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模擬戦

 元三大魔術師対現三大魔術師の無駄な争いを阻止し、とりあえず長旅の疲れを癒すために布団へ飛び込んだ。

『のうリエン様よ。魔力お化けが飛んできたのに歓迎もせずに休んで良いのか?』

『一応精霊にとっても脅威的存在ー』

「パムレだし今更歓迎とかは良いんじゃないかな? 呼べば来るってわかっちゃったら感動的再会的な感情はすっと無くなっちゃったよ」

 ちなみに母さんとパムレとパティは何やら言い争っていて、なぜか中心にシャルロットが入り込んで満面の笑みを浮かべていた。なんなんだあいつは。

 荷物を持つ手伝いをしてくれると言う事で、俺の部屋にはペシアさんがついて来た。

『店主さんも元気が戻ってよかったです』

 と、ペシアさんがぼそっと言った。

「元気なかったの?」

『うーん、元気が無いと言うか、リエンさんが店主さんの近くにいない時といる時の違いは結構はっきりしているんですよね。話しかけても生返事だったりします』

『リエン様の母上は一度子離れの修行を行うべきじゃな』

 俺もそう思う。

「というかその話をするという事は色々と話は聞いたの?」

『はい。時期的には三大魔術師を抜けた辺りで教えてくれました。元々色々な事情を持っている人だとは思っていましたけど、まさか大陸中に店主さんがいるとは思いませんでした』

 まあそれは俺も慣れちゃったとは言え変かと問われれば変だと答える自信はある。

「そうだ。ここに長く住んでいるペシアさんは知っているかな」

『何でしょう?』

「この辺にエルフの占い師とかいないかな? 砂の地の集落から離れている場所に住んでいるみたいなんだけど」

 そう聞くとペシアさんは顎に手を当てて考えた。

『エルフかどうかはわかりませんが、心当たりはありますね』

 おお、これはラッキーと言うべきだろう。

「場所はわかる?」

『はい。砂の地の集落から南に進めば洞窟があるのですが、その中には入らずにそこから東へ少し進んだところに小屋があります』

「おおー、結構詳しいね」

『ミッドガルフ貿易国に材料を買いに行こうと思ったら道に迷っちゃって。一度だけそこの占い師さんにお世話になりました。迷子からの出来事なので印象深いですね』

 なるほど。一応人と交流はするみたいだね。まあそもそもピーター君のお父さんとも会ってたみたいだし当然か。

 話はまとまったところで一度部屋を出て、母さんとパムレとシャルロットを呼ぶ。ちなみにパティは俺の後ろをテケテケとついて来ている。

「薄々思ったのですが、パティ様ってリエンに懐いてません?」

「……神を従う人間……リエンはいつの間にかパムレを超えた」

「そして同時に私の敵ね。剣術の修行はさらに厳しくしてあげる」

 変なとばっちりが飛んできたんだけど! 三大魔術師と剣の先生が敵になっちゃったよ!

「リエンさんはその……お兄さんみたいな感じなので」

「パティの方が年上だよね!? 見た目は俺の方が年上に見えるけど!」

「パティちゃん。それは駄目よ。すでにリエンの親族候補としてカッシュという弟がいるわ」

「カッシュを勝手に弟にするなよ! 一応ゲイルド魔術国家の王族だよ!」

「ふむ。この際だからもう一度白黒つけましょう。誰がこの中で頂点なのか」

「……フーリエ、手加減はしないよ?」

「面白そうね。前回王者の私としては負けられないわね」

「な、なにが始まるのですか?」

 俺も知りたい。


 ☆



「……か……勝った」



 巨大な穴の中心で片腕を挙げ勝利を宣言するパムレ。

 そして少し離れた場所で母さんは息を切らして仰向けに倒れていて、シャルロットは地面に突き刺さっていた。いや、母さんはともかくシャルロットの状況がすげー違和感しか無いんだけど。姫だよねこの娘。

「うぐぐ、悪魔では無く人間であれば勝てたのに悔しいです」

「(もごもごー!)」

 とりあえず二人はピンピンしているみたい。

「凄いですね。シャルロットさんは秒殺でしたが店主さんは十分ほどあの三大魔術師マオの攻撃に耐えてましたね。シャルロットさんは秒殺でしたが」


「悲しくなるから何度も言わないでよパティちゃん!」


 おお、砂から出てきた。

「……シャルロットは取り合えず『ポン』で終わりだと思った。フーリエだけが難題だったけど、長期戦になれば有利」

「リエン! 上級魔術教えて! すごく悔しい!」 

 それ以上に貴女は音の魔力を持っているでしょうに。上級を超える術を持っている自覚は無いのだろうか。

 と、ポフポフと砂埃を取る母さん。

「まあこれでとりあえず力の上下関係ははっきりしましたね。腑に落ちませんが今回はパムレ様に勝ちを譲りましょう」

「……結構嬉しい。十戦やって一勝くらいだったから成長の実感が見えた」

「となると私は二人に二戦くらいして一勝しているから結構な勝率ということかしら?」



「「(……)これから百回くらい模擬戦する?」」



「すみません。調子に乗りました。今回は素直に負けを認めてお皿を洗います」


 そう言ってシャルロットは寒がり店主の休憩所へ向かった。



「え、これ皿洗いを賭けた勝負だったの!?」



 大規模な戦闘の癖に内容が小さいんだけど!

「皿洗いは『とりあえずの罰』で、本質は『誰が現時点で一番か』です。ワタチは三大魔術師から身を引きましたが、魔術師として上を目指すことに変わりないので時々パムレ様とは模擬戦をするのですよ」

 へー。お互い高めあう存在か。なんかそういう関係って良いな。

「……リエンにもピーターがいる」

「ああ。まあ間違ってはいないけどね」

 競争相手がいれば燃えるもんね。


「という事でパティ様。残念ながらリエンの裾をチョンチョンと引っ張るにはこれくらい強くないと許されません。というかワタチが許しません。一緒に旅を出たりご飯を食べるのは良いですが、それ以上の好意はまずワタチを通してください」

「店主さんの目が怖いんですけど!」

「というか俺と接する人が母さんの許しを得ないといけないって今までいなかったよね!?」

 毎回思うけど母さんの暴走は本当に怖いよ!

「わかりました」

「え?」



「ワタシの実力を店主さんに見せれば良いのですね!」


 ☆


「えっと、本当にやるのですかー?」

「はい! 見ててください!」

 少し離れた場所に母さんとパティが向かい合って立っていた。

「……パムレット神は『リエンの服をツンツンする』権利を得るために魔術研究所の副館長と戦う……なかなか面白い歴史が誕生しそう」

「絶対広めないでね!」

 俺の隣でパムレットをモグモグと食べるパムレ。というか持ってきてたのかよ。

「リエーン。とりあえず開始の合図を」

「はーい」

 という事で空中でいい感じに破裂する術式を加えた『火球』を空に向って放つ。


『パアン』


 その合図を聞いた二人は真剣な表情へと変わった。

「手加減はしてあげます。いつでも来てください」

「は……はい!」

 というかパティって魔術使えるの? いや数百年『認識阻害』を使ってたなら使えるか。

 と、そんなことを考えてたらパムレが突然キョロキョロし始めた。


「……ん? え……ん? リエン、ちょっとパムレの背中に来て」

「え?」

「……忘れてた。パティってパムレよりも『魔力お化け』だった。あー、ギリギリ間に合うかな」 

 そう言ってパムレは前方に巨大な魔力壁を生成した。え?


 そして。



「行きます!『ドラゴン・ブレス』!」


 凄まじい魔力の塊りがパティに集まり、パティは母さんに手を向けた。



「ちょちょちょちょおおっと! これはやばいです!『禁忌・未来予知』! えっと、ここから西に向かって『風球』!」



 今さりげなく『禁忌』とか言わなかった!?



 と、突っ込む間もなく母さんは横に思いっきり飛んだ。そして。



「ふう、皿洗い終わったわ。さてパティちゃんをモフモフす



 ばあああああああああああああああああああああああああああああん!



 すさまじい轟音と共に巨大な魔力の塊りが放たれた。

「避けられましたか! くっ、店主さんはどこに!」

「強力な大砲ですね。パティ様は下級の魔術をもっと勉強すべきです」

「なっ!」

「『プル・グラビティ』」

 パティは地面に倒れこんだ。あれは体が重くなる術だっけ。

「ふう。ワタチの勝ちですね」

「うう。やっぱり強いですね」

「ですがなかなかの強者だとわかりました。特別にリエンの服をツンツンする行動だけは許しましょう」

 そんなすっげー小さな権利を得るためにでっかい爆発を発生させたの!?

 いくらでもツンツンさせるよ!

「さて、爆破した個所の後片付けを……にゃああああ!」

 と、突然母さんが叫んだ。



「大変です! 寒がり店主の休憩所が木っ端みじんです!」



「とりあえず関係者は私に謝りなさい。生きた心地をしなかったわ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 何かと規模が大きいなあwww
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