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望遠鏡奪還作戦3

 ☆


 何度か三大魔術師の力というのは見させてもらったけど、今回はより一層痛感したと思った。

 フェリーの全力やフブキの刀が通らない相手に対して、たった一瞬で決着をつけてしまった。

 しかも巨大な爆発ではなく、小さな弾丸だった。


 化け物の腹部には小さな穴が開いていて、手足はまだ少し動いているけどシグレット先生の話では「危篤状態」とのことだ。

 遅れてシャルロットがやってきて怪物を見て驚いていた。

「これは一体」

 そう言うとシグレット先生は答えた。

「おそらくこの『北の医師団』の頭だろう。俺の研究資料を見様見真似で色々と実験して、最終的に自分を実験体にして薬を飲んだんだろうな」

「助からないの?」

「無理だ。魔獣の血で汚染された人間が正常に戻る事例は少ない。ここまで人間離れの状態となればもう不可能だ」

「そんな……」

 確かに目の前にいるのは怪物だが、元々は人間だ。シグレット先生の研究資料を盗んだ罪を死で償うのは重すぎる。


「暗い顔をして、ここは葬式会場か?」


 そんな声が廊下の奥から聞こえた。

 黒い服。小さい背丈。あれって。

「プルー? どうしてここに?」

「リエンよ。忘れたか? プルーの本業は『危篤者の代弁者』ぞ? 姿形が変わっても危篤者に変わりは無い。そいつの最期の言葉をプルーが代弁してやろう」

 そう言ってプルーは手をかざした。


『あと少しだった。ミルダ大陸に全ての拠点を置き、あらゆる国を自在に操る存在になるまであと少しだった。腕や足の形は変わり、とうとう顔も変わった。人の言葉も話せなくなった。俺は……誰だ』


 プルーの口からそんな言葉が発せられた。

「……いかにも悪役」

「でも殺す必要まであったの?」

「……一撃で仕留めなければリエンが死んでいた。一応強く言っておくけど、リエンを守るためにマオは動いた。大切な人達を失いながら悪人の命の保証をするほどマオは優しくない」

 その言葉に俺は言い返せなかった。その通りだからだ。

 あの場でパムレが攻撃をしなければ俺たちは全員危険だった。あの怪物の状態で生かすなんて普通は無理だ。

「くそ! プルー、神の神ならこの人間から魔獣の血を取り除いて人間に戻して傷を戻すくらいできないのかよ!」

 完全に八つ当たりだ。

 今まで運よく残虐な場面に出会っていなかっただけで、パムレや母さんは色々な事態に対処していたはずだ。そんな中『できるぞ? 魔獣の血は半ば生き物だから結構面倒だしとりあえず取り除いて、変化した部分はとりあえず代わりの依り代を創造してそれに憑依させればいいな。ほれ』最善の策を取ってくれたんだ。俺のこの感情は……ん?



 ふと我に返った。今なんて?



 目の前を見た。



 ポカンと表情をした知らないおじさんが、パンツだけ履いた状態で地面に座っていた。


 俺と目が合い、お互いニコッとした。


「か……かくほおおおおお!」


 ☆


「ね! ね! リエン、今どんな気持ち!? いつも私を悪者にしてすっごい暗い雰囲気をうっかり自分の発言で吹っ飛ばした気分はどう? ね! ね!」


 うぜえええええ!


 トスカさんの時とか確かにこのパムレ大好き姫はくらい雰囲気をうっかりぶち壊して結果平和的解決に持ち込んだけど、こんな気分なんだな!

 着地点としては良いはずなのになんかすげー恥ずかしいんだけど!

「……一応言っておくとパムレは本気の半分をぶっ放した。結構疲れたんだよ? それをあっさり解決されるとパムレもさすがに複雑だよ?」

 パムレもパムレで俺の頭にしがみついて頭をぐりぐりしてくるんだけど!

「えとえと、皆様仲良しですね!」

「パティは見てないで俺を助けてよ!」

 そんなこんなで、寒がり店主の休憩所へ戻り、反省会を行っていた。

 部屋には俺、シャルロット、パティ、パムレ、フブキ、プルー。そしてクアンが居る。

 さすがに個室には入りきらないから広い部屋を借りて集まった。

「そうじゃった。リエン殿。これは返す」

「ああ」

 そう言ってガラン王国の秘宝の短剣をフブキから受け取った。

「え、フブちゃん何で持ってるの?」

「儂の刀が折れての。まさか鋼よりも固い肉体を持つ怪物が現れるとは思わなかったのじゃよ」

 そう言って刀を出す。見事に二つに折れていた。

「形あるものは壊れる物じゃ。これは今まで一番付き合いが長い刀じゃったが、まあ村の鍛冶屋に作ってもらおう」

「そう。一応私の知り合いに良い武器職人いるけど、大丈夫?」

「はは。この刀もなかなか折れにくい。そのリエン殿の短剣くらいの強度を持つ刀を作れるものであれば喜んでお願いしたいのう」



「え、その短剣を作った人よ?」



「うむ。一生仕えるぞ。ご主人」



 ゴルドさんの事じゃん。時々話題に出て来るけど一応原初の魔力の精霊だから! 序列的に結構高い人だから。

 と、そこへお茶の入ったコップをいくつも持っている母さんが部屋に入ってきた。

「何の話かと思ったら武器の話ですか。ワタチも多少武器作りに覚えのある人ならいますし、お願いすれば聞いてくれますよ」

「店主よ。気持ちは受け取ろう。じゃが、その短剣よりも良い刀を作れる人はそうそうおらぬじゃろう」



「その短剣を作った人の父親です」



「儂、主を乗り換えて良き?」



 アルカンさんの事じゃん。鉱石の精霊と神がだんだんご近所さんレベルまで格下げしてるんだけど! まだピーター君の方が偉く聞こえるよ!

「それよりも母さん、北の医師団の人はどうなったの?」

「シグレットにお願いして連行してもらいました。違法薬物は立派な犯罪ですし、とりあえずすぐに牢屋でしょうね」

「そっか。ん? でも北の医師団の盗んだ記録ってシグレット先生の研究資料なんじゃ? ということはシグレット先生も違法薬物を持っていることにならない?」

 その言葉に母さんは赤い目を光らせた。


「権力とはこういう時に使う物です。魔術研究所の副館長の言葉の重みがどれほどの物か、リエンはまだ知らなくても良いかもですね」

「今すぐ母さんも逮捕された方が良いんじゃないの!?」


 何犯罪を容認してるの!?

「冗談ですよ。魔術研究所の研究関連は全部ゲイルド魔術国家から許可を得ています。内容もゲイルド魔術国家で把握していますし、シグレットが研究する分には問題ありませんよ」

「最初からそう言ってよ!」

 母さんの言動は時々冗談に聞こえないよ!

「さて、リエン」

 クアンが話を切り出してきた。

「本来の目的である時の女神の腕を修復するために必要な道具……を探すために必要な道具は手に入った。ある意味ここが一歩目にしてここからは手早い」

「えっと、まずはこの『見透かしの望遠鏡』を使うわけだけど、何を探せばいいのかな?」

「探す物は二つ。一つは失った腕だ。そしてもう一つは『ネクロノミコン』だ」

 魔術が使えない人でも簡単に使う事ができる禁書ネクロノミコン。いつの間にか行方不明になっていてどこにあるかわからにんだよね。

「簡潔に解決方法を言うと、ネクロノミコンを使って時の女神の腕をくっつける。それだけだ」

「え、クロノさんは?」

 どこかにはいるみたいだけど、時間を扱う神だからそもそも今いるのかもわからない。

「そんなのクーの助手であるフォルトナに依頼すれば『運命的』に呼ぶことができる。とは言え、腕が無いのは本人が一番困っているはずだから、取り戻せば言わなくても来るだろう」

 それもそうか。

「じゃあ早速覗いてみるね」

 そう言って俺は『見透かしの望遠鏡』を覗いてクロノさんの腕の場所を望んだ。


「うーん、なんか薄暗い?」

 天井の様な……教会?

 いや、見覚えはありそうな……ん、今一瞬本も見えた。もしかしてネクロノミコンとクロノさんの腕は同じ場所にあるのかな。


「ぼやっとしているけど、薄暗い場所にあるよ?」


 その瞬間、クアンは俺に大声で質問をした。


「すぐに答えろリエン少年。『静寂の鈴』の効果は何だ!?」

「え、え?」

「早く!」

「た、確か魔力を抑え込んだり、寿命を延ばす……とか」

「わかった。説明は走りながらする! フーリエ殿、とりあえず今すぐミルダ殿を多少怪我させる勢いで吹っ飛ばせ!」

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