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死神との旅

 一緒の馬車に乗せてもらい、馬の操作は先ほどの修道服を着た男性バジルさんが行う事になった。

「荷物も少ない広い馬車にプルーだけというのは暇だったから、話し相手が増えて嬉しいぞ」

 ニカっと笑う赤毛の少女プルー。それにしても全身黒い服で、何やら少し不気味なオーラを醸し出している。

「プルーちゃんはミッドガルフ貿易国に何をしに来てたの?」

 そして見た目から判断してシャルロットはプルーをちゃん呼びである。

「プルーは生まれつき『心情読破』に長けている故、今にも命が終わろうとしている者の心を読み解くことができるのだよ。普通なら雑音が大きくて難しい言葉もプルーはできるから、こうして依頼があったらすぐに駆け付けているのだよ」

「つまりプルーちゃんが行く所にはすぐに亡くなりそうな人がいて、お仕事が終わると依頼人は亡くなっているということ?」

「半数はそうだな。中には三日後に亡くなったり、一か月後に亡くなったりする。その間付きっ切りということもできないからプルーは声を聞いた後すぐに次の仕事へ向かうがな」

 死ぬ前に生きている人へ声を届けるため大陸を巡る通称『危篤者の代弁者』か。

「しかし魔力お化けもなかなかの面子で旅をしているな。角の生えた少女に、こっちはおそらく素性を隠しているだろうけどガラン王国の姫君か? いやはや、同じ馬車の中でこれほどの顔ぶれが揃うと怖いぞ」

 あ、シャルロットの事はバレてたんだね。

「……リエンもそれとなくヤバイ。いや、この中で一番危害を加えてはいけない存在」

「ほほう、一体どこの貴族か? 言っておくがガラン王国の貴族程度ならそこまで驚かないぞ?」

「えっと、母が『寒がり店主の休憩所』の店主をしています」



「フーリ……こほん、魔術研究所の関係者だったか。それは……すごいね」



 一瞬母さんの名前を言いかけたぞ?

 と言うことはプルーって結構凄い人なんじゃない?

 それと『寒がり店主の休憩所』って何かの暗号みたいになってない?

「母の事を知っているの?」

「プルーは大陸を巡っている。もちろん行く先々では宿が必要。必然的に寒がり店主の休憩所は利用するし、プルーの地位まで行けば魔術研究所の重要極秘情報も知ることになる」

 やっぱりプルーってすごい人なんだ。

「ちなみに馬の操作をしているバジルもそれなりの地位で、君の母親の事は知っているよ。この馬車では気兼ねなく話をしても問題無いぞ」

 ある意味一番都合が良い馬車に乗れたという事かな。

 と、そんな事を言った矢先、パムレがパティの後ろに回ってグイっとプルーに押し出した。



「……ちなみにこの子は元祖パムレットを作った人。これはフーリエの秘密よりも知られていない情報」



「あわあわ、コンニチハ」



「訂正しよう。この馬車に警備を千人ほど雇おう。パムレットの神が現れるとは思っていなかったぞ!」



 突然焦り出すプルー。

「えとえと、ワタシは確かにパムレットを作りましたが、それは過去の出来事で、今のパムレットはその後の料理人の手によって作られた作品でして」

「御託はいらぬ! おい魔力お化け。元祖パムレットをまさかとは思うが食べたとは言わぬよな?」



「……ふっ」



 すげー勝ち誇った表情をしたんだけど!

「リエン」

 と、突然シャルロットに呼ばれた。



「パムレちゃんってあんな無邪気な表情するの? 私には見せてくれない表情だったわ。え、私にはまだ心を開いていないのかしら。もしかしたらパムレちゃんって私のこと嫌いなのかしら。だとしたらこの先どうやって生きて行けば良いの? ねえ、教えてリエン教えてリエン教えてリエン教えてリエン教えてリエン教えてリエン教えてリエン教えてリエン教えてリエン」


「怖い怖い怖い!! 目がヤバイぞ! そもそも俺たち出会ってまだ一年経過して無いから! きっとこれからだろうしパムレもいつもの馬車酔いで少し変な調子なだけだと思うから!」


 なんで俺がフォローしないといけないの!?

「というかパムレもどうしてパティを盾にどや顔を?」

「……プルーはパムレと同じでパムレット愛好家の一人。大陸中を巡るプルーは各地のパムレットを食していて、パムレと出会う度に自慢してきた」

「パムレットはプルーの唯一の楽しみだ。職業上暗い雰囲気が多い故に、お菓子はプルーのゆとりなのだよ」

 そう言ってプルーはパティの手を握った。


「故にプルーは全財産を賭けて元祖パムレットを食したい。ここで会ったのもカンパネ様のお導きと言えよう」

「り、リエンさん! すごく怖いです! えとえと、どうしましょう!」


 プルーの目は本気である。

 そしてパティは咄嗟に俺に助けを求めたから、シャルロットが俺をすげー睨んできた。パティには後日助けを求める時はシャルロットの名前を言おうねと優しく教えてあげよう!

「ほ、ほら、どうせゲイルド魔術国家の寒がり店主の休憩所に行くんだし、そこで作ってあげたら?」

「まあ、食材さえあれば問題ありませんが……」

「本当か!? バジル! この先休憩無しだ! 今すぐゲイルド魔術国家に行くぞ!」



『危篤者の代弁者が死人を増やそうとしないでください。ミルダ様に怒られますよ』



「魔力お化けよ。この勝負、貴様に一旦預けよう。ぱむれっと……」

「……正直休憩は欲しい。ただでさえ飛んでゲイルド魔術国家に行きたいのにリエン達の護衛で馬車に乗ってる今が一番きつい」

 さすが一緒に行動しているだけあって治めるのは慣れているという感じだ。そしてパムレは案の定辛そう。時々精霊ズに持ち上げてもらおうかな。

「それにしてもプルーちゃんはよく私を一目見てガラン王国の姫って分かったわね」

「金髪は目立つからな。このミルダ大陸を巡ってガラン王家以上にきれいな金髪は見たことが無い。まあ、確証を得るために『心情読破』で相手の素性を読み取ったんだがな」

 そう言ってプルーは俺を見た。

「しかしリエンとやらは『心情読破』を使っても断片的にしか見えぬ。何か特別な術でも使っているのか?」

「ああ、実はマリーさんから『心情読破』の結界が込められたお守りを貰ったんです」

「マリー……ああ、魔術研究所の現館長からか。まあ『あの息子』であれば当然の処置だろう。悪魔術はこの世界では禁忌の位置付けだからな」

 禁忌……か。

 そう言えば以前サラッと母さんは禁忌の呪文的な物を唱えていたし、この世界での禁忌ってどんな基準があるんだろう。

「プルーって教会の人間ってことは禁忌の呪文とかには詳しいの?」

「ん? ああ、プルーを含めた教会の上層部は禁忌とされるモノを決めて、それを管理するのも仕事だ。魔術研究所では危険とされる呪文を最初に見つけ出し、それを広めないように封印し、万が一広まった場合は魔術研究所や教会の人間が取り締まるという役回りもしているのだよ」

 結構しっかりした組織と連携なんだね。どっかの横領がめっちゃ行われていた大臣しかいない国とは大違いだ。

「リエン。それ以上何か思うと、大泣きするわよ」

「凄い。目が光ってないしお守りもあるから、もしかして表情から俺の考えを読み取った?」

 シャルロットが目を赤くして訴えてきた。というか、心当たりがあるという裏帰しだろう。

「でも、取り締まるって言っても、例えば悪魔術を覚えている人はすでに手遅れでは? 覚えちゃってるし」

「そういう奴は存在そのものを禁忌としている。故に君の母親の正体は一部にしか知られていないのだよ」

 確かに。言われてみれば、俺の母さんは各国の重要人物しか正体を知られていなかった。

「プルーは少し能力に恵まれたただの人間だが、フーリエは自ら柱にもなりうる道を選んだ。死を受け入れない存在となった今、彼女は何を目的に生きているか……いや、それを息子の前で話すのは野暮というものか」

 時々考えたことはあるけど、母さんって実際の所何歳なんだろう。

 ゴルドさんの事を知っているということは相当前だし、マリーさんも知っているという事は、初代魔術研究所……つまり魔術研究所ができた頃から生きている。

 歴史をさかのぼるとかなり時間は経過しているよね。

「……三大魔術師マオとしてリエンに助言したげる」

「へ?」

「……深く考えるよりも、目の前のパムレットを考えた方が楽しい。少なくともフーリエはリエンを育て始めてから色々と変わった。リエンが悩めばフーリエも悩む」

「それも……そうか」

 いつまでも子離れしない母さんも問題はあるけど、それとこれは別問題だよな。


 ☆


 日が暮れて少し肌寒い森の中で野宿をすることになった。

『まるで里帰りの気分じゃのう』

「そういえばセシリーの地元はこの辺だもんね」

『フェリーは雰囲気が寒いと言って出てこぬが、まあ良いじゃろう。思いっきりこの冷たい空気を深呼吸するのもまた一興じゃのう。スー』

 そう言ってセシリーは思いっきり息を吸った。というか精霊に呼吸という概念はあるんだ。



『げっふ! げっふ!』



 精霊ってむせるの!?

『ちがう、リエン様よ。この先に悪魔じゃ!』

「え、という事は母さん?」

 近くに母さんが居るのかな?

 そう思って奥をじっと覗いた。



「ばか! 死ぬわよ! 早く抜刀しなさい!」



 シャルロットの大声に思わず俺は短剣を抜いた。次の瞬間。



 ぎいいいいいいいん!



 短剣が揺れる音が聞こえた。

「なっ、え、何が」

「見えないだけ! そこに何かいる!」

 シャルロットが駆け付けてきて、お互い背中を預ける。薄暗い森の中でどこかに敵がいる状況。これは結構まずいのでは?

「……なるほど。これは……フーリエも辛いわけだ」

 さらにパムレが木陰から現れた。

「……一瞬光らせるから目を閉じてね。『光玉』」

 パシュッとパムレの右手が光ると、目の前に何かが落ちてきた。

『ガグ……ウグ、バグ』

 人の形をした何か? え、ナニコレ……。

「これこそ禁忌を使った者の末路だ。良かったな、プルーが看取ってあげることができる状況で」

 看取る?

「お前の言い分はプルーの心のうちに秘めよう。できる限りの者に伝えよう。そして、その苦しみから解放しよう」

 そう言ってプルーは手から『光玉』を放った。


『ガアアアアアアアアアアア!』


 消した……いや『殺した』?

「一体何を」

「悪魔に飲み込まれた人間をプルーの手で葬ったんだよ。なるほど、フーリエが三大魔術師を抜けてから、今のゲイルド魔術国家は相当大変みたいだな」

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[一言] ゲイルド魔術国家にいったい何が!?
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