ゲイルド魔術国家への道のり2
馬車を運転してくれた人に別れを告げて、ここからは歩いてゲイルド魔術国家へ向かうことに。
雪が徐々に高くなりつつも、ゲイルド魔術国家へ続く道へは目印がきちんと並んでいた。
石で作られた柱が一定の距離を進むにつれてあり、すべてにゲイルド魔術国家の目印となる紋章が彫られている。
一説だとこの周辺は猛吹雪も度々あるらしく、この石の目印が無い前までは遭難者もそれなりにいたとか。
「で、どうして俺は今パムレを背負っているの?」
現在俺はパムレを背負って歩いている。足は雪で重いし、小さな女の子でも背負えば重い。いや、口には出さないけど……。
「……パムレの足より雪が高い。これはマジで許して」
「パムレちゃん。私が背負っても良いのよ?」
「……色々危険な気がする」
「しゅん」
そういえばすぐに膝の上に乗せたがったり撫でたりしているところを見ると、シャルロットはパムレを相当気に入っている様子。時と場合によってはパムレも「……仕方がない」と言って膝に座っているけど、今回のような状況はさすがに空気を読んだのだろうか。
それで俺の背中を選択するというのもどうなのとは思っているけど、まあ信頼されていると思えばそう悪い感じはしない。
「それにしても凄い雪ね。これで猛吹雪なんてなったら最悪よね」
☆
ブオオオオオオオオオオオオオ。
「シャルロットが悪い」
「……シャルロットが悪い」
「想像しただけじゃん! というか、こんな吹雪だとなかなか前に進めないわよ!」
石の目印を数個過ぎたあたりでなんとなく風が強くなってきた途端、猛吹雪が襲ってきた。
「さすがに次の石の目印の近くで休憩しよう。これは辛い」
「……賛成」
そして数歩歩き、ようやく石の目印へ。少し離れた場所にちょうど良い広場を見つけたからそこに魔術を使う。
「とりあえず『グラン・ウォール』!」
土の魔術で壁を作って風避けを作る。これだけでもかなり違う。
「……『火球』。焚火は大丈夫」
「『水球』っと。とりあえずこれを沸かして飲みましょう」
それぞれが何かしら役割を持ってこの吹雪対策を行う。
「というか、パムレちゃんならこの吹雪を吹っ飛ばせるんじゃない?」
「……え、できるけど、やるとミルダに怒られる。代わりに怒られてくれるならやるよ?」
「ミッ! ……さすがにガラン王国にも影響が出そうだからやめとくわ」
いや、それ以前に何とか出来ることの方が驚きだよ。ミルダ様に怒られるのが吹雪を吹っ飛ばす以上のやばいことなの!?
「そ、それにしても『三大魔術師』と呼ばれつつも力を制限されているって大変だね」
「……力の制限は日常生活で毎日猛吹雪に合うわけでもないから問題ない。問題は有名になってしまった代償として自由を奪われたこと。パムレは比較的自由にやらせているけど、ミルダや魔術研究所の館長はゲイルド魔術国家に閉じこもっている。まあ、魔術研究所の館長は大陸中に目があるから良いのだろうけど」
うーん、いまいち引っかかるのがその『魔術研究所の館長』なんだよね。俺の母さんと同じ名前というのもなんだか運命的なものも感じるし、どんな魔術を使って大陸中を見ているんだろう。
というかパムレは知っているんだよね。ちょっと聞いてー
と思ったら俺が質問をする前にシャルロットが話を始めた。
「その『ミルダ様』って実際どういう人なの? 遠目で見たことはあるけど、大叔母様しか話したことが無いのよね」
「……ミルダは……うーん、実は普通の女の子とあまり変わらない」
「そうなの?」
「……ミルダ自身魔術の才能もそれほど無かった。ミルダの持つ『静寂の鈴』の力が強力すぎて、結果ミルダが強いという印象が植え付けられた」
「『静寂の鈴』ってそれほどすごい物なの?」
「……ミルダの持つ『静寂の鈴』から発する音は、魔力を抑え込む力を持つ。同時にその人の生命力にも干渉してミルダはその鈴の音を聞いている限り半永久的に生きることができる」
え!?
それって結構重要な話じゃないの!?
「……あ。今のはパムレの独り言。推測だからもしかしたら全然違うかもしれない」
すごく目が泳いでいるよ! 多分国家機密とかだよね今の!
あ、でも「これ以上この話はやめてー」と目で訴えかけてくる。空気を読んだシャルロットは無理やり話題を切り替えた。
「そ、そう。じゃあ『魔術研究所の館長』はどんな人なの?」
「……身長がガラン王国城くらいの巨人で、目から光線を出す」
「大嘘言ってるの丸わかりだよ!」
「……ぐう」
いや、逆に目から光線を出す巨人族とか見てみたいけどね。巨人族自体は伝説上の生き物だけど。
「……まあ、ミルダは教会にいるから会えないと思うけど、魔術研究所の館長は魔術学校の校長も兼ねているから必ず会うことになると思う」
「そうなのね。編入という形だし、校長なら尚更会うでしょうね」
ふむ。魔術学校の校長でもあるのか。それならこの話題はわざわざ掘り返す必要もないだろう。
「……とにかく今はこの吹雪を待つだけ。『魔力探知』を使ってみたけど、それほど遠くない場所にゲイルド魔術国家の入り口もある。もう少しがんばろー」
「おー」
そして俺たちはその場で吹雪が弱まることを待ち、やがて歩き始めた。
☆
そして。
「はぇー。ここがゲイルド魔術国家。私も初めて来たわ」
「何というか、ミッドガルフ貿易国は『商業』という雰囲気を醸し出していた様に、ここも『魔術』という言葉を形にしている感じだね」
家の前には光る水晶。ところどころに浮いている看板等。魔術をいたるところに使われている。
さて、荷物もそれなりに多いしまずは宿を探さないとね。ある意味ここが最終目的地でもあり、ここが始まりの場所でもある。つまりここの宿は俺たちにとってとても重要な場所になる。
一つ気がかりなのは……。
「なあパムレさん」
「……ん?」
「まさかとは思うけど、『寒がり店主の休憩所ーゲイルド魔術国家店ー』って無いよね?」
「あそこ」
知ってた!
というかパムレがいるなら最初から聞くべきだったよ!
「でもまあ店主殿も言ってたじゃない。『そろそろワタチも子離れを考えていたのですよ?』って」
地味に似てる声マネに驚きつつも、まあ確かに母さんはそう言った。
店主の息子だから威張るつもりはそうそうないし、むしろ色々とお世話になっている他の店員さんに挨拶もそろそろしてみたいところだ。
「ということで、とりあえずここの『寒がり店主の休憩所』に行くとしよう」
そして扉を開ける。
「お待ちしました。はいこれがリエンの鍵。これがシャル様の鍵。パムレ様はシャル様と同室でお願いします。あ、朝と夜は準備しますが、昼はおそらく魔術学校で食べることになると思いますが」
「だからなんでいるの!?」
やっぱりおかしいよね!
ここまでくるとホラーだよ!
「母さん言ったよね!? 『そろそろワタチも子離れを考えていたのですよ?』って!」
「まさか息子がワタチのマネをするとは思わなかったです。しかし考えてみてください。『そろそろワタチも子離れを考えていたのですよ?』の『そろそろ』というのは、別に今というわけでは無いということです」
「だからってここの店員さんを今度はミッドガルフ貿易国に異動させたんでしょ? 大丈夫なのこの店の人事!」
「そうですね。人事異動の度にピー……いえ、どこかの少年が少し苦労するのはワタチも少し考えないといけないですね」
ピーター君がまた見えないところで巻き込まれてるじゃん!
もうお土産とかで済む話じゃないよね!
「ま、まあ店主殿がいれば色々と都合が良いのは前回同様だし、今回もお世話になりましょう。何よりここから私たちの本当の目的が始まるわけだし」
まあ、確かにそうだけど。
シャルロットの目的は魔術に関する情報を一番所有するここで魔術を勉強すること。
そして俺もここで剣術を勉強できる限り行うこと。
ようやくスタートラインについたというわけである。
「ところで魔術学校へ編入ということで手続きとかしないといけないわけだけど、どうすれば良いのかしら。一応大叔母様にはミッドガルフ貿易国を出る際に手紙を送ったけれど」
「あ、それなら伝言があります。まず校長である魔術研究所の館長の部屋に行ってください」
「館長の?」
三大魔術師の一人。魔術研究所の館長。
母さんの口からまさかその言葉が出るとは思わなかった。




