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聖なる医師団2

「寒がり店主の休憩所の店主ー? どうしてここに!」

 母さんは目を真っ赤にして一歩、また一歩とビートに近づいていった。

「リエンが精霊を駆使して今の状況を教えてくれたのですよ。もっともリエンは何も考えていないみたいですけどね」

 精霊……あ!

「そうか、セシリーを通してフェリーに状況が伝わったのか!

『ご名答じゃ。あやつもこうなるとは予想していなかったそうじゃが、たまには役に立つのう』

「フェリーちゃんにはあとでご褒美のナデナデね!」

 それはご褒美になるのかな?

「貴様、ここを壊して無事に済むと思っているのか? ここは病院だぞ!」

「シグレットの書物を何かしらの方法で読み、その技術を利用すれば大きな病院の一つや二つはできますよね。いやー、ワタチもてっきりシグレットの管理不足だと思っていましたが、今回の件で線と線がつながりました」



「点と点が線でつながった……じゃね?」



「リエンは黙っててください」



 真顔で怒られたんだけど。いや、言葉を間違えたの母さんじゃん! 俺悪く無くね!?

 それにしても母さんが一体何を話しているのかわからない。とりあえずシグレット先生の技術をこの人たちは盗み取ったということだろうか。


「後発魔力の『望遠』が封じ込められた道具を使っていますね? どこにありますか?」


 望遠……確かパティがそんな単語を話していたような。

「し……知らない! なんだその望遠という魔力は!」

「離れているのにその場の状況や物を見ることができる特別な魔力ですよ。リエンやシャルロット様が侵入する情報も、ガラン王国の内情も、ガラン王国前で捕まった者たちの情報を『ワタチ』以外が知るわけもないのに何故知っているのか。答えは簡単です。『望遠』を使っていますね」

 母さんは両手に『空腹の小悪魔』を召喚した。

「し、知らないわよー! 私はただ本部からの手紙に書いてあったからそうしたまでで」

「本部……ゲイルド魔術国家ですか」

 そう言うと両手の『空腹の小悪魔』は溶けて消えていった。いやいや、絵的にすごくグロテスクなんだけど。

「ふむ、用件は済みました。ゲイルド魔術国家の上層部にこの事を話して問題を解決しましょう」

 そして母さんは俺たちの所へ近づいてきた。



 敵に背を向けて。



「馬鹿め! 死ねええええええええ!」



「!!」



 ビートは隠し持っていた針を母さんに投げた。そして。



 プスッ。



 母さんの頭に刺さり、そしてゆっくりと母さんは倒れた。

「なっ! か、母さん!」

「馬鹿め! 油断するからだ!」

「逃がさないわよ!『火球』!」

 シャルロットは咄嗟に火の球を放ち、ビートの服を燃やした。

「うあっちー! ちょっと、これ高価なのよ!」

「セシリーちゃん、足止めをしたから強固な柵を頼める!?」

『承知じゃ!』

 セシリーは瞬時に氷の柵を作ってビートを閉じ込めた。

「ふー! ふー! くっ、だがそいつはもう死んでいるわ! 狙い通り一発で痛みもなく人間の急所を狙ったのだからね!」

 俺は母さんに駆け寄った。

 母さんは目を閉じてそのままジッと動かず、息もしていなかった。



「…………」



「…………」



「『人間』の急所らしいし、大丈夫そうだね。えい」



 とりあえず針を乱暴に抜いてみた。



「いったあああ! こらリエン! 一応ワタチは痛覚だけはあるのですよ! 針を抜くなら優しく抜いてください!」



 わーい、母さん蘇った。

「ば……馬鹿な! 確実に急所に命中したはずよ!」

「そうかもしれないけど、母さんには通用しないみたいだね」

「何故だ! 人間なら絶対に死ぬツボだったのよ!」



「答えは出てるじゃん。『人間なら死ぬツボ』に当てたのに、死ななかったんだよね」



 そう言って俺は少し長めの棒を拾い、柵の外から思いっきり突き、ビートを気絶させたのだった。

「見事な溝打ちね」

「一応鍛えているからね」


 ☆


「はい店主殿。これでとりあえずは見えないわね」

「大げさですね。おでこに絆創膏なんて格好がつかないですよ」

「ダメよ。小さな怪我は大きな病気にもなるんですから」

 と、母さんの頭に絆創膏を張り、とりあえず針の跡は見えなくなった。

「というか母さんまたぶっ飛ばしてきたでしょ。ミットガルフ貿易国だから良いかもしれないけど、あまり無茶しないでよ」

「まあ今回はそれほど心配していませんでしたね。ビート様の情報は色々と集めていて、腕は良いですけど、ワタチやパムレ様と比べたらその辺の石と同類です」

 いや、比較対象間違ってるから。せめて俺たち基準で考えてくれない?



「なるほど。つまり店主殿とパムレちゃんに勝った私でも、店主殿が来なくても今回は余裕だったということですね!」



「よし来たシャルロット様。今すぐ表に出てきてください。破壊の限りを尽くしてこの国ごと滅ぼしどちらが強いのか証明して見せましょう。何ならガラン王国もワタチの攻撃範囲内として一発ぶっ放してあげますね!」

「冗談に聞こえない冗談はやめてよ! あとシャルロットもそのネタいつまで引きずってるの!」



 何がよし来ただよ!

「しかし厄介な事実が分かってしまいました。ゲイルド魔術国家に『望遠』の魔力を宿す道具があるということは今この状況も見られているかもしれません」

「うわ、私達の事見てるの? ちょっと気持ち悪いわね」

 ビートと言い遠くから見ている人(仮)と言い、やっていることがちょっと危ない集団なのでは?

「うーん、成功するかわからないけどやる価値はあるかしら」

「え?」

 突然シャルロットが天井を見て手を振った。

 そして。



「『一か月くらい寝なさい』」



 ……え、急にどうしたの?

「あ、いや、私の音の魔力でこっちの様子を見ていた人がいるなら、今ので寝ないかなーと」

「流石にそんな単純な物じゃないんじゃないかな」

 ケラケラと俺とシャルロットは笑った。



「大変です。今こっそりゲイルド魔術国家にある『聖なる医師団』の本部を覗いてきたのですが、ちょっと騒がしくなりました。多分成功してますね」



「マジカヨ!」



 成功しちゃったよ!

「シャルロット様ナイスです! 犯人特定までは行きませんでしたが、少なくとも『聖なる医師団』の誰かが『望遠』の道具を持っているみたいですね。それも騒がしいということはそれなりに重要な人物ということでしょう」

 何かあっさりしすぎてない?

「『聖なる医師団』の本部はマリー様にお願いをして、今日はゆっくり休みましょう。明日は少しだけ忙しくなるかもしれませんよー」


 だんだん俺の用事から遠ざかっているように見えるんだけど、気のせいかな? 気のせい……だよね?

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[一言] >だんだん俺の用事から遠ざかっているように見えるんだけど、気のせいかな? 気のせい……だよね? 気のせいじゃないよ( ˘ω˘ )
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