ミッドガルフ貿易国城潜入作戦4
所々燃えるミッドガルフ貿易国城。
兵士達は市民の避難誘導へ向かっていた。
空を見上げると大きな黒い翼を生やした禍々しい怪物。俺たちが地下で見た怪物と同じで、少しだけ大きくも見える。
すさまじい咆哮と共に地面が揺れた。
「……ゴルドの魔力を蓄えてた?」
パムレがぼそりと言った。
「こ、これは一体」
「貴方の馬鹿王子がやらかしたのよ」
「むぐ、言い返す言葉が出ぬ」
「それにしても何故こんなタイミングで? いくら何でも狙ったかのような感じにすら思えるよ」
デーモンを見かけたのは先ほど。母さんの話だと鎖はいつでも壊せるって言ってたけど、苦しんでいるようにも見えた。
「へへ、それには俺が説明するっす」
「イガグリさん!?」
全身怪我だらけのイガグリさんが目の前に現れて膝を地面についた。
「……しょうがない。『治癒』」
パムレの手から優しい光が出てきて、怪我が治っていく。
「……あくまで外側だけ。無理はしない」
「へへ。ありがてえ」
「それで、どうして急にあんな暴走を?」
「それが、ミッド王子が『今日の飯は特別に良質な鉱石を与えよう』と言って、なかなか良い色をした鉱石を渡したっす」
なかなか良い色?
「なんでも近年稀に見る『高純度の鉱石』だそうっす」
……。
……ゴーレムの排泄物!?
まさかあそこで取引されている鉱石ってデーモンのご飯だったの!? なんという裏取引所だよ!
「ちょっとリエン! 私たち無罪よね!? 高純度の鉱石ってあ、あ、アレよね!?」
「言わないで! アレだけどアレはもう俺たちの物じゃないから!」
「……紛れもなく高純度の鉱石はリエンたちが拾ったゴーレムのうん」
「「ぬあああああああああ!」」
急いでパムレの口をふさぐ。現実を受け止めたくない。だってそのせいで町が燃えてるんだよ!?
「それよりもどうするの? 空も飛んじゃって、このままだと町が破壊されるわ!」
シャルロットが額に汗をかきつつ考え込んでいると、突然ゴルドがパタリと倒れた。
「ご、ゴルド!?」
まさか攻撃を!?
「あ、大丈夫です……少し……いや……すさまじい空腹が襲ってきたので」
「「「……」」」
え、何?
この緊急時に空腹で倒れるとかある!?
「ゴルド、今は緊急時だから真面目に!」
「リエン。ゴルド様は真面目です!」
「母さん?!」
「精霊は悪魔の魔力に干渉しやすく、近くにいるだけで色々な影響を受けます。あのデーモンは悪魔の中でもかなり強い分類で、その分ゴルド様に与える影響も大きいのです。今回はその……『すさまじい空腹』が影響として出たのでしょう!」
すさまじい影響は分かったけど、なんで色々ある中で『空腹』なの!?
もっとこう、頭が痛むとかあるでしょ!?
「リエン……精霊はご飯を必要としません。よって空腹という感覚はほぼ無いのですが……これ、結構きついですね」
精霊と人間の価値観の違いにより、ゴルドにとってはかなり辛い状況だったんだね!
さっきから『コヒーコヒー』って変な呼吸をしているよ!
「ゴルドは戦闘不能ということで、避難してもらいましょう。店主殿、お願いできるかしら?」
「了解です!」
母さんに連れられて陰に隠れるゴルド。
「さて、空を飛ぶあいつをどうしようか」
「……パムレに任せる……ちょっと本気の『輝柱』!」
一瞬ですさまじく大きな光を放つパムレ。
その輝く一線はデーモンに一直線に向かった。
しかし。
『ガアアアアアアアア!』
一瞬、命中して苦しんだかと思った。しかしそれは違っていた。
パムレが放った光線は跳ね返って、別のどこかへ飛んで行った。
『フハハ! 今まで愚かな人間がワレに『高純度な』鉱石を食ったおかげで、体が鉱石のように固く神々しい存在となった。ワレは悪魔でも聖術を通さぬ特殊な存在となった!』
何それ厄介なんだけど! しかも原因が間接的に俺たちというのがさらに状況を悪化してるよ! そしてやたら説明してくるデーモンだな!
そのデーモンの声を聞いたシャルロットが構えた。
「なら、鉱石を溶かせば! 『火球』!」
小さな炎がデーモンに飛んでいく。残念ながら割と上空を飛んでいるデーモンには当たることは無く、途中で消えていった。
「リエン……」
「うん、相手が遠すぎる」
「今の『火球』、飛距離は最高記録よ」
言ってる場合!?
いや、良かったねと言いたいけど緊急事態だからね!
「……溶かすのは有効。今から二人を同時に浮かす。シャルロットは炎。リエンはその短剣に聖術を付与して切って」
「切るって」
「……鉱石は温度が高ければ切れやすくなる。その短剣ならそれが可能」
なるほど、でもどうやってあの空高く飛んでいるデーモンに短剣を……。
うん。パムレが何やら魔術を唱えているぞ?
風属性の魔力が見えるぞ?
ああ、俺はこれからあそこへ飛んでいくんだなー。
「……ぐっどらっぐ。『風爪』!」
「「わあああああああああああああ!」」
足元にぶわっと空気の塊りが現れて、それが破裂する。
同時に俺とシャルロットは吹っ飛んだ。
方向は正確で、しっかりデーモンへ向かって飛んでいる。
「か……『火球』!」
ボッと燃える火の球はデーモンの右腕に直撃。そこが一瞬どろっと溶け始めた。やはり高純度の鉱石のおかげで体が鉱石になったのかもしれない。
「『光球』を付与……そして、てえええええい!」
俺は思いっきり短剣をデーモンの腕に
『人間、遅いぞ?』
「はっ!」
ゴッと鈍い音と共に腹部に腹痛が走る。
『む? 手ごたえが薄い?』
筋肉質な足に蹴られたから相当な激痛も予想できるが、思ったほど痛くはなかった。いや、痛いんだけどね。呼吸もできないし。
それに普通なら空中で強打を受けたら吹っ飛ぶだろう。だが地面を見るとパムレが何かを唱えていた。咄嗟に魔術を使って俺に魔力壁を使ったり、その場を維持する魔術を使ったのだろう。
「できれば使いたくないけど……『風球』!」
手元に小さな空気の塊りを作り、それを破裂させる。同時に俺は少し横へ移動した。
パムレの魔術ほどではないが、俺も風を使って空を飛ぶという夢を見たことがある。これくらい高ければ少しの移動くらいできるだろう……という願望だ!
『人間が空を?』
「てえええええい!」
『ガアアアアアアアア!』
ガシュ。
そんな鈍い音を立ててデーモンの右腕に短剣を突き刺した。
「さらに、『光球』!」
『ガアアアアアアアアアアアアアアアア!』
続けて傷口に聖術を放つとデーモンは苦しむ。
「翼で飛んでいるならそこも弱点よね!『火球』!」
そしてシャルロットは火の球をデーモンの黒い翼に放つ。翼には大きな穴が空き、バランスを失う。
『グアアアアアアアアアア!』
そして地面に向って落ち……。
俺たちも落ちるじゃん!
すさまじい勢いで地面に落ちていく。正直ヤバイのと頭の中が真っ白な状態が続いた。しかしその時だった。
巨大な触手が二本。それぞれ俺とシャルロットに優しくまとわりつく。
色は紫色ですごく禍々しいが……これって確か。
「息子やその友人を地面にたたき落とすなんて、ワタチはしませんよ」
少し前に母さんがシャムロエ様に使った大きな触手の悪魔術を使って、俺とシャルロットを助けてくれた。




