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タプル村襲撃

 ⭐︎


 シャルロットと一緒に火災現場へ駆け付けると、野菜を加工したり販売している小屋が燃えていた。

 村の非常食の保管庫としても活用されているため、かなり重要な建物だ。

「リエン!」

 ピーター君が足に怪我を負っていた。おそらく怪我よりも村の緊急事態を優先に行動していたのだろう。

 シャルロットがピーター君に話しかけた。

「早急な声掛け、この村の緊急時の対応は素晴らしいと見たわ」

 シャルロットが感心しているとピーター君が泣きながら叫んだ。



「だってこいつが、こいつがああああ!」

『サケベ。サゲバナケレバ、ぴーたー、タベル』

「何で僕の名前知ってるの! うああああぁぁぁ!」



 顔ほどある大きな目玉に翼が生えた『何か』がピーター君を追っていた。

 そして走ってピーター君は「火事ー」と叫んでいた。あれは……まあ見慣れないと怖いよね。

「リエン。ちょっと良いかしら?」

「ん?」


「今、火事よりも優先すべきこと……あの少年をあの翼の生えた大きな目の化け物から助ける方が優先すべきだと思ったんだけど」


 普通そう思うよね! 俺ももしあの目の悪魔が本日初見だったらそう思うよ!

「いや、あれは安全だから。母さんのペット? だから」

「店主殿の? ……リエン……正気?」

 事実だから! 

 それよりも火災! 目の前には燃え盛る小屋、中に人は……。


 ばああああん!


 破裂音と共に炎の中から人が飛び出てきた。両腕に人を抱えて俺の目の前に転がって来る。この人は……え、母さん!?

「な、何とか助けたのです」

 服は所々燃えていて、怪我もしていた。抱えていた二人は布がぐるぐる巻きにされていて、火傷から守られていた。

「す、『水球』!」

 俺は服を脱いで、そこへ小さな水の球を発射。濡れた布を母さんの燃えている服の箇所へ当てて消火した。

「リエン、ありがとうございます。ワタチは大丈夫ですからこっちの二人についている火も消してください」

 母さんの言う通り、少しだけ燃えていた部分を湿った布をかぶせて消火した。

「中に人は?」

「これで終わり……ですが」


 その瞬間だった。


「リエン! 退け!」

「『プル・グラビティ』!」

「うお!」

 何かに引っ張られた。俺の体は後ろに持っていかれて、一瞬宙に浮いた。次の瞬間だった。


 シュン!


 何かが俺の前を通過した。何か銀色の……。


「ちい、外したか」


 目の前には頭にバンダナを巻き、髭が特徴的な男が立っていた。

 服装はボロボロ、しかし図体は大きい。

「静かにしやがれ。ここにガランの姫様がいるんだろ? おとなしくこっちに渡せば何もしねえよ。あ、家一軒燃やしちゃったがな! ガッハッハッハ!」

「へっへっへ」

「おうおうおう! 家をもう一つ燃やしてやろうか?」

 見る限り悪い人間が十人以上視界に入っていた。

「姫……」

 確かにここにはシャルロットがいる。

「おう? お前、何か知ってそうだな。教えろ、誰が姫だ?」

「い、言わない!」

「ああん?」

 大きな斧を俺に向ける。正直すごく怖い。なんだこれ……これが……人間?

「リーダー。こいつ、多少なりとも魔力を持っている魔術師だ。それと、さっきリーダーの斧を避けれたのはそこの布を巻いたやつが魔術を使ったからだぜ」

「ほう? じゃあ余計にこの距離は重要だ。さあ、言え!」

「ひい!」

 情けない声が出てしまった。

 確かに魔術師にとって距離は大事だ。剣や斧などの武器の有効範囲から離れて攻撃ができる。そして魔術を放つ際に呪文を唱える時間を必要とするため、どうしても距離は必要だ。

 完全に至近距離。何かされる……!。


「私がお前たちの言う姫……シャルロットとは私の事だ」


 シャルロットが声を出して俺の前へ出た。

「シャルロット!」

「ほう。姫と聞いたからドレス姿かと思ったが……鎧を着ているとはな」

「私に何の用だ」

「簡単な事よ。お前を捕らえてガラン王家から金をもらう。ついでに色々と楽しませてもらう。それだけだ」

 男の目はシャルロットの足から頭まで流れるように見た。その表情を見たシャルロットは一瞬苦い表情をした。

「汚らわしい……」

 そう言いつつも、シャルロットは目線を外すことなく男の目を見ていた。怯えず、そして勇敢に立っていた。

 それなのに俺はもう足が震えて今にも倒れそうだった。

「腰の武器を捨てろ。お姫様とは言え剣は誰が持っても脅威だからな。場合によっては王家直伝の秘儀ーなんてのも考えられる」

「……わかった」


 そしてシャルロットは剣を鞘に入れたまま地に突き立てた。手を離せばそのまま倒れる……が、シャルロットはしばらくそのまま動かなかった。


「どうした、置け」

「……」

「早く置くんだ」

「……」


 何だこの時間は……まるで『何かを待っている』かのようにシャルロットはじっと男を見ていた。


「早くしろって言ってるだろう!」

「……わかったわ」

 そしてシャルロットはとうとう剣から手を離した。

 地に縦に置いた剣は当然傾いて倒れる。普通剣を置けと言われたら横に置くなどが考えられるが、今のシャルロットの行動は少し奇妙だった。

 相手の指示に対して少し待っていた。

 剣を縦に置いた。

 ……何かを狙っている?


 その瞬間


「やっと手を離したか。じゃあ」



「火事だよおおおおおおおお! 逃げてよおおおおおおおお! てか僕から離れてよおおおおおおおおお!」

『ピーター、マダサケビタリナイ。モウタベル。ガマンデキナアアアアアアアアアアアアイイイイ!』

「いいいいいいいやああああああああああああああああああああ!」

「なんだあれはあああああああああああああああああああああああああ!」



 男は『翼が生えた大きな目玉』を見て驚いた。

 同時に剣が『俺の方へ』倒れて鞘から飛び出た剣は俺の目の前に滑って来た。

「今よ! リエン!」

「なっ!」

 反射的に剣を握った。

 両手で持ったからか、今度はしっかり構えることができた。だが、これを人間に?

「迷わないで! 切りかかるのよ!」

「あ……うあああああああああああああああああ!」

 とにかく何も考えることができなかった。振りかぶった剣を今更止めることもできない。


 そうか、俺は……人をこれから殺すのか。


 それだけが頭に浮かんだ。


 だが、次の瞬間。


 ガチン!


 鈍い音と共に腕に衝撃が走った。

「いっ!」

「へへっ、そんなトロい剣、当たるかよ!」

 俺の剣は大きな斧に防がれていた。そ、そんな!

「俺に剣を向けたこと、後悔するんだな」


 斧を振りかぶった男。今度こそ終わったと思った。


「あら、私から目を離したことを先に後悔するのね。てええええいい!」


 ゴッ!

 鈍い音が男の腹部から鳴り響いた。

 シャルロットが思いっきり男の腹部を殴った。


 俺はその一瞬を見逃さなかった。


 シャルロットの殴った拳から、僅かな魔力を感じた。


『ボッ!』


 男の腹部が燃えた。あれは……魔術!?


「うあちゃちゃちゃ! け、消してくれえええ!」

「リーダー! おいお前ら! あの火を消せ!」

「だが、リーダーが斧を持って暴れて……近づけねえ!」

 火は服を伝って徐々に勢いを強めていた。

「あああああああ! た、たすけてくれええええええ!」

 暴れまわる男。そして体力の限界が来たのか、その場で倒れた。

「水だ! た、頼む! 誰か水を!」

 村人は誰も目を合わせない。当然である。この集団はこの町を襲い家を一軒焼いたのだ。相手は人間で確かに助けたいという感情も少なからずあるが、それ以上に怒りが勝っている。

 だが、そんな男へ一人の女性が近づいていた。水色の髪と赤い目の、この村で俺よりも強い魔術師で……。



 俺の『母さん』だ。



「少しは頭を冷やすのです。そして……」

 ふわりふわりと、燃えている男の前に翼の生えた目が三体も浮いていた……え! 三体!?

 あれって複数召喚できるの!?

「リーダー!」

「な、なにをする気だ!」

 母さんの目は真っ赤だった。

 誰がどう見てもあれは本気の目だ。


「この男を助けたいなら、そこに全員集まってください。一人でも居なかったり、逃げていたのであれば、この男はこのワタチのペットのご飯になります」

『クケケケケケ! ニンゲン、ゴチソウ!』

『ハヤク、ハヤクウウウ!』

『ハラヘッタ。モウイイヨネ? モウタベルヨ?』

「やめてくれええ! どうか、リーダーを助けてくれ!」

「これで全員だ! 本当だ!」


 そして村の外に隠れていた男の仲間は一気に集まった。

「素直は良いことです。はい、『水球』」

 ジュッっと音を立てて火は消えた。

「と、捕らえろ!」

 そしてシャルロットの命令によりガラン軍の兵士達が一斉に男たちを捕まえ、俺たちは消火活動を行い、騒ぎは終わりへと向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大勝利! 影のMVPはピーターですねw
[良い点] シャルロットがかっこいいです。凛とした剣士でかっこよく、それでいて魔法のポッがいいですね
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