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伝説の鉱石精霊

 とうとう洞窟の一番奥。つまり行き止まりに到着した。

 そこには大量の鉱石があり、なんとも言えない美しさを放っている。

「凄いわね。さっきの岩の魔獣が守っていたのかしら?」

「……守っていたというより、自然とそうなったと思われる。自分の食料の貯蔵庫。そんな感じ」

「なるほどねー。さっきの排泄物だけだとちょっと嫌だし、ここの鉱石も掘っていきましょう。リエン、その『ガラン王国の秘宝』で鉱石を採掘しましょう」

「短剣ね! わざわざそう言われると使うのに抵抗でるよ!?」

 そう返事をして俺は短剣でガツガツと鉱石を取っていた。


「これくらいで良いかしら」

「結構な量になったね」

 袋一杯に入れてもまだ周囲は鉱石がある。全てを持って行く必要も無いとはいえ、ちょっと勿体ない気もする。

「あの魔獣もいないし、ミッドガルフ貿易国の人たちもいずれここに来るかしら?」

「……岩の魔獣は周囲の魔力によって生まれたと思われる。つまり、いつかまた魔獣があらわれるかも」

「それはそれで危ない気がするわね」

 あはは、と苦笑するシャルロット。しかしそれがこの洞窟の流れなのだろう。

「深く考える必要も無いだろ。それがこの洞窟のバランスを保っているなら、それをわざわざ壊す必要も無いだろうし。俺らは俺らでこの鉱石を持って帰ろう」


「……はてさて、この鉱石を勝手に持って行って良いのかもわからないけどね」


 え、今なんて?

「どういうこと?」

「……この鉱石は『伝説の鉱石精霊』によって生まれた特別な鉱石。魔力も豊富で純度も高い鉱石。それをリエンとシャルロットは勝手に採掘していることになる」

「え、鉱石精霊って『原初の魔力』の鉱石の?」

 こくりと頷くパムレ。

「リエン、だ、大丈夫かしら? 結構沢山取っちゃったけど」

 鉱石精霊の伝承は少ない。しかし鉱石から派生して土の魔力が生まれ大地誕生したとも言われている。きっと凄い精霊に違いない。

「……不安なら『本人に聞けば良い』。まあ、どうなるかはパムレには関係ないけど」

「そうな……」

「ちなみにパムレちゃんは鉱石精霊の住処とか知っているのかしら?」

「……これでもそれなりに知識が豊富なパムレ。それくらい知っている」

 さすが三大魔術師のマオ。俺達との差を感じてしまう。

「わかったわ。もし、怒られた場合は……覚悟しましょう」

「そうだね。この時ばかりは俺も魔術で対抗するよ」

「……わかった。着いてくる」

 そう言って洞窟を出た。


 ☆


「……ということで鉱石を採掘した。売っても良い?」


「ああ、ボクがかつて住んでいた場所に生えていた鉱石ですね。良いですよ」


「……わーい。ということで本人の許可も得たし売ろう」



「「(ぱくぱく)」」



 えっと、目の前で起きている状況に頭が追いつかない。

 その……パムレは今、いつも会っていた『楽器屋兼鍛冶屋』に話しかけていた。

「……あ、言い忘れてた。このゴルドは『楽器屋兼鍛冶屋……兼鉱石精霊』」

「『兼』というか、それが本業でしょ!? なに鉱石精霊が兼務って!」

 思わず思いっきり突っ込んでしまった。

「あはは、そこまで深く考えないでください。鉱石精霊ですが、この世界で生きていくためにはお金が必要ですから、精霊として生きようにも難しい世界なのですよ」

「そんな急に現実的な話をしないでよ!」

 エルフの様な森の精霊らしく、自給自足が難しい精霊って実はゴルドみたいに生活しているのだろうか。

 いやしかし、ゴルド……もとい、『鉱石』は原初の魔力の一つで、魔術師の中では崇められる存在だろう。俺も今状況判断が鈍っているためツッコミに徹底しているが、本来なら足が震えていることだろう。

「ねえリエン、さっきから大声で言ってるけど、周囲に聞かれて大丈夫なの?」

「はっ!」

 ふと周囲を確認……ん? 周囲は人で賑わっているけど全然こっちを見ようとしなかった。


「ああ、こうなるかと思って『認識阻害』を使っていますよ。さすがに鉱石精霊ってバレるのは色々と不自由なので」


 やっぱりただ者では無いよ!

「え、待って……母さんもこの事を?」

「フーリエですか? まあ、知っていますが」


 ☆


「ということで母さんは一体何者なの!」

「帰ってきて早々何事ですか? 一応まだお昼過ぎでようやく休憩なのですが……」

 寒がり店主の休憩所へ走って帰宅。そして母さんを問い詰め始めた。

「さっきゴルドに会ってきたんだけど、鉱石精霊という事実を知ったんだ。母さんの本名も知っているし、何より鉱石精霊という事実を母さんも知っている。改めて母さんは何ものなのかと思ったんだよ」

「息子が親に興味を持つのは良いことですが、母さんも色々と事情を抱えているのですよ?」

「でもパムレ……いや、三大魔術師のマオの事も知っていた。もはや普通の人とは思えない」

「いやだから宿屋をやっていれば三大魔術師も泊まりに来ますよ。それにもう一つ」


 ごくりと唾を飲む。



「宿屋をしていれば鉱石精霊も泊まりに来ますよ」



「来ないよ! 精霊でしょ!」



 さすがに無理があるでしょ!

「うーん、まさか唐突な反抗期を迎えるとは思わなかったですね。やはり空腹の小悪魔を使った教育に無理があったでしょうか」

 そう言って日記のようなものを出して何かを書き始めた。

「それは……」

「もしもの為の子育て日記ですよ。良い子に育つという情報は世間一般的に誰もが思うことです。悪い子を育てようと思う親はいませんよ」

 そう言って前の頁に戻って微笑む母さん。

「むう、何かズルい」

「ふふ、母さんは悪魔的にズルいのです。この記憶だけは誰にも譲りませんよ」


「リエン、諦めましょう。店主殿はガラン王国でも有名だし、鉱石精霊とも繋がりがあっても私は疑わないわ」


「……そうそう。リエンのおかーさんは凄い人。それで十分」


「あはは、ボクとしてはもう少し店の宣伝とかして欲しいと思っていますけどね」


「何こんな家庭事情のいざこざに『ガラン王国の姫』と『三大魔術師のマオ』と『伝説の鉱石精霊』が揃っているの!? やっぱり変だって!」

 というかゴルドまでついて来ちゃったの? 走ってきたから全然気がつかなかった。

 混乱している中、ゴルドが話しかけてきた。

「リエンはどこから来たのですか?」

「え、タプル村だけど……」

「では結構な距離を歩いたのですね。実際このミルダ大陸というのは思ったほど大きくありません。ボクがフーリエと出会ったのも、偶然とはいえ小さな可能性はあったわけですし、諦めましょう」

「ぐう、何も言い返せないのが悔しい。とりあえず納得する」

 言いくるめられた感じが凄いが、仕方が無いだろう。

「さあさあ、久々にゴルド様も来たわけですし、ご飯でも食べますか? 今日のおすすめはハンバーグです。あ、ワタチの事は本名で呼ばないでくださると嬉しいです」

「了解。ではいただきます」

 あ、鉱石精霊もご飯は食べるんだ。


 ☆


 色々とドタバタがあったけれど、とりあえず本人? の許可も得て、大量の鉱石を売る事になった。

 袋一杯の鉱石。



 と、岩の魔獣の排泄物。



 うーん、一番綺麗な鉱石だけど、一番名状しがたい物体なんだよなー。

「ところでシャルロットはどうしてかたくなにコッチを持とうとしないの?」

「当たり前な事を聞かないでよ」

「いや、知ってて聞いている節はあるけど、ほら、こっちの方がかなり高値で売れるかもしれないんだし」

「仮に高額だとしても事実を知っている以上は触れたくないわね」



「いや、そう言ってたら高値の鉱石が全て『排泄物』だと仮定して、女王様とかが身につけている鉱石がもしかしたら『排泄物』かもしれないよ?」



「何てこと言うのよ! 侮辱罪で逮捕よ!」



 いや、思ったことを言っただけなんだけど。

「……シャルロット。念のため言っておくと、岩の魔獣の鉱石は貴重。というか、アレに勝てる戦士は限られていて、この鉱石自体が殆ど出回っていない。つまり、女王の身につけている装飾品は汚くない」

「ほっとしたけど、何か今後鉱石が使われている装飾品に若干の抵抗が出来てしまう発言ね。これからは安い鉱石や産地を聞いてから身につけるわ」

 一応姫だし、そういう装飾品をつける場があるのだろう。その辺が俺のような田舎育ちと王家育ちの差というか違いを見せつけられている気がする。


 ということで取引所へ到着し、鑑定へ。



「お客さん、これはさすがに純度が高すぎて引き取れねえぜ?」

「いや、絶対引き取って。何なら通常の半値で良いから」



 凄いな。本来あってはならない現象が目の前で起こっている。

 鉱石を買い取るのを生業としている商人が拒否しており、一方で高値の鉱石をどうしても引き取って良いと言う客。理由を知っているから俺はシャルロットに同調しているけど、商人からすれば疑問しか残らない状況だろう。

「半値でもさすがにこれは一括で支払えねえ。半年かけて分割なら良いが」

「半年!? それって私たちに半年ここに居ろって事?」

「だが、この鉱石はそれくらいの価値はある。正直他には回したくない代物だが、一方でこれ以上値段を下げられても困る」

 さすがに半年ミッドガルフ貿易国に留まるのは長すぎる。普通ならそれくらいのお金が来ると言うことだろうが、今はゲイルド魔術国家に一日でも早く行くことを目的としている。

「だったらその分割のお金は一旦『寒がり店主の休憩所』に預けて貰う形でどうかしら?」

「母さんのところに?」

「ガラン王国やタプル村にもあるんだし、店主殿がすんなりとその地の従業員と入れ替われるのなら、秘密の情報網や移動手段があるんでしょう?」

 情報網に関しては解らないけど、移動手段は『首が無い馬』たる存在だろうな-。


「ある意味私たちが今一番信用出来る存在だし、そもそも大量のお金を今必要とはしていないし、一旦多い分は預かって貰いましょう」

「まあ、それもそうか。というか色々隠し事されていたわけだし、これくらい強力してくれるよね」

「ということで商人さん。今出せるお金は私達が受け取る。その後分割分に関しては『寒がり店主の休憩所』に届けて貰えるかしら?」

「ああ、店主さんの所か。わかった」

 そう言ってシャルロットは書類に名前を書き始めて……。



「いやシャルロット。俺が名前を書くよ。何流れるように筆を持っているの?」


「……さすがリエン。ふぁいんぷれー」



 筆をシャルロットから奪い取る。

「?」

 え、まだ解ってないの?

「君、姫。名前、書く?」



「あ、ああ! そ、そうね! リエン、ここは責任重大だし男性の貴方に任せるわ!」

「なかなか面白い二人だ。へへ、今後もよろしくな」

「は、はあ」


 一瞬ヒヤッとした時間だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今更ですけど、リエン君の周りには凄い人しかいないですねw いや、リエン君もリエン君でアレなんですけどw
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