王の血筋
ミッドガルフ貿易国の城って何度目だろう。正直あまり良い印象が残ってないんだよね。
ミッド王子は牢屋にいるし、ガルフ王はアレだし。
『ガルフ王が参られました』
と、兵の一人が声を上げた。俺とシャルロットとパティは中央に立たされていた。
「わわわ、一体何が始まるのですか?」
「落ち着いてパティちゃん。ちょっとお話するだけだからね」
「はいい」
と言ってパティは俺の服をギュッと掴む。それを見たシャルロットは一言。
「リエンは後できつい訓練ね」
「理不尽すぎない!?」
と、うっかり声を上げた瞬間兵たちは剣を構えた。
「王を前に無礼な!」
「し、失礼しました」
「謝らなくて良いわよリエン。さてガルフ王、率直な質問良いかしら?」
「良いだろう」
相変わらず偉そうである。ガラン王国で会ったばかりだから全然新鮮味が無いけどね。
「『聖なる医師団』とはどんな関係かしら?」
「深い関係では無い。我が国に大きな病院を設立した組織で、実際助けられた者も多い」
「そうね。表向きはそうかもしれないけれど、裏はどうかしら?」
「何のことかは分からぬな」
とぼけるガルフ王。
「ふーん、色々と情報を知っている組織なのね。やっぱり『心情読破』は国際会議で使用禁止にした方が良いかもしれないわね」
「貴様! 魔術を!」
驚くガルフ王。シャルロットの目が金色に光っているところを見るとどうやらガルフ王の心を読んだみたいだ。
「ふむふむ、どうやら多額の金貨を寄贈して裏では協力関係になっているのね。うわー、これ国民が知ったらヤバイわね。あ、兵たちに今の話聞かれちゃまずかったかしら?」
「黙れ小娘! これ以上は内政の干渉としてミルダ様に訴えるぞ!」
立ち上がるガルフ王。しかしシャルロットは動じなかった。
「内政の干渉と言うなら貴方もそうね。『聖なる医師団』から各国の情報を聞き出して色々悪さを企んでいるみたいだし、こっちから逆に訴えるわよ?」
「証拠が無いな。我々は確かに極秘の情報源から各国の情報の一部を知り、それらを検討してから動いているにすぎん!」
「へー、じゃあガラン王国の選挙がゴタゴタになることを『予想』した上で先日来たのかしら?」
「そうだ。ガラン王国の情勢は不安定なのは明白だった。一王国の王として他国を心配するのは当然であろう」
大いに笑うガルフ王。それに対して兵たちは拍手を送った。
「変ね。最初聞いた話ではガルフ王は大叔父様……トスカ様に会いに来て偶然選挙に居合わせただけだったはずよね?」
その言葉にガルフ王が固まった。
「最初から大臣の候補を用意してガラン王国に関与する気満々だった。これこそ内政の干渉ね。トスカ様に会いたいというのはただの口実だったなんて、トスカ様と妻のシャムロエ様が知ったらどう思うかしら?」
「待て! ガラン王国の偉大な王に会いたかったというのは本心だ! 変な解釈はするな小娘!」
「へー、ふーん、ほー。とりあえず聞きたいことは『大体』聞いたしこれで失礼するわね」
「待て! おい兵ども! こやつらを帰すな!」
ガルフ王が叫ぶと扉に鍵がかけられた。えー閉じ込められたの?
「わわわ。ワタシ達はどうなるのですか?」
「大丈夫よパティちゃん」
そう言って頭を撫でる。
「一応言っておくけど私達の扱いは気を付けたほうが良いわよ」
「何を突然」
「あ、私達というよりリエンの扱いは気をつけなさい」
そう言ってシャルロットは俺の肩に手を置いた。
「深くは言えないけどガラン王国女王はこのリエンに何かしようとしたらしいんだけど、その瞬間『リエンの母親』がガラン王国の謁見の間を破壊したわよ」
「鍵を開けろ! そして丁重に扱え!」
扱いを気をつけた方が良い人物って俺というか母さんじゃん!
「鍵が開いたなら出て行くけど?」
「ま……待て!」
「え、リエンの母親が」
「ま……待て!」
「じゃあ出て行くけど」
「待て!!」
「じゃあリエンの母親が」
「待て!!!!」
「俺の母さんを交渉材料に使わないでくれる? なんか恥ずかしいんだけど!」
さっきから扉の前で兵たちが構えたり引いたりしてるけど、ポンポン母さんの顔が頭を過るんだよ!
「じゃあ『聖なる医師団』との裏のつながりがあって多額の金貨を渡していて他国の情報を不正に入手して内政に干渉しようとしていたことを認める?」
「ふっ……ぐ……」
完全に詰んでいるガルフ王。と、そこへ一人の男が謁見の間に入ってきた。
「詰みだねガルフ王。おとなしく牢屋に入るといいさ」
いや、誰?
青白い髪に青い目。四十代くらいの男性が入ってきてガルフ王に近づいてきた。
「な、ヒューゴ! 貴様牢屋に入ってたはずでは」
ヒューゴ? 初めて聞く名前だ。
「協力者に助けてもらったのさ。おや、君はリエン君だね」
いやいや、本当に誰!? 俺の記憶の中ではヒューゴという男性は知らないんだけど!
「赤ん坊以来だから覚えてないかな。あはは」
「また俺の幼少期に会ってた人かよ! 久々だねこの展開!」
ということは母さんの知り合い?
と、ヒューゴの後ろに小さな人影があった。
「あ、母さん」
「はい。ワタチです」
協力者が母さん……。え、つまり。
『ほほう、そいつはどうやらあ奴の父親じゃのう』
セシリーが現れて腕を組んだ。
「貴様……こうなることを知っててか!」
「まさか。リエン君やシャルロット姫が来るなんて思ってなかったし、俺も牢から出てここに来るまでは知らなかったよ。それにしても内政の干渉はさすがにヤバイけど、国民に隠れて税金を使って情報を収集していたなんて知れ渡ったらどうなるんだろうね」
「そ……そんなの証拠をもみ消せば良い! 貴様らをこの場で捕まえて……」
「え”、ワタチを捕まえると?」
「……(ガタッ)」
母さんと目が合った瞬間ガルフ王は倒れた。
「ガルフ王!」
駆け寄る兵たち。俺たちはもはや置物程度でしか見られていないのだろうか。
「ま……だ……だ!」
と、兵たちに肩を借りながらガルフ王は呼吸を荒くしつつ話始めた。
「ヒューゴ、貴様の息子は行方不明のはずだ。たとえ我がこの場で処罰を受け『貴様に王の権利が譲渡』されても一世代で終える!」
「ガルフ王……一体何を?」
周囲の兵達はガルフ王の言っている言葉の意味が分かってなさそうだった。俺は……なんとなく分かってしまった。
「残念だがガルフ王……いや、元ガルフ王。俺の息子の『ピーター』は現在ガラン王国の領土内でのんびりと生活しているよ」
「ばかなああああああああああああああああああああ!」
★
十五年前。
タプル村の寒がり店主の休憩所に一人の男が訪れた。
『いらっしゃいませー』
『ああ、客じゃないんだ』
『冷やかしなら帰ってください。ワタチはこの子の面倒を見ながらなので忙しいのですよ』
小さな少女の手にはさらに小さな少年が布に包まれていて、ぐっすりと寝ていた。
『三大魔術師のフーリエ様ですよね』
『ふむ、残念ですが貴方の命日は今日となりました。言い残したことはありませんか?』
『待ってくれ。俺はヒューゴ。複雑なことは省略するがミッドガルフ貿易国の王族の遠い血縁だ』
その言葉を聞いてフーリエは持っていた赤子を布団に置き、椅子に座った。
『要件によっては引き受けません。ワタチは国に干渉できない立場なので』
『ああ、全て把握しているつもりさ。ただ、俺の息子の面倒を見て欲しいんだ』
『息子を?』
『ああ。今はまだ赤ん坊だが、もう少ししたらこの村に家を建ててそこに住まわせる。俺と俺の妻は諸事情でミッドガルフ貿易国に戻らないといけないんだが、ある時期を迎えるまで預かっててほしいんだ』
『良いですが、そのある時期っていつでしょうか?』
『ミッドガルフ貿易国の王が逮捕された時だ』
その言葉にフーリエは驚いた。
『そんなことがこの先起こるのですか?』
『ああ。俺の知り合いに凄腕の占い師がいるんだ。この先十五年後まで占ってもらい、俺は今準備をしている』
にわかには信じられない話である。
『わかりました。では将来そんな未来が来なかった場合の対価を言ってください』
『俺の命だ』
迷いのない言葉にフーリエは一瞬戸惑った。
『ふむ、面白い人ですね。良いですよ。では『悪魔契約』で貴方の命はワタチが預かります』
そしてフーリエは一滴の血をヒューゴの首に塗り、約束を交わした。
『十五年後。もしもミッドガルフ貿易国の王が逮捕されない場合は貴方の前にワタチが現れてその命を貰います。良いですね?』
『ああ。一国を救うためだ。これくらいの代償が無ければな』
その後、男性は十五年間フーリエの前には現れず、代わりにピーターと名乗る少年が訪れ、リエンとはすぐに仲良くなったのだった。




