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宿に向かう途中の雑談

 ⭐︎


 あの天才とも言えるクアンから一本取るマリーさんはやはり侮れないのだろう。いや、シャルロットという存在を知っていたかどうかで実際は紙一重な状態とも言える。

 とりあえず俺の隣を歩くご機嫌なお姫様と隣をトコトコ歩くパティ。


 と、俺の背中でぐったりしているパムレをなだめながら魔術研究所から出て寒がり店主の休憩所に向っていた。


「……何もいたずらとか、何ならほぼ無口で隣でお菓子を食べてただけなのに酷くない?」

「これを期にミルダ大陸の言語を覚えたら?」

 クアンはシャルロットの名前を思い出すために色々と頭の中で考えたらしい。

 独り言も多く、パムレは無意識にそれを聞こうとしていつも通り『心情読破』を使ったらしく、フォルトナさん同様にパムレも具合を悪くしたらしい。

「というか神のフォルトナさんは立てなくなるほどだったのにパムレは具合を悪くなる程度なんだね」

「……多分だけど『心情読破』でありえない情報量が流れ込んだから反射的に『心情偽装』で自分を制御した。普通の人なら頭がポンする」

 危うくあの館長室が血の海状態になる所だったのかよ。

 いや、パムレの言うポンは俺の思うポンと異なっているのかもしれない。こう、ちょっと気を失う程度かもしれないね。



「……何考えてるの? ポンはポンだよ?」


「断言すな!」



 やはりポンはポンだったか。何だよポンって。いや、多分想像すると夜トイレに行けなくなるタイプのポンだと思うんだけどさ!

「と言うかパムレを背負うのシャルロットの方が良かったんじゃない? こういうの率先してやるでしょ?」

「ふふふ、ガラン王国剣術には体力も必要よ。不本意だけどパムレちゃんはちょうど良い重さだから体力を鍛えるのにはちょうど良いのよ」

「へー。本当は?」



「『……リエンが良い』って言われて」


「そんな悲しい目で俺を見るな! ほら、パティ、シャルロットの手をにぎにぎしてあげて!」

「は、はい!」



 そう言ってパティはシャルロットの手を握ってとりあえず落ち着かせた。

「それにしても『世界の理』だの一刻も早くレイジを見つけてクロノちゃんの腕を修復だの、色々ありすぎて頭が混乱するわね。私もリエンにおんぶしてもらおうかしら」

「結局クアンから聞き出せたのはクロノの腕が消滅したんじゃなくて奪われたという事実。それを取り戻して修復くらいか」

 長い段取りを踏んで情報を聞き出したあげく進んだ距離は一歩。そんな感じだろう。

『ふむ、一応言おうかとても迷っていたのじゃが、口出しして良いか?』

「セシリー? どうしたの?」

 ポンっと音を立ててセシリーが目の前に現れた。こっちの『ポン』はまだ平和的である。

『時の女神クロノ様の腕の修復に関しては、間違いが許されないのじゃ。例えばの話じゃが、リエン様が先日契約してしまった神のプルー様にクロノ様の腕を創造させるという裏技もあるにはあるのじゃよ』

「え!? どうしてその方法を言ってくれなかったの?」

 母さんにミリアムさんを会わせたという意味では有意義な時間だったけど、その方法があるならそこまで苦労して模索する必要も無いじゃん!

『じゃから間違いが許されないのじゃよ。もしクアンとやらが仮説とやらで腕を無くした状態から今の現象……つまり奪われたということに気が付かないでクロノ様の腕を生成した場合、腕が二本存在することになる』

「それって」

『過去、もしくは未来が二つになるということで、世界が滅ぶのじゃよ』

 やばいじゃん!

『キューレが運命の切札である程度の道しるべを示した際に真っ先に答えが出なかったのは、運命の切札でさえ答えが出せない難問だった。それをあのクアンとやらがあっさりと答えた。そして我ら精霊でも『禁忌』とも言える『世界の理』を一瞬で理解してもなお平常心でいられる彼女は新たな脅威とも言えるのじゃよ』

 魔力消費を抑えるためにずっと静かにしてくれてたみたいだけど、ずっとそんなことを考えていたのか。

「世界のコトワリか。そう言えばパムレは知ってるの?」

「……全部は知らない。知ってる部分も良くわからないし、声に出すなとは言われたけど出すつもりもない」

「誰に言われたの?」

「……カンパネ。結構前に言われたけど、そもそもちゃんと理解してないからパムレの中ではどうでも良い存在。お菓子さえあれば問題無い」

 神々の世界では重要視されている『世界のコトワリ』とお菓子を天秤にかけると、お菓子が優先されるのか。世界のコトワリ……軽いな。

『とにかく、正直な所我は神の魔力を持つ神がいるならそいつに頼めば良いと安直に考えたが、後発魔力の『運命』により導き出された道しるべに流された結果、正しい方向へ進んだというわけじゃよ』

「まあ、セシリーじゃなくても誰かにその方法を言われたら俺も安直に考えるかもな。それにしてもこの『運命の切札』ってそんなに凄いのか」

 そう言ってキューレさんからもらった運命の切札を鞄から出して眺めた。


「ほう。タロットカードとはまた面白い物を持っているな」


「ってうおあ!? クアン!?」


 後ろにピッタリくっついて歩いているんだけど!

 どうやら誰も気が付いておらず、シャルロットも驚いていた。

「クアンちゃん、マリーの手伝いは良いの?」

「マリー女史の手伝いは明日からになった。今日はフーリエ殿の宿を長期で泊まるために早退したのさ」

「あ、母さんの本名はあまり言わないであげて。色々と都合が悪いみたい」

「む? ああ、現代の英雄の本名と同名……ということになっているのだったな。今後は店主と言おう。それよりもそのカードはリエン少年のか?」

「あ、うん。キューレって精霊からもらったんだけど、極めれば未来を教えてくれるみたいだよ?」

「ほほう」

 興味深そうに見るクアンに運命の切札を渡してみた。


「シャルロット少女。あと二歩進むと雪で転ぶぞ?」


「へ? きゃっ!」


 思いっきりスッ転んだ。

「なるほどなるほど。クーがこれを持ってしまうと非常に危険だ。これは君に返そう」

「いやいや! 完全に予言をしてたじゃん! というかシャルロット大丈夫!?」

 ついでに手をにぎにぎしていたパティも壮大に転んでいた。

「これには答えが描かれている。一方でクーは自分で問題を解き、答えを見るのが好きなのだよ。確かにこのカードを使えばこの先の状況を予言できるがそれではつまらない。できる人が持つというのは間違っていないが、持つかどうかを決めるのは自分自身なのだよ」

 そう言って運命の切札を返された。俺が持っててもただのお守りになっちゃうし、荷物になるだけなんだけどなー。

 っと、そういえば荷物と言えばゴルドさんからマリーさんへ届け物があったのをすっかり忘れていた。

 気が付き鞄からゴルドさんから渡された箱を出した。

「ああ、そういえばゴルドから預かっていたわね」

 頭に雪をのっけてるシャルロットも気がついたみたい。

「ほう。見た目から察するにオルゴールか。蓋を開けると音が出るだろう?」

 どうして一目見ただけでわかるの? もはやその辺の魔術師より怖いよ!

「む? その箱の作者はクーと同じ出身地か?」

「いや、鉱石の精霊だからチキュウでは無いと思うよ?」

「ふむ。箱の横に名前らしき文字が刻まれていて、片方はマリー。もう片方はマーシャと書かれてあるな。何故その鉱石の精霊が英語を知っているのかはクーの中だけで解決しよう」

 なんか一人で色々と考え込んで答えを出そうとしているんだけど。


 そうこうしている間に寒がり店主の休憩所に到着した。

「お帰りなさいリエン。それとシャルロット様にパティ様。そしてクアン様」

「母さん。クアンが長期滞在したいんだって」

「はい。知っています。いやー、ゲイルド魔術国家店は旅人が少ないので長期滞在者が増えるのはとても助かりますね」

「流石はクーが二番目に尊敬する上司のミリアム女史の妹だ。仕事への切り替えがとても速いな」

 そう言ってクアンは何かが入った袋を母さんに差し出した。ジャラリと音がしたという事はお金だろうか。

「ふむ。これだけのお金があれば家を建てるか借りることも可能ですよ? 何故ここで長期滞在をするのですか?」

「利害の一致だ。店主殿は金貨を得られる。クーは食事と屋根のある部屋が得られる。この世界に来た今、地球では知り得なかった技術や文化を味わう為にも料理をする時間を金貨で削れるならば惜しみなく使おう。ついでにこの世界の料理も味わいたいものだ」

「ですがクアン様は本日ミルダ大陸に来たばかりのはずです。どうしてミルダ金貨を持っているのですか?」

「マリー女史には一つ大きな貸があったのだよ。もしも長期滞在するための資金を貰えるならばその一件を無かったことにしようと言ったら即座にもらえたのだ」

 え、俺たちが居た時はクアンがマリーさんに一本取られてたように見えたけど、帰った瞬間マリーさんが一本取られてたんだ。うわー見たかったー。

「マリー様がそう言うならワタチから特に言う権利もありません。部屋も十分にありますが、どうしますか?」


 ☆


 部屋割りは俺とクアンが一人部屋。シャルロットとパティとパムレは一緒となった。

『のうリエン様よ。精霊二体もしくはプルー様も含めると密度的に一番窮屈だと思うぞ?』

「いや、プルーはそもそも契約しただけで教会に住んでるからね」

 正確にはうっかり契約である。

 俺の部屋の扉を開けると、布団の上に誰かが座っていた。


「うっかりで契約されてプルーの自由が奪われるとは、やはり来世を良くするには現世で徳を積むしかないな」


「うおあ! 何で布団の上に座ってるの!?」

 プルーが部屋にいた。全然気が付かなかったんだけど!

「一応プルーは神ぞ? 神術『認識阻害』を使えば気配くらい消せるぞ」

「そ、それもそうか」

 俺ってもしかして一人の時間は永久に無くなってる?

「ん? と言うかセシリーとフェリーは基本的に近くにいないといけないのにプルーは俺と離れてても大丈夫なんだ」

「もう一度言うがプルーは神ぞ? そもそも魔力量が違う。契約したから多少制限がかかったが、それでも『先輩の精霊方』には勝っているな」

 そう言って俺の顔を見てにやりと微笑む。

『あの破壊神『女神』が後輩とか、もはやこの世界の秩序はどうなっているんじゃ』

『やってらんねー。泣きたいー』

 フェリーがどんどん口悪くなってるんだけど!

「と言うか破壊神って。一体何をやらかしたの?」

「ん? この体になる前、つまり『女神』と呼ばれていた時は世界を作って飽きたら壊すを繰り返していたぞ」

「何というヤバイ人と契約したんでしょう。解約できない?」

 さらっととんでもないこと言ったよ!

 そう言えば結構前にゴルドさんから『神様に喧嘩を売って負けた』とか『トスカと一緒に神を封印した』って言われた気がするけど、もしかしなくてもプルーの事だよね!?

「はっはっは。安心しろ。今のプルーは神術が少し使える幼子。それに基本は『危篤者の代弁者』として仕事をしているからリエン様にそこまで干渉はしない」

「それなら良いけど」

「それに、何かとプルーにとってリエン様とのつながりは都合が良いのだよ」

 都合が良い?

「原初の魔力である『神・光・音・鉱石・時間』が軸となっている中で後発的に現れた対となる魔力の『龍・運命・望遠』等。プルーの『神』と対になる『龍』の神とは一度挨拶をしたいと思っていたのさ」

 挨拶って。

「龍の神様っているの?」

「名前だけはな。『龍の神ドグマ』はあらゆるものを破壊する神らしいが、実際破壊された実績は知られていない。もしかしたらその破壊したという実績すらも破壊する魔力かもしれない。そういう意味でも一度顔を合わせたいと思ってな」

「でも俺は別に龍の神様と会う予定なんて無いけど」

 そう言うとプルーは扉の前に向って歩いて行った。


「いや、リエン様の名前に刻まれた呪いにより、プルーとドグマは引き寄せられる。まあ今はクロノの腕を修復するのに最善を尽くすのだな」

 そう言って部屋を出て行った。


『こらー! なーにリエンの部屋に入っているのですかー!』

『ぬあー! 何故貴様は『認識阻害』が通用しない! ぬああああ!』


 ……全然格好つかないなー。

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― 新着の感想 ―
[一言] >俺ってもしかして一人の時間は永久に無くなってる? やっと気が付いたようだね( ˘ω˘ )
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