占い師1
「うう、不覚です。まさかワタチが息子の前で辱めを受けるとは」
「シャルロットさんの膝の上に乗るのはそれほど恥ずかしくないことでは?」
「……パムレ関係なくね?」
と、三人がシャルロットの膝の上に乗り、満面の笑みを浮かべるシャルロット。
「リエン、見ないでください! 母親としての威厳が損なわれていきます!」
「母さんの威厳はとっくに無いから安心してね。あ、野菜炒めで良い?」
とりあえずセシリーに氷で仮拠点を作ってもらい、フェリーには火を生成してもらって、俺はガラン王国の短剣で野菜を切ってそれを炒めていた。
『もはや精霊の威厳も無いのう。野菜包丁が鉱石精霊様の作った短剣というのはなかなか心が痛むのう』
『ウチ達料理担当ー?』
台所もセシリーに作ってもらい、俺の背丈に合わせた机とまな板ですっごく調理しやすい。
鉄板だけは何とか爆発に耐えたからそれを使って野菜を炒めているわけだけど、まあ超加熱消毒されてるだろうし大丈夫だよね。
「あ、良い匂いです」
「……うぐ、野菜」
「パムレ様! しっかり食べないと駄目ですからね! じゃないとパティ様にお願いをして野菜味のパムレットを作ってもらいます!」
「……ちょっと興味はある。けど進んで食べたいとは思わない」
そんなやり取りをシャルロットは笑顔で見ているのが不気味なんだよね。
「シャルロットは何かしゃべらないの?」
「このホンワカ空気に私が入ったらぶち壊しじゃない。ちょっとは考えなさい」
「辛辣すぎない?」
びっくりだよ。しかも笑顔で答えてきたよ。
「っと、ペシアさんは料理を食べれないんだよね。えっと、どうしよう」
『お構いなく! 私は人形なので味覚はありませんし、そもそも食べても消化とかできないので皆さんの笑顔を楽しませていただきます』
すげー清らかな心の持ち主だな!
変な人が沢山いる中で唯一の常識人が人形と言うのも悲しくなってくるものだ。
☆
夕食を終えて剣の修行を少し行い、ちょっと休憩。
「リエンもなかなか体力はついてきたわね。そもそもあの砂の道を歩き切った時点で結構な体力だったと思うわよ」
「素直に褒めてくれると嬉しいね」
魔術を使えば多少楽になったかもしれないけど、実は体力関連も考慮してあえて素の力で頑張ってたのは内緒だったりする。
「へー。リエンも男の子ね」
「心を読むな。覗き姫って呼ぶぞ」
「凄い嫌なんだけど!」
もはや王族とかの壁はほとんど感じなくなったよね。友人みたいな感じ。
「……ふむ、リエンはなかなかのプレイボーイと見た。パムレも気を付けないと」
「リエンさんはお兄さん的な感じですが、ワタシも少し弁えないとですね!」
「ワタチの息子ですよ? 紳士なリエンは場を弁えてますよ」
「隠れてないで出てきてよ!」
パムレとパティと母さんが現れた。
「剣の修行中は邪魔をしないように見守ってました。あ、これ店主さんからもらったタオルです」
「ありがとう」
パティから受け取って汗を拭く。
「……じゃあパムレからは汗を洗い流す水を進呈しよう。おりゃー」
「ばびばぼおおおおあああああああ!?(ありがとううおおおああああ!?)」
空から水の塊りがドスンと落ちてきたよ! 汗は流せたけど、すげー痛いんだけど!
『しょうがないー。ウチが乾かすー』
「ありがとー」
そう言ってフェリーの熱風で乾かしてくれた。
『我は』
「セシリーは今回おとなしくしていいよ」
『ふぐう』
しょんぼりするセシリーをシャルロットが抱っこして撫で始めた。
「リエンさんの旅は何と言うかすごく楽しいですね。毎日笑いが絶えないと言うか、大変な時があっても翌日には笑い話になったりする旅ばかりですね」
「ツッコミが忙しくなるけどね。代わりにパティがツッコミしてくれる?」
「ワタシがですか?」
えへへーと照れるパティ。
「……それはおすすめしない」
と、パムレが苦笑して話し始めた。あのパムレが苦笑?
「何で?」
「……『なんでやねーん。『ドラゴン・ブレス』。ぼおおおん!』は洒落にならない」
「いや、力加減くらい考えるでしょ!」
ボケる側も命懸けになっちゃうよ!
「やるなら本気でやりますよ!」
「やらなくて良いから!」
何でパティはそんなにやる気満々なの!?
と、そんなやり取りをしていたら、ちょっと離れた場所から人の気配を感じた。
「シャルロット」
「うん、音の魔力で分かったわ。右斜め前。三人くらいがこっちを見ている」
久々に音の魔力を使った気がするぞ?
「出てきてください。こっちは相当な実力者しかいません。出てこないなら爆破します」
母さんが軽いノリで脅しをかけた。
「ま、待ってくれ! オイラたちは敵じゃねえ」
「そうだ。砂の地の住人なんだが『占い師』に頼まれてここに来たんだ」
占い師?
「シャルロット姫と、一緒に旅をする男と龍族の娘はここにいるか?」
「ええ、私がシャルロットよ」
そう言ってシャルロットは前に出た。
と同時に、男たちはその場で膝をついた。
「オイラたちはミッドガルフ貿易国の元兵士をやっていました。今は砂の地で細々と過ごしているだけの放浪者だ」
「そう。嘘は言ってないみたいね。それで、もしかしてその『占い師』の所に案内してくれるのかしら?」
一応ペシアさんから場所は聞いたから道案内は必要ないんだけど。
「オイラたちは護衛として雇われたんだ。ここに三大魔術師のマオがいるのは知っているが、できれば来て欲しいのはシャルロット姫様と一緒に旅をする男と龍族の娘だけにして欲しいんだ」
「俺とシャルロットとパティだけ?」
何故だろう。
「正直この砂の地で盗賊が多い中、こんな提案をされたら疑うのが普通だが、どうしても三人だけに来て欲しいそうだ。『それが最大限の妥協案』だそうだ」
意味が分からないが……。
とりあえずシャルロットを見てみると、首を縦に頷いた。
「わかった。母さん、ここで待っててもらっても?」
「わかりました。どのみち宿を修復しないといけませんし、パムレ様とペシア様で何とか頑張ってみますよ」
「……ウルトラとばっちりだけど」
『あははー、小さな手が落ちないといいなー』
さらっと人形要素を言うペシアさん。実はこの人も冗談とか結構好きなんだろうか。
「じゃあ案内してくれる?『占い師』の所へ」




