ガラン王国の外2
盗賊を全員荷馬車に積んであったロープでくくり、一つの荷馬車に詰め込み終えた。
「くそ! ほどけ!」
「あいつ、女を二人も」
「なんて男だ!」
「お前らがそれを言うか!」
俺の渾身のツッコミも、本物の盗賊には全然効かない。まあ、普段からそういう生活をしているんだろうし、何を言っても通用しないんだろうな。
「さて、準備できたわ」
「何をしていたの?」
「手紙よ。この荷馬車に入れて、あとは馬のおしりを叩けばガラン王国まで走ってくれるでしょう」
「……同伴は気が引ける。放置も気が引ける。放流が一番」
なるほど。
「まて姫さん。もし馬が疲れて立ち止まったら?」
「手紙が風に飛ばされたら?」
「他の盗賊に狙われたら?」
「応援しなさい。そしてカンパネ様に祈りなさい」
ペチン。
『ヒヒーン!』
『『『うおおおおおおおお! ふざけるなああああああああああ!』』』
恨むなら自身の運の無さを恨むんだな。盗賊どもめ。
「さて、私たちはこの余った荷馬車と馬でミッドガルフ貿易国に行きましょう」
「そうだな」
一安心。と思ったけど、もう一つ問題があった。
「えっと、この子はどうするの?」
一緒についてきた灰色ローブの女の子。まだ十歳くらいに見える。
「置いてはいけないし、ミッドガルフ貿易国に用事があるなら一緒に連れて行くわよ」
「……よろしく」
ペコリと頭を下げる少女。いや、それは良いんだけど……。
「どうやってあの鉄格子を壊した? 魔術?」
未だに信じられないが、俺は気付いていた。
すさまじい魔力が鉄格子の一点に流し込み、ありえないほどの高温で熱した後、ありえないほどの低音で冷やした。
結果鉄格子は破裂し、今回俺たちは助かったわけだが、そんな高度な魔術は母さんでも難しいだろう。
「……魔術は想像が大事。温めて冷やす。それだけ」
「人には色々事情があるものよ。そうだ、まだ自己紹介をしていなかったわね。私はシャルロットよ。こっちはリエン」
「……本名は事情があって名乗れない。『パムレ』と呼んでほしい」
「パムレちゃんね。よろしく!」
「……ん、よろしく」
握手する二人。とりあえず無害そうではある。
すっとパムレは俺にも手を差し出した。
「あ、ああ。リエンだ。よろしく」
「……ん。よろしく」
☆
パムレと名乗る少女と一緒に馬に揺られて数時間。
見事俺とパムレは荷馬車でぐったりとしていた。
「えっと、リエンー、馬の操作教えようか?」
「この状況から馬を引く自信は無いよ」
「……つらい」
「ちょっと先に川が見えるから、そこで休憩するわね」
「はーい」
「……はやく。いや、ゆっくり進んで」
コロコロ意見が変わるパムレ。子供らしいというかなんというか。
ここは俺も気分を変えたいし、少し会話をしてみるか。
「本名は名乗れないなら、どうしてパムレという名前なのかな?」
「……パムレはガラン王国の特産物『パムレット』から派生した簡素なお菓子。言ってしまえばパムレットの子供。お菓子の子供はみんなのあこがれ。故にパムレと名乗りたかったからパムレと名乗った」
ぐったりしつつもしっかり答えてくれた。
「……リエンはどうして『リエン』?」
「え? えっと……名前の由来なんて聞いたことなかったな」
そういえばどうしてリエンという名前なのだろう。
会話を聞いていたのか、シャルロットも混ざってきた。
「私の名前はガラン王国の文化に則ってつけられているわ!」
「文化?」
つまり、何かしら意味が込められているのだろうか。
「女王になる人は代々『シャ』が付くのよ」
「え、それだけ!?」
そこだけ切り取ると『シャが付けば良い』って感じになるよ!?
「でも事実なのよ。シャムロエ様やその次の女王様のシャルドネ様、そして母上のシャーリー様。全員が『シャ』をつけるのがガラン王国の歴史なのよ」
「マジかよ。名前ってその人を表すって言うし結構大事なものだと思うけどな」
「……その通り。名前は一種の呪い。つけた者とつけられた者の信頼関係が最初に生まれる絶対的な儀式。きっと『リエン』も何か意味がある」
なるほど。今度母さんに聞いてみよう。
「そうこう言っているうちに川へ到着よ」
「……世界が……澄んで見える」
「大げさだな」
そう言いつつ荷馬車から降りて川へ行く。日も落ちてきたし、今日はここで野宿かな?
☆
「むむむむむむむむ……『火球』!」
ぽっ……ぶぉ!
木をかき集めて焚火を作る。
火はシャルロットに魔術で作ってもらう。魔術の練習にもなって一石二鳥とはこのことだ。
「……ふむ、筋は良い。そして温かい」
「えへへ、ありがとー」
喜ぶシャルロットはパムレに抱きついた。
「……訂正、暑い。なぜ抱っこされている」
「椅子になりそうなものが足りないからね。私の膝の上だったら一つの椅子で間に合うでしょ?」
「……合理的ではあるが、シャルロットの膝に負担が」
「私は大丈夫よ! というか、いつまでフードつけてるの? 疲れるだろうし外したら? えい」
「……あ」
ふぁさっとパムレの髪が現れた。
フードで全然顔も見えなかったけど、ようやく素顔が見れた。
髪は想像以上に長く、腰まである。頭頂部に一本だけピョンと髪がはねているところが幼さを出している。
「ん? というか見覚えが……どこだっけ?」
銀色の髪。小さい女の子。
「……今はリエンとシャルロットだけだから良いか。町に到着したらフードつける」
「ふふ、ありがとー」
「……なぜお礼を言われたかわからない。あとなぜすごくナデナデされているかもわからない」
なんだか二人を見ていて少しほっこりとしてしまった。




