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剣士に憧れる魔術師と魔術に憧れる剣士の物語

 ☆


 真っ白い部屋。

 目の前には白い髪の青少年が笑顔で俺を見ていた。

「カンパネ?」

「正解! いやー、長い旅お疲れ様! 祝杯を挙げたい気分さ」

「なら一次会から俺は退席したいね」

「つれないなー。とは言え、無事に君はこれから安心して寿命まで生きることができる。めでたしめでたしじゃないか?」

「そう……なのかな?」

 なんだか色々ありすぎてよくわからないけど。

「色々と協力もしてもらったし、ここで一つ答え合わせもしよう」

「答え合わせ?」

「ボクはずっと君を監視していた。それしかできなかった。君の前世のサイトウリエンが世界の理を解いて未来を計算し、最終的に目的である龍の魔力の少女を地球に配置した。正直神でもそこまでの計算はできないかな」

「世界の理から解く?」

「深くは考えなくて良いよ。世界の理というのは概念であって普通の人にはわからない分野さ。ともかく、実の所龍族の少女を地球に配置するのはボクにとっても都合が良かったんだ」

「都合?」

「光の神ヒルメ様に貸しを作るということさ。神々って結構貸し借りにうるさくて、特にヒルメ様への貸しは大きいんだよね」

 つまり俺は利用されたのか?

「まあそれは神の事情。女神様がそっちに行っている間はボクが代理人として頑張らないといけないし、君も女神様の主人としてこれから楽しく生きていく義務がある。これからはボクの世界で何にも縛られずに生きてくれ」

「言われなくても」

 そしてまた意識が遠くなっていった。

 カンパネの表情はなんだか少し寂し気だった。いつもはケラケラと笑うカンパネだが、何故悲しい表情をするのだろう。


 ☆


 目覚めるとタプル村の布団で目を覚ました。

 え、確かゲイルド魔術国家から移動したから、そこで目覚めると思ってたんだけど。

「目を覚ましましたか?」

 その声は、母さん?

「ああ、えっと、ここはタプル村?」

「そうですよ。フォルトナ様が気を利かせてこっちに転移してくれたみたいです。まあ、実際はゲイルド魔術国家にいると色々と問題を増やしそうだから厄介払いをしたようにも見えますね」

「そうなんだ」

 そう言って母さんをじっと見た。


「どうしました?」

「いや、地球の……『フーリエ』さんに会った」

「!?」


 母さんは驚く表情を浮かべた。

「そうですか。あれは……ワタチであってワタチでは無い一人の『フーリエ』ですね」

 そして頭に巻いていた布をシュルシュルと取り、素顔を出した。

「リエンを転送した後、ワタチは謎の敵と戦う事になりました。激化する中でこっちは子育て。正直無理だと判断したワタチはドッペルゲンガーの術を使って地球のワタチに『自我』を持たせました」

「どうして」

「サイトウ様と約束したからです。ここを守って欲しいと。そんな中ようやく目覚めて転移させたらまさかの転生でした。赤子状態になるのは想定していませんでした」

 そう言って苦笑する母さん。先程地球で出会った母さんはどちらかと言うと冷たい印象だった。

 ミリアムさんは母さんに生きがいができたって言ってたけど、なんとなく分かった気がする。

 布団から起き上がると扉が二度叩かれた。

『入って良いかしら?』

 シャルロットの声?

「どうぞー」

 そう言うとシャルロットが入って……ん?

「あはは、変よね。いつもは皆に合わせた服装で王族の正装は皆に見せたことなかったもんね」

「あ、いや、その」

 髪は綺麗にまとまっていて、少し化粧もしていた。

 釣り目の少しだけ強調されてあり、凛々しい感じがある。

「とても残念だけど、先日までの私はガラン王国の姫というよりも旅人シャルロット。そしてリエンの旅が終わって目的も達成したら、私は王族として戻らないといけないのよ。だから挨拶しに来たのよ」

 挨拶。

「リエンはタプル村で育って店主殿と楽しい生活がある途中で、私のわがままで壊しちゃったわ。その後も王家の貴族選挙でも巻き込んだりして迷惑もかけた。これ以上迷惑をかけるわけにもいかないし、私も色々と勉強したから今日から正式に王族として公務を行おうと思うの」

 それはシャルロットの決意表明だった。

「何もリエンの部屋でそんな事を言わなくても良いじゃないですか」

 ため息をつく母さん。

「いえ、店主殿。色々と迷惑をかけたのは店主殿もです。ガラン王国は店主殿の協力も無ければ生きていけない国だったの。だからこれからは私の力でもっとより良くしていくって決めました」

「はあ、そうですか。せいぜい傍観していますよ。あ、今のワタチは三大魔術師じゃないのでがっつり市民権持ってますから文句とか言えますからね。一度殴りこみとかやってみたかったのですよね。多分本気のシャムロエ様とワタチの勝負が始まりますよー」

「あの、勘弁してください。城が消滅します」

 苦笑するシャルロット。だが、そこから真顔になった。

「それで、どうかしら。リエン」

「え?」


「私の近衛騎士隊長にならない?」


 突然の誘いだった。

「私にとって貴方は一番頼れる存在。魔術の腕は隠しているけど実際強い。だから私を守って欲しいの」

「それは……」

 母さんを横目で見るとため息をついていた。

「ワタチもさすがに息子の将来に口出しはしませんよ。やりたいことがあれば素直にやってください。もし手を刺し伸ばしてくれる人がいるなら掴みなさい。親として言えるのはそれくらいですね」

 母さんの目はなんとなく涙が出ていたように見えた。理由はわからないけど、俺が近衛騎士になる事自体は反対していないようだ。

 思えば最初に剣士になりたいと言った時は猛反対された。それが今では許してくれる。

 きっと母さんは色々な事情を知った上で間違った道を進まないように気を使っていたのだろう。

「シャルロット。近衛騎士の件、ありがとう」

「じゃあ」



「でもさ、俺まだちゃんとガラン王国の『テツヤ道場』でガラン剣術習って無いんだよね。すっげー前にシャーリー女王が言ってくれた約束だったと思うけど、ティータさんから習ったりフブキに習ったりして、肝心の道場で剣術を学ぶって事をしてないんだよね」

「そ、それは……あ、あはは」



 苦笑するシャルロット。

 それに対して母さんは大きく笑った。

「そうですね。王族が一般市民を色々な事に巻き込みまくって、肝心の自分から提案した約束を破るなんてことはしませんよね」

 その声にセシリーとフェリーがポンっと音を立てて現れた。


『リエン様の母上が喜ぶと、悪魔の魔力が飛ぶんじゃが……腰痛が……』

『頭痛い……たすけて……』


 突然出たと思ったらただの救援要請かよ!

「ふふ、そうね。先日まではリエンについて探す旅。これからはリエンを鍛える日々として王家一同支援しましょう。近衛騎士が貧弱だと私が困るものね」


 そう言って俺は笑顔のまま今後の進路について決まった。

 ガラン王国の剣術道場で学び、そして近衛騎士隊長。ラルトさんが居た地位は相当努力が必要だろうけど、待っている人もいるしとにかく俺は頑張ってみようかな!


 ★


 白い部屋。

 延々と続く白い風景の中心に銀髪の少年がポツンと本を眺めていた。

「ボクの世界が平和なのは人間の努力の結晶であり、ボクは見守るしかできないのさ。せめて遊びに行けたら楽しいのに、女神様があっちにいる以上ここにいないといけないから残念だな」

 独り言をつぶやくと、銀髪の少年は周囲を見た。

「ん? おや、音神のエル様じゃないか。まさか君が地球に潜む『無』の魔力を抑え込む手助けをするなんて思わなかったよ」

 何も無い場所に話しかける銀髪の少年。

 だが、何度か頷いている。

「ああ、ボクは人間に興味がある。できることならこれからも人間を育てていきたいさ。お互い喧嘩したりするけど、それもまた人間っぽくて面白いよね」

 そして銀髪の少年は本を閉じた。

「これかい? 人間が作った『ネクロノミコン』さ。全く困った物さ。いつの間にか『無』の魔力を身に纏ってどこかに消えてしまう。ほら、そう言った矢先からどこかに行ってしまった」

 少年の手にあった本はいつの間にか消えていた。

「『ネクロノミコン』は人間が神を超える手段の一つとしてとても危険だ。でも『人間』ならそんなふざけたことはしないよ。神々は危険視している相手を間違えている。人間よりももっと怖い存在がボクの大陸には沢山いるのにさ」

 そして銀髪の少年はまた何かを聞いていた。

「そうだね。世界の理を全て理解すれば未来も分かる。あらゆる分野も手に入れられる。神が不必要になる。だから神たちはもう少し人間に対して謙虚になるべきだ。あ、一人チャーハンを沢山作っている神もいるけどね」

 そして銀髪の少年は上を見上げた。そこも真っ白で何もない。

「これからがボクの世界の悲劇の始まりだ。でも、頑張ったリエンという少年が生きている時間だけは平和かな。あはは、ボクが一人の人間を気に掛けるなんて、音の魔力を持つ人間以来だよ」 

 銀髪の少年は苦笑した。何も無い何かから何かを言われたのだろう。

「ああ、これからも概念として寂しく過ごしていくさ。少しは彼らのお陰で姿も出せるようになったけど、本質は変わらない。エル様ものんびりしてないで、たまには外に出たら良いさ。ボクと違って顕現できるんだからさ」

 そう言うと、銀髪の少年は手を振った。おそらく何かは遠くへ行ったのだろう。


「名前に込められた呪い。君にとっては前世から大変だったけど、それはもう忘れて良い事さ。今は今の記憶と生活を満喫してくれ。それがボクの……『神』の魔力を持つ精霊カンパネの……せめてもの祝福だからさ」


 そして銀髪の少年は消えていった。


 神は時として概念となり、そして意識は無いまま管轄の大陸を見守る。



 この先のミルダ大陸の悲劇もまた、カンパネは何も出来ずに見守ることしかできなくても。



 了

 こんにちは!いとです!

 長いお話となりましたが、完結です!

 本当は二部くらいで終わらせるつもりでしたが、続きも書きたくなってしまい、三部まで書くことになりました!

 前世の記憶が無いと言うのは普通ですが、前世は来世に何かを託す物語というのは元々考えており、主人公リエンという名前も色々と考えて生み出しました。

 また、名前には呪いがあるという部分にもかなり注視して他のキャラクターも工夫したり、時にはギャグっぽく落ちたり(名付けちゃって契約した精霊たちなど)、時々寄り道をしつつ最終的にリエンの物語はしっかりと終えて良かったかなと思ってます。

 そんなこんなで長い間ありがとうございました!

 引き続き創作活動は続けており、活動報告も更新していますので、どうぞご覧ください!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れ様でした。 リエン君とシャルロット姫の未来に思いを馳せつつ、面白くて壮大な物語を最後まで楽しませてもらいました♪ 素敵な物語を書いて下さって、本当にありがとうございました~!
[一言] 完結おめでとうございます! 素晴らしいラストでした! いい意味で不穏なエピローグも堪りませんね!w 次回作も楽しみにしております! 名作をありがとうございました!
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