ゲイルド魔術国家への道のり1
道中が雪道と言うことで、平坦な道は馬車で進み、途中からは歩いて行くという方針に決まった。
荷物も食料は馬車で食べきれる用とそれ以降用に分けており、最悪馬車で食べきれなければ捨てることになる。
馬車は帰りのことも考えて商人にお金を払って片道だけの契約で雇った。
なかなか優しい感じのおじさんである。
「んだらば、いぐどー」
「……れっつごー」
「ちょっと待って」
え、なんか自然にパムレも馬車に乗ったけど、ついて来るの?
「まあ賑やかの方が良いじゃない? それに」
「それに?」
「強いし」
「うん、それはそうなんだけどね!」
頼りない護衛でごめんね!
「お願いしますよリエン殿。俺は一旦ガラン王国へ戻って報告するんで、この先は影の護衛は無いっす」
「そうなんだ」
それはそれで寂しいような。
「というか、三大魔術師の護衛がいたら俺の立場が無いっす」
「それを言ったら三大魔術師と影の護衛がいたら俺の存在はその辺の石ころと変わりないけどね!」
何この陣取り合戦。俺の居場所はどんどん小さくなっていくよ!
「リエン。心を強く持ってください。かつてガラン王国の二代目女王シャルドネは心を失ってしまい、自分の制御もできなかったとか。人間にとって心はとても大切で繊細なはずです」
「うん。ゴルドの言う通りなんだけど、それを今言うかな? 慰めの言葉だとしたら大間違いだからね。逆効果だからね!」
とまあ、一通り挨拶をすませて、母さんを見る。
「いや、絶対ゲイルド魔術国家に行くでしょ」
「なななな何のことですか?」
今まで行く場所行く場所に母さんがいたんだし、ゲイルド魔術国家にも母さんが現れるのは予想できる。
「はあ。リエン。考えてみてください。ワタチはこう見えてすごく寒がりですよ?」
「まあ店の名前にもなっているからね」
「寒がりが極寒の土地に行くと思いますか? それにここまで息子の成長を見て、そろそろワタチも子離れを考えていたのですよ?」
ふむ、そんなキラキラした目で見られたらさすがに俺も引き下がるしかないか。
「わかった。じゃあ母さん。今度こそ行ってきます」
「はい! お気をつけて!」
嫌な予感は残ってるけどねー。
☆
ガタガタと馬車に揺られ、徐々に冷え込んできた。
「馬も少しさむがってっからー、すこーしゆっくりあるぐどー」
商人のおじさんに軽く合図を送りつつ、この待ち時間のつぶし方を考えていた。
「こういう時こそ魔術で暖を取るのでは? 私ってば冴えているわね!」
「ではどうぞ」
「ふふふ、これから皆をポカポカにさせるわよ。『火球(弱火持続)』!」
ボーーーーーーー。
ボーーーッ、ボーッ、ボッ。
スーーーーー。
「『リエン気持ち悪い』」
「……え、リエン何かしたの?」
パムレが冷たい視線で俺を見てくる。
「ちょっと待ってシャルロット。誤解を生む発言はやめよう? 魔術をずっと使って気持ち悪くなったんだよね?」
実はこうなることは知っていた。小さな魔術もずっと続けて行うのはとても負荷がかかり、やがて魔力が切れてしまう。
魔術師にとって魔力は血液と一緒で、少なくなるとそのまま体調に変化が訪れる。まあ、母さんが倒れた状況がその重症版って感じだよね。
「……じゃあ次はパムレ」
あえてシャルロットにはその魔力が無くなる経験をさせておいて、自分の限界を知ってもらうためにやらせたに過ぎない。
「……『火球』」
何事も経験することで次に進む。俺の剣術も色々と知らないことばかりで
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
「終わらないから。パムレがやったらこうなるから!」
「……あと十日はできる。途中で飽きるけど」
目をきらりと輝かせて訴えかけるパムレ。まあ、『三大魔術師のマオ』となればこれくらい楽なんだろうけど、一体どうやったらそこまで強くなるんだか。
「それにしても当初の目的だった『火とかをぼーっと出したい』が叶ったね」
「え?」
「え?」
「あ、ああ! そうね! 私の最初の目標ね!」
忘れてたの!? 嘘でしょ!?
「ち、違うのよ。そんな『信じられない!』という顔しないで! あの時は店主殿を前にして緊張して語彙力が失ったのよ!」
「へー」
「魔術を使いたいという思いは本当なの。火に限らず水や風を使って何かをしたり。人を癒してあげたいの」
「人を癒す? それは魔術ではなく治癒術?」
「そうじゃないの。外傷ではなく、心とかを癒す。そういう魔術もあると思うの」
心を癒す魔術?
「昔、夢を見たの。その人は派手な服を着て手には楽器を持っていた。泣いている私の目の前に小さな水玉を浮かせたの」
「水玉?」
「そう。何の変哲もないただの水の塊り。でも小さい私はそれを見ただけで笑えたの。傷をつけるだけが魔術ではないと思うのよね。もちろん母上に言った戦力増加も目的の一つではあるけどね」
まあ、俺もよく『火球』を使って料理をしているし、人を楽しませる方法の一つとして魔術を用いるのもあるとは思うけど。
「……なかなか興味深い」
「パムレ?」
「……ガラン王国の昔の王様は『音』の魔力を使って心を癒していた。傷を癒す治癒術はあくまで目に見える傷だけ。心の傷を治すには時間だけかと思ったけど、案外魔力でなんとかなるのかもしれない」
三大魔術師と言われている存在も魔術に関しては未だ悩むこともあるんだなーと思った。
同時に徐々に周囲は白い雪が積もり始めてきて、日も沈みかけていた。
「……面白い話を聞かせてくれたから、今日はパムレも調子が良い」
「そういえば酔ってないね。乗り物弱いのに」
「……ん。だから特別さーびす。『雷爪』」
バリイ!
そんな音と共に光り輝く。
俺とシャルロットは驚き、その場で口をぽかんと開けた。
ぶぎゃああああああ!
奥で動物の鳴き声が聞こえた。え?
「うお! 奥の方でイノシシ倒れでっとー。今日の野宿は肉料理だべね!」
「……今日はイノシシの鍋。料理担当はリエンでよろしく」
「あ、あはは」
そもそも雷の魔術って、風の魔術の応用で高等魔術の一つで、なんでそんなに簡単に出せるのか突っ込みたかったけど、タイミングを完全に逃してしまった。




