鉱山探索
「ということで相談があるの『ゴルド』さん」
「聞いてくれるかな『ゴルド』さん」
「開店と同時にボクの名前を連呼するお客様は初めてですよ。何ですか?」
早朝、楽器屋さんことゴルドさんのお店にやってきた俺たち。
実は少し困ったことが発生してしまった。
「これからゲイルド魔術国家に行かないといけないのよ」
「ふむ、あそこは極寒の土地。気を付けてくださいね」
「食料や衣類の相場は調べたわ。そして一つ気が付いたの」
「私たち、お金が無いのよ」
宿代は母さんの特別サービスにより無料となったものの、極寒の土地という事で服が必要となった。
衣類店に行って値段を確認したら、一人最低でも銀貨三十枚。はっきり言ってタプル村では衣類にここまでお金をかけたことは無い。
「ああー、動物の布を使った衣類は高いですからね」
「ということで、商人であるゴルドさんにお願いをしに来たのよ」
「あ、ゴルドで良いですよ。ボクも二人のことは名前で呼びますよ」
「俺はリエンで」
「私は事情もあるしシャルでお願い」
「よろしくお願いします。リエン。シャル。……」
ゴルドは『もう一人』をじっと見つめて固まっていた。
「あー、『パムレ』って呼んだほうが良いですか?」
「……助かる」
マオはゴルドの事を知っているらしいが、この反応を見るとゴルドもマオの事を知っているっぽい。何者なんだろうか。
「というか何でマ……パムレまでついてきたの?」
「……楽しそうだった。決して暇というわけではない。絶対」
「暇だったのね」
「……時に人間は視野を広げて新しい物事を見出す。それは人間の特権であり特権は使ってこそ意味がある」
「とりあえずパムレちゃんはついて来るってことで、本題に入るわね」
「……ん」
再度ゴルドを見るシャルロット。
「簡単に言うとお金が無いから、何か良いお金稼ぎ方法は無いかしら?」
「何故ボクにそれを?」
苦笑するゴルド。まあそりゃそうだよね。知り合って間もない人に急に聞くんだもんね。
「そもそもリエンは『寒がり店主の休憩所』の息子でしょう? だったらそこでお手伝いをすればお小遣いがもらえるのでは?」
「俺の母さんが銀貨三十枚……いや、二人分だから六十枚をポンと渡すほど優しい人では無い」
「あはは、君も苦労しているんだね」
タプル村では銅貨三枚でも多いくらいだった。それが急に銀貨となれば事情が変わる。
それにたとえ実家が実は大金持ちだとしても、銀貨六十枚ほどの大金を簡単にもらおうとは思っていない。
「……リエン、実はしっかりしている。偉い偉い」
あ、ちなみにパムレことマオは俺に肩車されている。『……歩くの辛い。肩車を所望』と言われて仕方がなくやっているが、三大魔術師のマオを肩車した人物として歴史に残らないか不安である。
「そうですね。だったらミッドガルフ貿易国らしく、鉱山に行くのはどうですか?」
「「鉱山?」」
「そうです。かつて鉱石精霊が眠っていたとされている『ミッドガルフ鉱山』。そこは出入口に鉱石買取所があって、一日の小遣い稼ぎにはちょうど良いとか。観光もできてお小遣いも稼げる穴場なんですよ?」
「うーん、でも観光ってことは稼げる額ってほんの少しでしょう? 私たちが欲しいのは銀貨数十枚なのよね」
そういうと、ゴルドはニコッと笑った。
「良品質で貴重な鉱石は金貨というお話も」
「乗った!」
☆
あー、俺は今見たくない光景を見ている気がするよ。
シャルロットの目が完全に金貨の模様をしている(ように見える)。
シャルロットってこれでも一応ガラン王国の姫で、将来的には多分王女だよね?
で、魔術を勉強するためにゲイルド魔術学校へ特別入学するところまでは決定したけど、そこへ行くためには防寒着が必要で、そのためには多額のお金が必要というのは仕方が無いと思うのだけど。
「金貨! 銀貨! ざっくざくよ!」
一国の女王候補が金貨や銀貨を連呼している光景を見たくなかった!
「……リエン、人はお金で人生を変える。お金は人間が作り、人間はお金に動かされる。いつの間にかお金に人間は支配され、立場を奪った存在である」
「時々パムレは何かそれっぽいことを言い出すけど、過去に何があったのかな?」
いや、三大魔術師だし、俺の数十倍は生きているんだから何か見てきているんだろうけど。
「……優しいパムレが助言したげる。ミッドガルフ鉱山はとても奥が深い。進めば進むほど良い品質の鉱石が眠っている」
「つまり奥の鉱石を取れば温かい服も買えるという事ね!」
「……でも、奥には鉱石を食べる魔獣が住みついている。大体の人は手前の部分で採掘している」
「「……」」
な、なるほど。進めば進むほど良いものが手に入る代わりにリスクも伴うということか。
「ん? でもパムレがいれば大丈夫なんじゃ?」
「……それではつまらない。というかフーリエから頼まれた。二人は剣と魔術の修行中だから過剰な助けは控えてほしいと」
母さん何言っちゃってるの!?
「ふむ、店主殿の言う通りね。リエン、ここはひとつ私たちも修行の一環として約束事をしましょう」
「約束事?」
「私は魔術しか使わない。リエンは剣術しか使わない。それで奥の鉱石を発掘するのよ!」
☆
「ぬああああああああああああああああ!」
「ちょ、リエン早く魔術を放って! あれはヤバイわ!」
「約束事どこ行った! というかパムレを背負ってるから振り向けない!」
『ビュァアアアアアアアアア!』
ミッドガルフ鉱山の奥。
入り口付近は枝分かれしていたものの、途中からほぼ一本道だったため軽快に進んでいった途端、全身岩で覆われた魔獣に遭遇した。
「……リエン、緊急事態」
「え!?」
突然俺が肩車をしているパムレ(マオ)が話し出した。
「……あまりの上下運動に……酔った……うぷっ」
「絶対口から何も出すなよ! それが嫌なら何とかしてくれええええ!」
背後には魔獣。頭上にはパムレ。絶対絶命である。
「ええい、この際だからダメ元で……『火球』!」
岩の魔獣に小さな『火球』が命中。しかし悲しいことにその火は直撃と同時に消え去った。
「全然効かない!」
『ピャギャアアアアアア!』
迫りくる拳。俺は瞬時に短剣を取り出して岩の魔獣の攻撃を受け流した。
「……ん、今の攻撃をよく受け流せた。すごいすごい」
「褒めてないで肩から降りてくれると助かるよ!」
次の攻撃が来る。そう思った瞬間だった。
「す……『水球』!」
パシャンと弾ける音が岩の魔獣に命中。シャルロットはこの危機に何とか対応しようと必死に攻撃したのだろう。
……俺はどうだろうか。
「くっ!『魔力探知』!」
岩の魔獣を見る。
魔力探知はその名の通り相手の魔力や周囲の微小な魔力を可視化できる『神術』。これで相手の魔力の流れを見る。
シャルロットは必死に戦っている。しかも得意な剣術ではなく魔術を使っている。
俺は逃げてばかりだ。それでは意味がない。
『魔力探知』を通して相手の魔力を見たら、一つ分かったことがあった。
シャルロットが『水球』を当てた場所だけ妙に魔力が集まっている?
「……ゴーレム。岩から生まれた魔獣。魔力を吸った土が変異して動き出し、魔獣となった悲しき生き物」
パムレが話し出す。
「……岩というよりも土。それらが魔力によって集まり、固まった。通常は硬いけど、水を浴びるともろくなる」
「つまり水が弱点!?」
こくりと頷くパムレ。つまりあの濡れた場所に攻撃できれば!
「リエン! 援護は任せて!」
「わかった!」
その声と同時に俺は走り出す。
岩の魔獣は俺に気が付き、右腕で俺に攻撃をする。
「当たらないよ!」
攻撃を避ける。同時にシャルロットは岩の魔獣の右腕に『水球』を当てた。
『ギャアアアアアアアア!』
パッと見た感じではただ水が当たっただけなのに、とても苦しそうである。
「……リエン、急ぐ。脇腹の修復が終わる」
「わかった! てえええええいい!」
岩の魔獣の脇腹に短剣を突き刺す。
『ガッ! グガアアアアアアアアアア!』
すさまじい地響き。
思わずその揺れに膝をついてしまった。
『ギャアアア!』
倒れてくる岩の魔獣。このままだと押しつぶされる!
「……そのためのマオ。いや、今はパムレだった」
ふわっと体が宙に浮き、凄い勢いで後ろに引っ張られた。
「わわ!」
「……これくらいは手伝う。そしてあの魔獣は致命傷。上出来」
ポロポロと崩れ落ち、土の山へと変わっていった。
「「や……やっっっっったあああああ!」」
思わずシャルロットと俺は手をつなぎ、目の前の初勝利を喜んだ。




