魔術師の手合わせ
「あ、見てこれ! なんかきれいな石が出て来たわよ!」
「他の鉱石と比べても輝き方が全然違うな。これは高く売れるかもな」
岩の魔獣の中から金色に輝く鉱石が出てきた。もしかしてここに出てくる魔獣には高純度の鉱石があるのかな?
「これを売るのはもったいないわね。せっかく初勝利の記念品だし、飾っておきたいわね」
「うーん、俺としても初めて剣で倒した魔獣だから、同じ気持ちかな」
二人で協力して倒した魔獣の欠片を眺めながら色々と楽しく話す俺たち。
「……あー、多分さっきの魔獣の主食は鉱石で、体内で不純物となるものが一つに固まってできた物がその鉱石で、言い換えれば高濃縮された『ウン……』」
「「ぬあああああ!」」
思いっきり地面に『勝利の記念品』を叩きつけた。
やっぱり高純度なだけあって固い。
「え! え! これ、あいつの排泄物なの!?」
「真実を知った瞬間あの輝きが一転して禍々しく見えるんだけど!」
「……高純度で高価なのは本当。高く売れる」
「売るわ!」
さっきまで記念品だから飾ろうと言っていたのが嘘みたいだ。まあ俺も同感だけど。
「というかリエン、貴方って元々体術の類は勉強してたのかしら?」
「え、まったくしていないけど、なんで?」
「相手の攻撃を瞬時に受け流す判断力は素直に凄いと思ったわ。大叔母様の時もそうだったけど、そういう術なのかなーとか思ったのよ」
あー。そういうことか。
「あれは小さい頃から鍛えられていたというか、自然とそうなったというか……」
「何があったの?」
「いや、時々『空腹の小悪魔が背中を漂ったりしていて、その都度杖を構えてたのが癖になったんだよね」
「その……リエンも大変だったのね」
空腹の小悪魔がまだ『ちょっと不気味な妖精~』という認識だった時、悪さはしないものの不気味な姿からいつも魔術を放とうとしてしまう。
しかし家の中で魔術を放つわけにはいかなく、自然と『守る』癖がついてしまった。
にしても、その癖が剣にも出ているとは思わなかったな。
「その癖は技術に変えたほうが良いわね」
「技術に?」
「今は無意識でも、徐々に薄れてしまえばそれは使えなくなる。だからそうなる前に技術にしちゃって、守りを特化しちゃいましょう。ガラン王国剣術にも守りの型はあるから、今度教えるわね」
「おお!」
まさか幼い頃からの癖が今に生きるとは思わなかったけど、とりあえずプラスに考えよう。
さて、まずは……
「「「……誰が持とうか」」」
「ちょっとリエン。まさか女の子に持たせるなんて極悪なことはさせないわよね」
「……パムレ、超女の子。ばっちいものはさわれない」
「待て、シャルロットは一国の姫という部分でとりあえず見逃すとして、パムレは俺より年上だよね!? 見た目はそれだけど!」
「……ほほう、パムレに年齢を聞くとは良い度胸」
ゴゴゴと鳴り響く音。パムレがかすかに光だす。
「……ちょうどここは少しだけ広い。良い機会だし、シャルロットには『魔術師の手合わせ』を実際に見てもらおう」
「なっ!」
何故! というか絶対勝てないでしょ!
「……さっきの岩の魔獣との戦闘を見る限り、シャルロットは伸びる。だけど、実践経験や参考になるものを体感していない。だからリエン、パムレに……いや、『マオ』に全力で魔術の勝負をする」
パムレの目は本気だった。
紛れもなく目の前にいるのは三大魔術師のマオ。
そんな相手に俺は勝てるのか?
「……大丈夫。本気は出さない。十分の一位の力で挑む」
「それなら……シャルロット、杖を借りても?」
「ええ。もともとリエンのだからね」
そう言ってシャルロットは俺に杖を渡し、少し離れる。
「……じゃあこの石が地面に落ちたら試合開始」
「わかった」
そう言って、少し離れる。
パムレは右手に持つ灰色の石を軽く上に投げた。
それが弧を描いて地面に落ちていく。
そして地面に。
落ちた。
「『雷球』!」
「……『火球』……っ! 『土壁』!」
ぼおん!
破裂する音が鳴り響く。
「ま……参った! 杖が無い状態で勝てる気がしない!」
パムレの『火球』が俺の杖に命中して、杖は少し離れた場所へ落ちた。というか今ので十分の一の力!?
一方俺の放った『雷球』は高濃縮された岩の魔獣の鉱石に命中した後、軌道を変えてパムレに向かったが、見事に守られてしまった。やっぱり強い。
「……いや、今の勝負はパムレの負けで良い」
「へ?」
「……パムレは本気の十分の一と言ったけど、実際はちょっと本気を出しちゃった」
パムレの目の先には岩の魔獣から出てきた高純度の鉱石。
「……鉄の特性を理解している? いや、偶然? リエンはどうしてこの鉱石に『雷球』を放った?」
「え、いや、いつだったか母さんの手伝いで鉄のフライパンに『雷球』を当てたことがあって、跳ね返ったことがあったから……」
確か母さんが『お菓子作りをしたいので手伝ってくださいー』と言われて手伝わされた。結果放った魔術は跳ね返ってピーター君の髪に命中して、しばらくピーター君の髪が半分無かったんだよね。
「……フーリエ、やっぱり抜け目がない」
「え?」
「……何でもない。やっぱり負けとは言いたくない。引き分けで許して」
「ま、まあ。俺は全然いいけど」
だって、三大魔術師のマオに魔術勝負で引き分けたなんて、凄く光栄じゃない?
「……シャルロット。今のが魔術師の手合わせ。いつかリエンとやってみると良い」
「今すぐやりたいわね」
「馬鹿なの?」
ゴッ!
お腹に激痛が走った。凄く痛い。
「姫に向かってバカとは何よ!」
「この期に及んで思い出したかのように『私は姫だよー』と言い出すのズルくない!?」
「とにかく、魔術師の手合わせとやらをやりましょう! あ、ハンデとしてパムレちゃんは私の前に配置ね」
「……おけ」
「待って! 勝てないから!」
「大丈夫よ。パムレちゃんには攻撃させないから」
「防御魔術でも勝てないから! 見事に俺の魔術をあの短時間で防がれたからね!?」
そんなやり取りがミッドガルフ鉱山の奥で響いていた。




