創造神カンパネ
「これ美味しいよ母さん」
目の前の漬物に夢中の俺。タプル村では味わったことのない深みのある漬物だ。
「ふふー、実はこれは地面の中に漬け込んでいた特製の漬物です! ガナリ様に協力してもらって作ったのですよー」
「へえ。日本の漬物と似ていてすごく美味しいわね」
マリーさんも喜んでいる。もしかして俺たちが行ったニホンは漬物も有名だったのかな?
「店主殿、このタクアンというのを母上にも食べさせたいです!」
「良いですよー。お土産に包みますね」
そんな和やかムードにカンパネが一言。
『待って、ボクの一生のお願いを流さないでよ!』
「「「「神様が一生のお願いとかいう冗談を真に受けてたまるか!」」」」
『ええ!?』
容姿はシャムロエ様なのがすごく複雑だけど、中身はカンパネである。
「というかのうカンパネとやら、一生のお願いとやらを儂ら人間に言うのはまあ百歩譲って分かる」
『う、うん?』
「神が神に一生のお願いを使って、今後の行動に支障が出ないかのう?」
『あー……半世紀に一度のお願いにおまけしてもらっても?』
「嫌よ。あんたの無限に続く一生で一番大きなお願いとして神クロノは受領したわ」
『ちょっと待って!? 原初の魔力が勢ぞろいしたから少し舞い上がっていたことは認めるから、手加減してくれるかな!?』
「手加減して……くれませんか……じゃなくて?」
『手加減してください。お願いしますクロノ様』
夢の中ではさんざん好き勝手言ってきたカンパネが頭下げたよ。というかシャムロエ様の姿で頭下げないでよ。一応俺の国の先代女王なんだよ?
「はあ、わかったわ。とりあえず貴方を生成したら私は帰るわよ。地球があんな状況だし『光の神ヒルメ』も今頃過労で倒れてると思うから」
神様が疲労で倒れるってあまり信じたくないけれど、そのヒルメ様という人は苦労人なのだろう。
「それで、どうすれば良いのかしら?」
『簡単だよ! それぞれの原初の魔力を一か所に混ぜれば良いだけさ。鉱石だけ固体だから『精霊の鐘』を中心にして『静寂の鈴』は音を出して、クロノ様と輝夜は『精霊の鐘』に向けて魔力を放つ。『創造の編み棒』だけ魔力を取り出す必要があるから、『精霊の鐘』の中で折って欲しいんだ』
「折るの? 一応これ秘宝よね?」
『人間が勝手に秘宝扱いしただけさ。それにボクが創造されたら編み棒の二つや三つ作り出すよ』
「まあ、それなら」
そう言ってシャルロットは俺に『創造の編み棒』を渡した。
「って、何自然な流れで俺に渡した!? え、俺が折るの?」
百歩譲ってクロノや輝夜は作業があるから仕方がないけれど、他に適任っているんじゃないの?
『いや、ここはリエンが一番の適任だ。『名前に込められた呪い』が万が一何か発停しても守ってくれる』
名前? 一体何を言っているんだろう。
「まあどの道誰かやらないといけないわけだし、ここは一つ男らしいところを見せてよ」
「……ふぁいとー」
「そうじゃのう。これが終わったらのんびりと畑を耕せるんじゃし、パパっと頼むぞ」
好き勝手言っちゃってさー。もう、わかったよ!
☆
そして俺は大きな精霊の鐘の内側に入った。少しでも音を立てるとグワングワンとした音が襲ってきてすごく心地悪い。
『ではクロノ様と輝夜は魔力を。ミルダは鈴を鳴らしてくれ』
カンパネの合図で魔力が精霊の鐘の方へ飛んでくる。
『今だ。リエン、創造の編み棒を折るんだ』
「分かった」
そして俺は思いっきり創造の編み棒を。
創造の編み棒を。
お……折れない!? ちょ、思いっきり力入れてるのに折れないんだけど!
見た目に反して結構硬い!!
蛍光の筆はあんなに簡単に折れてたのに!?
『リエンさん? 折りました? ミルダそろそろ腕疲れました』
『魔力だけを流すのって大変よね。でも何も起こらないわね』
「ちょっと待って! 硬くて折れない!」
し……仕方がない。二本一気に折ろうとしたから駄目なんだよね。
ここは一本づつ折るか。
そう思い俺は片方の棒を持って思いっきり力を入れた。
『バキッ!』
うん。ちゃんと折れてくれたね。
そう思った瞬間、創造の編み棒からすさまじい光が出てきた。
「って、これ大丈夫!?」
『……ちょっと魔力量ヤバイ。『プル・グラビティ』』
鐘の外からパムレが魔術を使ってくれて俺を引っ張り出してくれた。
『ありがとうリエン。そして皆。概念だけの存在で、今もギリギリの魔力で話せている状態だったけど、ようやく本来の力を取り戻せそうだ。やはり君たちに賭けて良かった。この恩は本当に生涯忘れな……ん? ちょっと待ってリエン、どうして創造の編み棒を一本持っているんだい?』
「硬かったから一本ずつ折ろうと思ったんだけど……」
『輝夜とクロノ様! ストップだ! ちょ、これ以上の魔力はやばい! これではボクは』
☆
マリーさんとパムレとガナリの合同作業により、凄く立派な『寒がり店主の休憩所―孤島店―』が再建設された。というかこの人たち凄いな。
レイジによって燃やされた木々も母さんが魔術研究所から持ってきた薬を使った瞬間一気に元に戻った。絶対人にかけちゃ危ないやつだよね。
そして楽しい夕食の時間。
珍しくパムレはシャルロットの膝上では無く俺の隣の椅子に座ってモグモグとご飯を食べていた。
フブキもどこかで食べているか見張りをしているのかな?
「はいカンパネちゃん。あーん」
『子供扱いしないで! 違う! 本来の力の半分しか回復できなかったから小っちゃいだけ!』
シャルロットは現在、とうとう神様を膝の上に乗せてしまった。シャルロットの膝上ってやばいんじゃね? 神の領域って言葉がつきそうじゃない?
「色々と最善な策を取った挙句リエンを選んだボクが悪いんだけど、せめて折れないなら折れないと言ってほしかった……」
「一本折るとそうなるって知ってたらやらなかったよ」
「だろうね! 二つで一つの存在なんて珍しもんね!」
なぜかぷんすかと怒るカンパネ。
ちなみに初めてカンパネの容姿を見たけど、髪は虹色の短髪。そして幼い顔つきだが、少年に近い感じ。ふにっとした頬はシャルロットのおもちゃだろう。
「それにしても不思議です。五つの魔力を終結すると精霊や神を創造できるという仕組みはワタチには理解できません」
母さんが料理を運びながら話しかけてきた。
「正確には『精霊や神『も』創造できる』かな。原初の魔力の干渉はあらゆる現象に干渉する。だから物質の創造はもちろん、概念の創造や文化の創造までできるのさ」
「文化の? じゃあさっきの儀式的なやつで『ミルダ大陸の通貨をパムレットに!』って願ってやると、ミルダ大陸の通貨はパムレットになるの?」
「なるよ」
「……リエン、唐突なんだけど、もう一本の創造の編み棒を貸して? もとにはもどらないけど」
嫌だよ。わかってて質問したけど、パムレの食いつきが早いよ。って、すごい強引に俺の持つ創造の編み棒を奪おうとしてるんだけど!
「文明や文化すら作り上げる原初の魔力のみの干渉魔術でレイジはミルダ大陸の新たな王になろうとしていたみたいだから、それを阻止すべく皆には遠回しに動いてもらっていたのさ」
まあ、そんな大きな問題直接言われても難しいもんね。
「ねえねえカンパネ『ちゃん』。一つ質問して良いかしら?」
「ちゃん!? ま、まあ、良いけど」
とうとうカンパネすら『ちゃん』か。
「もう一つの創造の編み棒を使ってクロノちゃんの腕を治せない?」
その質問にクロノが反応した。
「待てシャルロット。私の腕は時間が解決するわよ?」
「うーん、そうだとしても不便でしょ? 早めに治せばチキュウも助かるんじゃないかなって」
「まあ……それは」
「まあ、時の女神を作るのは無理でも、腕一つなら簡単にできるかな」
「シャルロット……かたじけない」
「良いのよ。困った時はお互い様よ」
こうしてクロノはシャルロットと握手し、失った腕を修復しに創造の編み棒を持って精霊の金の場所へと向かった。
「なあパムレ」
「……ん?」
「カンパネって中途半端だけど『神の魔力』を保持した神だよね?」
「……うん」
「もう創造の編み棒いらなくね?」
「……空気読んで。パムレはすでに気が付いてた」
「了解」




