ガラン王国で特訓3
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翌朝。
「おはようございます。シャル様。リエン殿……ん、何やらリエン殿は少し不機嫌なご様子?」
「何でもない」
「あははー。ほら、リエンの失敗談は為になったから元気出して!」
両手をぐっと握って、応援してくれるシャルロット。まあ、別に気にしては無いんだけどね! 本当だからね!
「はっはっは、朝から元気が良くて私も鍛えがいがあるというものです。さて、昨日は午前中にリエン殿の基礎体力の確認、午後にリエン殿の悪い場所探しを行いましたが、予想よりも良い感じです」
「そうなの?」
なんだか褒められるとうれしいな。だって相手はあのガラン王国の副長だよ?
変な罪を二つほど持っているけど、実力は確かな人物だからね。変な罪は二つ持っているけど。
「短剣の使い方がまるで何か料理をしているかのような」
「そりゃ料理を常にしていたからね!」
斜め上方向の褒められ方で、あまりうれしくない。
「いやいや、これはこれで良いことです。短剣ですとイガグリが得意とする武器で、彼とはまた違ったさばき方ですが、繊細でもあります。見極め方や腕の力の使い方次第では相手の急所をスッと斬ることも可能かと」
え、そんなにすごいことなんだ!
なんか料理を手伝っていた思い出がどんどん綺麗な思い出になってきたよ!
「ふふ、私も魔術について進歩しているみたいだし、リエンも良かったじゃない」
「そう……だな!」
なんだか自信が出てきたぞ!
そんなことを思った時だった。
「あ、おはよー」
「おはようございます。『シャムロエ様』」
「おはようございます。『大叔母様』」
「あ、おはようご……え!?」
なんか普通に正門をスタスタと歩いてシャムロエ様が入ってきたんだけど!
「はっはっは、リエン殿。何を戸惑っているのですか? 朝に持ち場へ出勤するのは当たり前じゃないですか」
「いやいや! 元女王だよね!? しかも護衛がいないし!」
王族ってそれなりに凄い人達だよね!?
それを護衛無しって大丈夫なの!?
「いや、それを言ったら私も護衛無しで店主殿の家から自宅まで行き来してるけど。あ、リエンも一緒だけどね」
「そうだね! 俺がもう少し護衛っぽい恰好して来れば良かったよ!」
ツッコミが追い付かないよ!
「ふふ、冗談よ。私はよっぽどのことが無い限り大丈夫だから一人でも全然余裕よ。まあ、一人で来るのは味気ないし、リエンと来れて楽しいからこれで満足よ」
「そう……なのか?」
うーん、まあ本人がそう言っているなら良いけど。
「まあ正直、リエンの真後ろで『大叔母様』がじーっと立っている状況が『よっぽどのこと』の分類に入るなら、今とてもヤバイわね。どうしよう」
「うお! しゃ、シャムロエ様!?」
通り過ぎたと思ったのに、いつの間にか戻って俺の後ろに立っていた。
同時にラルト副長が姿勢を正した。そして俺にしか聞こえないような小声でささやいた。
(リエン殿、そのお言葉使いは少々危険です。もう少しおさえて)
「私が仮面を取ったら……なんだっけ?」
「……最愛の妻と娘が幸せに暮らせるならば、私はどうなっても構いません」
なんかラルト副長涙を流し始めたよ!
「ふふ、半分冗談よ。まあ、仮面で顔を隠していたら怪しいと思う人は出てくる物よ。実際数百年で貴方だけというわけではなかったからね」
ケラケラと笑うシャムロエ様。
いや、ここ正門前なのに王族二人揃ってるけど大丈夫なの!?
「リエンの進捗はどうかしら?」
「はっ! 順調でございます!」
「そう。じゃあ四日後に試験をしましょう。もちろんシャルロット、貴女の魔術とやらも見せてもらうわよ」
「へ?」
試験……俺の実力を見るという事だろうか?
「はあ、ですが試験内容は?」
「シャルロットは簡単な魔術を出せれば十分よ。リエンは……」
そう言って、仮面の隙間……目がギラっと光り出した。
「私が実力を見てあげるわよ」
☆
シャルロットは昨日と同じくもう一つの広間で魔術の練習。
なんとなく想像力は高まってきたし、今日で小さな火くらいは出せるんじゃないかな。
そういえば今シャルロットが使っている広間は『最重要立ち入り禁止区域』として、許可された人しか入れないとか。
すんなり俺は入ったけど、もし一般兵が入っちゃったら大変なことになるらしい。やっぱりこの国って、色々と面白いなー。
そして俺は俺で昨日同様地面の音を聞いて自然の広大さを肌で感じていた(地面にうつ伏せ状態)。
「ほら、リエン殿。休んではいられません。あのシャムロエ様がじきじきに試験をしてくれるとのことです。しっかりと型を身につけねば!」
「と言われても」
シャルロットは姫とは言え、小さい頃から剣技を習っていたから強い。
しかし、他はどうなんだろうか?
「シャムロエ様って強いの?」
「うむ? リエン殿はそれを聞いてどうするのですかな?」
「ほら、俺のように素人だった場合、間違って怪我をさせてしまうかなと思って」
「そうならないように、慎重に訓練をしているのですよ?」
あ、そういうこと!?
「私や兵たちは日頃訓練を積んでいるので、相手が素人でも多少大丈夫です。ですが、どちらも素人の場合、剣を持ったらどうなるかわかりますか?」
「……まあ、どっちも武器を振るよね」
「万が一シャムロエ様に剣が当たったら?」
……考えたくないよ!
ラルト副長は完全にネタに走った罪状だけど、俺は完全に『致傷罪(王族)』だよ!
「それは心配ないんじゃないっすか?」
震えていたらイガグリさんが話しかけてきた。
「む、イガグリ副長補佐。業務はどうした?」
「某副長が別の任務を行っているので、事務作業が俺に回ったっす。今その資料を運んでいる最中で偶然通りかかっただけっすけど……何か?」
「……何でもない。ご苦労」
「へへ、恐縮っすー」
ラルト副長がどんどん小さくなっていくよ!
「えっと、心配ないってどういうこと?」
無理やり話題を変えてみた。
「リエン殿は『三大魔術師』という単語をご存じで?」
「まあ、これでも魔術師の端くれだからね。今は剣を極めているけど」
「じゃあ覚えておくっす。そもそも三大魔術師と言っても、敵に回ると一番脅威と言われているのが『マオ』様だけっす」
マオ。一度に二つの魔術を使える上に魔力は膨大。本気の一撃は山も焼くとも言われている存在。
精霊の森で見かけた銀髪の少女がその子ってエルフは言ってたけど、まだ信じられない。確かにすごい魔力は感じたけど……。
「マオ様は神出鬼没。他二人もゲイルド魔術国家に住んでいて、国としての影響力は半端ないっす」
「三大魔術師が二人住んでいたら、仮に戦争とか起こったら勝てないんじゃないかな?」
「それを唯一反転させるのがシャムロエ様っすよ」
え、何て?
「ガランの血……シャムロエ様はとにかく強いんす。人間離れした身体能力は、他の国も恐れるんすよ」
「え、でもゲイルド魔術国家には二人いるんだよ?」
「もしその内の一人がマオ様だったら状況はわからないっすけど、『ミルダ』様と『魔術研究所の館長』様ではもしかしたら良い勝負かもっすね」
そうなの?
もう三人は最強って思っていたから、攻められたら大変だなーっていつも思っていたけど。
「それには深い理由もあるっす。あっちでシャル様の特訓に付き合っている魔術師にこっそり聞いたんすが……」
ごくりと喉を鳴らす。
「『ミルダ』様も『魔術研究所の館長』様も、自室に引きこもっているので、多分相当なまっているっす」
「魔術師のあこがれが引きこもりとか聞きたくなかったよ!」
そういえばシャルロットの特訓に付き合っている魔術師も魔術研究所の館長の姿は見たことないって言ってたし、ミルダ様も確か教会の外には出ないって聞いたことがある。
え、ということは、俺って結構ヤバイ?
ふとラルト副長を見たら、ラルト副長は瞬時に顔をそむけた。
「……知らないというのは、時に良かったりもする。うむ、一国の重要人物であるから、剣術は素人『かもしれない』から、リエン殿……頑張ろう」
ラルト副長は知ってたのかよ!




