異なる地球
気が付くと仰向けで寝ていた。
外は夜。そして周囲は……山?
「到着したのかしら?」
近くでシャルロットの声が聞こえた。
「大丈夫ですね。パムレさん、シャルロットさん、リエンさん。全員いますね」
ミルダさんの声も聞こえたし、どこかへ移動はできたん
『おお!? 可愛い女の子が居るぜ?』
声?
起き上がってみると、今まで見たことのない服装の男たちが手に棒を持って数人俺たちを見ていた。
『一人男がいるな。二人ガキか。へへ、そこの金髪だけ連れて行こうぜ』
『だな。悪く思うなよ兄ちゃん』
何を言っているのかわからない。が、手に持っている棒を見る限り俺たちを襲うつもりだろう。瞬時にガラン王国の秘宝の短剣を出せるように構える。
「……リエン、ダメ。ここは任せて」
「え、うん」
パムレが前に出る。
『ん? 何だガキ』
「……ほい」
パムレは手に小さな『火球』を出した。火を見せただけで一体何を
『ぎゃあああああああああああああああ!?』
『なんだそれええええええええええええ!?』
『あっつ!あっつああああ!』
え、手の上の火を見ただけで凄い勢いで逃げて行ったんだけど。
「パムレちゃん、一体何をしたの?」
「……手の上に火を出しただけ。この地球という世界では魔術という概念は無い。パムレの予想が当たっていればここは地球の日本という場所」
「つまり知っている場所なのね!」
ほっとするシャルロット。しかしパムレは何か納得のいかない表情をしていた。
「……でも変」
「何がでしょう?」
ミルダさんが心配そうにパムレに話しかける。
「……パムレの生まれた世界はもう少し技術が発展していた。ここは……まるで過去?」
比較対象がわからないためここがどこでどの時代なのかわからないけど、パムレは相当焦っているのは目に見えてわかった。
「とりあえず落ち着きましょう」
そう言ってミルダさんが鈴の音を鳴らした。それを聞いたパムレは落ち着きを取り戻す。
「って、ミルダさん。やっと『静寂の鈴の巫女』っぽい事しましたね」
「今凄く失礼なこと言いませんでした!? フーリエさんに言いますからね!」
静寂の鈴の巫女様に怒られてしまった。
「……ん。ありがと。そして朗報。多分一番頼りになるお迎えが来てくれた」
「頼りになるお迎え?」
と、その瞬間、少し離れた場所から足音が聞こえ、こちらに迫って来ていた。
やがて人影が見え、月明かりでその影は消えていった。
紫色の長い髪に、白い肌。すらっとした女性がまるで俺たちが来るのを知っていた様に迷いなくこちらへ向かってきていた。
「「いやいや、誰!?」」
頼りになるって言ってたからてっきり知ってる人だと思ったよ!
「ふふ、期待に添えられなくてごめんなさい。でもそこの少女の言う通りワタクシはおそらくこの世界で唯一貴方達を助けることができる存在だと思うわよ?」
「名前を聞いても良いかしら?」
というか、普通に話せる。もしかしてこの人、ミルダ大陸にいた人?
「ワタクシはマリー。『魔術研究所の初代館長』で原初の魔力『神』を保持する者よ。そこのマオとは少し縁があってね。どうぞよろしくね」
☆
マリーさんの家に到着すると、さっそくお茶を出してもらった。
うん、俺この数日で何杯お茶飲んでるのだろう。
「あら、牛乳とかの方が良かったかしら?」
「いえ。というか『心情読破』で心読んでません?」
「癖なの。気にしないで」
ニコッと笑うマリーさん。そしてシャルロットを見てミルダさんを見てパムレを見て……。
「訂正。むやみに『心情読破』を使うのはやめましょう。頭が割れそうになるパムレット」
「パムレットの刑発動してる!?」
パムレの肩を掴んでブンブンと揺らす。
「……不可抗力。パムレの右脳は常にパムレットを考えている」
「そこがパムレちゃんの可愛いところよねパムレット」
シャルロットまでパムレット言い始めたよ!
「ミルダさんはマリーさんと面識あるのですか?」
「いえ、ミルダが静寂の鈴の巫女として活動したのはミリアムさんが魔術研究所の館長になった後ですから、直接は会ったことはありません。ですが噂はかねがね」
「そうね。ゴルドやトスカとは知り合いだから、友人の友人という感じね。もっとフランクな感じで接してくれると嬉しいわ。ワタクシもここではただ少しだけ年を取った『はず』の人間の一人にしか過ぎないから」
「……はず。やはりここは少し変なんだね」
パムレが手をぐるっと回して小さな水の粒を出し、それを見る。何それカッコ良いんだけど。
「ミルダ大陸で何があったかわからないけど、軽い時間操作が発生したみたいなの。ワタクシや一部の人間は異変に気が付いてすぐにとある場所へ避難をしたんだけど、外に出たら地球そのものの時間が戻っていたのよ」
チキュウ。ミルダ大陸とは異なる大陸という認識で良いだろうか。
「ああ、地球はなんというか星ね。大陸で言うならここは日本という大陸になるわ」
また心を……。と何度も突っ込んでもキリが無いか。
「簡単な状況の説明も終わったし、そろそろご飯でも作ろうかしら」
「いえ、まだ私達は名乗っていません」
シャルロットが立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「私はシャルロット・ガラン。マリー様と言うと文献で知っており、先代女王のシャルドネ様とはお知り合いだったとの事。ご本人に会えて光栄です」
「心が読めるから自己紹介は別に良いんだけど……」
「偽りの心かもしれませんよ? と言っても私は貴女に頼るしかない状況です。最大の敬意を示さないとすぐに追い出されかねないので」
「そんな非道はしないわよ。ふふ、面白いわね。じゃあ続けて自己紹介の時間にしようかしら。声で話すのは嫌いじゃ無いわ」
ニコニコと笑うマリー。シャルロットのそのまっすぐな部分はやはりすごいと思う。
「えっと、リエンです。魔術研究所の三代目館長の息子と言えば色々都合が良いでしょうか?」
「そうね。三代目と言うとミリアムの妹かしら。あの姉妹は大陸屈指の魔術師だし、貴方も相当な実力者かしら?」
「今は魔術を置いて剣術をシャルロットから習ってます」
最近さぼってる気もするけどね!
「ふふ。ここ日本ではなかなか剣術を使ったり魔術を使わないからもっと鈍るかもしれないわね。よろしく。そして」
今度はミルダさんを見た。
「『静寂の鈴の巫女』のミルダです。マリー様が退職された後魔術研究所に一時期配属しており、現館長でありリエンさんの母の元部下でした。今では恐れながらも大陸の名前にもなっている存在です」
「ミルダ大陸。凄いわよね。ワタクシが作り上げた文明の種をあそこまで伸ばすなんて思わなかったわ」
今とんでもない事言わなかった?
「……満を持して登場。パムレはパムレ。いや、本名マオ」
「うん。知ってるから。あ、『サイトウ』ならいないわよ。察して頂戴」
「……おうう」
パムレが少しショックを受けた。サイトウ?
「その、サイトウさんと言うのは?」
「その子の育ての親みたいな人ね。天才科学者で人工的に魔術師を作り上げた第一人者。一時期ワタクシとも協力をして色々な争いを治めていたのだけど、もうかなり時間が経ったわね」
パムレは数百歳。もしそのサイトウさんという人が人間であれば亡くなっててもおかしく無いだろう。
そうか、ミリアムさんのところでクアンさんについて最初に興味を持ったのは、そのサイトウさんという人かもしれないという期待があったからなのか。
「なんだかわからないけど、とりあえずパムレちゃん、おいで」
「……ん」
そしてシャルロットの膝の上に乗っかり抱っこされる。こうしてみると本当に仲の良い姉妹である。
「今日はご飯を食べて寝て明日色々と考えましょう。正直この地球の時間が狂ったのはどう考えても『時の女神』に何かあったのだと思うし、逃げることができた身としては何とかしたいのよね」
「クロノちゃんが?」
「あら、知ってるの? それなら明日の説明はかなり省略できそうね。さて、ご飯を」
「あ、材料があるなら作りますよ。料理担当なので」
「驚いたわね。この中で貴方が一番料理ができるのかしら?」
そりゃ。
一人は厨房にあまり立ったことが無い姫。
一人はずっと協会に暮らしていた巫女。
一人はお菓子だぞ。
「……ちょっと待って、パムレはお菓子では無い。お菓子にはなりたいけど」




