占い師4
夜になり宿の裏にある井戸水で歯磨きとか顔を洗っていると後ろから巨大な魔力が迫って来るのを感じ取れた。
「パムレ?」
「……ん」
呼びかけるとパムレは俺の隣に立ち、そして俺の顔をじっと眺めた。
「……似ていると言われれば……似ている。けどフーリエの影響も受けているからちょっと違う。やっぱり『リエン』という名前についている魔力は特別だね」
「サイトウという人に似ているってこと?」
俺の前世とやらが『サイトウ リエン』という人だったと突然言われても、正直俺はどうしようもできない。そーなんだーくらいの印象かな。
「……サイトウはパムレを作った人で、パムレにとってトスカやシャムロエよりも大切な存在」
「そうなんだ。優しい人なの?」
「……優しいかはわからない。けど、パムレに生きる希望をくれた。パムレがお菓子好きなのはサイトウがパムレにお菓子を与えたから」
罪深いな。もし野菜を与えていたら身長も伸びていただろうに。
「……一応言っておくけどパムレは話す時『心情読破』を使っているの忘れてる? 身長が何だって?」
「何でもございません。続けてください」
忘れてたよ!
「……そもそも兵器として作られたパムレを唯一……いや、数少ない理解者の一人だった」
言い換えた?
つまりサイトウという人物以外にもパムレを理解している人物がいたのだろうか。
「パムレにとってとても大事な人だったんだね」
「……まだサイトウが生きていた時は時々フーリエを通じて話していたから別に寂しくはなかった。フーリエの口から訃報を聞くまでは」
そう言えば母さんが地球にもいたという話しは聞いたな。サイトウという人物も一緒にいたのならその人が亡くなった時の話も当然母さんから聞いただろう。
「……人間は絶対に死ぬ。だからパムレは受け入れた。サイトウは生涯を犠牲にして世界を救おうとして力尽きた。もちろん悲しかったけど、それは仕方がなかった」
その瞬間、パムレは突然『火球』を放った。
放った先には小さな木があり、燃え尽きるとそこには母さんが立っていた。
「……だからパムレ……マオは、嘘をついたフーリエを絶対に許さない」
「嘘ではありません……が、今リエンがこうして生きている以上ワタチがどのように弁解しても理解はしてくれないでしょう」
母さんの目が強く赤く光る。一方でパムレの目は強く銀色に光った。
「リエンはワタチの息子です。これには変わりありませんよ」
「……サイトウはパムレのお父さん。だからリエンは譲らない」
え!?
今俺取り合って戦おうとしてるの!?
「ちょ、二人とも落ち着いて」
『そうじゃ。魔力お化けの魔力と悪魔の魔力が混ざって、周囲がおかしくなってる。ついでに言えば微かに漂う鉱石精霊の魔力も混ざって大変なことになっていることくらい貴様らくらいわかるじゃろうて!』
セシリーがポンっと登場して忠告すると、母さんとパムレは深呼吸をして魔力を抑えた。セシリーナイス!
「順を追って説明します。まずリエン……いえ、サイトウ様は『仮死状態』になりました」
「……仮死?」
「この先の未来に唯一世界を救う方法があるということで長い眠りにつきました。そこでワタチに言われたのは、マオ様には『死んだと伝えてくれ』とのことでした」
俺の前世がそんな事を……ん?
「……サイトウの事だから色々考えていたんだと思う。そこは信じる。でも、キューレの書いた紙が無ければ真実は知らなかった。いずれ言うつもりだった?」
「わかりません。もしかしたら言ったかもしれませんし、このまま過ごしたかもしれません。正直マオ様くらいの人だとワタチも全てを隠すことは難しいです」
それはそうなんだけど……。
「……わかった。とりあえず今日はこの辺にしておく。でもパムレはフーリエを許さない。パムレット百個で手を打つ」
「ふう、助かります。リエン、早速楽しいパムレット作りをしますよー!」
「いや、ちょっと待って」
俺は少し気が付いた。
「母さんが俺についての答えを知ってたなら旅する必要無かったんじゃね?」
と、俺のつぶやきに母さんは固まった。
「かわいい子には旅をさせろと言うので」
「もう結構旅出たよね!?」
「あうう、その、とても難しい話なのですよ」
「俺もう十六だよ?」
「うう、あうう、その……」
そう言って母さんはゆっくりと地面に座り込んで。
「色々隠しててごめんなさい」
綺麗に謝った。いや、親の土下座って見たくないんだけど! そこまでは要求してない!
☆
翌朝。
まあ、色々と母さんが事情を知っていると言っても、キューレの話ではマリーさんやカグヤさんに会わないとやばいらしいし、旅は続けることに変わりないんだよね。ということに気が付き、夜はぐっすりだった。
「あ、リエン。おはよー」
「おはようございます!」
パティとシャルロットが仲良く顔を洗っていた。
「姉妹みたいだね」
「そうですか? えっと、シャルロットお姉ちゃん!」
「私は今……脳が壊れそうになったわ」
おいおい、あまりの破壊力に意識が飛んでるじゃん。というか顔洗ったのに鼻から綺麗な赤い血が流れてきてるぞ。
「いやいや、パティの方が年上じゃん?」
「あ、そうですね。えっと、『妹。ご飯行こう』」
「パティちゃんに姉属性は無理ね。妹を妹と呼んでいる時点で失格よ。ということでパティちゃんは私の妹決定ね!」
「うう。姉って難しいです」
そんな悩む事かな。
「ちなみにリエンは兄かしら?」
「見た目はそうかもしれないが」
その時だった。
「えっと、リエンお兄ちゃん?」
「おう、シャルロットと同じ感想を抱きそうになった。いかんいかん、俺は普通俺は普通。そうだ、頭の中に母さんを描けば正気に戻るはず。カアサンカアサンカアサンカアサン」
「母親を頭に浮かべさせて正気に戻るって、傍から見たらやばくない?」
そんなほっこりな朝を準備を終えて、朝食を食べに広間に向かった。
朝食を食べるために広間へ行くと、ちょうど玄関の扉が開いて、そこにはキューレさんが立っていた。お客さんとして来たのかな?
「リエン、下がってください。この人は危険です」
母さん完全に警戒心マックスなんだけど!
「フーリエ。安心して欲しい。今の私は神の魔力を持つ精霊に過ぎず。味方というわけでは無いが敵ではない。それにマオには恩義もあるしね」
「……ちなみにパムレが全力で警戒しているから安全」
と言いつつ朝食のパンを頬張るパムレ。相変わらずマイペースである。
というかもう一つ気になった人が後ろにいた。
ツインテールの小さな女の子で、母さんと同じくらいの低身長。はて、誰だろうか。
「む? もしやペシア様ですか?」
「正解です店主さん!」
え!? あの人形だったペシアさん!?
「神の魔力の精霊なら人の体の創造はできる。死者を蘇らせるのはできないけどね」
「そうですか。ペシア様はそういう道を選んだのですね」
「いつまでも店主さんのお世話になるわけにはいけませんからね。しっかり手足があった方が店主さんのお役に立てると思いました!」
何やら色々と事情があるみたいだけど、とりあえず大人の話という事でスルーしよう。
「えっと、キューレさんは一体何用でここへ?」
「久しぶりに同僚に会おうと思ったの。人が多いところにいると聞いてついでにペシアには一緒に来てもらったの」
はて、キューレさんの同僚ってカンパネ? でもあの人って今はこの世界にはいないのでは?
と、その時だった。
「あ、リエン。間に合いましたね。ゲイルド魔術国家へ行く際にちょっとお使いを……」
銀と金の髪を持つ武器屋兼防具屋兼楽器屋兼宝石鑑定士兼『鉱石精霊』のゴルドさんが、キューレさんを見て固まった。




