懐かしい空気
パムレの魔術は一言で例えると大きな爆発だった。
その大きな光は瞼を突き刺すほど強く、後ろを振り向くしかなかった。
そして気が付くと見覚えのある場所。
白い部屋に俺は座っていた。
『いやあ。本当にすごいね君は』
「カンパネ……か。いや、今は相手にする暇が無いから」
『あ、安心してよ。これは夢みたいなもので、外の時間は止まっているようなものだから』
相変わらず靄がかかっている。しかしニコッと笑っている表情が何となくわかった。
『ボクの親の魔力を引き継ぐマリーに、ヒルメ様の魔力を持つカグヤを連れてボクの世界に呼ぶとは思わなかったよ』
「それはどうも。褒められてるのかな?」
『もちろん! でも一つ助言し損ねた。地球に残っているレイジを何とかしてから来てほしかったな』
「レイジがチキュウに?」
それは初耳なんだけど。
『これは仕方が無い事だ。あと地球の時間変動に関しては時の女神様に何とかしてもらう以外無い。これだけは言わせてね。神の仕事に口出しはしない方が良いよ』
「と言ってさんざん神様から色々と俺は言われ続けているんだけど」
『あはは。耳が痛い。でもこれでようやく全てが一か所に揃う。お願いすることではないのだけど、行った先のレイジだけは本当に気を付けて。そして生きてくれ』
その言葉だけは今までの口調と異なっていた。
「まあ、頑張るよ」
☆
目を開けると目の前にはパムレが立っていた。
「……やっと目覚めたね。じゃあパムレは少し休憩する」
パタリとその場で倒れた。
「って、パムレ!?」
地面にぶつかりそうだった所をギリギリで掴み、ゆっくりと降ろす。
「流石はワタチの息子ですね。紳士に育てた甲斐があったというものです」
その前には、布でぐるぐる巻きの、いつも俺を支えてくれたかけがえのない大きな存在が、巨大な魔壁を生成して俺たちを守っていた。
「お帰りなさいリエン」
「ただいま!」
立ち上がりガラン王国の秘宝の短剣を鞘から抜いた。
魔壁の先を見ると禍々しい煙のようなものを出している人影が一つ。不気味な微笑みをしながら俺を見た。
「馬鹿ですか? せっかく母親が逃がしてくれたのに、また戻ってきたのですか?」
「確かに逃がしてくれたけど、勝つための方法を探しにちょっと別の世界に行っただけだ!」
「ほう? 別の?」
次の瞬間、俺の隣から魔術を発動する少女の姿があった。
「『獄炎』! そうね。蛍光の筆は壊れちゃったけど、それ以上の存在を手に入れて戻ってきたし、何より心強い協力者も連れてきたわ!」
「ほう。それは一体……き……貴様!」
レイジの目線の先。俺の後ろに立つ紫髪の女性マリーさんはニコッと笑った。
「久しいわね。ワタクシの呪いとも言えるその口調は健全の様で」
「黙ってください! それにそっちの女は……」
輝夜を見るレイジ。次の瞬間攻撃をやめて突然魔壁を生成した。
「光の保持者!? ふざけないでください! どうしてそんな存在が!」
「ミルダさんとお友達になったから?」
「そんなふざけた……まあ良いです。この場は撤退を」
それはさせない!
「ガナリ! 刀身伸ばせる!?」
「父様の魔力を伸ばすのくらいガナリには容易いです。てえい!」
ガラン王国の秘宝の短剣を一時的にガナリの魔力で伸ばしてくれた。
魔力の流れはなんとなく見えた。そして今までの特訓のお陰か、間合いが読める。無理はしない。ここで右へ避けて足場がしっかりした所に配置。
そして。
「てえい!」
「見事な居合切りじゃ」
フブキの声が聞こえた。そして目の前のレイジはというと。
「あ……が……馬鹿な……記憶の共有が……途切れた? そんなことがあっては」
苦しんでいる途中で後ろから『光球』が飛んできた。これは輝夜の攻撃だろう。
「がああああああああああああああああ!」
嫌な悲鳴が耳に残りつつも目の前のレイジは消えていった。
☆
「はあ、はあ、とりあえず危機は去ったという感じかな?」
気が付けば短剣は元に戻り、鞘に入る大きさになった。
「そのようね。それよりもリエンは最初に店主殿にもう一度ただいまを言った方が良いわね」
「え?」
振り返ると母さんが涙を流して笑っていた。
「頑張って耐えて良かったです。寂しかったのです。ですが帰ってきたから良しとします。改めてお帰りなさい、リエン!」
「ただいま!」




