神の目的
創造の編み棒をもう一本折り、再度ミルダさんが鈴をブンブン振り回す作業を経てクロノは無事に腕を取り戻した。
「悪く無いわね。そもそも腕が片方無かった時点で違和感があったのに、元に戻るとこれはこれで変な感じね」
そしてクロノは何かを唱えた。
「クロノちゃん?」
「悪いけど元主人、私は早々に地球の時間のずれを直さないといけない。落ち着いたら会いに来よう」
「ええ!? そんな突然の別れ!?」
「私はそもそも忙しいのに、あの忌々しい本の所為で契約され、身動きが取れなかっただけよ」
「うう、それはそうだけど」
「まあ……少しは楽しかったわ。また遊びに来るわよ」
そう言ってクロノは一瞬でその場から消え去った。何というか呆気ない。
「うう、なんだか少し寂しいわね。でも神様だから仕方が無いわよね」
「一応ボクも神様なんだけど……とは言え、ボクもそろそろ帰らないとね」
「そう。じゃ」
「もう帰って来るな」
「……パムレットよろしく」
「扱いがさっきと違い過ぎない!? 一応ボクこの世界の神様だよ!?」
知らないよ。今までずっと俺を頼りに色々動かさせてたのに、何をいまさら。
と、そんな事を言ってたら、寒がり店主の休憩所の扉が開き、そこには先ほどまで寝込んでいたシャムロエ様が杖をつきながら立っていた。
「待ちなさいカンパネ。復活した今、これから何をするつもり?」
「おあ、凄い。神に結構な時間体を乗っ取られたから、もう一週間は寝込んでいると思ったのに、もう立ち上がれるのか」
「フーリエ、マオ、そいつを逃がさないで!」
本気の声に思わず母さんが反応した。
「!? わ、わかりました!」
そう言って母さんが土の魔術を使ってカンパネの腕を掴もうとする。
が、簡単に防がれた。
「そんなに怖い顔をしないでよ。ボクはただ実家に帰るだけさ。これからも皆の事をただ見守る神様として平凡に生活をする。それの何が悪いのさ?」
「それなら別に今まで通り概念だけの存在でも良かったはず。どうして実体化する必要があったのかしら?」
「おっと、やっぱり『理』にたどり着きそうな人間達は怖いな。いや、本当に何もしないよ。強いて言えば今ここにいることで原初の魔力が多すぎる。レイジに捕まったら彼の思惑通りになるからそれを回避するためにも一刻も早く帰るのさ
「本当にそれだけかしら?」
その問いにカンパネは微笑んだ。
「完全体なら『ボクの親』に復讐をしたかったけど……今は何もしないよ。と言うかできない。今のボクは今不完全なんだ。その修復には数百年を必要とするよ」
「その言葉、信じるわよ」
そう言ってシャムロエ様はその場で倒れた。
「シャムロエ様!?」
「きっと気を失っただけさ。さて、ボクも帰るよ。リエンはこの先ようやく剣の修行ができるんだろうし、これからの人生楽しんでくれ。ボクの用意したこの世界はまだまだ未熟だけど、ここの人間達は皆んな良い人ばかりだからさ」
「あ、うん」
そしてカンパネは光り輝く。
体が徐々に消えかかる。おそらく自分の世界に帰るのだろう。
と、そこで俺の後ろから声が聞こえた。
「所詮半分の力ということね。ワタクシの『認識阻害』すら破れないなんてね」
「そうね。しばらくはミルダ大陸とやらの食事を楽しむとしよう」
マリーさんと輝夜だった。
『あっはっは! これは一杯食わされた。君たちを地球にお返しするのを忘れていたよ。まあ、君たちの事はとりあえず頭の片隅にだけいれとくけど、レイジにだけは気を付けてね。あいつだけは尋常じゃないくらい危険だからね』
そしてカンパネは消えた。
「えっと、どういう意味ですか?」
「さあね。ただワタクシは嫌な予感がしたから身を隠していただけよ。彼にとってワタクシ達は異世界の人間だから、本来ここから出さないと都合が悪いのよ」
「右に同じ」
深くは探らないでおこう。絶対まともじゃ無さそうだ!
「ともあれ、カンパネちゃんも無事に帰っただろうし、今日は一日休んで明日はガラン王国に帰りましょう!」
「それもそうか」
そう言って俺たちは今日一日自由に過ごし、今までの疲れを癒すのだった。
☆
そして夜。
孤島の気候は少し涼しく、空がとても綺麗である。星空もすごく綺麗で、寝る前のちょっとした時間に眺めるのは結構好きだったりする。これも旅をしたおかげなのかな。
「あ、リエンも星を見ていたの?」
そこにシャルロットが登場。どうやらシャルロットも寝る前に星を見に来たらしい。
「すっごい今更だけど……ごめんなさい」
「え?」
「元を辿ればカンパネちゃんの仕業だと思うけど、それでも大叔母様の依頼である原初の魔力の秘宝集めを引き受けてくれて、本当にありがとう」
「ああ。別に良いよ。終わってしまえば結構楽しかったなって思う旅だったしね」
時々剣の練習もしたり、魔術を教えたりを……うーん、数えるほどしかしていないけど、それでも実戦も経験できたし結構有意義な冒険だったんじゃないかな。
それに、普通に生活していたら味わう事ができない異世界への旅とかも結構楽しかったしね。
「リエンと旅をしている間、ガラン王国の姫って立場を忘れて結構自由に過ごしてみたけど、本当に楽しかった。正直この居心地の良い状態が続けばなってずっと思っているわ」
「そうしたらガラン王国はシャーリー女王様で終わってしまうじゃん」
「そうね。大叔母様には甘えられないし、結局私はガラン王国に帰るしかないのかーってずっとどこかでは思っていたわね」
平民の俺からしたら贅沢な悩みにも思えるけどね。王族ってすごく楽しそうな感じがするけど、まあシャルロットの時々見せる王族としての行動は正直堅苦しいかなーとは思った。
「リエンがガラン王国軍第一部隊の隊長とかになってくれたら、少しは頑張れるかしら?」
「あはは、さすがにラルト隊長やイガグリさんを超えるのはかなり大変そうだな。それに剣術は確かに学びたいけど、軍に入るかどうかは……正直わからないや」
「そう。まあリエンならすぐに副隊長くらいにはなれるわよ。私が教えたんだからね!」
バシッと背中をたたかれた。本当にこの人姫?
「まあ、らしくないって思われるかもしれないけど、王族として言わせてもらうわ。今回の旅での功績は正直すさまじいわ。原初の魔力の秘宝集めだけでは無く、各国の事件解決や貿易の架け橋等。ガラン王国に帰ったら真っ先に大きな表彰式があると思うから、頑張ってね!」
えー、目立つのは嫌だな。
「じゃあ……リエン。楽しかったわ」
「俺も。今回は護衛兼剣の師匠としてついて来てもらったけど、楽しかったよ!」
「うん!」
そう言って握手し、シャルロットは部屋に入っていった。
『のう妹よ。あれは絶対にシャルロット殿は何か別な言葉を期待していたと思うが、気のせいかのう?』
『さー、ウチは人間の色恋何て知らないからわからないー』
「うお!? 二人いたんだ!」
別の世界で契約が切れていたから再契約していたのを忘れていたよ。
『悲しいのう。一緒に風呂まで入った仲なのに』
「男の姿でね」
大事なことだからね。しっかり言わないとね!
『じゃが……ふむ、多くは言わぬが我らを案じてくれるなら、一つお願いをしておこうかのう』
「お願い?」
精霊がお願いって何だろう。
『表彰式とやらが行われるらしいが、リエン様の母上に注意してくれぬかのう。多分良からぬことは起こると思うでの』
母さんが? 一体何をするって言うのだろうか。
☆
そして数日後、俺たちは船に乗ってガラン王国に向い、シャルロットの言う通りすぐにガラン王国城へ呼ばれた。
しかもいつもなら門番だけがいるはずの正門には、多くの馬車が止まっていた。
「……はあああああああ。人ゴミ嫌い。シャムロエのお願いじゃ無かったら絶対断ってた」
「と言いつつ両手にパムレットを持っているという事は完全に買収されてるよね」
右隣にはパムレがパムレットを持ってため息をついていた。
「……今日のリエンはある意味主役。シャムロエの依頼をしっかりと遂行しただけでなくレイジという一般的には知られていない脅威から救った」
いや、俺何もしていないと思うんだけど……。
「……救った場所に立ち会った」
「それって全然役に立って無くね!?」
そう突っ込むと左隣に立っていた母さんがため息をついて話し始めた。
「息子を過大評価するつもりはありませんが、リエンはその問題解決の中心にいました。リエンが居なければ全員揃わなかったのですよ」
「うーん、まあ皆の助けがあったから色々できたというのはあったけど……それよりも今日は珍しく顔を出してるんだね」
いつもは布をぐるぐる巻きにしているのに、水色の髪と白い肌が今日は出ていた。
「今日は……リエンの母親であり『三大魔術師のフーリエ』として出ます。今回は名乗りますがリエンは気にしないでください」
ん? 何やら母さん、少し緊張している?
そうこうしているうちに正門をくぐり抜けて謁見の間へ案内される。
そしていつも通りシャーリー女王の正面に謁見の間の中心で立ち止まる。
シャーリー女王の隣にはシャムロエ様とトスカさん。そしてシャルロットが座っていた。
俺から右側には兵士がずらーっと並んでいた。ラルト隊長やイガグリさんはじめ、この人数は……まさか全員?
そして左側には今まで見たこと無かったけど、結構お年を召した方が十人ほど並んでいた。この国の偉い人かな?
『これより、リエン様への勲章授与式を執り行います』
く……勲章!?




