マリー2
朝になり眠気を飛ばすためにマリーさんの家の庭に出て大きく深呼吸。
そこから見える風景ははっきり言ってタプル村やガラン王国とは全く異なる異質なものにしか見えない。いや、フブキの集落にあった家と形が似ているようにも見える。
ともあれ、その光景を目に焼き付けて目を覚ます。
マリーさんから朝食の調理をお願いされてたし、ささっと料理をして全員を起こす。
最初に部屋に入ってきたのはミルダさん。次にパムレ。そしてシャルロットにマリーさん。
全員女性(パムレは……まあ良いか)なので着替えや髪を整えるのに時間がかかるとかなんとか。そういう意味では短髪の俺は楽だよね。
「わー美味しそうね!(今すぐリエンをぶっ飛ばしたい)」
「なんでシャルロットは怒ってるの!? いや、本当によくわからないからどう謝って良いのかわからないけど!」
昨日の夜からシャルロットはご機嫌斜めである。
「ワタクシが昨日余計なことを言ったからちょっとは責任を感じているけど、あははーどうしましょうね」
マリーさんが余計な事? 何かシャルロットに吹き込んだのだろうか。
「仕方が無いですね。ここは『静寂の鈴の巫女』ミルダにお任せください。マオさんのお陰で頭がすっきりしたので、今なら鈴の音一振り二振り容易いです。はい!」
シャリン。
心地良い音が鳴り響く。
「ぐう、わ、わかったわよ。ミルダちゃんにそこまで言われたら何も言い返せないし、リエンは紳士だって言うのもわかるし、とりあえずパムレちゃんのほっぺをフニフニする権利をいただくということで手を打ってあげるわ」
「よくわからないけどありがとう。ミルダさんもありがとう」
「……いやいや、パムレは? この場において一番腑に落ちない状況なのってパムレじゃね?」
ぷんすかと怒るパムレ。最近皆怒りっぽいよね。
☆
朝食を食べ終えて、再度マリーさんから色々お話を聞くことに。
「さて、まずは状況の整理をしたいところだけど、正直なところワタクシも今の状況をまだ呑み込めていないのよね」
「どういうことですか?」
「昨日も言ったけど、クロノに何かがあったかもしれないということで、現在この地球は深刻なタイムパラドクスが発生して、世界全てが過去に戻っちゃったの」
過去に戻る?
「時間の女神クロノはその名の通り時間を司る女神。時間というのはちょっと扱いが繊細で、クロノがその全てを管理しているの。だからその本人に何かがあれば関係する世界に影響が出るのよ」
「何か……例えば?」
「そうね」
そう言ってマリーさんは人差し指を立てた。
「小指を……タンスの角にぶつけると君が赤子になる……とか?」
規模よ!
その『何か』の規模がずいぶんと家庭的じゃないかな!
「まああくまでも例えばの話ね。それに小指をぶつける程度で君が赤子になるほどの影響を持つということは、世界を巻き込むほどの出来事が彼女を襲ったという事だとワタクシは思っているの。さて、それが何なのかは……心当たりがあるんじゃないかしら?」
ニヤリと微笑むマリーさん。うん、やっぱりこの人は初代館長なだけあって鋭い。
「えっと、マリーさんと同じく一人称『ワタクシ』の人が襲い掛かって来て、その場にクロノがいました」
「それはやばいわね。よくこの世界が滅ばなかったわね」
苦笑するマリーさん。と、そこでシャルロットが軽く手を挙げた。
「えっと、レイジの事を知っているのかしら?」
「ええ。あいつは元々地球の研究者で、ワタクシともちょっとした因縁があるのよ。あいつから身を守るために『心情偽装』を使って思考を破壊しようとしたんだけど、ワタクシの一人称が移っただけで致命傷には至らなかったわね」
レイジの一人称ってマリーさん発祥だったんだ……え、複雑。
「レイジが色々な世界で無茶をしているのは知ってたし、それに対して神々や精霊達も頭を抱えていたのは知っているわ。今回の異変も発生する前にとある精霊達が協力してくれてワタクシを助けてくれたのよ」
「えっと、具体的にはどのような事をしてくれたのですか?」
「時間の干渉を受けない世界に避難させてくれたの。今はその門が閉じられているから入れないけど、中の精霊が気まぐれで出てきた時にでもお礼を言おうかなって思っているわ」
別の世界なのに異変に気が付くほどの精霊。それは精霊という括りに入っているのだろうか。もはや神レベルの強力な存在では?
「君は深く考えるのが好きなのかしら? 何事も魔力の強さだけが全てでは無いわよ?」
「いや、別にそんなことは考えていません。ただ、他の精霊と比べると異質だなと思って」
「へえ。一体君の周りにはどんな精霊がいたのかしら?」
その質問にはっきりと答えた。
「鍛冶屋兼楽器屋兼鉱石精霊とか、寒がり店主の休憩所の臨時店員とか、寒がりの仲間を温める精霊しかいなかったです」
「待ちなさいリエン。ゴルドはそうかもしれないけど、氷と火の精霊達はもう少し頑張っているわ!」
「訂正。こいつ(シャルロット)にもてあそばれている人形的存在です」
そう言うとマリーさんは肩を落とした。
「あはは、ワタクシが長年研究した精霊という分野もずいぶん身近になったのね。まあ、ミルダ大陸の精霊はそうかもしれないけど、地球の精霊は『ちゃんとしてる』から安心して」
そもそもその言葉がおかしいと思うんだけど!




