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腕の治し方2

 マリーさんは本をめくり、付箋があった頁で止めた。

「マリーさん、その本は?」

「これはワタクシの記憶だけで書き写した『ネクロノミコン』。不完全だけど、この項目だけはとりあえず成功したのよね」 

 ネクロノミコン。かつてレイジが奪おうとしていた本で、今はどこに行ったか分からない魔術書だよね。

「貴方達と出会った地球という場所には色々な知識を持った人がいて、その中でも群を抜いて突き抜けた頭脳の持ち主が居たわ」

「チキュウの?」

「名前は『クアン』。小さい女の子なんだけど、全てを仮説で考えてそこから証明する頭のネジが狂った人よ」

「え、クアン?!」

 確かフォルトナさんやミリアムさんが居た世界に住んでいるあの頭の良さそうな人?

「あら、知り合いだったのね。それなら都合が良いわ。彼女が今どこにいるかわからないから最近騒ぎを起こした集団から『望遠』の魔力の道具を盗んで探してから転送させようと思ったけど、出会っているならカグヤの力だけで充分ね」

「勝手に話が進んですが、ボランティアでは無いぞ? 転送にはかなりの力も使う。それ相応の対価は無いのか?」

 カグヤさんがマリーさんを見て腕を組んだ。

「近々ワタクシ主催で大食い大会を開催するからそれで勘弁しなさい」

 何その条件。しかも大食い大会って。カグヤさんってすらっとしていてご飯も優雅に食べる姿しか思い浮かばないんだけど。



「いいだろう」



「いいんだ!」



 驚いてつい声が出ちゃったよ!

 と言うか大食いだよ!? 前にパムレと大食いで戦ったことがあるけど、もしかして大食いが好きなの!?

「さて、クアンの場所へ行くにはカグヤの持つ『光』の魔力が必要。そして護衛役として本当はマオを連れて行きたいけど、今のミルダ大陸でマオを遠征にはいかせたく無いわ。噂ではそれなりの力を持つプルーも依頼があるし、適任はいないかしら」

「なら、十分すぎる適任候補がいます」

「誰かしら?」



「母さんです」



 そう言って俺はマリーさんの隣で話を聞いていただけの母さんを見た。突然呼ばれて驚いたのか『へ?』と変な声を出した。

「リエンにシャルロットにパティ。精霊二体にフーリエ。力量としては申し分が無いけど……カグヤ、『このフーリエ』を連れ出すことはできる?」

 その質問にカグヤさんは即答だった。

「無理だ。私の使う転移には少なからず光の魔力を使う。悪魔は一瞬で溶ける」

「じゃあ人間の母さんを連れ出せば!」

「確かミルダの部屋の奥底に眠っているのよね。うーん、でもそこまでしてフーリエを護衛にするくらいなら、他の候補者を考えても良いと思うわよ? シグレットとか、ゴルドとか」

 マリーさんの提案は正しい。人間の母さんを連れ出せば、母さんの中の時間は動き出す。本来普通のことではあるが、ミルダ大陸の代表としては難しい提案なのだろう。だが、俺はどうしても母さんをクアンの下に連れて行きたかった。


「クアンさんの上司は母さんの姉のミリアムさんです。クアンさんに会うということはミリアムさんにも会えます。俺は、母さんにもう一度お姉さんと再会させたいのです」


 その言葉に周囲は固まった。

 そして母さんは一歩前に出た。

「マリー様。我儘を承知でお願いします。ワタチをリエンの護衛として同行させてください。またと無い機会。そして息子からもらったチャンスを逃したくないです!」

 そう言うとシャルロットとパティも頭を下げた。

「私からもお願いします。店主殿はいつも私達のために色々と助けてくれました」

「ワタシからもです!」

「わかったわよ! もう、ワタクシが悪者みたいじゃない。別にダメとは言ってないのよ。はあ、じゃあ出発は明日の朝で良いわね?」

「はい!」

 そう言って皆頭を下げて館長室から出た。ドッペルゲンガーの母さんはこの部屋残り、俺とシャルロットとパムレとパティ。そしてプルーは魔術研究所を後にした。


 ☆


「ではプルーはここから左へ向かうからお別れだ」

 寒がり店主の休憩所へ向かう途中でプルーが立ち止まり話始めた。

「そうか。プルーも仕事があるもんね」

「あー、プルーちゃんのふわふわな髪が離れるなんて」

「わ、ワタシの髪で我慢してください!」

 パティさん? 君は何を言っているんだい?

「訃報と隣り合わせのプルーには友人という友人が居なかった。故にリエンたちと一緒に色々と出かけることができて楽しかったぞ」

「あはは。まさか最後の最後で『神』の魔力の保持を言ってくるとは思わなかったけどね」

「どんな因果を踏んで保持したかはわからないが、この力があるからご飯には困らず地位にも困らない。そこの魔力お化けのようにそこまで重労働でもなくのびのびとこれからも人の最期を見届けるさ」

 愉快に笑うプルー。神の魔力を持つとそれほど優遇されるのか。

 そして危篤者の代弁者……か。年齢も若くて働いているというのも凄いよね。


 ん?


「最後に質問をしていいかな?」

「何かな?」


「『プルー』って名前の由来は何なの?」

「それは……あ」


 その瞬間、何かが砕ける音がした。いや、気がした。

 音の異変に驚き周囲を見るも、シャルロットもパムレもパティも、誰も気が付いていない様子だった。

 プルーの表情を見る限り、プルーも何かな気が付いた様だ。

「ふむ、うかつだった。プルーが『プルー』として認識されてしまったか。やはり時に人間は神の想像を超える。運命の魔力と偶然の出来事とは言え完敗だ。リエン。いや、これからは『リエン様』と呼ぶべきだろうか」

 その瞬間、パムレが俺の前に立ち、今までにないほど真剣な表情で構えた。

 他には青い炎を出して明らかな敵意を出していた。


「……こんな近くにいたなんて思わなかった。そもそもマリー以外に神の魔力を保持している人間という部分にもう少し疑問を持つべきだった」

「どういうこと?」

「……最悪にして災厄。そしてミルダ大陸にとって最強の敵だった神。概念だけ残って行方不明になっていた『神の神』。名前が無い神だから仮の名称でこう呼ぶしか無かった。『女神』」


 女神。


 確かカンパネやキューレさんの親だっけ。そしてキューレさんは相当嫌っている相手だったような。

「そう構えないで欲しいぞ魔力お化け。数分前のプルーはちょっと踏ん張ればこの大陸くらいなら一瞬で消せる力を持っていたが、たった今それができなくなった」

「……納得のいく理由を言わないとトスカを呼ぶ」

 プルーがさっきまで大陸を消す力を持っていた?

 それに、たった今それができなくなった?

 一体どんな理由が……。



「今まで『プルー』と言う名前は職業的なニュアンスで伝えていて、この体の名前ではないと言う『認識阻害』を使って契約を回避していたが、リエンが『プルー』を名前だと誤認してしかも無意識かつ運命の魔力で貫通して呼んできた。それをうっかり返事しまったから、精霊の契約同様にプルーはリエンの下僕となった。マジ運命の魔力とリエンの天然はズル過ぎない?」



「……」



 パムレは一瞬考えて、深呼吸した。

「……リエン。よくやった」

「いやいやいや! 俺特に何かしたつもりは無いんだけど!」

 何今までに見たことない笑顔で親指立ててるの!?

「そうよ! プルーちゃんと契約ってどういう事!?」

「げぼくってなんですか?」

 一斉にパムレに問い詰める俺たち。と、そこへセシリーがポンと音を立てて登場した。

『リエン様よ。我と契約した時のことを覚えているか?』

「え、確か名前を付けてそれに返事をすれば契約だっけ」

『そうじゃ。名前の無い精霊は名前を付けられることで人間と契約ができる。それは神も例外ではない。光の神ヒルメ様や鉱石の神アルカンムケイル様。時の女神クロノ様はすでに名前があるから契約はできぬが、唯一名前が無い神が一体だけおったのじゃよ」

「えっと、それが……」

 そう言ってプルーを見た。


「かつてそこの魔力お化けやトスカ達に封印された名もなき女神。今は名前をつけられたプルーのことだ」


「俺って日常会話レベルの雰囲気で神様と契約しちゃったの!? 大丈夫なのそれ!?」


 契約すると魔力に影響するからすげー怖いんだけど!

『一応ウチとの契約も忘れないでねー。あの時と状況は似てるー』

 そう言えばそうだったね! フェリーとの契約は事故だったね!

 とりあえずこの場で一番魔力を保持しているパムレの肩を掴んでブンブンと振り回す。パムレも『ふおおおおお』と言ってる。

「プルーの口からは説得力が無いかもしれないが、安心しろ。プルーはこの体を創造してから本当に十四歳。つまり十四しか生きていない。この体を生成してから過去の女神の力を取り戻すまで数千年以上は必要。それに、こうしておくりびととして生きていく間に考えも変わって来たさ。いや、人間という体で生活をして『考える』という感情を覚えてしまったのだよ」

「……とりあえずトスカとシャムロエとキューレにはパムレから連絡しておく。悪さしないなら別にかまわない。けど、せっかく休みになったのに仕事増えるのは辛いなーパムレット食べたいなー」

 すげーパムレットを強請って来るんだけど、結構厄介な状況なのかなこれ。報告ってどんな事を言うのかな。

「今更悪さする度胸も無い。それに、プルーはリエンを気に入った。今後の行く末を見守らせてもらうぞ?」

 そう言ってプルーは帰って行った。

「セシリーはともかく、フェリーみたいに変な流れで神様と契約しちゃったよ。どうしよう」

『リエン様よ。それはこっちの台詞じゃ。最上位とも言える魔力の神が我らの後輩ぞ? 気が気で無いわ!』

『ウチ、ただの火の精霊なのに、大丈夫かなー』

 精霊ズは俺の頭の上でぐるぐると飛び回りながら悩んでいた。


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[一言] それでこそ主人公や( ˘ω˘ )
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