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リエンの苦悩2


 前世の記憶の中って、ある意味夢みたいなものだよね。

 ということで試しに魔術を使ってみた。

「『火球』」

 うん、手からは何も出ない。ということはこの体は『リエン』では無いのだろう。

 試しにセシリーやフェリーを呼んでみたけど駄目だった。契約しているのは『リエン』だからなのかな。

 それとも二人とも精霊だから来れないとかなのかな。

「まあ無理だと思うけど、一応契約したプルーも呼んでみるか」

 そう独り言をつぶやいて、頭の中でプルーを呼んでみた。まあ無理だとは思うけど



 ガラガラバッシャアアアアン!



「うん。せめて布団とか柔らかい何かの上で呼べばよかったかな」

「人間と契約するとこれほど扱いが雑になるのか。プルーはこの先の行方がとても心配ぞ?」

 黒装束のプルー。いや、まさかダメ元でやったから来てくれたのは嬉しいけど、予想外でもあるんだよね。

「リエン様よ。ダメ元でも呼ぶならばせめて最低限の配慮はしないか? プルーはこれでも一応神ぞ? 契約上プルーは下だから『様』を付けてるが、こう扱いが雑ならこっちももう少し肩の力を抜くぞ?」

「ごめんって。それと『様』は外していいよ。というか何で来れたの?」

「プルーは神だからな。そうとしか言えない。ふむ、周囲を見る限りここはリエンの夢の様な空間か。前世の記憶に迷い込んだか?」

「いや、ミルダさんの鈴の音を聞いたら眠くなって、気がついたらここに来たんだよね」

「音の魔力に当てられて……ふむ、まあ深くは考えないでおこう。それで、リエンはここから帰りたいのか? それとも前世の記憶をもう少し見て回っていくのか?」

 前世の記憶という事は俺が何者かというのが全てわかる。俺が何者かという答えはここに全てあるということだ。

「もう少し見て回りたいんだけど、プルーも手伝ってもらえる?」

「別に良いが、あまり長居はできないからな」

「夢みたいな場所だから?」



「いや、今状況的にはリエンの頭の中に神が入った状態だからな。プルーも力を抑えているが、長時間滞在すると『ポン』するからな」

「だからその『ポン』って何なんだよ!」



 まさかプルーも使ってくるとは思わなかった。

「しかしなかなか無機物な世界だな。周りは鉄。光も電気によって作られた灯。扉の向こうに見える町の光は生きているようで死んでいる。これでは『光の神』のヒルメも苦労するだろう」

「どういうこと?」

「この世界、つまりチキュウは文明が発達しすぎた。もともと魔術が存在しない世界で人間が独自で色々な発明をした挙句、神がいらなくなった世界。神が必要とされなくなったら最後、神はただの人形同然なのだよ」

 クアンの論文にも色々書いてあったっけ。

「じゃあその『光の神』がばばーんと出てきて困ってる人を助ければ良くね?」

「それができたらとっくにやっている。神は人を管理する存在であり、干渉はできない。もしも干渉し神としての存在意義が全ての人々に知られれば、人と神の関係性は逆転するからな」

 ミリアムさんが説明してくれた内容が過った。一番上に神。そして一番下に人。この関係性が逆転してしまうと、神々にとって不都合という事実。

「じゃあ神様が困っていても助けを求めては来れないんだ」

「想像に任せる。その質問には答えられないからな」

 そう言って俺のコップのお茶をプルーは飲んだ。

「時の女神クロノさんも実は助けを求めているとか?」

「プルーからは何も言えないな」

「実はアルカンムケイルさんはチャーハン作りに苦痛でも逆らえないのはそういう事情があるから?」

「あれは特殊すぎるが……っと、それ以上は言えん」



「そのコップ、俺が口付けたコップなんだけど」

「早く言わんか!」



 そう言ってコップを投げてきた。と言うかそう言うの気にするタイプなんだ。

 思いっきり割れた音が鳴り響く。同時に部屋の扉が開いた。

「どうしましたー?」

「アカネさん!?」

 まだ帰ってなかったのかな?

「忘れ物して戻ってきたんですよ。と言うかこれは」

 しまった。夢のような空間とは言え部屋に少女を連れ込んでいたとか何て言えば。

「コップ落としたんですね。はあ、そんなに疲れているなら早く寝てください」

「へ?」

 プルーを見るとため息をついていた。

『認識阻害くらい造作もない。プルーは神ぞ?』

 そう言えばこの人『神』の魔力を持っている神だったね。



「あと、その女の子は誰ですか?」

「思いっきりバレてんじゃん!」

「あれええええ!?」



 本人が一番驚いていた。

「この子は俺の親戚で、家出してきちゃったみたい!」

「そそそう! リエンおじさんの場所を探してやっと会えた!」

「そうなんですか。というか親戚にこんなかわいい子がいたんですね。ちょっとモフって良いですか?」

 すげー目をギラギラさせているアカネさん。なんかどっかの国の姫に通じる何かを感じる。


「ん? いやいや待て貴様。ここはリエンの記憶の中だ。どうしてプルーを認識できる? プルーは本来この前世の記憶の世界には存在しないはずだ! 前世の記憶に矛盾を生むわけにもいかないから『認識阻害』を使ったのに、どうして容姿まではっきりと分かった!?」


 瞬間移動して俺の後ろに隠れるプルー。いや、何その高等魔術。サラッと凄い事しないでくれる?

「バレちゃいましたか。もう少し遊びたかったのですが……まあ良いじゃろう」


 そう言って突然光輝いた。

 やがて光は収まり、目の前には赤と白が特徴のきれいな衣服を着ている少女が立っていた。

 髪は黒く、そしてどこか神々しい感じを醸し出している。

「ひ、ヒルメ!? 貴様何故ここに!?」

 ヒルメ。何度か聞き覚えのある名前だ。

「それはこっちの台詞じゃて。なぜ『あの女神』がここにいる。と言うか行方不明じゃったろうに」

 かかかっと笑う少女。それを見て焦るプルー。

「えっと、知り合い?」

「知り合いも何もこいつは『光の魔力の神』のヒルメだ!」

 原初の魔力『光』の神。突然の登場に驚くしか無かった。

「改めて我はヒルメじゃ。地球管轄の神で、そっちの『女神』とは犬猿の仲じゃよ」

「はあ、あ、さっきはお茶をありがとうございます」

 俺、神にお茶を持ってきてもらってたんだ。神にチャーハン作らせてる母さんの事悪く言えないじゃん。

「それくらい気に病むほどでも無かろう。むしろ我こそ居候じゃて」

「居候?」

「今地球の時間軸は狂っている。その状況下で神が管理をすると、その後の歴史に影響を及ぼしてしまうのじゃよ」

「地球の歴史が戻ったというのは神様にも影響しているんですね」

「信仰が薄れど影響は出る。一人でも神の存在を必要とすれば、それだけで存在する価値はある物じゃよ。まあ、そっちの『女神』は信仰を無理やり作っていたがの!」

「今はまっとうに生きてるぞ! それにプルーはもう『女神』という仮名ではなくプルーとなった」

「知っている。ずっとリエンの目から見ていたからのう」

 なんかすげー仲良しにしか見えないんだけど。姉妹みたいな感じ。

「えっと、どうして俺の前世の記憶の中に居候を?」

「他の記憶の世界とは違ってリエンの世界は隔離されているからじゃのう。本来別の世界に行っても管轄に影響を及ぼすはずの神ですら『離縁』という名前に刻まれた魔力は強いということじゃ」 

 やっぱり俺の名前何かと強いじゃん。

「えっと、俺の前世の記憶に居候ってことは俺の中にいるってことですよね?」

「そうじゃよ?」

「なんかそれはそれで居心地が悪いので出てってもらっても?」

「そうなると今の狂った地球と我が干渉してリエンにも影響が出る。最悪その存在こそ危うくなるぞ?」

 ふむ。


 実は一つ、引っかかっていることがあった。

 クアンの論文には『神は人間に助けを求めることができないかもしれない』という一文があった。

 現在地球の時間軸が狂っていて、一番困っているのは間違いなくこの光の神ヒルメ様だ。

 俺の前世の記憶の中に無断で入ったのは、許可を取ってしまえば『人間と神の立場が逆転』してしまうからだ。

「ではヒルメ様。一つ取引をしませんか?」

「む? 取引とな?」

「俺はどうやらこのまま何もしなければ死んでしまうみたいです。俺の前世の記憶を住処にして良いので、クロノの腕を持っていると思われる人間の場所を教えてください」

「ほう」

 にやりとヒルメ様は笑った。

「女神改めプルー。お前も面白い主を持ったな」

「頼りない子供だがな」

 まあ、二人からすれば俺はまだ若いかもしれないけどね。どっちも実年齢は分からないしプルーは肉体だけ十四だけど、実際それ以上でしょう。

「ある程度リエンの世界にいるクアンという人物がその人間とやらについて場所の目途は立てているだろう。が、その人間は既設の説が無ければ答えまでたどり着かない。その一つの情報さえあれば容易に見つかるし、その人間も逃げることはできまい」

「その一つって?」

「後発魔力『無』の存在を知れば、消えた行方をくらましているレイジという存在やネクロノミコンの存在を容易に見つけることは可能じゃろう」

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[一言] リエンくんしゅごい( ˘ω˘ )
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