貿易国のチャーハン職人
寒がり店主の休憩所へ行くと、共有スペースの一角にフェリーとパティとゴルドさんが座っていた。
「あ、リエンとシャルロット。こっちですよ」
手を振って呼びかけてくるゴルドさんの下へ行くと、机の中央には大きなチャーハンが置いてあった。
「今日はボクの父のおごりです」
「鉱石の神は現在ここで働いてたの!?」
最近どこでチャーハン作ってるのかなーと思ってたけど、まさかミッドガルフ貿易国にいるとは思わなかった。
と言うか神が厨房にいるって思うと落ち着かないんだけど!?
「アルカンムケイル様の腕はワタチと同等くらいにはなったので、色々な場所でチャーハンを作ってもらってます。やっぱり無限の魔力を持つ存在は移動の交通費を考慮しなくて済むのは良いですね」
「相手は神様だよね!?」
心なしかチャーハンが少し輝いているような……。そしてそんな神様を厨房に一人にして良いの?
「うむ? 店主よ帰って来たか」
と、厨房でエプロンを着こんだ神様が登場。いやいや、違和感しか無いんだけど!
「お疲れ様です。あ、これから団体のお客様が少し来そうなのでワタチは厨房へ行きますね」
「のう店主よ。干し肉を細切れにするにはどうすれば良いのじゃ? 一旦水でふやかした方が良いか?」
「それでは旨味が逃げます。気合で切って、そこから水分を加えてください。そしていい感じの柔らかさになったら炒めましょう」
完全に料理の話をしてるよ! 神様感全く無いんだけど!
「さてリエン、話はフェリーから聞きましたが色々と大変でしたね」
「そうですね。もう巻き込まれというか、俺の旅の目的がどんどん遠のいているような感じがします」
「リエンの旅の目的?」
「はい。母さんとも話をしたんですが、俺自身が一体何なのかを探しに旅に出たんです。母さんの話では原初の魔力の後に出てきた魔力と関係しているとのことですが、とりあえず少しでも手がかりをつかもうと原初の魔力の塊りであるゴルドさんを訪ねてきました」
「そういうことだったのですね」
そう言ってゴルドさんはうんうんと頷いた。
「ボクに相談されても、どう答えれば良いのやら」
「最後の希望が一瞬で断たれたよ!」
そうだよね!
ただ原初の魔力の精霊ってだけで期待してたけど、実際関係無いもんね!
「残念だったわねリエン。とりあえずこのキラキラ光るチャーハンでも食べましょう」
「うう、あ、美味しい」
流石は母さん直伝のチャーハン。美味しい。
と、食べながらゴルドさんは話を続けた。
「とは言え、リエンがどういう存在なのかという質問は答えられませんが、原初の魔力の後に現れた後発魔力については少しだけ知っていますよ」
「本当ですか!?」
おお、やっぱり原初の魔力の精霊だ!
「と言ってもボクよりももっと詳しい人はいますけどね」
え、それは一体。
「チャーハン追加じゃ」
「そうじゃん! この人神様だ!」
もう俺の頭の中には『チャーハン職人・アルカンムケイル』として刻まれているよ!
「色々と都合が良かったわねリエン。ねえアルカンさん、後発魔力について教えてくれない?」
「む? 人間が後発魔力について聞く時代になるとはな。うーむ、と言っても後発魔力の上位魔力についてはワシ達と対になる存在じゃから、そこまで詳しくは無いぞ?」
「それでも良いのよ。例えば種類とか」
そう言ってチャーハンの皿を置きながら答えた。
「うむ、まずは『龍』。これはこの小娘が保持している魔力じゃな。次に『運命』。少年がかすかに保持している魔力でもあるな。この場に無いのは『望遠』と『無』と『元』じゃな」
「すげーあるじゃん! そしてすげー知ってるじゃん!」
他と比べて情報過多だよ!
聞きなれない属性もあるし、踏み込んで良い物か悩む物でもあるな。
「後発魔力の上位魔力はちいと特殊での。少年のように保持している人間がいたり神がいたりと、まさしく原初の魔力と同じような物なのじゃよ」
さらっと俺に魔力が宿ってる事を言ったけど、知ってたなら言ってよ。いや、もしかしたら言えない事情とかあったのかもしれないけどさ!
「特殊?」
「火や水の魔力は魔術で変化させることができる。故に『火の魔力を保持する人間』というのは存在しない。しかし『龍』や『運命』は異なるのじゃよ」
つまり、原初の魔力と同じくらい特別な魔力ってことだね。剣士志望としてはあまり関係が無いように思えるけど、攻撃が当たりにくいという点では良いよね。
「ふむ。少年の名は確か『リエン』じゃったな」
「え、はい」
「異世界より来たという話しから察するに、おそらく『何かの使命を持って』来たのじゃろう。しかもその名前はおそらくかつてなく強い呪い。うむ、もしも少年が何者で、何をするために生まれたかを知りたいのであれば、原初の魔力『神』を保持する『神』と会うが良い」
「『神』を保持する『神』って、カンパネの事?」
夢に度々出てきた忌々しい自称神。そう言えば最近は出てこないから朝はすっきりなんだよね。
「ふぉふぉふぉ。あやつは『神』の魔力を保持する『精霊』じゃぞ?」
え、カンパネって精霊なの!?
と、驚いているとシャルロットが手を挙げて質問をした。
「えっと、確かカンパネってこの世界の神様的な立ち位置だったと思うけれど」
「確かにあやつはこの大陸を作ったからある種神という意味を持つ立場であろう。じゃが、どうせあの精霊の事じゃ。『ボクの名前はカンパネ。この大陸の神(の属性を持つ精霊)さ!』と端折ったのじゃろう」
結構大事な所端折ってるよそれ!
「え、じゃあ『神の神』って誰なの?」
神の神って頭が痛くなる単語だけど、ぐっと堪えた。
「ふむ、説明は難しいが『女神』じゃよ」
「女神?」
えっと、名前を聞いたつもりなんだけど。
「ボクから説明しますね。『神』の『神』は名前を持たないんです。女性のような容姿から『女神』と周りは呼んでいるものの実際は無名です」
「そうなの?」
「彼女曰く、『名前は最大の呪い』との事。名を持たない彼女は何にも縛られない神でした」
「でした……ってことは今はもう……」
悲しい表情をするゴルドさん。まさか……。
「好き勝手してたからボクとシャルドネとマオとシャムロエとトスカとマリーとカグヤとその他でメタメタにしました」
「なんで一旦溜めたの? 普通に『説教した』で良いじゃん!」
ゴルドさんも冗談好きだったりするのかな?
「え、じゃあ今はどこに?」
「それが行方不明です。カンパネに聞いても分からないということですし、もしかしたら人間で言う所の『死んでしまった』のかもしれません」
神や精霊に死という概念は無い。という事だろうか。
「じゃあ質問できないじゃん!」
と、アルカンさんを見ると、その表情は少し真剣だった。
「いや、あやつは生きておる。そもそも神が一つでも滅べば世界は一瞬で消える。それが無かったということはどこかで身をひそめているに違いない。例えばクロノの腕が一本失われた時もどこかで時間が歪んだりしている。神とはそういう存在なのじゃよ」
そう言えばチキュウに行った時に出身者であるパムレは時代が違うって言ってたっけ。
「そうなんだ……」
えっと、整理をすると、『神』の『神』はカンパネでは無くて、もう一人の『女神』って人で、その人はゴルドさんたちがポコポコして消えたけど、実はどこかにいるって事ね。
「リエン。ここまでの話を短くまとめないでください」
「長いと俺の頭が追い付かないだけです。ちなみにアルカンさんの腕が無くなったらどうなるんですか?」
素朴な疑問。せっかく神様がいるんだから聞けるときに聞かないとね。
「む? あらゆる鉱石が無くなるから……とりあえずこの大陸は海に沈むのう」
「母さん! この人の給料もう少し上げてあげて!」




