ガラン王国剣修行2
ガシャン。ガシャン。
『罪人? いや、奴隷かしら?』
ガシャン。ジャラジャラ。
『多分前を歩いている人が主人だな。可愛い顔しているのに、人は見かけによらずとはこのことだな』
「大丈夫かしらリエン。そろそろ休憩する?」
「大丈夫じゃないよ! 体力的にも疲れる足かせなのに、こんな人目の前で歩かされて精神的なダメージが大きいよ!」
俺は今服を買いにミッドガルフ貿易国の商業区をシャルロットと一緒に歩いていた。
ゴルドにつけてもらった鉄の重しを足につけて……というか、外し方がわからないからこの状態で歩かざるを得ない状態だったんだけどね!
そんな状態で商業区を歩いていれば、もちろん奴隷とか犯罪者に見える。だってガシャガシャ音はするし、重いから自然と姿勢は悪くなるしで、悪いことをしていないのになぜか悪いことをした後の状態に思えてきた。
「人は心を強くなって初めて一人前になるのよ。リエン、これもゴルドの試練だと思って頑張りなさい」
「絶対楽しんでるよね! いいから早くゴルドを見つけて外し方もしくは外せるようにしてもらうよ!」
本来ありえない構造である『継ぎ目の無い足かせ』。腕輪等も同じことは言えるが、本来の装飾品はギリギリ手が入るか、何かしらの仕組みで輪が分裂して腕に装着するときにくっつくような仕組みになっているなどだが、この足かせは俺の足にピッタリの大きさで取り付けられている。
この場合、どうやって取り付けたのかと考える際に思いつく唯一の方法は『俺の足の上で鉄を溶かして輪にして固める』というもはや拷問に近い状態でしかこの装飾品は生まれない。
いくら魔術が発展しているゲイルド魔術国家でも、鉱石を常温で溶かす方法は見つかっていないだろう。つまり、町の人々は俺のことを『凄い拷問を受けた人。そしてシャルロットはその拷問をした人』というすごく勘違いが量産されそうな状態である。
「というか屋台が多いし、いつもの場所にゴルドの店が無かったのが不運だったわね」
シャルロットが気を紛らわすためか俺に話してきた。確かにこの商業区は屋台が多い。むしろ建物と呼べる店は少ない。
そして風景が昨日と異なっていた。ゴルドがいつもいた場所には別の屋台があり、その周辺も変わっていた。
話を聞いてみると、同じ場所で店を五日間以上開いてはいけないとのことらしい。つまり、場所を入れ替えたそうだ。
ぼーっと周囲を見ながら歩いていたら、トンっと人とぶつかってしまった。
「あ、すみま……」
「どどどどれいふふ風情が、僕にぶぶぶつかるなんて!」
すごくキラキラと輝いている宝石を纏った男性。顔つきは男の俺から見ても恰好良いとは思うけど、凄く怯えて立っていた。
「げっ!」
と、シャルロットが突然下を向いて顔を隠した。
「シ、シツレーシマシター」
「ふ、ふん! おおお前が主か。全くきっ気を付けたまえ!」
「ハイー」
「ん? どこかで会ったことがあるか?」
「イエ、ソンナ」
そうかっと言って立ち去る男。そして後ろには数名の護衛だろうか。
「ねえシャルロ……シャルさんやい。あの人は知り合い?」
なんとなく本名を呼ぶのは危険かと思い名前を変えて尋ねると小さい声で答えた。
「あの人はこのミッドガルフ貿易国の王に当たる人物。ガルフ王の息子のミッド王子よ」
「何でそんな人が?」
「あはは、それはボクが説明するよ」
後ろから声が聞こえた。というかようやく見つけたぞこのやろー。
「なんだか今日はお客さんがヒソヒソと何かを話していて、何事かと思ったら『足かせをしている少年が徘徊している』って聞いて、そういえば取り外す仕組みを入れてなかったなーと思って町中探したよ」
「それはこっちのセリフだよ!」
「あはは、ごめんごめん。それよりもここでは目立つからボクの店に来てよ。取り外す仕組みも組み込むからさ」
そう言われ、俺とシャルロットはついて行くことになった。
☆
パキン! ガシャン!
そんな音を立てて俺の足からは重さが無くなった。つまり鉄の足かせが無くなったのだ。
「ここに弱めの磁石を組み込むので、強く引っ張ると取れるようにしました」
「個人的にはもう着けたくないけど、強くなるためだし安全なら仕方がないかな」
「あ、皮膚を挟むと痛いので気を付けてください」
一気につけるのが嫌になったよ!
「それよりもシャルロット、あのミッド王子は知り合いなの?」
先ほど聞けなかった質問を再度する。
「ええ。ガラン王国とミッドガルフ貿易国の二国間会議で会ったことがあるわ」
なんだかいつも無駄に元気なシャルロットが今回だけは少し元気がなかった。
「リエンは王族の食事会などについて知らないですよね?」
「そりゃあ。タプル村でずっと生活していたし」
「王族間の食事会は言ってしまえば貴族間の出会いの場でもあります。シャルロットはガラン王国の姫。そしてミッドはミッドガルフ貿易国の王子。ある意味注目が集まる若い二人組とその空気から自然と何かの縁談も生まれるでしょう」
縁談……縁談?
「え、まさか……結婚!?」
「婚約の『こ』の字にも達しないほど最悪な男だったわ」
あ、そうなんだ。
「あ、リエン。間違えたわ」
「間違い?」
「友達……いえ、知り合い……いえ、顔見知り……いえ、そうね、『見たことある』くらいの関係よ」
「ずいぶんと遠い関係だね!」
そんなにひどい人だったの!?
「少なくとも初対面で『将来のお嫁さん』と言ってくる人に良い人なんていないわね」
言われたんだ。というかそういう人なの? かなりビクビクしてたけど。
「ミッド王子は女好きで好き勝手やっているけれど、幼い頃から我儘だったのか、少しビビりな感じなのですよね」
「将来国王の候補なんでしょ? 大丈夫なの?」
「あはは、ボクとしてはここでお店を続けたいので国が無くなるのは勘弁して欲しいのですけどね。それに、この店を定期的に移動させる方法を考えたのはミッド王子なのですよ」
え、そうなの? 意外だな。
「そこが厄介なのよね」
「厄介?」
「あいつの考える『我儘』って八割は自分の願望なんだけど、残り二割は住民を巻き込むモノで、最初は反対意見が多いのに実際実行してみると成功するのよ」
「ボクの店もこうして交代で入れ替わることによって、売上が少し伸びたのですよ。風景が異なることで来る観光客にはいつも新しいミッドガルフ貿易国を見せることができるということらしいです」
え、それって結構凄いんじゃね?
「もちろんボクの場合は物が物なので持ち運びは大変ですし、大手の店は高額資金を支払って建物を建設するので、反対意見は未だにありますよね」
「そうなんだ。だから屋台が多いなーって思ったよ」
商業区という割には建物も少ない広い場所という感じだったし、店一つ建てるのも大変なんだな。
「あ、『寒がり店主の休憩所』はその大手の一つですよ?」
「だから俺の実家って本当になんなの?」
またしても謎が一つ増えてしまった。




