三大魔術師の愉快な座談会
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部屋を出て特にすぐやることを考えていなかった為、ミルダさんのところに挨拶にでも行こうかなーくらいの感覚で教会に向っていると、黒装束の修道服を着た人たちが集まっていた。
特別立ち入り禁止という感じでも無いけど、このまま通り過ぎて良いのかな?
「あの、すみません」
「ん? どうしました?」
「えっと、教会に用があるのですが、このまま通っても良いのですか?」
「ああ、私達はその……皆外の空気が吸いたくなってここに集まっているだけなんですよ」
苦笑する修道服を着た男性。ん?
「って、もしかしてバジルさん?」
「ん? ああ、もしかしてリエン殿か」
プルーと一緒にいたバジルさんだった。雪国は口元まで布で覆わないと寒いから、表情が分かりにくかった。
「なんだバジル。知り合いか?」
「ええ、その……プルー様のお知り合いです。それに三大魔術師のマオ様ととても仲の良い人です」
「何!?」
そう言って修道服を着た男性たちは皆俺を見た。え、何?
「頼む! もう外に出て二十分くらい待っても出てこないんだ! ミルダ様とマオ様が居る部屋は恐れ多く逃げ出してきたものの、この極寒の中ずっと待たされて困っている。それをプルー様にそれとなく伝えてくれないか?」
外で空気を吸っていたんじゃないのか。
実際の状況を説明できなかった理由があるのかな?
「え、自分で行けないのですか?」
そう聞くと修道服を着た男性たちは顔を青ざめた。
「三大魔術師が二人いる中で失礼な発言は恐ろしくてできない。特にマオ様は『心情読破』を時々使って相手の行動を知る。頼む!」
これが母さんの言う『三大魔術師』という存在なのかな。普段はパムレット大好き少女だけど、実力だけを知っている人にとっては見ただけで恐怖なのだろう。
政治的関与はできなくても世界を破壊できる存在か。確かに見方によっては恐怖でしか無いよね。
「わかりました。それと皆さんは『寒がり店主の休憩所』で待っててください。セシリー出てきてくれる?」
『ほい』
セシリーがポンっと音を立てて現れた。
「精霊?」
「その若さで?」
驚く声を流し、セシリーにお願いをする。
「『寒がり店主の休憩所』の店主(母さん)に事情を話して、温かいお茶を用意してって俺が言ってたって伝言お願いして良い? お金は俺が出すよ」
『承知した。何かあったらフェリーに伝えるぞ』
そう言ってセシリーの誘導の下、修道服を着た男性たちは寒がり店主の休憩所へ向かっていった。
「ありがとうリエン殿」
「いえ、馬車に乗せてもらったお礼をまともにできていなかったので、せめてこれくらいはさせてください」
ペコリと頭を下げてバジルさんも寒がり店主の休憩所へ向かった。
☆
静寂の鈴の巫女の教会へ入ると、そこには三人の少女が言い争っていた。
「……タプル村で最近新作のパムレット『ヨモギ』が誕生した。これは絶品」
「ミッドガルフ貿易国では巨大なパムレットを作る催し物が開催され、そこにプルーは偶然立ち寄ったぞ」
「ううう、皆さん各地の甘味を味わっててズルいですね。ミルダは最近ようやくガラン王国から運ばれてきた果物を使ったジュースを使って氷菓を作っているというのに」
外で人を待たせているから重要な話が長引いていると思ったら、パムレットの話かよ!
心の中で突っ込んでいるとミルダさんが俺に気がついた。
「おや、リエンさん。いらっしゃいませ」
「こんにちはミルダさん」
「何だ、魔力お化けだけでなくミルダ様とも知り合いだったのか。まあ、あの店主の息子なら納得は行くが」
「それよりもプルー、外で修道服を着た人たちが凍えてたよ?」
「何!? ついつい白熱してしまった。バジルたちは大丈夫か?」
「一応母さんの宿で休憩するように向かわせたよ」
「一番借りを作りたくない奴に作ってしまったか……」
息子の前で言わないでくれる?
確かに真実を知った今、どの国の偉い人でも母さんにだけは貸しを作りたく無いだろうけどさ!
「冗談さ。プルーは仕事柄暗い空気を吸う機会しか無いから、冗談も暗くなってしまうのさ。プルー来るところに葬儀あり。実に悲しき詩さ」
ため息をつくプルー。うーん、見た目はパムレやミルダさんと同い年くらいなのに、『超』年下なんだよね。でも言っていることはこの中で一番年上のように思える。
「……ミルダ。リエンが今子ども扱いしたから『ポン』しよう」
「承知ですね。フーリエさんにバレない程度に『ポン』しましょう」
「久々に言ってきたけど何なのその『ポン』って!」
この二人が言う『ポン』は大陸が沈みかねない。俺の発言でミルダ大陸が無くなってしまうのは困る。
俺は普通に苦笑しながら突っ込んでるけど、外にいたバジルさんが聞いたら気を失ってるよ!
「リエンは何というか度胸があるな。プルーなら一応立場もある故に少し上の存在ということで可愛がってもらっているが、その内面の力に関してはいつも恐れているぞ?」
「パムレに関してはとりあえずパムレットを与えれば良いしね。ミルダさんに関しては……肩たたきすれば許される気がするかな」
「リエンさん!? 一応ミルダは『静寂の鈴の巫女』という立派な地位を持っているのですよ! どうしても肩たたきをしたいならさせてあげますが、そんなのでミルダが心を踊らされてるわけ無いじゃないですか! あー肩こってきましたー」
最後に本心が漏れてしまうミルダさんである。今度肩たたきしてあげよう。
「それはそうとリエンさんは何の御用で?」
「魔術研究所の館長に用があるんですが、休養……もとい急用が入ったので今のうちにこっちに来て挨拶だけでもーという感じで来ました」
「そうでしたか。何も無い教会ですが、わざわざ来ていただきありがとうございます」
ニコッと笑うミルダさん。
そのミルダさんの頭上にはすごく立派な金の球体があるんだけど!?
「えっと、これは?」
「知り合いの防具屋兼武器屋兼色々をやっている人にお願いをして作ってもらいました。『なんか立派な大きな球体』をとりあえず教会につけたら信仰者も増えるかなと思い、知り合いのつてで作ってもらいました」
絶対鉱石精霊の作品だよね!?
「フーリエさんの宿は商人や旅人などの固定客がいますが、この教会は現在はるばる訪ねて静寂の鈴の祝福を貰う代わりに少しばかりの寄付と、プルーさんの業務とフーリエさんとマオさんによる教会破壊の弁償代で成り立っています。せめてゲイルド魔術国家の国民だけでも時々来てお金を寄付してくだされば良いのですけど、近過ぎるとなかなか足を運ばないですね」
母さんとパムレの弁償代で成り立ってる教会って何? やっぱり多めに取ってたんだ。
「それならチラシを配ったり定期的な集会を開けば良いんじゃないですか? いくら近場でも集会の案内を広めれば来るのでは?」
「残念ながらゲイルド魔術国家には静寂の鈴の教会以外にも『北の教会』や『北の医療団』など、色々な集団があるのです。ゲイルド魔術国家は他国の貴族からは宗教国家とも言われていて、チラシ配りをすると逆に避けられてしまうのですよ」
え、そうなの?
でも俺勧誘なんて受けたこと無いけど。
「……ふむ、『リエン』の運命の魔力で勧誘からも『離縁』だったということかな。なかなか便利だね」
「こんなところで微妙に魔力消費してたの!? ちょっとのんびりしてられないじゃん!」
パッとキューレさんから渡された『齋藤離縁』と書かれた紙を見る。うん、もらった時と比べてそれほど変化は無いみたいだ。
「それは?」
ミルダさんが覗き込んできた。
「これは運命の魔力で描かれた文字です。この文字は徐々に消えていくらしいのですが、消える前にマリーさんやカグヤさんに会わないといけないのですよね。頃合いを見てマリーさんに会うためにこの後はまた魔術研究所に行こうとしてました」
「ほほう」
プルーは俺の顔を見て少し興味深い表情を浮かべた。
「マリーと言うのは現三大魔術師の魔術研究所の館長だな。てっきり君の母に用があると思ったら、そっちだったか」
おっと、魔術研究所の館長って言ってたのに、伏せずに言ってしまった。まあ、知っている様子みたいだしとりあえず大丈夫そうかな。
「リエンよ。プルーは一度現在の魔術研究所の館長に会いたいと思っていた。一緒に行っても良いだろうか? それなりの地位もありこうしてミルダ様やマオ様と話しているのがその証拠だ」
「え、多分プルーなら大丈夫だとは思うけど」
そう言って念のためパムレに目を向ける。パムレも大丈夫という感じで首を縦に振った。
「そう怪しむな。これでもプルーはまだ幼い。君がどんな想像をしたかはわからないが、プルーはマリーに会いたかったのだよ」
「まあ、一度に用を済ませれるならマリーさんも手間が省けるだろうし、一緒に行こうか」
「あ、もう行っちゃうのですね。次は今よりもさらに肩をこっておきますね!」
どんだけ肩たたきして欲しいんだよ!
心で突っ込みつつミルダさんに一度頭を下げて教会を出た。パムレもミルダさんの隣で手を振ってるし、まだ用事でもあるのかな。
プルーと一緒に教会を出るとプルーは俺に話しかけてきた。
「すぐに魔術研究所に行くのか?」
うーん、ついさっきマリーさんは寝たばかりだし、多分まだだよね。
「用事の内容的に俺だけ向かっても心細いし、最初にゲイルド魔術国家城でシャルロットを迎えに行こうかな」




