ガラン王国剣術修行1
「ということで、定期的にウチにお金が届くから、母さんは受け取ってね」
さすがに何も言わないのも変だし、ここはしっかり母さんへ連絡をすることにした。何事も報告連絡相談は大事だと小さい頃から学び、また報告連絡相談をしやすい環境にするのも店主の勤めだと母さんはいつも言っている。ということで例のごとく報告連絡相談をすぐに行った。
そんな母さんはと言うと。
「もう仕送りまでしてくれるほど大きくなったのですね。ワタチは感動のあまり涙が出そうです」
オヨオヨとわざとらしく泣く母さん。
「それはさておき、リエン達はこれからどうするのですか?」
「そうだね。まずは北に向かうための衣類の準備かな。結局お金の取引だけで今日一日かかっちゃったし、剣の稽古もつけてもらいたいし」
「……ん、じゃあパムレは部屋に籠もる。入ってこないでね」
そう言ってパムレはさっさと部屋に戻っていった。相変わらずマイペースである。
「そうね。ゲイルド魔術学校に行ったら剣術の勉強も少しできなくなるし、今のうちにガラン剣術をたたき込もうかしら」
コキコキと指を鳴らすシャルロットにちょっとだけ恐れつつも。
「お手柔らかにお願いします」
頼れるのは彼女だけなのでここは素直にその特訓に身を任せることにした。
☆
「てい! やあ!」
「剣のブレが段々無くなってきたわね。この調子で徐々に悪い部分を無くしていきましょう」
「はあはあ、もう息が」
「問題は体力不足ってところかしら。何か良い方法は無いかしら?」
宿屋の裏庭で俺はシャルロットから剣術を教えて貰っていた。
以前よりも長続きするようにはなったとは言ってもまだまだついて行けない。その原因はやはり体力だろうか。
「シャルロットはどうやって体力をつけたの?」
「そうね……早朝に城の敷地を走ったりしたわね。兵士達の見回りも兼ねたり、話しかけて状況を聞いたりしていて一石二鳥なのよ」
なるほど。シャルロットって兵士から慕われている感じがしたけど、そういうやり取り等を行っていて、いつの間にかそれが積み重なって信頼関係も生まれたのだろう。
「ということでこういう案はどうかしら?」
「ん?」
「毎朝店主殿に走って挨拶に行って戻る」
「一分で終わるよ!」
ガラン王国の敷地と寒がり店主の休憩所の敷地を同じと思わないでもらえるかな!
「あ、だったら『寒がり店主の休憩所ータプル村店ー』の店員に挨拶するとか?」
「遠いよ! ここまで結構な距離あるからね!」
「まあ冗談だけど、なかなか手頃な運動方法が見つからないわね」
そんな時だった。
「ふふふ、お困りのようですね」
「誰だ!」
振り返るとそこには……ああ、『鉱石精霊をおまけでやっている』ゴルドだったか。
「あの……確かに楽器屋兼鍛冶屋兼と続いて最後に鉱石精霊を名乗りましたが、一応これが本職ですからね?」
そもそも『精霊が本職』って言葉が違和感しかないよね。人間もなろうと思えば精霊になれるのだろうか。今度母さんにでも聞いてみようかな?
「ここまで来ると威厳も無いよ。三大魔術師を目の前にして鉱石精霊が登場しても驚きはしなくなったし」
「最初は驚いていたわよね」
……まあ、確かに最初は驚いていたな。シャルロットに反論したいのにできないこの悔しさはどこにぶつければ良いのだろう。
「こほん。ところでゴルドは一体何の用で?」
「ああ、フー……君のお母さんに用があったんだけど、ちょっと今手が離せないとのことだから君たちの魔力を追ってきたのさ」
「へえ。さすが鉱石精霊。そんな事ができるのね」
魔力を見ることはできるけど、一日二日出会っただけでその人の魔力だという確証を得られるまではかなりの修行が必要である。そこはさすが鉱石精霊だろう。
「正確には君たちの魔力というより、ボクの魔力なんだけどね」
「ゴルドの?」
はて、ゴルドの魔力?
確かに相手に自分の魔力を付与した装飾品をつけることで追うことはできるけど、そんな物を貰ったことも無いし、可能性があるとすれば……。
「あ、そういえばシャルロットの大叔母様のシャムロエ様って『鉱石精霊の魔力』を宿しているから長生きしているんだよね?」
「そういえば……」
そう言うとシャルロットはゴルドをじっと見て、言った。
「まさか、お父様?」
「そんなわけ無いですよ。本当のお父様が泣きますよ?」
まあ、その通りである。
「実際シャルロットには微かにボクの魔力はあります。ですが実用化まではもう少し鍛錬が必要でしょう。それよりももっとわかりやすい物があったので」
「分かりやすい物?」
「リエンの持つ短剣です」
「え?」
俺はそこで少し前の記憶を思い出していた。
『それは大叔母様の娘、シャルドネ元女王が持っていたとされる『秘宝・精霊の短剣』で、中には精霊の力が宿っていると言われているわ』
「「これってゴルドが作った短剣なの!?」」
今までそれなりに大切に持ち運んでいたけど、突然目の前にその制作者が登場して、もう情報が多すぎて頭が痛いよ!
「懐かしいですね-。シャルドネの腕力は凄かったので、丹精込めて魔力を注いで至高の短剣を作ったのですが、そういえばガラン王国の秘宝にまで格上げになったって聞きましたよー」
「そうね。今でもこの短剣は特別な意味を持つ『秘宝・精霊の短剣』として大切にされているわ。……リエンが使っている最中だけど」
「何か凄く複雑な事情が混ざりすぎてて混乱が解けないよ!」
秘宝なのかすごい短剣なのかどちらかにして欲しい。結局どちらもすごいことに変わりは無いのだけどね!
「まあシャルドネから代々引き継いだ剣として今はリエンが持っていることにボクは嬉しく思いますよ。ということで、その特訓のお手伝いをしに来たのです」
「へ?」
「『鉄輪』!」
突如俺の足首周囲に魔力……いや、普通とは異なる魔力がまとわりついた。
これは……精霊術!?
「一体何を!」
「あ、動かないでくださいね。間もなく固まりますから」
「固まる?」
「はい。完成です」
ズッシ!
突如足下に凄まじい重さがかかる。
「これは……」
「体力が無いのは単純に筋力不足です。それを鍛えるならまず自分に負荷をかけるのが一番でしょう。ということで、これでしばらく生活すれば問題ないでしょう」
「確かにそうね。ありがとうゴルド」
「いえいえ。ではボクはリエンのお母さんの所へ行きますね」
そう言ってゴルドは走って宿へ向かった。
「さあリエン、特訓の続きを……って、どうしたの?」
「全然動けない! すっげー重いよこれえええええ!」




