商人の街『ミッドガルフ貿易国』
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ミッドガルフ貿易国。
ガラン王国とゲイルド魔術国家の中心に位置する国で、商人の集会所とも言われているらしい(シャルロット談)。
大きな門があり、そこにはたくさんの行列ができていた。全員商人だろうか。
「兵士たちが一人一人検査をしている? 何のためだろう」
「何のためって、犯罪者を未然に防ぐためよ。商人の中には奴隷商人や危険な武器や薬を売る商人もいるから、それらを先に見つけるのよ。一応ガラン王国でもやってるけど、ここの検問は比にならないほど厳しいと聞くわ」
「そういえば奴隷商人って単語を最近聞くけど、そんなに沢山いるの?」
奴隷という単語は知っている。けれど、実際に会ったことは……まあ、先日退治した人たちだろうけど、全員あんな感じなのかな。
「奴隷商人にも多種多様よ。『奴隷』と聞くと響きは良くないけど、ガラン王国の場合は『奴隷』に対しての税金は少ない等の処置があるわね」
「そうなの?」
「親が亡くなったり家庭の事情で売られてしまう人もいるから、奴隷が悪って言い切れないの。だけど、それを逆手に先日会った人たちのように希少価値がある人を売る奴隷商人……いや、ただの誘拐犯がいるから、それらは厳しく取り締まっているわね。だから派遣紹介や奴隷商人などの区別は本当に難しいのよ」
奴隷にも色々いるんだなー。タプル村ではそういう類に縁がなかったから、今後はそういう知識も少しはつけないといけないのかな。
「次」
話している間に行列はジリジリと詰めていて、いつの間にか正門まで到着していた。
シャルロットは馬から降りて、門番と話し始めた。馬の手綱は俺が持つ。これくらいはさすがにできるようになった。
「どこから来た?」
「ガラン王国よ」
「目的は?」
「ゲイルド魔術国家の魔術学校に行くため、その道中の食料調達と休憩よ」
すごい。さすがガラン王国の『一応』姫。すらすらと流れるように話す。
「では身分を証明できる物を出せるか?」
「え?」
「いや、身分を」
「あー、ちょっと荷馬車に取りに行くわ」
そう言ってこっちに来た。
「……身分、証明しろって言われちゃったんだけど」
「うん。君の身分は大騒ぎになっちゃうね」
これは予想外。
だってここで『ガラン王国の姫です☆』なんて言ったら、どこで敵が出てきてもおかしくない。
かと言って俺が名乗っても田舎生まれの身分なんてたかが知れている。(ガラン王国ではそこそこ有名だったけど)。
「どうした? 早く出せ」
「えっと、えっと」
その時だった。
「……ん。到着?」
パムレが荷馬車から顔を出した。
「なっ!」
「……ん、あー。察した。身分はパムレが保証する。通して」
「はい!」
「「ええええええええええ!」」
一体何が!?
「……大げさ」
「いえ! ただ、その……」
「……時間は有限。じゃあ通る」
「はい!」
いやだから何でパムレに対してすごく怯えているのこの門番! ただの女の子だよ!?
「ま、まあ。ここはお言葉に甘えて通りましょう。変に焦っていると逆に怪しまれるわ」
「そ、そうだね」
そう言って門をくぐり抜けた。
☆
町の中は凄く賑やかだった。さすが商人の町。
村では年に一度収穫祭というお祭りを行うけれど、ここでは毎日それを行ってるかと思うくらい賑やかだ。
「にしてもパムレを見てすんなり入れたけど、本当に良かったのかな?」
「……問題ない。パムレはここでは少し有名人。そしてパムレの拠点はこの辺り。あの門番も知り合い。という事で三度寝に移る」
「それならいいけど」
そう言ってパムレはまた荷馬車に戻っていった。どれだけお昼寝が好きなのやら。
にしても本当に賑やかだ。ん? なんだか音楽も聞こえる。
『ポロン。ポロン。ポポポン。ポン!』
不思議な音が聞こえてきた。何かを叩いている?
音の場所を見てみると、青年が何枚かの鉄の板を叩いていた。
「お、いらっしゃいませー」
「こんにちは」
金色と銀色の不思議な髪型をしている青年。首には綺麗な石の装飾品をつけていた。
「これは?」
「これは鉄琴という楽器です。ボクはここで楽器を売っているんです」
「楽器……」
店員さんとお話をしているとシャルロットが横から会話に混ざってきた。
「へえ。大叔母様の持っている笛とは違うのね。これも楽器という種類なの?」
「笛の形の楽器ですか? そういう種類もありますね。他にも紐を使った楽器等、音を出す道具はすべて楽器になります」
「ちなみにお値段は……金貨三枚! 俺には縁がなかった」
「あはは、これは特別な鉱石で作ってますから。他の楽器もありますよ」
「へえ。面白そうね。荷物を一度整えたらまた来ましょうよ」
「そうだね」
「お待ちしてますよー」
そう言って楽器屋の青年と別れた。
同時にパムレが荷馬車からひょっこり顔を出した。お早い三度寝である。
「……何か面白そうなのあった?」
「楽器屋があったよ。パムレは何か興味のある楽器はあった?」
「……くらりねっと……いや、笛が興味ある」
「へえ。パムレはお菓子に夢中かと思ったけど、他の分野も気になるのね」
「……パムレは多種多様な知識を欲する。いわば知識の塊り」
「ふふ、そうねー」
「……なぜ撫でる」
まあ、楽しそうで何よりだ。さて、馬車も止められそうな宿はー……。
『寒がり店主の休憩所~ミッドガルフ貿易国店~』
「一瞬幻覚が見えたな。さて、奥の店を」
「リエン」
「ん?」
シャルロットが真顔で俺を見た。
「ミッドガルフ貿易国にもあるわよ。『寒がり店主の休憩場』」
「知ってたの!?」
「というか、なんで知らないのよ!」
まったく正論だよ!
普通そこで働いている(そもそも実家に住んでる)俺がガラン王国城下町はおろか、ミッドガルフ貿易国にも店があるなんて情報知らない方が変だよね!
「まさかゲイルド魔術国家にもあるんじゃ……」
「さすがに最北端の土地には行ったこと無いから知らないわね。大叔母様なら知ってるかしら」
「うむむ、無いことを祈るか」
とりあえず『某店』以外を見たところ、どこにも馬車を置く宿は無かった。『某店』以外は!
「くそう!」
「あきらめなさいリエン。もう最初に見た時から決まっていたじゃない」
「でもさあ! 旅だよ! なんかこう、ワクワクな状況から一変して毎度実家に帰った気分になるじゃん!」
「いや、そもそも国が違うから。タプル村はガラン王国の領土内だったけど、ここはミッドガルフ貿易国よ?」
「そ、それもそうか」
理不尽に理不尽を足して生まれたとも思える『母さん』という存在に少々動揺してしまった。
そうだよな、ここは外国。たまたま系列店に泊まるだけだもんな。店員さんもここの従業員。むしろ前回が特別だっただけだ!
深呼吸して店に入る。何、普通の客としてその店の息子とガラン王国の姫が泊まるだけだ。
「あ、リエン。待ってました」
バタン。
「……あー、そのー。いたわね。『店主殿』」
「いや、俺もシャルロットも多分幻覚。いや、この店の制服かも」
「え、完全に『リエン』って呼んでたわよ?」
「俺の顔を知っている店員さんかも」
ガチャリ。
「何外で話しているのですか? 入口は混むのでさっさと入ってください。あ、部屋の鍵はこれです」
「普通に話を進めちゃってるよ! というかここ外国だよ! なんで母さんがここにいるの?」
「それは……」
母さんの目が赤く光る。
「人事異動です」
「店主特権の横暴だよ! ここの店主は可哀そうだよ!」
母さんの都合でまたしても人事異動が発生してしまった。実は俺の実家ってあまり良くない職場なのでは!?
「ここの店主は長時間労働で頑張ってもらったので、しばらくのんびりしてもらおうと思い、タプル村に着任してもらいました。タプル村にいた店主はガラン王国に行ってもらいました。その間のタプル村の店番はピーター君にお願いしてます」
またピーター君がとばっちりを受けてるよ!
『見えないところでピーター君頑張ってる情報』が泣けてくるよ!
そして完全に『寒がり店主の休憩所』の戦力として数えられてるじゃん!
「ま、まあ、ここだと色々と融通も効くし、店主殿だったら料理も美味しいから良いじゃない」
「そうですよー。ワタチの店だと豪華特典『宿の店員体験』もできますよー」
「ただの実家の手伝いじゃん!」
都合が良いのは重々承知だけどね!
色々と頭の中がごちゃごちゃしているなか、母さんは俺の後ろにいるパムレに気が付いた。
「おや、そちらは……」
「……ん」
「……ふむ、リエン。冗談は一旦置いといて宿はここにしてください」
「え、なんだよ急に」
「そこのお客様……『マオ』様がまさかリエンと出会っていたなんて予想していませんでした」
「マオ様って……へ?」
え、『マオ』様?
三大魔術師で一番強いかもしれないとされているあの?
「……ふむ、ここでバレるとは思わなかった。最初に事情を話しておくべきだったね」
「えええええええええ!」




