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密会と裏事情


 ミリアムさんが地面に三つの丸を縦に描いた。中心にはそれぞれ『神』『精霊』『人』と書いた。

「簡単な力関係です。上が強く、下は弱い。人間は精霊に対しては数で押し切れるかもしれませんが、神という存在だけは無理だと思われています」

「思われています。というと、無理では無いということ?」

「はい。フォルトナさんがクアンさんの下で助手をしているのは単なる責任を果たしているだけに過ぎません。一秒あればクアンさんの命を奪う事くらい容易いです。飼い犬も主人には従順ですが、その力は飼い主を簡単に超えているということです」

 ミリアムさんは『人』と書かれた場所から一本の線を引いた。それは『神』と書かれた丸の上まで続き、線は矢印になった。

「妹のフーリエが鉱石の神を下僕のように扱っている状況を聞いたフォルトナさんは危機感を感じている様子でした。同時に『神』の魔力を持つ精霊も未契約状態で従えているということは『契約するまでも無い』とも解釈できます」

 いや、キューレさんに関しては名前があるから契約ができないんじゃないかな。

「それこそクアンの助手をしている感覚で気まぐれでチャーハン作りをしているだけなんじゃないの?」

 チャーハン作りがなんだか前面に出ていて話がとても滑稽になっているのは木の所為かな。

「問題はそこではなく、鉱石の神と神の精霊が同じ人間の下にいるという部分です」

 確かにどっちも原初の魔力を持つ神や精霊だから変な組み合わせではあるけど、特別凄いとは今更思えないんだよな。



「では簡単に私が教えますよー。運命の魔力を持つ少年君と、あの壊れた人間のお姉さん」



 いつの間にか後ろにはフォルトナさんが立っていた。


「馬鹿な! 私は今までにない魔力量の『認識阻害』で身を隠していたのですよ!?」

「私に隠れたければ逆に何もしない方が良かったですね。『神術』は所詮魔力を原動力とした物質みたいなものです。神であるこのフォルトナさんはそもそも心が無い以上『認識阻害』は無力。単純に魔力が集まっている個所の中心に二人がいるって状況が丸見えだったのですよ?」

 不気味な笑みを浮かべてフォルトナさんは俺たちに近づいてきた。

 俺の前にミリアムさんが立ち、俺に話しかけた。

「リエンさん。できることならフーリエを連れてこの世界から逃げてください。一番聞かれたくない人に聞かれてしまいました」

「それは無駄ですよー。運命の神を侮ってませんか? 運命的に少年を引き寄せることくらい容易い……いや、少年に関しては少し頑張らないといけなかったですね」

 不気味に微笑むフォルトナさんに俺はたじろぐしかできない。

「それにしてもさすがあのクアンさんが唯一尊敬する人ですね。今現在私達神が人間を恐れているという部分に関して察するなんて、やはり感情に関して少し勉強するべきでしたね」

「どうするのですか? このまま私とリエンさんに危害を加えるのですか?」

「それをしたらそれこそ自滅です。ただでさえあの龍の魔力の少女と悪魔術を使いこなす人間が近場にいる中で騒ぎを起こしたら、私は無事でも他が無事じゃありません」

 そう言ってフォルトナさんは一本の棒を拾い、先ほどミリアムさんが地面に描いていた絵に丸を加えた。

『人』と書かれた隣に『人』を書き、それを線でつないだ。これは一体。

「触らぬ神に祟り無し。それは神視点からすれば人も同様です。人に干渉しすぎれば神に何か不都合が発生します。だから『今の状況は神たちにとって都合が良い』のです」

「都合が良い?」

「本来であれば時の女神クロノさんの腕が消滅した時点で神が住む世界以外は消滅するはずでしたが、地球の時間だけが歪んでいる。つまり、クロノさんの腕は特殊な方法で盗まれたのでしょう。そして奪ったのはレイジという人間ということですが、このまま時間が進めばリエンさんやあの魔力の塊りの人工少女マオも自然消滅。三大魔術師という文化で色濃く根付いたミルダ大陸もただではすみません。つまり、このまま何もしないのが私達神にとって得策なのですよ」

 今までに見たことが無い微笑みに思わず震えた。あの優しくてちょっとアホなフォルトナさんは今では見る影もない。

「つまり、フォルトナさんは時の女神クロノの腕を修復方法を知っているのですか? もしくはフォルトナさんが修復できたりするのですか?」

「へ? できますよ?」


 耳を疑った。


「できないとは言ってないですよ? 腕を修復する提案を出されたときに『大きすぎる対価』と言ったじゃないですか。ちょっと事情が違うとも言いましたね。神の腕なので相当な魔力を使って『運命的』に修復はできますし、『女神』が不在な現状で一番簡単で安全に修復することができるのはこのフォルトナさんだけです。地球のズレた時間帯も少し時間はかかりますが『運命的』に修復も可能ですし、何なら地球管轄の神様が私にお願いをしてくるレベルですらありますよ」

「じゃあ」

 修復をして。そう頼もうとした。



「何を言っているんですか人間さん。もう一度言いますが神に不都合な状況を自ら作ると思いますか?」



 今までにない威圧。ミリアムさんが居なかったら腰を抜かしていたかもしれない。

「あ、一応勘違いしないでくださいね。私は貴方たちの敵ではありませんよ。クロノさんの腕が修復されたらされたで神々の勢力は元通りなのでそれはそれで都合が良いのです。だからこの件に関しては手を出さないだけですよ。どうせ時期が訪れば修復される世界なので地球の神にも同様の事を言って手を引いて貰うつもりですー。最近会って無いですけどねー」

 再度微笑みフォルトナさんは右手を横に振った。

「あっ! こんなあっさり『認識阻害』が!」

 高密度な『認識阻害』も神の前では無力。しかも片手一つであっさり解除されてしまった。これが力量の差だろう。

「私としても人間さんと敵対はしたくないのです。ですが、神よりも上に立たれると困るのです。たったそれだけなんですよ」

 再度ニコッと笑った。その笑みは圧力にしか感じなかった。

 これが人間と神の力量の差か。俺も魔術はもちろんここしばらくで剣術を鍛えてそれなりに強くなったと思っていたが、それでも絶対に届かない存在というのはある。

 パムレや母さんは同じ人間という意味でも『もしかしたら』超えられる存在かもしれない。でも、目の前の神は違う。


 そんな絶望に打ちひしがれている中、少女の声が聞こえた。



「話は済んだかねフォルトナ助手。ようやくつい先ほど認識できたから会話の内容までは分からなかったがそこにいたのは予想ができた。やはり魔術という存在はクーの予想を上回る。が、唯一の抜け穴として魔術は一つの戦術に過ぎないということだ」



 フォルトナさんの後ろでクアンが体育座りをしていた。俺も気が付かなかった。

「く……クアンさん?」


 フォルトナさんも驚いていた。

「あ、あはは。ミリアムさんの『認識阻害』に穴があったとは思えません。どうやってここにいると分かったのですか?」

「愚問だ。ミリアム女史とリエン少年が外に出たという事は何か話をするためだろう。クーは盗み聞きをするつもりも無かったから追うつもりは無かったが何故かフォルトナ助手はそのまま姿を消した。フォルトナ助手の行動に疑問を感じたクーは地面の草木からある程度の方角を仮定して『認識できない』と思った場所まで行き、そこで待っていただけさ」

 マリーさんが言っていた『仮定だけで答えを導き出す天才』の本領発揮とはこのことだろう。頭が良いというレベルを超えている気がする。

「それと君の姿が見えた瞬間聞こえたが、『神の上に立たれるのは困る』と言っていたな」

「もちろん。私達神様は人間より劣ってはいけないのです」

「頭の悪い助手を持って頭が痛いな。クーが君を何故『フォルトナ助手』と呼んでいるか分かるか?」

「へ?」

 クアンは鼻で笑った。


「君はクーの部下だと思っている。故に君の上にクーは立っていると思っているのだよ」


 クアンの目は本気だった。今までけだるそうに話していたクアンだったが今は違った。

「ごっこ遊びに付き合っていたのですが、まさかクアンさんはそんな事を思っていたのですね。私にかかればこの場の人たちを一瞬で負かすこともできるのですよ?」

「ほう。では君の得意分野の『運命』要素たっぷりな『じゃんけん』で勝負をしようじゃないか。モチロン君は運命の魔力をふんだんに使ってもらっても構わないよ」


「じゃ……ぷっ! あっはっは、クアンさん。よりにもよってじゃんけんですか!?」


 フォルトナさんはお腹を抱えて笑い始めた。いや、この場で運要素しかないじゃんけんって!

「クーは本気さ。運命の魔力や相手の心を動かす魔術を使うが良い。知っての通りクーはミリアム女史やそこの少年と違って魔力を保持していない地球人だ。これほどハンデがあって勝負から逃げる君ではないだろう?」

「当り前です。あ、もしもクアンさんが負けたらどうしますか?」

 その質問の答えに俺とミリアムさんは驚いた。



「この場で自害しよう」



「とても面白いですね。分かりました。ではやりましょう」



「ちょ、ちょっと待って!」

 ずっと会話を聞いていたけど、クアンの発言に驚き俺は思わず止めに入った。

「どうしたリエン少年。クーたちはじゃんけんをするのだよ? 今更ルールの確認の必要は無いだろう」

「いやいや、クアンはさっき自害するって言ったんだよ? フォルトナさんもすっと受け入れたよ? おかしいでしょ?」

 空気の変化に追いつかない。

「おかしくは無い。そもそもフォルトナ助手のような神は人の生死に興味は無い。ということでさっさとじゃんけんをして家に帰ろう」

 こんなあっさりとして良いのだろうか。

 だって、相手は運命を司る神。確率で決まる勝負であれば絶対に負けるわけが無い。

「ミリアムさん、良いんですか?」

「正直わかりません。もしもこの場でクアンさんが死んだら大騒ぎになります。クアンさんがいなくなるのも私達にとって不都合です」

「何とかできないのか!」

 俺たちは見守るしか無かった。

 そして生死を分けたじゃんけんが始まった。


 じゃん。


 けん。


 俺たちはただ、見守るしか……。


 ぽん。



「へ……。えっと、私が……負けた?」



 クアンはグー。それに対してフォルトナさんはチョキを出していた。

「あ、ありえません。運命の魔力でこの先の状況を捻じ曲げて私が勝つ状況にしつつ『心情読破』を使って手の先読みもしました。クアンさんはパーを出すのも知っていました。なのに何故グーを出しているんですか!?」

 その問いにクアンは答えた。

「特別なことはしていない。単純に今一瞬人間が神を超えただけだ。三種類どの手を出しても負けるのは確定であるならば、本来ありえない四種目の手を出した場合の状況を思い描いただけだ。そこから頭をかき回す感覚を微かに感じ取ったからそこが運命の魔力の歪みだと仮定し、今度は強制的に動かされた手を瞬時に変数へ代入。それを思い描きつつ様々な計算式から絶対に『負ける』手を出したまでに過ぎない。つまるところ君の運命の魔力とやらはクーの計算上では勝てないということだ」

「そん……な」

 フォルトナさんはその場で地面に膝をついた。

「クアンさんの思考の奥深くまで覗いて勝負もしたんですよ? 神がじゃんけんと言えど負けてはいけないのですよ!?」

「ほう。君はクーの心の全てを見たということか。それならばその目をぱっちり見開いてクーの心を見るんだ」

「へ……」


「これがクーの頭の中だよ」



「はっ……ふっ……う」



 突然苦し始めた。そしてフォルトナさんはその場で倒れた。

「ちょ、フォルトナさん!?」

「安心したまえ。これでも助手は神だ。死という概念は存在しないさ」

「クアンさん。一体何をしたんですか?」

「先ほどのクーのじゃんけんの計算式を言葉ではなく頭で教えたまでだ。本来スパコンが十秒ほど行う演算式をコンマ一秒で見せられれば気も失うだろう。と言っても君の世界にはスーパーコンピューターなんてものは存在しないから良い例え方法がわからないがな」

 一体どれほどの計算式を思い描いたんだろう。だって、神が倒れたんだよ?

「元々君の母親がこの世界に来た時点で予想はしていた。いや、その前に訪れた際に一緒に連れてきた銀髪の少女とフォルトナ助手が会話をしていた時点で彼女は何か焦っていた。現状この世界で生活し続けていれば神々には都合の良い世界が誕生する……という状況をあらゆる行動から推測し、クーは彼女を酷使してある一点の事をさせないようずっと阻止していたのだよ」

「阻止?」

「運命の魔力によって君たちがこの世界に来ないという状況を作らせなかったのさ」

 そこまで計算をしていたの!?

「前回あっけなく別れたのは悟られないように行動したまでだ。異世界の住人かつ転生した人間という新しい情報を目の前にクーの好奇心は高ぶっていたところを我慢したのさ」

 ため息をつくクアン。しかし俺は苦笑するしか無かった。

「えっと、フォルトナさんは俺たちにそこまで非協力的なのは分かったけど、今後はどうするの?」

「どうする? 今までと変わらずフォルトナ助手はクーの助手だ。無限とも言える魔力を持つ存在は実験分野ではとても重宝する。今回の出来事でさらにクーに従順になる。たったそれだけさ」

 そう言ってフォルトナさんを置いてクアンは帰って行った。

「とりあえず私達も戻りましょう。フォルトナさんを背負ってもらっても良いですか?」

「そうですね。流石にここで倒れてて誰かが発見したら驚きますよね」

 俺はとりあえずフォルトナさんをおんぶしてミリアムさんの家に戻った。



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[一言] クアンさんSUGEEEEE!!!!
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