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百戦錬磨

 とりあえず話をまとめるとこの世界も異変が起きて、マリーさんはとある精霊に助けてもらったということか。これは『蛍光の筆』の修復もしくは作成よりも重要なことじゃないかな。

「ああ、こっちの世界の事は気にしなくて良いわよ。それに、原初の魔力が付与された道具が揃えば、何かしら奇跡が起こると思うし、ここは一つ協力しましょう?」

 また心を読まれてしまった。まあ話が早くて助かるけれどね。

「そうなるとこっちの世界の異変を放置して、まずは『蛍光の筆』を何とかすることになるけど、原初の魔力『光』に関係する人もしくは神様ってどこにいるかわかりますか?」

「神様に関してはアマテラス様。別名『ヒルメ』という名前の神様ね。ただしこの異変の対応ですんなりと会えるとは思えないし、原初の魔力を保持した人間に会うしか無いわね」

「知っている人ですか?」

「ええ。そっちのマオも知っている『輝夜』という人よ。ワタクシと一緒に助かった人間の一人で、今頃町にでもいるんじゃないかしら」

「町に……何が目的で」

 と、そうつぶやいた時、パムレが俺の袖をぐっと掴んだ。


「……彼女は超危険。パムレも勝てなかった相手で、その存在は神にも勝る」


 その言葉に俺は足が震えた。

「なっ……」

 パムレが勝てなかった? え、それって三大魔術師よりも強いということ?

「ふふ。今日はちょうど会えるかもしれないわね。ついてきなさい」


 ☆


 賑わう町。俺の住む世界とは全く異なる風景だが、野菜や魚を売っている光景や物が売れて喜ぶ笑顔はどこの世界も一緒なんだなと思った。

 そんな事を考えて歩き進むと、大きな歓声が聞こえた。

「人だかり……何かの催し物?」

「そうよ。彼女は巷ではこう呼ばれているの。『百戦錬磨の輝夜姫』ってね」

 百戦錬磨。そしてパムレにも勝った。一体どんな魔術師何だろう。



 ん? というかここって魔術とか無い世界じゃね?



『腕相撲大会、勝者輝夜姫だああああああああ!』

『うおおおおおおおおおおおお!』



 すさまじい盛り上がり。それにしても舞台の中央を見ると、いかにも力に自信があるという感じの男性が仰向けで倒れていた。

「ねえリエン、あれは力比べかしら? ガラン王国軍でもやったことあるけど」

「そうみたい。見た感じ男性が負けて女性……おそらく輝夜という人が勝ったのかな」

 ビシビシと伝わる歓声。司会者が何かを話そうとしていたため、その人に向けて『心情読破』を使ってみた。

『さあ、腕自慢の木村が倒された今、残る腕自慢はいません。このままでは輝夜姫に優勝を取られてしまうが、誰か挑戦する人はいませんかー?』

 どうやらあの男性がこの辺では一番力自慢だったらしい。

 このままではということは、もしかして飛び入り参加しても良いという事だろうか。

「へえ、面白そうね。じゃあ私が行こうかしら」

 と、そう言ってシャルロットが前へ一歩出ようとした瞬間。


「待ってください。ここは……『ミルダ』が行きます」


 壇上に上がるミルダさん。え? ミルダさん!?


『誰も予想できなかった展開が今ここに! 何と飛び入りで参加したのは幼い少女だあああ!』

『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 部隊の上でミルダさんが手を振っていた。というかすごい盛り上がりなんだけど。

「だ……大丈夫かしら。ミルダちゃん、腕破壊されないかしら?」

「明らかに場違いでしょ! パムレもどうして止めなかったの? 一応同業者だよね?」

「……三大魔術師って職業じゃないよ? あー、ミルダが自分からやりたいと言ったならパムレは止めない。せっかく今は自由なんだし、やらせてあげて」

 それを言われるとちょっと言い返せない。

『えー、では簡単に自己紹介を……うん、明らかに外国人だよね? えっと、キャンユースピークジャパニーズ?』

 俺たちは『心情読破』でなんとか司会者の言っている意図は理解しているが、『静寂の鈴』を持っているミルダさんは大丈夫だろうか?



『み……ミルダ! やあ!』



『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

『何だあれ、可愛いだろおおおおおおおおおおおお!』

『天使だああああああああああああ!』



 名乗っただけで凄い盛り上がってる。基本周囲の人が何を言っているかわからないけど、笑っているところを見ると良い方向へは進んでいるのだろう。

 と、そこへマリーさんが壇上に上がってミルダさんの隣に立った。

『うお!? 貴女はもしや、紫髪のマリーアントワネットさんじゃ?』

『マリーよ。あー、この子はワタクシの友人で日本語が話せないの。通訳で壇上に上がったわ』

 マリーさんも有名なのだろうか。

『あらマリー、先日ぶりね。その子は貴女の友人だったの』

『そうよ。普段部屋に引きこもっているから今回勇気を出して外に出たのよ。まさか壇上に上がって貴女に挑むとは思わなかったけどね』

 そうマリーさんが言うと周囲の人たちがざわつき始めた。


「おい、聞いたか? もしかして病弱なんじゃないか?(パムレ通訳)」

「部屋に引きこもっているってそう言う? なんというか、泣けてくるな(パムレ通訳)」

「確かにそれほど強いとは思えないし、何か思い出を作りたいのかな?(パムレ通訳)」


 ミルダさんがだんだん病弱で辛い日々を送っている人になってきているよ!

 いや、辛い日々を過ごしてはいたんだろうけどね!

『ふふ。じゃあその思い出作りに一役買おうかしら。さあここに腕を置いて勝負しましょう』

 輝夜がそう言うとこくりとミルダ様は頷いた。

『さあ、準備は整いました。百戦錬磨の輝夜姫と幼い少女ミルダちゃん。レディー……ファイ!』

 カーンという音が鳴り響く。この音が試合開始の合図だろう。

 そして勝負はというと。



 …………。



 二人は固まっていた。全く動かないという表現がぴったりだった。


 それに合わせて周囲の声援も止まった。周囲は何が起こっているのわからないと言う表情をしていた。

「え、一体何が起こっているの?」

 そう疑問に思っていると、パムレが俺の服の裾をチョンチョンと引っ張った。



「……言い忘れてた。ミルダって剛腕。いつも『静寂の鈴』が付いている大きな杖持ってるから、腕ヤバイ」

「あの体型で剛腕なの!?」



 俺が叫ぶと同時に観客が盛り上がった。

『うおおおお!? なんかすごくねえか? もしかして輝夜姫手加減してる?』

『いや、ぴくっと動いているし、多分どっちも本気じゃねえか?』

『あの少女がそれほどの力を……部屋で一体どんな辛い事を』


 何を言ってるか分からないけど、とりあえず褒められてるのかな!?

『百戦錬磨とは聞いてあきれますね。こちらが瞬殺覚悟で挑んだのですが、ミルダもまだまだ現役ということでしょうか(マリー通訳)』

『正直侮っていたわ。でもいつまで持つかしら?』

 ミルダさんだんだんキャラ変わってきてるよ!?

 そんな相手を煽る人だったっけ?

「どうしようリエン」

 シャルロットが隣で震えていた。



「ミルダちゃん、あんなにゴリゴリなら、膝の上に乗せてちょっとでも不快な思いをさせた時、私は粉砕されるのかしら」

「まず『ゴリゴリ』という表現やめような!? シャルロットも言われたら傷つくでしょ!? あとミルダさんもパムレも三大魔術師なんだし、膝の上を三大魔術師の領域にしないでね!」

「そ、それもそうね。もしそうなった場合店主殿も乗せないといけないものね」

 友人の膝上に母さんという光景、絶対見たくない!

『おおっと! ここでミルダちゃんが少し不利になってきたぞ!』

 司会の声に驚き舞台を見ると、ミルダさんは少し苦しそうな表情をしていた。

『もうあきらめなさい。私はまだ余裕。貴女はもう虫の息よ?』

 明らかに輝夜という少女は余裕の笑みを浮かべている。しかしミルダさんの表情からは諦めが見えなかった。


『ミルダはあきらめません。皆が頑張っている中、ミルダだけが特別扱いを受けるのはもう結構なのです! ここで貴女に勝って、少しでも勇敢なところを皆さんに見せてあげたいのです!』


 いや、十分見たよ!?


『十分戦った貴女を誰も攻めようとはしないと思うわよ』

『駄目です!』

 ミルダ様は叫んだ。その声を聞いた観客は全員黙り込んだ。



『努力の先に結果は生まれます。結果がダメでは努力が足りないという事。この場において貴女に勝つことがその証明であり、負けることはすなわち弱いという事を証明する。文献や石碑にいくら功績が書かれたとしても、それを実際見たわけではありません。この場において今見ているリエンさんやシャルロットさんには改めてミルダが『三大魔術師』としてのミルダを見せつける好機なんですよ!』



 しばらくしてマリーさんがそれを通訳し、周囲の観客は盛り上がった。


『が……がんばれええええええええええええ!』


『よくわからないが、大きな責任を持っているんだな! 応援してるぞおおお!』


『輝夜姫をたおせえええええええええええ!』


 さらに盛り上がる会場。

『三大魔術師……そう、マリーが居るという事はそういうことね。色々と事情は把握したわ』


 ニコッと輝夜は笑う。そして次の瞬間。



 ばあああああああああああああん!



 強めに腕を叩きつけた。



『かといって手加減はするつもりもないけどね。私の勝ちよ。勇敢な魔術使いのお嬢さん』


 ☆


「負けました。すごく悔しいです」

「よ……よしよし、とりあえずミルダちゃん、本気で抱き着くのはやめてもらっていいかしら? そろそろ私の背骨が粉砕しそう……があああああ! リエンヤバイヤバイ助けて、これちょっとどころじゃない!!」

 がんばれシャルロット。その役目は俺にはできない。


 大きな催し物も終わり、舞台の裏側に案内された俺たちは選手たちが休憩しているテントに案内された。

「ということで改めてこの怪力女が輝夜よ」

「誰が怪力よ」

 黒髪で凛とした表情。フブキを成長させた感じだろうか。綺麗な女性という感じが出ている。

「えっと、リエンです。貴女が光を保持している輝夜さんですか?」

「輝夜で良いわよ。話し方も普通にしてちょうだい」

「でも、マリーさんには敬語なので」

「え、マリーっていつから偉くなったの?」

「一応ワタクシはあっちでは有名よ?」

 うーん、マリーさんに敬語を使う理由って母さんが関係しているんだよね。



「マリーさんは母の元上司なので」


「マリー、貴女部下に結婚を越されたの?」


「ぶっ飛ばすわよ。フーリエとこの子は血がつながって無いわよ!」


 母さんも結婚してないしね。

「そっちは久しいわね。マオだったかしら?」

「……あの時の戦いは忘れない。あと今はパムレって名乗っている」

「そう言えばパムレって輝夜に負けたんだっけ?」

「名前を変えたの? まあ良いわ。この子にはシュークリーム大食い対決でワタクシに挑み負けたのよ。あの時の一番の強敵だったわね」

 魔術勝負かと思ったら大食いかよ!

「そっちの抱き着かれている子は……『音』の保持者の子孫といったところかしら?」


「しゃ……しゃるろっと・がらんです……もう息が吸えないのでここでおわかれになるかもしれま……せん」


「ミルダさんー。そろそろ元気出してー。シャルロットの元気が無くなるー」


「はっ!」


 パッと手を放してシャルロットは思いっきり息を吸った。

「今までの訓練の中で一番辛かったわ」

「ミルダさんってそんなに力強かったの?」

「それもだけど、ミルダちゃんのような可愛い子に抱き着かれているのよ? ある意味呼吸ができなくなるわよ」

「ミルダさん。もう一回抱き着いて大丈夫そうです」

「わかりました」



「マジで……ごめんなさい……あの、本当に背骨が……終わる」



 喜怒哀楽が激しいお友達でごめんなさい。

「『以前』と違ってずいぶん賑やかね」

「以前?」

「ええ。そのパムレとシャムロエと音操人トスカの三名とは知り合いなの。マリーの知り合いだから変な人しかいないと思っていたけど、『その通りね』」

「いや、ド直球に貶されたよね!」

 輝夜って思ったことをそのままいう人なんだろうか。

「悪いんだけど輝夜、今日ワタクシの家に来てもらっても良いかしら?」

「断ったら断ったで厄介だから行くわよ。夜の六時で良いかしら?」

「ええ」

「じゃあそれまでちょっと出かけて来るわね」

 そう言って輝夜はその場から出て行った。

「何と言うかすごい人ですね」

「そうね。原初の魔力の保持者の中ではワタクシの次に色々な意味で強い人ね」

 あ、それでもマリーさんは上なんだね。

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[一言] ミルダちゃあああん!!!(ブワッ)
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