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ガラン王国で特訓-休憩2-



 夕飯の片付けを終えて俺の部屋で魔術の勉強会。

 そもそも夜だから魔術を使うなんてことはできない。火事とか起きたら大変だからね。

 じゃあ何をするのか? ということだけど、魔術は実技以外にも重要な部分もある。それは歴史や経験談である。

 ということで

「これは俺が小さい頃にあったことなんだけど」

 そう言って俺は小さい頃にあった失敗談を話し始めた。

 


 俺は小さい頃、魔術の話を聞くのがとても嫌いだった。歴史とか基本とかの重要性がわからず、とにかく実践を早くやりたかった。

 ある日、母さんに隠れて裏庭で火の基本魔術である『火球』の練習をしていた時、母さんに凄く怒られた。

 とにかく『燃える火』。そして『丸い玉』。それが『飛ぶ』。そんな安直な考えをして、俺は『火球』を放った。


『『かきゅう!』』


 俺の予想ではまっすぐ放たれて、少し離れた場所にある岩に当てる予定だった。


 しかし現実はそうではなかった。


『リエン!? 何を!』

『へ、かあさん!?』


 振り向いた先に母さんがバケツを持って立っていた。井戸から水を汲みに来たのだろう。

 そして余所見をした瞬間、魔術が発動した。

『へっ!』

『危ない!』

 俺の放った火球は岩を通り抜けて、奥の木に当たった。そしてその木は次第に激しく燃え上がる。

『あ……あ……!』

 俺は何も出来なかった。

 母さんはため息をついて俺に近づいた。


『後でお仕置き決定です。良いですね?』


 こくりと頷く俺。

 母さんの表情は……怒ってはいなかった。ただ、とても真剣な表情だった。


『魔術は使い方を間違えればこうなります。普段ワタチが使っている包丁も、簡単に人を殺める事ができます。だからリエン、手抜きはしないでください』

 母さんは俺の前に立ち、何かを唱えた。


『『ラハブの涙』! ……ふう、すみませんがワタチの〇を代償に木とその周辺に燃える炎を消してください』


 母さんが何かを唱えると、次第に赤い雨が降ってきた。しょっぱいような……これは海水?

 それと、母さんの声が途中聞こえ悪かった。当時は深く考えなかったが、意図的に隠したのだろうか。

 とにかく、その騒動があってから俺は魔術をしっかり勉強しようと思った。



「ということで、第二の俺が生まれないようにシャルロットには手を抜かずにしっかり勉強してもらうおうか」

「いや、言われなくてもするわよ。というか魔術に関する話は楽しみ過ぎて夜も少ししか眠れないくらいよ?」

「いやいや! むしろ第二の俺が生まれかけてたからね! タプルで謎の動きをしているの俺がしっかり見てるの覚えてる!?」

「う……でも、それに関しては理由があるわ」

「ほう」

 それは気になるところだ。もし俺が納得できる理由なら明日の特訓は今日の倍をこなそう。


「私、一応姫」

「うん」

「魔術自由に勉強できない。そもそも反対されてた」

「うん」

「故に教えてくれる人とかいなかったから数少ない資料を信じて自己流でしか方法が無かった」



「うん、そうだね。さて……明日俺は特訓頑張るよ」



 もう王族の境遇とか面倒だよ!

 もっとこう、俺基準で世界が回って欲しいくらいだよ!

 一国の姫が魔術を教えてーって言いに村に来ない世界とか、母さんが息子(俺)の特訓について来ない世界とか!

「と言っても、魔術の原理というのは多分今日リエンが教えてくれた『流れ』とか『想像』とかだよね?」

「そうだね」

「じゃあ、魔術の歴史というのはどう活用できるの? 興味はとてもあるし、聞いていて楽しいのだけれど、それが実践に生きるとは思えないのよね」

 あ、それは地味に良い質問。今こそしっかりと教えて


『……魔術ノ歴史ヲマナブ。ソレハ、自然ヲ学ブ。火ハドウシテ燃エルノカ。風ハドウシテ発生スルノカ。ソレラノ原理ヲ知ルコトデ魔術ハ正確ニ扱ウコトガデキル』


「監視役の悪魔が俺の活躍の場面奪わないでくれる!?」

 急に『空腹の小悪魔』が流暢に話し始めて驚いたよ! てか母さんがまた覗いているのか?

 そんな事を思っていたら、ドアがコンコンと鳴って開く。母さんがコップを持って入ってきた。

「ちゃんとお勉強していますか? 差し入れですよー」

「店主殿、ありがとうございます!」

「母さん、そう言って空腹の小悪魔を通してまた話してたでしょ!」

「え、ワタチは何も……」

 母さんは俺の言葉に驚いていた。え、母さんは心当たり無い?


『……ナルホド。理解。ヤッパリ『フーリエ』ノ知リ合イカ』


 空腹の小悪魔が母さんにゆっくりと近づいて行った。というか今、『フーリエ』って言ったよね? 母さんの名前を知っている人って数少ないんじゃ。

「これは予想外ですね。お久しぶりです。まさか空腹の小悪魔を通して話しかけてくるとは」

「母さん、その空腹の小悪魔は?」

「あ、大丈夫です。ワタチのお友達です。空腹の小悪魔はそれなりに強い魔術師の魔力を受けるとこうして乗っ取られて会話ができるのです」

『……超便利。タダシ声ハ変』


 いや、凄く和んでいるけど、ここには一国の姫がいるんだからね!


「それで、何のようですか?」

『……様子ヲ見ニ来タダケ。何ヤラ魔術ニツイテ勉強ヲシテイタカラ』

「そうでしたか。ふふ、相変わらず自由気ままですね」

『……ソロソロ用事。マタ連絡スル』

「はーい。お待ちしていますよー」


 そう言うと空腹の小悪魔はゆっくりとまぶたを閉じて、再度開いた。


『ギャー? ナンダ?』

「あ、戻った。今のは誰?」

「今のはお客様ですよ。ちょっといたずら好きな人なので気にしないでください」


 いや、気にするよ。


 だって……。



「そうかー、歴史と言っても自然や原理も含めた分野を学ぶという意味であって、それがあることで魔術をより正確に扱えるのね!」



 俺の出番が奪われたんだもん!

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱリエン君みたいなツッコミ気質な主人公はいいですね! 周りがいくらでもボケられますからねw
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