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あの世から現実へ

 ☆


 ミリアムさんの家に到着し、寝室で今日の出来事を母さんとシャルロットとパティに話した。

「あわあわ、まさかそんな事が外で起きてたのですね」

「あの運命の女神様って人はアホっぽい顔してるけど、本当の顔は恐ろしいのね」


 全員シャルロットの顔を見てため息をついた。


「今私の事をアホっぽいって思った人は並びなさい。男子はグー。女子はほっぺをふにふにの刑にするわ」

「それを言う時点でシャルロットも人の事言えないよね!」


 と言うかシャルロットはアホっぽいというより……いや、これをもし『心情読破』を使われていたら今頃気を失っているかもしれないな。あー俺の顔をめっちゃ見てるよ。そのうちグーだよこれ。

「それにしても神が人間を恐れているなんてにわかには信じられないわね。店主殿やパムレちゃんは確かに強いけど、実際神様に太刀打ちできる力を持っているの?」

 シャルロットの素朴な疑問に母さんは答えた。

「うーん、正直勝てないとは言い切れません。純粋な魔力だけなら全く歯が立ちませんが、ある一部分で神々はワタチ達を恐れています」

「ある一部?」

「この世界の仕組み。つまり『世界の理』を人間達に知られることです」

 世界のコトワリ?

「ワタチ達がいる世界は色々な仕組みの上で生きています。魔術にも何かしらの法則から生み出された産物です。ある程度までの許容範囲はあるものの、ある程度以上の事を知られるのを神々は恐れているのですよ」

 急に壮大な話になってきたな。

「考えてみてください。人間だけで運命を変えられたり時間を動かせたら、神々の存在意義はどうなるでしょう」

「それは……」

 不必要になる。

「ワタチやパムレ様はある分野までは勝手に理解しました。おそらくクアン様も話した感じでは『世界の理』に気が付いたでしょう。だからこそ神々は常にワタチ達の行動を監視しているのですよ」 

 すすーっとお茶を飲む母さん。え、監視?

「じゃあ鉱石神がチャーハンを作っているのって」

 監視のため……?



「あ、あれは完全にワタチがアルカンムケイル様をポンしたので上下関係になったまでに過ぎません」



 だんだん神様の定義がわからなくなってきたよ!

「でもでも、その世界のコトワリに気が付いたら危険なら、店主さんやパムレさんは神様にいつ狙われてもおかしくないのでは?」

「神々のルールでは直接人間を殺めてはいけないとなっているのでその辺は問題ありません。だからこそ今現在レイジの行いでリエンやパムレ様の存在が危うくなっているのは都合が良いのです。人間が人間の手で殺めるのは神様は関係ありませんからね」

「そもそも何故俺やパムレを消そうとしているのかな。世界のコトワリに大きく関係しているとは思うけど、他にも危険人物がいるんじゃないかな?」

「おそらくですが、大きく関係しているのはパティ様だと思います」



 え?



 突然パティは名前を呼ばれて驚いた。

「えとえと、どうしてワタシなのですか?」

「リエンの前世とも言える『齋藤離縁』様はとても優秀でした。それこそクアン様と同じくらい聡明な方です」

 何それなんか嫌なんだけど。

「齋藤離縁様が自らの名前を『離縁』とつけ、そしてこの世界に意図的に転移もしくは転生させたなら、何か考えがあるはずです。そして実際その場には今まで行方をくらましていた『龍』の魔力を持つ少女が現れました。ワタチやマリー様の様なネクロノミコンの一部を読んだ程度では収まりきらない『禁忌』が二人の間に隠されているのだと思います」

「そんな使命を前世が俺に?」

「今更ですがリエン。もう一度問います。タプル村から旅に出る際にリエンは『自分について知る』と言って旅に出ました。その結論の半分はワタチが途中『うっかり』言っちゃいましたが、本質はワタチにもわかりません。それでもリエンは自分自身について知るために旅に出ますか?」

 母さんの目はまっすぐ俺を見ていた。

 シャルロットとパティも俺を見ていた。

「うん、旅は続ける」

「理由は?」

「前世の『斎藤離縁』は何かを俺に託したんだと思う。だからどういう結末であれそれをやるよ。母さんが言った『龍』の魔力が見つかったこともきっと何かの前兆かもしれないし、もしも大事件が起こるなら未然に防ぎたいしね」

「そうですか。ふふ、強くなりましたね。ガラン王国剣術を学んだから考え方もたくましくなったのですか?」

「そうね。師が良いと弟子も良くなるものだわ」

 唐突に威張るなお姫様。


 ☆


 翌朝。

 帰還のために少し広い場所へ集まった。

 俺とシャルロットとパティは荷物をまとめ終え、母さんは目を合わせないようにドッペルゲンガーの母さんと人間の母さんが入れ替わって俺と合流した。

 見送りにはミリアムさんとクアン。


 そして首輪をつなげられたフォルトナさんが隣にいるんだけど!


「えっと、どういう状況かを聞いても良い?」

「簡単な上下関係さ。クーが天寿を全うする限りこの運命の女神とやらは馬車馬のように働くことになっただけさ。クーとの勝負である程度の神々と人間の間に生まれたルールを把握しそれらを問いただしたところ、無限とも言える魔力の提供を条件にクーの口からは『世界の理』を公言しないと言ったまでだ」

「あうう……絶対ヒルメ様に怒られる。アルカンムケイル様もこんな状況なんでしょうか」

 一応俺の実家は週に一日休みもあるし給料は良いから、フォルトナさんよりも待遇は良いと思うよ?

「さて真面目な話しだリエン少年。おそらくおおよその話を君の母親から聞いたと思うが、君は君の思うがままの行動を取りたまえ」

「と言うと、俺について色々と情報を集めるって事?」

「そうさ。フォルトナ助手は今の状況は神々にとって都合が良いと言っているが、同時に不都合でもある。そもそも時の女神の腕が奪われて地球の時間がズレたものの、それは『一回』だ。もしそれが二回、三回と自由に行われた場合『世界の理』以前の問題となりより世界は危うい状態となる。以前クーは制限時間を持ちだしたが、それはあくまでも予想範囲内の最大時間であり、事態によってはすぐにでも終息させなければいけない」

 そしてクアンはパティを見た。

「『龍』とやらの魔力の少女がいる時間軸に目を覚ました理由については、修復した地球で神の前世の日記などを探した方がクーの推測よりも真の答えが見つかるだろう」

「わかった」

 多分クアンは答えにたどり着いているのだと思う。けど、あえて言わないのだろう。それはフォルトナさんとの契約で言えない内容になるのだろう。

 俺の前世が今の俺に何を残したのか。俺がどういう存在なのか。それを知るにはまずクロノさんの腕を修復する。それだけだ。

「ということでフォルトナ助手。ミルダ大陸とやらに繋がる道を作るんだ。クーの考えが正しければ同一人物であるこっちのフーリエ殿とあっちのフーリエ殿の繋がりを利用すれば、容易に道が作れるのだろう?」

「はーい。くう、これ結構魔力消費凄いんですよ? 知ってますか? 神が凄いって言う魔力って人間では想像できない量なんですよ?」

 ぶつぶつ言いつつもフォルトナさんが術を唱えた。

「ありがとうございました。クアンも、色々と助言をありがとう!」

 そう言って頭を下げる。地面は輝きおそらくこの光が俺たちをミルダ大陸へと連れ出すものなのだろう。

 ここへは確かにクアンと出会うという目的があったけど、それ以上に母さんとミリアムさんを会わせたいというものがあった。できる限りの親孝行はできたかな?



 ☆


「お帰りなさい」

 聞き覚えのある声。振り向くとマリーさんが立っていた。

 色々と情報をまとめないといけないし、早々にメモとか取らないと。

「あら、その必要はあるの?」

「え?」

 マリーさんが俺の心を読んでまた話しかけていた。

「リエン。これはさすがに私も予想していなかったけど、後ろ振り向いてみ?」

「へ?」



 振り向くとミリアムさんとクアンとフォルトナさんが立ってるんだけど!?



「リエン少年。言う必要が無かったから特別に君でも分かる説明をしよう。別に君たちを転移させたのではなく、この世界とミルダ大陸をつなげる『道』をこの助手に作らせただけだ。あ、相談ならいつもで乗るぞ? 何ならクーはミルダ大陸とやらにとても興味がある。ちなみに転移ではなく道の作成にしたのはフォルトナ助手との取り引きも兼ねているから、今まではできなかったと付け加えておこう」

「俺の渾身のおじぎは何だったの!?」

 絶対転移魔術だと思うじゃん!

 こんな空間に穴をあける術とか知らんもん!

『一応リエン様に言っておくが、この空間を維持する魔力は一日一精霊分じゃ。やはり神という存在は計り知れんのう』

『理不尽ー』

 頭の中で呆然とする精霊ズ。そう言えば今まで悪魔の母さんが隣にいたから静かにしてたんだよね。

「ということでミリアム女史。少し社会科見学をしにあっちに行っても良いだろうか。そこのマリー女史には少々用事があるのでな」

「わかりました。気を付けて行ってください」

 そして当然の流れでクアンもついてくるんだ。

 割けた空間を通りマリーさんが居た場所。魔術研究所の館長室に到着。

 って、奥の方で母さんがうずくまってるよ?

 すげー震えてしゃがんでるけど!?

「まさか移動先がここになるとは思いませんでしたね。目を合わせないようにしてるので、奥でうずくまっているワタチには構わないでください」

「う、うん」

 それは良いんだけど……。



 同じ部屋に母さん二人いるってなんだか変な感じなんだけど!

 しかもお互い見ないようにすげー足震えて歩いてる!


 ☆


 魔術研究所の館長室の会議スペースに俺、シャルロット、パティ、母さん(悪魔)、パムレ、マリーさん、そしてクアンが椅子に座った。

 人間の母さんは報告もかねてミルダさんの教会へと向かっていった。と言うかこの場に二人いるという状況が色々とまずいよね。

「それにしても久しいわねクアン。元気だった?」

「クーを間接的に殺したマリー女史に出会えて元気になったよ。目の下を見る限りこの職場はとてもブラックみたいだな。いやークーにとってこの上ない朗報だ。クーは未成年だが、吉報に酒を飲む気になる心理とはこのことかと思ったよ」

「悪かったわよ。まさか貴女がああなるなんて思わなかったのよ」

「え、マリーさん、クアンに何をしたの?」

 興味本位で聞いてみた。

「クアンとは元々地球で知り合って、ワタクシは当時ネクロノミコンを持っていたの」

「はあ」



「頭の良いクアンを未来にぶっ飛ばして、地球での惨状を目に焼き付けてから過去に戻ったら、クアンなら地球を平和にできるんじゃないかなーって軽い気持ちでやったんだけど、過去に戻って来なかったから何かあったのかなーって心配してたのよ」

「未来を変える行動を阻止すべく時の神クロノに見つかり、クーにかけられた時間移動の魔術が暴走してさっきの世界に飛ばされたのだよ。実質殺されたのだよ」

「マリーさん完全に悪いじゃん!」



 間接的に殺したって物騒な単語が出たけど、ほぼ直接殺した人じゃん!

「だがマリー女史。ここで一つ提案だ」

「何かしら?」

「マリー女史を悩ます事務処理をクーが一時的に引き受けよう。それで貴女が行った罪を白紙にしよう」

 え、それってマリーさんにとってはかなり良い事なんじゃない?

「ま、マリー様! それはまずいと思います!」

 意外にも声を出したのは母さんだった。

「え、母さん。マリーさんを悩ます事務処理をやってくれるのは良い事なんじゃない?」

「表向きはかなりマリー様にとって良い事です。ですが、魔術研究所の館長の行う事務処理をやるということは、ミルダ大陸の事情を全て把握するということです。いくらミリアム姉様の側近でもそれを任せるのはどうかと思うのです!」

 な、なるほど。一理あるな。

「流石ミリアム女史の妹だ。クーにとって未知なものほど興奮するものは無い。ここでの事務作業は趣味の様なものだ。だが一つ約束をするならば、国に干渉はしないと言っておこう。あくまでも長い文書をまとめたり書類の整理だけで、認可等はマリー女史にお願いする」

 国に干渉しない。つまり、三大魔術師の様な状況ということか。

「分かったわ」

「マリー様!」

「おや、予想以上な物分かりの早さだ。クーはこの後五分は交渉すると覚悟していたが?」

 クアンが疑問を浮かべていると、マリーさんはニヤリと微笑んだ。

「安心しなさいフーリエ。こっちには切札が残っているから」

 そう言ってマリーさんはシャルロットを見た。

「ねえシャルロット。クアンに『私の名前を忘れなさい。そして私の名前を答えなさい』って『心を込めて』言ってみて。クアンはシャルロットの言葉をしっかり聞いて、シャルロットの質問に答えるように名前を言いなさい」

「え、良いけど……」

 そう言ってシャルロットはクアンにマリーさんの言葉を復唱した。


「『私の名前を忘れなさい。そして私の名前を答えなさい』」



「ん? 何を馬鹿なことを言っている。そもそもクーは物事を忘れることなんてない。君の名前はクーの頭の中にしっかりと刻まれているし、マリー女史も先ほど君の名前を呼んだ。例え君の名前をあらかじめ聞かなくても先ほどの会話で君の名前らしき単語を聞いた以上クーじゃなくても簡単に答えられ何故思い出せないいいいい!」



 クアンが叫んだ。え、今まで淡々と話す少女という印象だったのに、結構大声を出すんだね。


「フーリエ、もしも国家機密を知られたらこうするから安心しなさい」

「それなら安心ですね」

「安心ではない! ちょっと待て、何故だ。魔術か!? クアンが人の名前を忘れるとは有ってはならない……駄目だ……過去のあらゆる記憶から君の名前に関する情報が全て欠落している。頼む、教えてください、何でも命令に従う!」

「そう? じゃあ」


 そう言って、シャルロットは膝の上をポンポンと叩いた。



「膝の上に乗りなさい。クアンちゃん」


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[一言] 前回はあんなに凄かったクアンちゃんがwww
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