ガラン王国の外3
「ほい、即席チャーハン。干し肉を細切れにして入れたから、ちょっとは美味しいと思うよ」
「ありがとー」
「……ん、ありがと」
そして二人は一口食べる。
「何が『ちょっと』よ。すごく美味しいわよ」
「……謙遜は時に嫌味になる。うまうま」
好評っぽい。よかったよかった。
「そういえばどうして沢山お菓子がある中で『パムレ』と言う名前を選んだの?」
「……話すと長くなる」
「極力短くお願いするわ」
「……お菓子の『パムレット』の子供に……なりたかった……」
言っている意味がまったくわからない!!
「あー、『パムレット』の子供ね」
「え!? わかるの!? 俺だけ置いて行かないで!」
いや、確か馬車の中で意識が朦朧としている中で少し聞いた気がするけども!
「あはは。『パムレット』は知ってるわね?」
「どこかで聞いたような……」
確かシャムロエ様が言ったような……あ!
「あの激辛の変なお菓子!」
そう言った瞬間だった。
すさまじい魔力が隣から感じ取れた。
「……パムレットは辛くない……辛くした人は……ダレ?」
背中から『ゴゴゴ』と鳴っているように見えるオーラをパムレが出しながら俺を見ていた。
「怖い怖い! 色々事情があってシャムロエ様が辛いお菓子を準備したんだよ!」
「……シャムロエが? ……まあいい」
しゅんっと魔力が収まった。
え、一体なぜ!?
というか子供だから世間を知らないのだと思うけど、シャムロエ様くらいは『様』をつけたほうが良いと思うよ?
「こ、こほん。えっと、そのパムレットは甘いお菓子なの?」
「パムレットはガラン王国発祥のお菓子で、あのふわふわした食べ物の事よ。リエンが最初の一口食べた物が本物のパムレットで、あの辛いパムレットは大叔母様が用意した偽物よ」
「なるほど。あれが『パムレット』というお菓子か」
あんな辛いお菓子を貴族は食べるのかーとずっと思っていたけど、やっぱり俺を試すためだったんだね。
「じゃあパムレは『パムレット』の最初の三文字を取った名前ってこと?」
「……『パムレ』は実在するお菓子。通常のパムレットはちょっと値段が高い。で、一般の人も食べることが可能な値段のお菓子を考案し、それが『パムレ』。『パムレット』から派生したお菓子ということもあり『パムレ』はその子供という設定となっている。だから名乗るならこれと決めていた」
なるほど。まさに『お菓子の子供』という子供らしい夢を表面上叶えたわけだ。
「……パムレットに対する思いは誰にも負けない。リエンもパムレには絶対に『心情読破』を使わない方が身のため。絶対だよ?」
「え、なにその振り。そう言われると使いたくなっちゃうじゃん!」
「そもそも女の子の心の中を覗くなんて、紳士はしないわよねー」
「シャルロットも追い打ちをかけてきやがって! いいよ、絶対やらないからね!」
……。
…………。
………………(心情読破)。
『パムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレットパムレット』
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
☆
『パームーパームーパムレットー♪』
何やら楽し気な音楽が聴こえてくる。
空を見上げるとふわふわな雲。
そんな雲が形を変えて、一つのお菓子に変わった。あれはガラン王国で見た『パムレット』だ。
甘くて美味しそうなお菓子がどんどん近づいて来る。
どんどん……。
どんどん…………。
ちょっと待って大きくない?
俺の身長の数十倍のパムレットが、パムレットがあああ!
☆
「ふあああああ!」
「きゃっ!」
バッと起き上がると、目の前には夜空が広がっていた。
そして近くでシャルロットが俺を見て驚いていた。
「パムレットは!?」
「お、落ち着きましょう。パムレの話だと『……心情読破をパムレに使った。リエンはスケベ』って言ってたわ」
「スケベかどうかは後できっちり決着をつけるとして、それ以外は反論できないのが情けない!」
「使ったのね……」
シャルロットが苦笑する。
「パムレは?」
「馬車の中で寝ているわ。私は火と周りの見張りよ」
「あ、だったら俺が変わるよ」
「でももう日が昇りそうだし……」
なんかもう本当にごめんなさい!
「ふふ、まあもう少しで日も登るしお話でもしましょう」
「う、うん」
そう言ってシャルロットはコップにお湯を注ぎ俺に渡した。
キラキラと輝く夜空。もうすぐ日は出てくるから少しだけ橙色が見え始めていた。
「なんだか不思議な気分よ」
「そうなの?」
「ええ。まさか私が本当に魔術を使えるなんて思わなかったの。リエンにとっては当たり前かもしれないけど、この焚火は私が作った火で、本当は凄くうれしいの」
そう……だった。
思えば俺が初めて火を出せたとき、母さんは一緒にすごく喜んでくれた。
それなのに、シャルロットが初めて『火球』を使った時や、この焚火を作った時は反応が薄かったかもしれない。
「あ、リエン。今『しまった!』って思ったでしょ?」
「うっ!」
「ふふ。冗談よ。正直どっちが正解かはわからない。けど、リエンの反応を見る限り私はまだ伸びるって思ったの」
「え?」
「ガラン王国の魔術師の指導を見たでしょ? 私を褒めて褒めて、結局何もできなかった。きっとリエンが教えたとき、初めて『火球』を出したときにすっごく褒めてくれたら、そこで成長が止まったと思うの」
「さすがにそれは考えすぎじゃないかな?」
教える人の性格によると思う。現に俺の時、母さんは凄く喜んでくれた。そして次はさらに辛い特訓が待っていた。解釈は人それぞれで、シャルロットの時は偶然良かっただけだと思うけどなあ。
「結果はどうあれ、この焚火は私が作った火。これからもこの火のようにどんどん燃え上がるように頑張るわよ!」
「はは、応援しているよ」
「リエンも剣術頑張りなさいよ!」
「おうよ!」
そう言って焚火を見た。
パチパチと燃える炎。
……ん?
ちょっと魔力に違和感が?
ちょっと実験的に『魔力探知』を使ってみよう。確かこれは周囲の魔力を探知したり、魔力の『質』も確認できる。
……え、何この炎……。すっごく純度の高い魔力なんだけど!
「あ、リエン、念のため木の枝を持ってくるから、火が消えないように見守ってて!」
「う、うん」
そう言ってシャルロットはその場からちょっと去った。
同時にパムレが荷馬車から若干眠そうな表情でひょっこりと出てきた。
「……事実は時として残酷。最初の炎はすでに無い。その炎は朝まで燃えるくらいの魔力は注いだ。パムレなりの気遣いの塊り」
そして荷馬車に戻っていった。
同時にシャルロットが木の枝を持って戻ってきた。
「どうしたのリエン。顔が青いわよ?」
「いや! べ、別に! ほら、消える前に木の枝を追加しよう!」
「そうね。朝には消してしまうのが惜しいけど、また出せば良いんだもんね」
「そうだよ! どんどん出そう! 次もシャルロットが焚火を作るんだ!」




