死後の世界3
ご飯を食べ終え、食器を洗って広間に行くとシャルロットはパムレと遊んでいた。ちょっと離れたところでその様子をミルダ様が見ていた。
「うん、パムレちゃんはもう少し髪に気を配りなさい。こんなに長くてきれいな髪なんだし、ちょっと工夫したらもっと可愛くなるわよ」
「……髪は万が一の時の武器。お菓子以外にパムレは興味ない」
「そうなの? ちなみに過去のガラン王国の王子は城下町の女の子の髪型が気に入って美味しいお菓子をあげたそうよ」
「……シャルロット、好みの髪型は?」
何買収されてるの。というか『過去に』って言ってるけど、パムレが知らない過去が存在するの? 絶対その話嘘だよね? シャルロットの声じゃなくて心を読み取って会話しているならそれくらい見抜けるんじゃね? ……いや、もしかして本当なのか?
「あ、リエン。ここに居ましたか」
「あ、母さ……ごめんなさい。似てたので反射的に」
ミリアムさんに呼ばれてうっかり母さんと呼んでしまった。
「気にしてませんよ。それよりもフーリエの息子ということですし、少しお話しませんか? フーリエについて少し聞いてみたいなと思いまして」
「え、良いですけど」
母さんの息子だからだよね。まあ、実の姉なら妹のことは気になるか。
とりあえず椅子に座るとフォルトナさんがお茶を持ってきてくれた。
うん、ミリアムさんも椅子に座ったんだけど、フォルトナさん隣で立っててすげー話しにくいぞ?
「えっと、一応神様……ですよね?」
「はい。運命を司ってます」
「何かお供えした方が良いですか?」
「結構です! 今の私は力を抑制されてしまい、精霊と同等ですから!」
まるでチャーハン職人になってしまった某鉱石の神みたいだ。
そうか、とりあえずその話をしてみよう。
「母さんは鉱石の神に料理を教える存在にまでなりました」
「あの子なら何かやらかすと思ったけど、まさか原初の魔力の神に手を出すとは……」
「え!? え!? アルカンムケイル様が!? え!?」
フォルトナさんは驚いたけど、ミリアムさんはそれほどでもない?
「ふふ、面白い話題で気を使ってくれてありがとうございますリエン。フーリエは私が亡くなるまでずっと一緒で、今こうして転生してからはずっと気になってたのです」
トスカさんがシャムロエ様を気にするようにミリアムさんも母さんを気にしてたのかな。親族が永遠に近い命を持つってどういう心境なのだろう。
「そういえば母さんは言ってました。姉は悪魔術を最初に行使した偉大な魔術師だと」
「そうですね。偉大……かはわかりませんが、とにかくフーリエの前では失敗ができないという圧に耐えながら毎日生活していましたし、尊敬されているのでしたら姉冥利に限りますね」
そしてニコッと笑う。やっぱり姉妹というか、凄く似ているよね。
「頑張りすぎて魔術研究所の館長の仕事を引き継ぐとき、あまりの仕事の多さに気を失わせてしまったのは良い思い出です」
「さっきの微笑みって思い出し笑いだったの? 妹をもっと大事にしてあげてよ!」
なんか母さんが少し可哀そうに思えて来ちゃった。
「冗談ですよ。引き継ぐ時、すでに宿の経営もしていましたし、より負担が増えるとは思っていました。ですが、あの時代に魔術研究所の館長が務まるのはフーリエしかいなかったのです。技術や力、そして知識はミルダを遥かに上回るあの子だけでした」
「ですが魔術研究所の職員の中には優秀な人もいたのでは?」
「もちろん。私の右腕とも言える人もいましたし、それぞれ特化した人もいました。けど、フーリエはそれすらも蹴散らすほどの知識と力を持っていましたからね」
いまいち実感がわかないな。
と、そこへ髪型がもはや芸術的な感じになっているパムレがこっちに向ってきて俺の膝に乗っかった。って、自然な流れで乗っかってきた?
「ああ! リエンズルい!」
俺の所為なの?
「いつも乗っけてるでしょ。というかパムレ突然何?」
「……椅子が無い。あとミリアムと少しお話したい」
「良いですよ。それにしてもパムレさんは妹に負けず劣らずの魔力量を持ってますね。もし私が生きている時代に出会っていたら魔術研究所の館長をお願いするかもしれません」
「……あんな場所ではお菓子を食べれない。それと一応言っておくとフーリエよりパムレの方が魔力はある。ただ、魔力の使い方がフーリエの方が上手いだけ」
「フーリエより魔力量が上とは。それは凄いですね」
パチパチと拍手するミリアムさん。
「数十の自分と記憶を共有しているのにあそこまで器用に魔力を操ること自体異常。もし姉の貴女の所為でフーリエをそうさせたなら、『友人』として一発魔術を放つ」
ちょっとパムレ? なんか震えてるんだけど?
「えっと、誤解しないで欲しいです。むしろ私は増えることに対して反対をし続けていました。増えたばかりの数十年はほぼ無言で、目を合わせてくれなかったのです。その辛さ、どれくらいかわかりますか?」
「……当事者じゃ無いから今は理解はきっとできない。でもフーリエの意思と言うなら文句は言わない。リエン、膝ごめんね。ちょっとお散歩行ってくる」
そう言ってパムレは外に出て行った。
「ちょっと心配なのでミルダもついていきますね」
近くでのんびりしていたミルダ様も鈴を持って外に出て行った。
「はあ、パムレちゃんって時々よくわからない怒り方するのよね。えっと、パムレちゃんの付き添いとして謝罪します」
「いえ、シャルロットさん。私が見る限りあのパムレさんはおそらくどの人類よりも魔力を保持しているのでしょう。つまり自分の実力が頂点と知った上でその上を行くフーリエに過酷な運命を辿わせた人ということで私を疑ったのだと思いますよ」
「確かにパムレちゃんは凄い魔力を持っているみたいだけど、それほど凄いの?」
と、シャルロットが近くに来て質問をした。
その質問に対して答えたのはフォルトナさんだった。
「正直なところ『ありえない』ですね。神の領域とまでは言いませんが、それに近い魔力を保持してます。体の構造も少し特殊ですが、精霊や神と違って皆さんと同じく大怪我をすれば死んでしまう『人間』です」
「見てわかるものなの?」
「運命の神を舐めないでください。ある程度神の力が抑制されているとはいえ、相手のこの先の未来は少しだけ覗けますし予測もできます。あ、リエンさん右手気を付けてください。飲み物こぼしそうです」
ちらっと見るとコップが置いてあった。少し動かしてたら倒していただろう。
「今のも運命の神の力……」
「いや、今のは予想できるでしょ」
「ですね。ちらっと見てました」
「ちょっと! 本当に今のは運命の力使ったのですよ!」
怪しくなってきたぞ。もはや自称神のカンパネと同じくらいこの人? は怪しい存在だな。
「それにしてもあのフーリエに沢山のお友達ができたことに、姉として嬉しく思いますね。ゴルドさんとミルダさんしかちゃんと話せる相手はいないと思ってましたし、姉として嬉しく思いますよ」
「俺に間しては息子だけど……まあパムレやシャムロエ様やシャルロットは平然と話せる仲にはなってるよね」
「え、一応今だから言うけど、いつガラン王国が乗っ取られるかわからないから、店主殿と話す時は気が気じゃ無いわよ?」
「もう少し表情と行動に表してくれない? もう少し俺も気を使うからさ!」
我慢してたなら言ってよ!
☆
パムレを探しに外へ出ると、公園みたいな場所に到着。そこにはミルダ様が椅子に座って空を眺めていた。
「ミルダ様、パムレは?」
「あ、リエンさん」
立ち上がると同時に鈴の音が鳴り響きこちらへ来る。
「あ、いや、休憩中でしたら座ってて大丈夫ですよ」
「そうですか? じゃあ一緒に座って待ちましょう」
「待つ?」
「はい。マオさんが『ちょっと空飛んでくる』と言ってどこかへ行っちゃいました」
相変わらず自由な人だ。戻って来るなら良いんだけどね。
「ところでリエンさん。一つお願いしていいですか?」
「はい?」
「『様』ってやめません?」
「無理です」
三大魔術師で唯一国政に干渉できる存在だよ? 無理に決まってるじゃん。というか隣に座る事すらすげー躊躇ったよ?
「じゃあ質問です。フーリエさんは何て呼んでますか?」
「母さん」
「マオさんは?」
「パムレ」
「ではミルダは?」
「ミルダ様」
ゴチン! リーン!
「いたあ! いやいや、『静寂の鈴』って武器じゃ無いですよね!? 杖で殴らないでくださいよ!」
「杖は鈍器です。そしてこれは『静寂の鈴の巫女』の制裁です。せめて『さん』にしません? シャルロットさんだって姫なのに呼び捨て。ならせめて『さん』くらいにしませんか?」
「わかりましたよ。杖をブンブン振って言われたら拒否できないですし」
結構トゲトゲしてるし、叩かれたというよりも刺さったんだけどね。
「ふふ、これで不安要素一つ解消です」
「不安要素?」
「一つは皆さんとの距離感。もう一つは初めての旅。しかもミルダ大陸を飛び出すという理解不能な状況です。マオさんやシャルロットさんやリエンさんという心強い味方がいるのが不幸中の幸いですね」
恐れ多いな。特にパムレは群を抜いて心強いけど、俺やシャルロットはそれほど強くないと思うけどな。
いや、あくまで『三大魔術師の護衛』という意味合いでね。実際シャルロットは剣術では強いから何とも言えないけど。
「ん? 距離感を気にしているということはシャルロットとは打ち解けたんですか?」
「いえ、さすがにそれはまだ」
だったら……。




