため言うよ? パムレとフーリエはこんな性格だけど、ミルダは超真面目だからね?」
ミルダ様だけが最後の砦だ! がんばって!(超失礼)
「こほん。さて、色々手続き関連も行っていたので、明日からはお二人には魔術学校に通ってもらいます。シャムロエ様からお願いされている以上、責任を持ってお預かりという形ですね」
今更ながら思ったけど、シャムロエ様が魔術学校へ通う様にと言った時、その場には母さんがいた。つまり、あの場では見えないところで編入の許可取りが行われていたということ?
怖いよ貴族社会!
「……あ、パムレも体験入学したい」
「え!」
「……実はパムレ、『三大魔術師の一人』と言われているけど無職。ここは一つ資格を持ちたい」
「マオ様はこの場で卒業証書を進呈しますよ?」
「……つまらない。リエンやシャルロットと一緒に学園生活を楽しむ」
「ずいぶんと気に入られたようで……親としては見過ごせない状況ですね」
なんかすごく冷たい視線を感じるのだけど!
「とりあえずわかりました。では明日からマオ……いえ、パムレ様も入学ということで。他に質問はありますか?」
その問いにシャルロットが手を挙げた。
「入学の件の手続きや、その他色々とお手伝いいただき、本当に感謝いたします。しかし一つだけ気がかりなことがあります」
「なんでしょう?」
「どうして先ほどと服装が異なるのでしょうか?」




