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離縁1


 ☆


 色々ありすぎて寒がり店主の休憩所に到着した俺とシャルロットとパティは吸い込まれるように布団に入って寝てしまった。

 翌朝、朝食を食べ終えると母さんから『クアン様が魔術研究所の図書室に来て欲しいそうです』という伝言を受けて俺は今魔術研究所に来た。

「それにしても俺一人というのも気になるな」

 頭の中には精霊もいるけど、昨日の出来事を経て魔力を消費しすぎたせいか、声をかけても返事が無い。いるのは分かるんだけどね。


 入口の受付を済ませて図書室へ向かうと、そこにはクアンが待っていた。

「こっちだ」

「うん」

 個室に案内され、椅子に座った。

「まず重要な質問として『斎藤離縁』と書かれた紙はどうなっている?」

「そうだ、まだ確認していなかった」

 鞄から紙を取り出すと、ドグマの攻撃で消えていた部分が戻っていて『斎藤離縁』とはっきり書いてあった。

「まずは生還おめでとうだ。これで魔力お化けと君は無事にこれからも生きていけるということだ」

「あはは、実感わかないけど」

 むしろドグマに攻撃されていた時の方が死の恐怖があったかな。

「今のはほんの雑談だ。実際は君の母親からお願いをされたのだよ」

「母さんから?」

「君が何者かという問題についてだ。君の母親の口からはどう話して良いものかと相談を受けて、クーが引き受けたのだよ」

 俺が何者か……。

 もともと俺は母さんとは血がつながっていない。だから自分が何者かを知りたいと思った。

 途中で実は『斎藤離縁』という名のチキュウの人間が前世だという事を知り、その『斎藤離縁』はパムレ……マオを生み出した。

「パムレを生み出したという科学者だったという事は知ったし、答え自体は見つかっているかなって思ってるけど」

「それは実績に過ぎない。では問うが、どうして斎藤離縁氏は数百年後の未来に生まれ変わる仕組みを作ったのかな?」

「え?」

 考えもしなかった。

 前世は科学者とやらで、パムレを生み出して、普通ならそこで死ぬけど、実際は遠い未来で母さんの近くに転生した。何故だ?

「答えは簡単だが凡人にはできない芸当だ」

 そう言ってクアンはスラスラといつも通りの口調で話し始めた。

「クーは明日や明後日の天気を空を見ただけで当たることができる。が、明後日以降は難しい。四日後は当然五日後は不可能に近い。が、斎藤離縁氏はそれすらもできる人だったのだろう」

「俺の前世が? 未来を見る魔術が使えたってこと?」

「端的に言うとクーよりも優秀という事だ。おそらく何かを察知して数百年後の未来に何かが起こり、その事件は自分にしか解決できないから自分を延命装置か何かで眠らせたのだろう。その後、赤子の状態でこの世界に来るところまで想定したかは不明だが……今回の旅が赤子の状態でできるかと問うた場合、不可能だろうな。誤差も考慮したか、それとも赤子になることすら計算済みだったか」

 かかかっと笑うクアン。

「クーは地球で学んだあらゆる分野を全て頭に入れてある。しかしそれでもなお百年後の予想はできない。もはや予想という範囲を超えて魔法と言いたいくらいだな」

「俺の前世ってクアンのいた時代より前なんだよね」

「そうだ。クーの時代では人工的に人を作るのは法律……この世界の禁忌と呼ばれている。将来戦争が起こった場合そういう技術を取り入れる予想はしていたがな」

 確かパムレって元々戦うために作られたって言ってたよね。そう言う意味ではクアンの予想は的中していると思うけどね。

「じゃあきっと前世の俺もチキュウの技術をいろいろ勉強してるだろうし、そこにクアンの名前があったら尊敬すると思うよ。十四にして天才学者現るって」

「ふむ。嬉しい言葉だが天才とは違う。クーのこれは努力の結晶だ。あらゆる物に興味を持ち学んだ結果が今に至るだけなのだよ」

 ニカっと笑うクアン。

「さて、お世辞は抜きにしてそんなクーをも超える斎藤博士だが、きっとこうなる未来も予想しているだろう。その辺にいる手ごろな神に依頼をして今の地球を訪ねるが良い」

 そう言って一枚の紙を渡してきた。そこには手書きの地図が書かれてあった。

「フーリエ店主から住所は聞いたが、ほぼ廃墟と化した日本に住所は意味を持たないだろう。あらゆる予測と少ない情報からある程度の地形の予想はできた。多少絵がわかりにくいのは愛嬌という事で許してくれ。クーは画家では無いからな」

 そう言ってクアンは椅子を立った。

「話は終わりだ。クーはこれからマリー女史の手伝いをしなければいけない。その内フーリエ店主の料理が恋しくなるからまた会いに行くよ」

「うん。待ってるね」

 そう言って部屋からクアンは出て行った。


『手ごろな神って儂の事かのう』


 そう言って突然俺の手が光った。球体となって机の上に乗っかった。

 パーっとちっちゃい人の姿が見えた。身長はパムレくらいだろう。

「えっと、光の神ヒルメ様?」

『リエン殿の中にある隔離された場所で会った以来じゃのう』

「そうですね。そういえばクロノさんの腕が修復されたから、すぐに出てきても良かったのでは?」

『他の神は知らぬが、儂は助けてもらった者には礼を言う。それに先ほどの人間も言っていたが、恩を返すという意味でもすぐに帰らなかったのじゃよ』

「地球へ連れて行ってくれるのですか?」

『そうじゃ。幸いにも運命の神は儂の宿主を少し困らせておったし、儂の力と運命の力を借りれば余裕で転移が可能じゃろう』

 神々にとって都合が良い。そういってフォルトナさんは手を貸してくれなかった。いや、結果的にフォルトナさんが手を貸してしまった方がまずかったのかな。

「あ、時間があるなら俺の精霊も出して挨拶させないとね」

 そう言ってセシリーとフェリーを召喚した。


『この度はお日柄も良くー』

『今日もお美しいー』


 召喚して早々に頭を下げる精霊ズ。

 そして髪がボサボサなのはもしかしてまだ爆睡してたのかな?

 叩き起こす真似をして少し悪いと思った。


『のう精霊よ。人間の中はどうだ?』

『正直大変なことばかりです。鉱石の神や神の神などと同じ机に並ばされたり、悪魔が近くにいたりなど、初めて『悩む』という感情を抱いた気がするのじゃ』

『でも、悪くは無いー』

『そうか。今が一番楽しいかもしれぬぞ。存分に楽しむのじゃ』

 そう言うとセシリーとフェリーは元気よく返事をした。


 ☆


 一旦自宅に帰ると、母さんは食堂の営業を行っていて、シャルロットは手伝いをさせられていた。『姫研修中』がまだ続いているのか。

 小っちゃい店員さんとしてパティもせっせと働いている。なんだか申し訳ないんだけど……。

「あ、お帰りなさいリエン。と、そちらは……あうぅ。シャルロット様、ちょっとこの場はお願いして良いですか?」

「へ、いいですが……リエン。そっちの小さなお客さんは?」

 俺の後ろにいるヒルメ様を見て今にも抱き着きそうな表情を浮かべている。シャルドネさんの血が少しでも残っていたらこうはならなかったろうに。


「ふむ、ヒルメとは面白い人が来たな」


 と、プルーの声が聞こえた。

 どうやら昼食でここを利用していたみたい。

『改めて見ると、やはりその姿には驚くのう。破壊の女神よ』

「今は『危篤者の代弁者』として役に立っているぞ」

 光の神。そして神の神。母さんにとっては地獄だろうな。



「緊急招集があったから来たぞ。チャーハンなら任せるのじゃ」



 鉱石の神まで来ちゃった!

 え、何ここ。神々が集う場所になった?

「うーん、仲間外れは良く無いわよね。『クロノちゃん』!」


 そう言ってポンっと音を立てて小さいクロノさんが召喚された。



「いや待て、今非常に重要な作業中だから呼ぶな! って、ヒルメまでいるじゃない! こんなところにいないで自分の管轄なら少しは手伝いなさいよ!」


 神々の喧嘩が始まってしまった。

 そしてサラッとクロノは重要な作業をしている最中って言ってたけど、大丈夫かな?

『まあまあクロノ。そう言って実はほとんど時間の修復は終わってて、とりあえず八つ当たりしたいという感情くらい読み取れるわ。それよりももう一つ……いや、皆にちょっと儂からお願いがあるのじゃ』

「ふむ、どんな依頼か?」

『なに、儂とリエンについて来て欲しいだけじゃよ』


 ☆


 魔術研究所の館長室。そこにはマリーさんや母さん。そして今はクアンが働いている。

 扉を開けるとそこにはマリーさんが書類作業をしていた。

「あら、いらっしゃい」

「こんにちは。ちょっとミリアムさんの所の空間の裂け目を使いたくて」

 以前ミリアムさんの居た場所から帰って来る際、てっきり転移術で来るかと思ったらこことあっちの世界をつなげる穴が生成された。

 クアンも時々あっちに戻って資料を漁ったりしているみたいだし、フォルトナさんで色々と実験しているらしい。

「……そろそろ来ると思ってた」

 そしてマリーの隣にはパムレが立っていた。

「パムレとパティ。悪いんだけどちょっと地球について来てくれるかな?」

「……うん」

 パムレは頷いた。パティはと言うと、少し迷いつつも最後には頷いた。

 部屋の奥からは母さんがひょっこり現れて、不安げな表情で話しかけてきた。

「地球に行くのですね」

「うん。でも帰って来る。約束する」

「そうですか。では、沢山料理を作っていないとですね!」

「全く、フーリエは心配性ね。リエンが地球に一度帰ったらもう二度と戻らないんじゃないかってずっと言ってくるのよ」

「マリー様!? それは言わない約束で!」

「あはは、心配なら母さんもついてくる? もし地球に残ってもドッペルゲンガーで増えればとりあえずマリーさんの負担は変わらないだろうし」

 そう言うと母さんは苦笑しながら言った。

「あはは。とても良い提案ですがさすがに『これ以上』はやめておきます。神々の監視が結構大変なので」


 一瞬空気が変わったような?

 何となくだけどクロノさんが一瞬鼻で笑ったような?


(リエン様よ。あまり大声で言えぬから脳内で話すぞ)

 セシリー?

(リエン様の母上はすでにこの世界だけでも数十。他世界にもいる状態。精霊でも意識を共有して分体を出して動けるのは三体くらいで、それも全て行動に制限される。一方でリエン様の母上は長い年月で全部を自在に操れる。神々にとってかなり危険視されている人物なのじゃよ)

 そうなの!? いや、そう思ってたけど!

「えっと、とりあえずさっさと地球に行って用事をすませよう!」

 そう言って空間の穴からミリアムさんの住む世界に移動した。


 ミルダ大陸に戻った時と同じ場所の大広間。周囲に柵が作られて、関係者以外立ち入り禁止となっていた。

 柵から出ると、母さんが笑顔で待っていた。そう言えばこの世界にもドッペルゲンガーで一体増やしてたんだよね。

「フォルトナ様なら今頃クアン様のご自宅で昼寝をしています。ドッキリをしかけるなら今ですよ?」


 ドッキリ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 神様大集合ぅ!!!!
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