占い師2
三人の男の後ろをついていく俺とシャルロットとパティ。
これがもし嘘だとしてもそこそこ実力もあるから大丈夫だろうーと思いつつ、少し心配はしていた。
「ここです」
目の前には大きな洞窟。そして隣には小さな小屋が建っていた。
「ではオイラたちはここで」
「帰るの?」
「日雇いなんで。案内が終わったら帰って良いと言われたんっす」
そう言って三人の男たちはペコリと頭を下げて本当に帰って行った。
「私達が本物かどうかも確認する前に帰るなんてすごいわね。運が良いというか、信用しているというか」
と、呆れるシャルロットとは裏腹にパムレは難しい顔をしていた。
「……ふむ、高度な『認識阻害』の跡。それに原初の魔力の気配か」
……え、パムレついてきちゃってたんだけど。『認識阻害』を使ってついてきちゃったのかな。
というか修復作業が嫌で来た感じすらあるよね。母さん今頃怒ってそうだな。
「パムレ来ちゃったの?」
「……護衛優先。一応パムレはいつでも逃げれるように準備はしておく。さ、行こう」
どういう事だろう。
☆
小屋の中に入ると、ごくごく普通の部屋という感じだった。椅子があり机があり、奥には厨房もあった。
そして……。
「いらっしゃい。シャルロット。それにやっぱり来たのね。マオ」
女性の声?
声が聞こえた場所を見ると、そこには一人の女性が椅子に座っていた。
髪の色が右半分が白、左半分が黒で、目の色もそれに合わせて色が異なっている。肌は色白だが手だけは日焼けしている。
「シャルロットの名前を呼んだけど、知り合い?」
「いえ、初めてね」
なのに名前を……まあ姫だから有名ではあるか。
「……キューレ。隠居生活でもしてた?」
キューレ。パムレは目の前の女性に向ってそう言った。
「お久しぶりね、マオ。数百年以来かしら?」
パムレの知り合いだったのか?
「……リエン、気を付けて。こいつは『カンパネと同類で神の魔力を持つ精霊』。過去にガラン王国の城を破壊している」
やばい人じゃん!
というかガラン王国の城は何回破壊されてんの!?
「過去の事は水に流しましょ。それに今は『あの忌々しい女神』の呪縛から解かれてフーリエと同じ……いや、もっと混沌とした存在として自由に生きているんだから」
母さんの名前も知っているのか。と言うことは普通じゃない存在だろうな。
「えっと、キューレ……さん? 貴女は俺たちの周囲の人を沢山知っているみたいですけど、俺たちに何の用なんですか?」
「そうね。まずは貴方の名前を教えて貰っても?」
おっと、名乗らず話をしてたか。ん? 皆んなの名前は知ってて俺だけ知らないのかな?
「俺はリエンです」
「リエン……なるほど。だからですか」
どういう事?
と、そこでキューレさんは机の上に数枚のカードを並べ始めて、それを眺めた。
「名は呪いであるとともに身を守る守護霊。貴方の名前はきっと全てを知った上でつけられた名前なのでしょうか。それとも……」
キューレさんは手に持っているカードに魔力を込め始めた。
「『離』れた『縁』をつなぎ合わせることでようやく貴方という存在を知ることができたわ。そしてこの世界についても知り、この先の未来も……あ、いや、クロノが重傷を負ったからまだ不透明ね」
一体何をしたんだ?
と、そこでパムレが右手に魔力を込めた。
「……キューレ。リエンを呼んで何が目的か言わなければ消す」
「待ちなさい『人工魔術師のマオ』。段取りはちゃんとあって、それはこの部屋にいる皆に関係するわ。そこのリエンの後ろに隠れている龍族のパティも含めてね」
「パムレやシャルロットの名前が分かるのは有名だからという説明がつく。でもパティの名前を知っているのは変だよね?」
「ふふ、鋭いわねリエン。実は貴方以外の人の名前くらいこの『運命の切札』を使えば分かるの」
「『運命の切札』?」
そう言って数十枚のカードを俺に見せてきた。
「『運命』の神フォルトナの持つ運命の魔力が込められた魔法具。リエンにも運命の魔力が少しだけ宿っているみたいね。と言っても名前に吸い寄せられた程度だから微小ではあるけどね」
「あの、先ほどからクロノさんやフォルトナさんの名前も出て来るし、カンパネと同族って言っているしで色々と情報が錯乱しているから追い付けないのですけど、結局のところ何がしたいのですか?」
俺の質問にキューレさんは答えた。
「私は真実と未来。そして私という存在の在り方と『暇つぶし』を探しているの。貴方はその中でもトップクラスで良い暇つぶしになったし、色々と解決して今は満足よ」
「満足?」
「リエンという名前はきっとそこにいるマオの地元の世界の言葉である『離縁』から来ているわね。その名前の所為で貴方の名前を判明することがこのカードではできなかった。となれば誰か同伴で来てもらうしかなかった。ふふ、我ながら良い提案だったわね」
ケラケラと笑いながら話すキューレさん。
「あ、お茶で良いかしら?」
「お、お構いなく」
そう言ってキューレさんは立ち上がった……ん? 足が無い?
スカートで見えないけど、立ったというよりも浮かび上がったという感じだ。
と、何かを思いついたのかセシリーがポンっと音を立てて現れた。
『こやつ……『神』の魔力を持つ精霊と同時に『悪魔』じゃな』
「悪魔?」
腰から下は長いスカートで隠れているが、実際は浮いている。何か魔術的なものを使っているのだろうか。
疑問に思っているとパムレが俺に説明をし始めた。
「……過去にキューレはガラン王国の城を襲った。当時のパムレ達は太刀打ちができず、苦肉の策として『心情偽装』を駆使して『キューレにキューレのドッペルゲンガー』を召喚させた。二人になったキューレは目を合わせて、お互い死ぬまで戦い、そしてどちらかが死んだ。その姿を見る限りだと『悪魔』が勝ったんだね」
母さんにも関係している『ドッペルゲンガー』の呪い。確かお互い目を合わせちゃうと両方とも自我を持ち始めてどちらかが生き残るまで戦うんだっけ?
「正解。でもかなり昔の話ね。今はこの傷を治す手段も無く、平凡な毎日を過ごすしかなくなったわ」
お茶を注ぎ終え、俺たちの近くに魔術を使ってお茶を置く。
「さて、リエン。貴方は自分探しの旅に出ているみたいだから次にどこに行けば良いのか教えてあげる」
あ、それはそれで都合が良くて助かる。
「ゲイルド魔術国家のマリーに会いなさい。できればカグヤにも会えると良いわね。そこで助言を貰って時の女神クロノの仕事を手伝うの」
「クロノさんの?」
そしてキューレはまた数枚カードをめくる。
「原初の魔力に次ぐ次世代の後発魔力。これらを駆使して重症のクロノの治療をすれば、この先の運命は急変すること無く幸せな未来が待っているわね」
そしてキューレは一枚の紙に何かを書き始めた。
『斎藤 離縁』
別な国の言葉だろうか。残念ながら俺には沢山の線や点が書かれているようにしか見えないけど、どこかの文字としか感じ取れない。
と、その文字を見てパムレは立ち上がった。
「……なっ! そ、そんな!」
そのままパムレは地面に座り込んだ。
「パムレちゃん? えっと、大丈夫?」
そっと寄り添うシャルロット。
「……大丈夫なわけない。もしふざけてその紙をリエンに渡したならこの場でっ」
「ふざけてないわ。そこの少年の『本名』を書いてあげたのよ。ただし、それは私に微かに残った『神』の力を使って書いた字で、今後の指標になるわね。その様子だと『リエン』という名前に込められた微かな魔力はマオにも影響していたみたいね」
えっと、何て書いてあるか読めないんだけど。
「ふふ、その字の読み方は『サイトウ リエン』よ。日本語という言語で書いてあって、貴方とマオとは深い関係がある人物と同じ名前でもあるわね」
サイトウリエン。確か母さんが以前『サイトウ』という名の学者の話をしてくれたっけ。それにパムレも話していたような。
「流石のフーリエもクロノが重傷を負う所までは予想できなかったみたいだし、特別に私が教えてあげる。昨日の敵は今日の味方。マオとは一度戦った仲だけど今日は平和に話し合いましょう」
☆
椅子に座りお菓子の『パムレ』を何枚か渡された。
「えっと、リエンの本名ってことはこれから『サイトウリエン』って呼ばないといけないの? 長いわね」
「それを言うならこれからシャルロットのことは『シャルロットガラン』って呼ぶよ?」
「うん、リエンって呼ぶわ」
相変わらず空気を読まない姫であるが……まあ、これはこれで助かる。
「えっとえっと、ワタシにも関わる今後の出来事って何でしょう?」
パティが話題を切り出してくれた。
「簡単に言うと、このまま平和に生活していたら『リエン』という存在は消えてしまうの」
俺が……消える?
「その紙に書いた文字はただの文字に見せかけて、貴方とつなぎ合わせているわ。この文字が徐々に消え始めて、やがて全部消えるころには貴方はこの世界にはいなくなるということね」
「どういうこと?」
「ちょっと前に『馬鹿なクロノ』が『アホのレイジ』の攻撃で右腕を失ったでしょ? その所為で地球の時間がおかしくなったの。まるで過去に戻ったような感じにね」
地球……パムレの故郷で、俺たちが一度行った場所だよね。
「……もしかしてパムレが行った時に風景に違和感があったのは」
「そう。まあ、それを実感できるのはそこのマオしかいないんだけど、実際地球の時間はかなり過去に戻ったわ。唯一その危機を回避したのはマリーとカグヤ。そしてそこに住む精霊や神だけね」
パムレは地元である地球に戻った時に違和感をずっと感じていた様子だった。それは『時を司る神』が重傷を負ったから。そういうことか。
「神という存在は絶対なの。鉱石にしかり時間にしかり、どの神も消えてしまえばどこかで影響が出てしまう。そういう意味では『あのバカ真面目なクロノ』は悪魔もどきのレイジ相手に油断したみたいね」
「さっきからクロノさんに対して辛辣過ぎないですか? 嫌いなんですか?」
そんな小さな質問をしてみたところ。
「滅べばいいと思っているわ」
「滅んだら影響出るってさっき言ったよね!?」
何だこの矛盾は!
「嘘よ。でも苦手ね。光の神の次に神様らしい事をしているけど、厳しすぎて疲れるのよ。まあ、今の私は自由なドッペルゲンガーだから関係無いけど」
そう言ってお菓子のパムレを一口。
「キューレ。貴女はずっとここに住んでいるのよね? どうしてそんなに詳しいの? チキュウの事情やクロノの腕に関しては割と最近の出来事よ?」
「それはさっきも見せたこれのお陰よ」
そう言って『運命の切札』をもう一度俺たちに見せた。
「これでこの先の未来を読み解くことができるの。もちろん人の名前や植物の成長。それら全てを見ることができる。唯一できなかったのは運命の魔力によって運命を遮断された人物……リエンの運命だけね」
俺の運命……。
「ちなみにクロノが重傷を負わなかったら貴方の名前はフーリエから教えられ、そしてそこのマオも知る。そういう運命『だった』みたいね」
「だった?」
「そう。普通じゃありえない存在によって運命って変えられちゃうの。貴方達の知るレイジという存在はその代表格ね。ちなみに今でもどこかで生きているわよ」
な!?
「大変! どこにいるか教えて!」
「残念ながらそれは対策されちゃった。どう対処したかわからないけど、レイジの痕跡は消えてしまったわ」
つまり手がかりは探さないといけないということか。
「違うわ」
と、俺の心を読まれたか。
「貴方はまず最優先事項としてマリーとカグヤに会って次世代魔力を集めるの。そこの龍族の少女の魔力と運命の魔力。そして他の魔力をそろえてクロノの腕を修復するのよ。さっき貴方が消えるって言ったけど、それはまだ序の口。本題はその後の世界危機が訪れるのよ」
え? どういうこと?
と、疑問に思ったところでパムレが話始めた。
「……なるほど。来ないでと言いつつも『マオ』がここにいるのも計算済みということか」
どういうこと?
「いたら答えが早く知るだけよ。私から話すのが面倒ってだけ。かつて地球で生まれた『斎藤 離縁』は人工的に魔術師を作ったの。その名は『マオ』。正式名称は違うけど、まあ女の子で可愛らしい名前に少し変えたのでしょう」
パムレを作った? サイトウリエンが?
「作ったと言っても人間の男女の間に生まれる赤子というわけではなく、人形を作るように人を作ったの。その世界では人が死ぬ戦いが繰り広げられ、最後の手段として超人的な能力を持つ人間を作り、終戦に持ち込もうとしたみたいね」
かなり前にパムレは普通の人間では無いと言っていた。それってこのことだったのか。
「『斎藤 離縁』がマオを作り、そして地球の戦争を終わらせれば問題は無かったけど、兵器として扱わずに一人の女の子として扱った『離縁』はマオの命を優先し、この世界に転移させたの。そしてマオはこの世界で『三大魔術師』と呼ばれるほど偉大な存在となり、この大陸では重要過ぎる存在となった」
実際パムレの存在は大きい。でもどうしてその説明を今?
「長くなったし、簡単にまとめると、リエン。貴方が消えてしまうとそこのマオも消えてしまう。そうなればこの世界の歴史も色々と壊れてしまい、世界が崩壊するのよ」




